飛んで火に入れば偽装結婚!?

篠原皐月

文字の大きさ
46 / 51
第2章 穏やかな新婚生活?

(18)野盗との遭遇

しおりを挟む
「辺境伯殿は、大層ご立腹されていたわね」
 動き出した車内で、クレアが玄関先での光景を思い返しながら口を開くと、セレナはまだ半信半疑の表情で、朝起きてから一番に告げられた内容について、再度確認を入れた。

「ルイーザ様の顔色も、相当悪かったわ。だけどクレアさん。話を聞いて驚いたけど、私達、本当に夜這いをかけられたんですか?」
 それにクレアが苦笑いで応じる。

「ええ、あまりにも馬鹿馬鹿しい事にね。その挙げ句、レノーラ嬢は隠し階段を転げ落ちて怪我をした筈だけど、その理由を正直に辺境伯に言えないでしょうし、どう言い繕うつもりかしら。チェスターに至っては、朝から所在不明ですものね」
「あの人、どこに行ったんですか?」
「出発前にラーディスにこっそり聞いてみたら、彼に猿ぐつわをして縛り上げて、ベランダからロープで地面に下ろしたそうなの。そして庭の植え込みに運んで、その中に放置したらしいわ。だから運が悪くとも、明日か明後日までには庭師に発見して貰えるでしょう」
「無傷でしょうし、制裁としては妥当でしょうね」
 内容を聞いたセレナはクスクスと笑い出し、クレアも笑顔で頷きながら話題を変えた。

「それよりも、今日はいよいよレンフィス伯爵領入りですね」
「ええ、無事に帰れて嬉しいです」
 領地の目前でろくでもない企みを回避し、旅程も残り少なくなって気分が良い二人だったが、一行が順調にヤーニス辺境伯領を走り抜け、そろそろレンフィス伯爵領に差し掛かろうと言う所まで来て、急に馬車が止まった。

「あら、どうしたのかしら?」
「こんな所で、わざわざ停車する必要は無いのに」
 セレナ達が車内で顔を見合わせていると、ラーディスが勢い良くドアを開けて警告してくる。

「二人とも、暫く馬車から出ないように。先行していたウェインの報告では、この先に野盗の一団が出て、隊商が襲われているそうだ」
「辺境伯が仰っていた、あれですか」
「『襲われている』って、それなら助けに行かないと!」
 状況を聞かされたセレナ達が動揺していると、デイブが前方から騎乗したままやって来て告げた。

「ラーディス、連中が俺達に気付いた! 全員がこっちに向かって来るぞ!」
「ちっ! 逃げ出すどころか、新しい獲物までぶん取ろうとするとは、なんて強欲な連中だ!」
 苛立たしげに悪態を吐いたラーディスに、思わずクレアが尋ねる。

「こういう場合、金品を渡せば、見逃して貰えるものですか?」
「金品を取られて身ぐるみ剥がされた挙げ句、女は売り飛ばされるのがオチだな」
「やはりそうでしょうね」
 そんなやり取りをしているうちに、馬のいななきと駆ける音が街道を包み、ラーディスは油断無く周囲を見渡しながら呟いた。

「囲まれたな。ざっと三十人近くか……。人数は、俺達のほぼ倍だな」
「すみません。私がつまらない質問をしている間に」
「いや、クレアのせいじゃないから」
 馬車のドアを半分閉じながらラーディスが宥めていると、一団の後方にいたパトリックとコニーが馬から降りて駆け寄ってくる。
「クライブ様、セレナ様!」
 しかし、ここで勝手に動き回られては堪らないと、クレアは即座に二人に釘を刺した。

「パトリック、コニー。不必要に騒ぎ立てないように。この旅程の護衛責任者はラーディスです。彼の指示に従って、単独行動は慎んでください」
「了解しました」
「ラーディス、どう動けば良い?」
 動揺はしたものの、さすがに近衛騎士団でも将来を嘱望されている二人であり、余計な事は言わずにラーディスに指示を求めた。対するラーディスも、端的に指示を出す。

「場所が場所なので近接戦闘は避けられませんが、どうにかして連中の隙を作り、こちらに優位に事が運ぶようにします。その時は大公夫妻を守りつつ、思う存分腕前を発揮してください。戦力として、期待しています」
「分かった」
「了解」
 即座に意思統一を済ませたラーディス達が、改めて自分達を囲んでいる男達に目を向けると、そのうちの一人が馬上から横柄に尋ねてきた。

