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第1章 進退窮まった人々
(7)王妃の奇行
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王妃からの急な呼び出し状を預かって伯爵邸に戻ったラーディスは、驚愕のあまり固まったセレナと侍女達を一喝して身支度を整えさせ、セレナを伴って大急ぎで城に戻った。
「セレナ、着いたぞ。大丈夫か?」
馬車寄せで先に降りたラーディスが手を差し伸べると、セレナがその手を取って地面に降り立ちながら、強張った笑みを浮かべる。
「え、ええ……。義兄様、大丈夫です。昨日の陛下と重臣のお歴々に比べれば、今度は王妃様お一人だもの。もう、どこからでもかかって来い!」
「だから、少し落ち着け……。果たし合いとかでは無いんだからな?」
「そういう義兄様も、いつもよりお顔が険しく見えますが」
「これはいつもの顔だ」
「すみません……」
小さくラーディスが溜め息を吐き、セレナが頭を下げているところで、出入り口の方から明るく声がかけられる。
「セレナ、会いたかった。今日も変わらず、あなたの笑顔は素敵ですね」
「……恐縮です」
「クライブ殿下。それではセレナの事を、宜しくお願いします」
振り返った二人は反射的に恭しく頭を下げたが、内心ではこんな状況に陥った原因の相手に対して、不満タラタラだった。
(出た! 摩訶不思議意味不明な諸悪の根元! これが笑っていられる状況だと本当に思っているなら、いくら王族でも殴るわよ!?)
(俺達の、心労発生源野郎が……。無駄に爽やかな笑顔を振りまきやがって……)
しかし当のクライブは護衛担当の騎士を背後に控えさせながら、笑顔でセレナを促す。
「さあ、母上を待たせているから行こうか。ラーディス、勤務中に急いで屋敷に戻らせてしまって、悪かったね。君は勤務に戻ってくれて良いよ」
「それでは、失礼します」
ラーディスが一礼して歩き去ると同時に、セレナも同行してきた侍女を一人だけ伴い、クライブと連れ立って城内を奥へと進んで行ったが、既に城中にクライブとの噂が広がっている為、すれ違う官吏や女官などから、あからさまに好奇心や嫉妬に満ち溢れた視線を向けられた。
(うぅ……、あちこちから視線を感じる……。まだこっそり柱の向こうとか、曲がり角から様子を伺うならまだしも、堂々と因縁を付けてきて良いんですか? 殿下に鬼の形相を、しっかり目撃されてますけど!?)
当然、斜め前を歩くクライブもそれを目にしている筈なのに、少々困ったように苦笑いをしているのみで、セレナは目的を果たす前にうんざりしてしまった。しかし何とか彼女の忍耐力が消失する前に、後宮の王妃のプライベートエリアに到達した。その手前で侍女は待機すると同時に、騎士は後宮内の護衛を担当する女性騎士と交代して、クライブは更にセレナを連れて奥へと進む。
「やあ、彼女を連れて来たよ」
「お待ちしておりました。お入りください」
クライブがドアの一つを開けて、中に居た顔見知りらしい年配の女官に声をかけると、彼女は頷いて二人を奥へと促した。そこで扉の外に護衛騎士を残し、クライブ達が続き部屋を通り抜けて行くと、一際豪華な調度品が置かれている広い部屋に入る。
「母上、お待たせしました。彼女が、セレナ・ルザリア・レンフィスです」
長椅子に腰掛けていた王妃のジュリアは、クライブの台詞を聞くや否や、喜色満面で立ち上がり、セレナに駆け寄った。
「王妃様には、初めてお目にかかり」
「ああ、そんな形式ばった挨拶は良いから! こちらへ来て頂戴! あなた達、お願いね!」
「はい」
「お任せください」
「あの……、王妃様?」
挨拶もそこそこに、侍女達に何やら指示を出したジュリアに、いきなり手を取られて続き部屋に引き込まれたセレナは目を丸くした。その戸惑った顔を見て、彼女が苦笑する。
「いきなり呼びつけてしまって、ごめんなさい。驚いたでしょう?」
「いえ、確かに驚きましたが、王妃様のお立場からしたら」
「よくも私の前に、平然と顔を見せられたものね! この泥棒猫がぁぁっ!!」
「きゃあぁぁっ!! お離しくださいませ!」
そこで礼儀正しく会話しようとした矢先、先程までいた部屋から、とんでもない怒声と悲鳴が伝わってきたため、セレナはギョッとして通って来たばかりのドアを振り返った。
「なっ、何事ですか!?」
「あなたと直に話したかったのだけど、現状では私達が和やかに話すなんておかしいでしょう? ですから侍女達に、それらしく外の廊下で待機している騎士や、通りすがりの女官達に聞こえるように、演技して貰っているの。気にしないで頂戴」
「はぁ……」
(いえいえ、何か派手にぶつかって壊れたような音までするし、もの凄く気になるんですが!?)
