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しおりを挟む「誰か井の頭線の人いないー? コウちゃん送ってあげて欲しいんだけど」
「俺、高井戸ですけど幸崎先輩って駅どこですか?」
「三鷹台だって。近い?」
「三個先です。途中までなら」
「良かった。コウちゃん、成井田が途中まで一緒だってさ。わかる?」
「ん……」
「成井田、頼むな」
「はい」
酩酊して足取りがおぼつかないコウちゃんは、部長らしき男から成井田という後輩の男に受け渡された。耳まで真っ赤なコウちゃんは、大きな黒目がちの瞳を潤ませて、自分より背が高い後輩の肩を申し訳なさそうに借りている。まるでカップルのように寄り添わなければ立っていられないほど、酒を飲んでしまったらしい。
クリスマス・イブに開かれたサークルの忘年会は、二次会まででお開きになったようだ。
路線の違うメンバーと別れたコウちゃんと後輩は、寄り添いながら人混みをかき分けて駅のホームへ向かう。
サンタクロースのコスプレ姿のまま、酔って騒ぐ学生とおぼしき男女を横目に流しつつ、“ユタ”は二人を追った。この国では、クリスマスは単なるイベントとして捉える人が多い。街行く人々は、このお祭り騒ぎに便乗して皆どこか浮き足だっている。
だが、イルミネーションで彩られて浮かれた空気の街も、明日の夜半には粛々と正月飾りに変えられるだろう。たった一夜で、何事も無かったかのように街の風景が変えられる。それはまるで、自分と彼……コウちゃんの、二人の間にこれから起こることを暗示しているようだった。
自分ーー“ユタ”がようやくコウちゃんに出会うことで、今夜、世界は一変する。コウちゃんと出会った後の世界の輝きは、どれ程だろうか。意図せず、こくりと喉が鳴る。
ユタは、赤い頬のまま後輩の肩に凭れているコウちゃんを見つめる。今はまだ、自分に劣情が向けられていることなど、露程も知らない無防備な顔を。
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