「結構立派な馬車だな。それに随分護衛を引き連れているし、荷物も多いし、お貴族様か?」
「貴様達には関係無い」
 ラーディスが素っ気なく応じると、男達が皮肉げに笑う。

「ほうぅ? 随分でかい口を叩く奴が居たものだ」
「さっきの隊商でもあらかた頂いてきたし、さっさと分取って戻ろうぜ」
「たっ、助けて! 離してよっ!」
「あぁ? うるせえ小娘だな。静かにしろ!」
 その時、男達の後方から、馬上で横抱きにされつつ一人の少女が運ばれて来た。真っ青な顔で抵抗している彼女を目にした瞬間、セレナはクレアが引き止める間もなく、勢い良くドアを開けて馬上から地面に降り立つ。

「ちょっとあなた達! 即刻彼女を解放しなさい!」
「セレナ!?」
「セレナ様!?」
「車内にお戻りください!」
 ラーディスとパトリック達は慌てて彼女を馬車の中に押し戻そうとしたが、セレナは真顔でそれを制した。

「大丈夫だから、邪魔はしないで頂戴。義兄様、後は色々よろしく」
「……分かった」
 説教したいのは山々だったが、この場で揉めても仕方がないと諦めたラーディスは渋々頷き、パトリック達に無言で首を降った。その為、パトリックとコニーも最大限に警戒しながら、事態の推移を見守る事にする。

「お? 何だ、こっちにも女が居たのか」
「それも、随分良い服を着てるよな」
 そして男達の視線が自分に集まったのを確認したセレナは、更に一歩前に出ながら、彼らに堂々とした態度で問いかけた。

「あなた達、彼女をどうするつもり?」
「何言ってんだ、この女」
「売り飛ばして、金にするに決まってるだろ?」
「この国で人身売買は違法行為だと、知った上での発言なの?」
「おい、聞いたか?」
「違法行為だとよ!」
「それは知らなかったなぁ!」
 セレナの指摘を聞いても、男達は恐れ入るどころか馬鹿にしたように笑い飛ばした。その様子を見たパトリックとコニーは無意識に剣の柄に手を伸ばしたが、セレナは男達に向かって淡々と申し入れる。

「平民の女性一人売り飛ばしても、入るお金はたかが知れているわ。その女性を解放するなら、代わりに私があなた達の人質になってあげるけど」
「人質だと?」
「ええ。私はレンフィス伯爵家のセレナよ。レンフィス伯爵領内で悪さをしているなら、私の名前位は知っているわよね?」
 それを聞いた男達は揃って驚いた顔になり、互いの顔を見合わせながら口々に言い合った。

「え?」
「本物か?」
「そうなると、王太子と結婚したんだよな」
「元王太子だろう?」
「どうなの? 私を連れていけば、その人を売り払った時よりも、大金を取れるわよ?」
「おい……」
「どうする?」
 セレナの提案に男達は真顔になって相談を始めたが、パトリックとコニーもいつの間にか自分達の至近距離から姿を消していた人物について囁き合った。

「……パトリック」
「ああ、素早いな。一体、どこに行ったのか。それに他の護衛達の立ち位置も、この間に微妙に変わっている」
「セレナ様は自分に連中の視線を集めて、他の人間を動きやすくしたわけだな」
「そうなると、当然素直に人質になるおつもりは無い筈だ」
「どういう状況でも、すぐに動けるようにしておけよ?」
「分かっている」
 二人の間でそんなやり取りがされているうちに、男達の間でも話が纏まったらしく、少女を抱えていた男が馬から降り、手が縛られたままの彼女を地面に立たせた。

「よし、それならお前とこの女を、交換してやろうじゃないか! さっさとこっちに来い!」
「分かったわ」
 そして未だ少女が賊の一人に腕を掴まれている状態にも関わらず、躊躇わずに足を踏み出したセレナに対して、コニーが鋭く指摘する。

「セレナ様。まず、あの女性を解放させるのが先です」
「良いから。あなた達は、クライブを守っていてください」
「……分かりました」
 軽く振り返りながら、有無を言わせぬ口調で念を押してきたセレナに、コニーは勿論、パトリックも納得しかねる顔付きになったが、それ以上反論はせずに黙って彼女を見守る態勢になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...