どうやらジュリアの声と口調を真似て、一人の女官が罵詈雑言を浴びせ、もう一人の若い女官が悲鳴を上げながら助けを求めている演技をしているらしく、セレナはそれだけで頭痛がしてきたが、王妃が益々困惑する事を言い出した。
「クライブからレンフィス伯爵からの申し出を聞いて、息が止まる程に驚きました。生前、特に親しく声をかけた事も無かったのに、まさかあんな事を提案してくださるなんて…。それに、あの子の事まで……。本当に、感謝してもしきれません。だからせめて遺族の方に直にお会いして、お礼を言いたかったのです。本当に、ありがとうございました」
両手を握り締めながら、ジュリアが涙目で真摯に感謝の言葉を述べてきた為、その理由に全く心当たりの無かったセレナは、本気で戸惑った。
「あ、あの……。一体、父は何を……」
「母上、彼女を含めたレンフィス伯爵家の皆様は、全く事情をご存知ありませんから」
ここで彼女の困惑ぶりを見て取ったクライブが宥めると、ジュリアが小さく頷く。
「ええ、それは分かっているのだけど、あなたが正式に彼女と偽装結婚したら、益々私達は顔を合わせる機会が少なくなると思ったから」
「諸々の事情については、私達が正式に偽装結婚したら、きちんと説明しますから」
「ええ、お願いね」
(あのですね……、『正式に』と『偽装結婚』って、微妙に相反する言葉じゃないでしょうか?)
呆れながらセレナ心の中で突っ込みを入れていると、唐突に王妃から呼びかけられる。
「セレナさん」
「はっ、はいっ!」
「レンフィス伯爵には、これまで散々お世話になりましたのに、今後も私達の事でご迷惑をおかけします。クライブの事を、どうぞ宜しくお願いします」
「あ、あのっ! こちらこそ、宜しくお願いします。と言うか、王妃様はこの偽装結婚に反対では無いのですか?」
「いいえ、大賛成よ。ですけれど対外的には絶対反対の立場を貫かなければならないから、女官達にああして貰っています。だからあなたも対外的には、『王妃様にお会いしたら、いきなり罵倒されて暴力をふるわれた』という事にしておいてください」
「そうでございますか……。分かりました」
本当は全く訳が分からなかったセレナが一応素直に頷いておくと、一人の女官がノックもそこそこに、血相を変えて室内に駆け込んで来た。
「王妃様、急いで向こうのお部屋にお戻りを! 騒ぎ過ぎて騎士殿か、他の側妃の女官辺りが注進に走ったのか、陛下と宰相閣下が出向いておられます!」
「まあ、大変! もっとゆっくりお話ししたかったのに……。クライブ、お願いね」
「分かりました。さあ、急いで先程の部屋に」
「は、はい!」
慌てて三人で先程の部屋に戻ると、演技を止めた女官達が真顔で出迎えた。
「王妃様、セレナ様、こちらをお使いください!」
「あの、これは?」
「催涙液です。お早くお使いください!」
「……はぁ」
普段は目の治療にでも使うのか、小さな瓶に入っていた液体を綿に含ませてから滴下すると、僅かな刺激感と共にセレナの両眼から涙が流れ出てきた。そんな彼女に、クライブが次の指示を出す。
「それじゃあ床に座って、俯いていてくれるかな?」
「こうですか?」
「ああ、そんな感じだね」
「それではお嬢様、誠に申し訳ありませんが、ドレスを汚させていただきます」
「王妃様が投げたこの花瓶が肩に当たって、中身が派手にかかったという設定でお願いします」
「本当にごめんなさい。ドレスは弁償しますから」
「え、ええと、はい……」
(あの、それを投げて肩に当たったら、相当痛いと思うのですが?)
大真面目に一人の女官が花瓶から全て花を抜き取って、セレナのドレスの上に撒き散らし、もう一人の女官が、花瓶に入っている水を裾の辺りに少しずつ零していく。そしてジュリアが心底申し訳なさそうに頭を下げる中、先程の小芝居がいきなり再開された。
「大体、伯爵家の人間如きが、クライブを独占しようなど、不遜にもほどがあるわっ!!」
「王妃様! 私は決して独占など!」
「お黙り! この性悪女がっ!!」
「きゃあっ! お許しくださいませ!」
(あ……、割れた……)
女官が近くに誰も居ない場所で床に花瓶を落とすと、それは見事に幾つかの破片になった。それを女官達が素早くかき集め、慎重に、如何にもセレナにぶつかって落ちたかのように彼女のドレスの上に置いて、偽装工作する。その一連の行動にセレナが呆気に取られていると、廊下から呼びかける声が一層大きくなった。
「王妃陛下、先程から何事ですか!?」
「尋常ならざる物音と叫び声が聞こえると、複数の通報があったのです!」
「こちらに、陛下と宰相閣下もおられます! 即刻、ここを開けていただきたい!」
「応じていただけない場合は、扉を破らせていただきますが宜しいですか!?」
その切羽詰まった複数の叫びを聞いたジュリアは、準備が整ったのを確認して女官達に指示を出した。
「いいわ。開けなさい」
「畏まりました」
(もう、何が何だか……。王族って秘密主義の、変人の集まりなのかしら? 一体、私にどうしろと……)
そして部屋になだれ込んで来た男達が床に座り込んでいる彼女の惨状を見て驚愕する中、とても展開についていけなかったセレナは、涙を流しつつ現実逃避しかけていた。
「セレナ、着いたぞ。大丈夫か?」
馬車寄せで先に降りたラーディスが手を差し伸べると、セレナがその手を取って地面に降り立ちながら、強張った笑みを浮かべる。
「え、ええ……。義兄様、大丈夫です。昨日の陛下と重臣のお歴々に比べれば、今度は王妃様お一人だもの。もう、どこからでもかかって来い!」
「だから、少し落ち着け……。果たし合いとかでは無いんだからな?」
「そういう義兄様も、いつもよりお顔が険しく見えますが」
「これはいつもの顔だ」
「すみません……」
小さくラーディスが溜め息を吐き、セレナが頭を下げているところで、出入り口の方から明るく声がかけられる。
「セレナ、会いたかった。今日も変わらず、あなたの笑顔は素敵ですね」
「……恐縮です」
「クライブ殿下。それではセレナの事を、宜しくお願いします」
振り返った二人は反射的に恭しく頭を下げたが、内心ではこんな状況に陥った原因の相手に対して、不満タラタラだった。
(出た! 摩訶不思議意味不明な諸悪の根元! これが笑っていられる状況だと本当に思っているなら、いくら王族でも殴るわよ!?)
(俺達の、心労発生源野郎が……。無駄に爽やかな笑顔を振りまきやがって……)
しかし当のクライブは護衛担当の騎士を背後に控えさせながら、笑顔でセレナを促す。
「さあ、母上を待たせているから行こうか。ラーディス、勤務中に急いで屋敷に戻らせてしまって、悪かったね。君は勤務に戻ってくれて良いよ」
「それでは、失礼します」
ラーディスが一礼して歩き去ると同時に、セレナも同行してきた侍女を一人だけ伴い、クライブと連れ立って城内を奥へと進んで行ったが、既に城中にクライブとの噂が広がっている為、すれ違う官吏や女官などから、あからさまに好奇心や嫉妬に満ち溢れた視線を向けられた。
(うぅ……、あちこちから視線を感じる……。まだこっそり柱の向こうとか、曲がり角から様子を伺うならまだしも、堂々と因縁を付けてきて良いんですか? 殿下に鬼の形相を、しっかり目撃されてますけど!?)
当然、斜め前を歩くクライブもそれを目にしている筈なのに、少々困ったように苦笑いをしているのみで、セレナは目的を果たす前にうんざりしてしまった。しかし何とか彼女の忍耐力が消失する前に、後宮の王妃のプライベートエリアに到達した。その手前で侍女は待機すると同時に、騎士は後宮内の護衛を担当する女性騎士と交代して、クライブは更にセレナを連れて奥へと進む。
「やあ、彼女を連れて来たよ」
「お待ちしておりました。お入りください」
クライブがドアの一つを開けて、中に居た顔見知りらしい年配の女官に声をかけると、彼女は頷いて二人を奥へと促した。そこで扉の外に護衛騎士を残し、クライブ達が続き部屋を通り抜けて行くと、一際豪華な調度品が置かれている広い部屋に入る。
「母上、お待たせしました。彼女が、セレナ・ルザリア・レンフィスです」
長椅子に腰掛けていた王妃のジュリアは、クライブの台詞を聞くや否や、喜色満面で立ち上がり、セレナに駆け寄った。
「王妃様には、初めてお目にかかり」
「ああ、そんな形式ばった挨拶は良いから! こちらへ来て頂戴! あなた達、お願いね!」
「はい」
「お任せください」
「あの……、王妃様?」
挨拶もそこそこに、侍女達に何やら指示を出したジュリアに、いきなり手を取られて続き部屋に引き込まれたセレナは目を丸くした。その戸惑った顔を見て、彼女が苦笑する。
「いきなり呼びつけてしまって、ごめんなさい。驚いたでしょう?」
「いえ、確かに驚きましたが、王妃様のお立場からしたら」
「よくも私の前に、平然と顔を見せられたものね! この泥棒猫がぁぁっ!!」
「きゃあぁぁっ!! お離しくださいませ!」
そこで礼儀正しく会話しようとした矢先、先程までいた部屋から、とんでもない怒声と悲鳴が伝わってきたため、セレナはギョッとして通って来たばかりのドアを振り返った。
「なっ、何事ですか!?」
「あなたと直に話したかったのだけど、現状では私達が和やかに話すなんておかしいでしょう? ですから侍女達に、それらしく外の廊下で待機している騎士や、通りすがりの女官達に聞こえるように、演技して貰っているの。気にしないで頂戴」
「はぁ……」
(いえいえ、何か派手にぶつかって壊れたような音までするし、もの凄く気になるんですが!?)
どうやらジュリアの声と口調を真似て、一人の女官が罵詈雑言を浴びせ、もう一人の若い女官が悲鳴を上げながら助けを求めている演技をしているらしく、セレナはそれだけで頭痛がしてきたが、王妃が益々困惑する事を言い出した。
「クライブからレンフィス伯爵からの申し出を聞いて、息が止まる程に驚きました。生前、特に親しく声をかけた事も無かったのに、まさかあんな事を提案してくださるなんて…。それに、あの子の事まで……。本当に、感謝してもしきれません。だからせめて遺族の方に直にお会いして、お礼を言いたかったのです。本当に、ありがとうございました」
両手を握り締めながら、ジュリアが涙目で真摯に感謝の言葉を述べてきた為、その理由に全く心当たりの無かったセレナは、本気で戸惑った。
「あ、あの……。一体、父は何を……」
「母上、彼女を含めたレンフィス伯爵家の皆様は、全く事情をご存知ありませんから」
ここで彼女の困惑ぶりを見て取ったクライブが宥めると、ジュリアが小さく頷く。
「ええ、それは分かっているのだけど、あなたが正式に彼女と偽装結婚したら、益々私達は顔を合わせる機会が少なくなると思ったから」
「諸々の事情については、私達が正式に偽装結婚したら、きちんと説明しますから」
「ええ、お願いね」
(あのですね……、『正式に』と『偽装結婚』って、微妙に相反する言葉じゃないでしょうか?)
呆れながらセレナ心の中で突っ込みを入れていると、唐突に王妃から呼びかけられる。
「セレナさん」
「はっ、はいっ!」
「レンフィス伯爵には、これまで散々お世話になりましたのに、今後も私達の事でご迷惑をおかけします。クライブの事を、どうぞ宜しくお願いします」
「あ、あのっ! こちらこそ、宜しくお願いします。と言うか、王妃様はこの偽装結婚に反対では無いのですか?」
「いいえ、大賛成よ。ですけれど対外的には絶対反対の立場を貫かなければならないから、女官達にああして貰っています。だからあなたも対外的には、『王妃様にお会いしたら、いきなり罵倒されて暴力をふるわれた』という事にしておいてください」
「そうでございますか……。分かりました」
本当は全く訳が分からなかったセレナが一応素直に頷いておくと、一人の女官がノックもそこそこに、血相を変えて室内に駆け込んで来た。
「王妃様、急いで向こうのお部屋にお戻りを! 騒ぎ過ぎて騎士殿か、他の側妃の女官辺りが注進に走ったのか、陛下と宰相閣下が出向いておられます!」
「まあ、大変! もっとゆっくりお話ししたかったのに……。クライブ、お願いね」
「分かりました。さあ、急いで先程の部屋に」
「は、はい!」
慌てて三人で先程の部屋に戻ると、演技を止めた女官達が真顔で出迎えた。
「王妃様、セレナ様、こちらをお使いください!」
「あの、これは?」
「催涙液です。お早くお使いください!」
「……はぁ」
普段は目の治療にでも使うのか、小さな瓶に入っていた液体を綿に含ませてから滴下すると、僅かな刺激感と共にセレナの両眼から涙が流れ出てきた。そんな彼女に、クライブが次の指示を出す。
「それじゃあ床に座って、俯いていてくれるかな?」
「こうですか?」
「ああ、そんな感じだね」
「それではお嬢様、誠に申し訳ありませんが、ドレスを汚させていただきます」
「王妃様が投げたこの花瓶が肩に当たって、中身が派手にかかったという設定でお願いします」
「本当にごめんなさい。ドレスは弁償しますから」
「え、ええと、はい……」
(あの、それを投げて肩に当たったら、相当痛いと思うのですが?)
大真面目に一人の女官が花瓶から全て花を抜き取って、セレナのドレスの上に撒き散らし、もう一人の女官が、花瓶に入っている水を裾の辺りに少しずつ零していく。そしてジュリアが心底申し訳なさそうに頭を下げる中、先程の小芝居がいきなり再開された。
「大体、伯爵家の人間如きが、クライブを独占しようなど、不遜にもほどがあるわっ!!」
「王妃様! 私は決して独占など!」
「お黙り! この性悪女がっ!!」
「きゃあっ! お許しくださいませ!」
(あ……、割れた……)
女官が近くに誰も居ない場所で床に花瓶を落とすと、それは見事に幾つかの破片になった。それを女官達が素早くかき集め、慎重に、如何にもセレナにぶつかって落ちたかのように彼女のドレスの上に置いて、偽装工作する。その一連の行動にセレナが呆気に取られていると、廊下から呼びかける声が一層大きくなった。
「王妃陛下、先程から何事ですか!?」
「尋常ならざる物音と叫び声が聞こえると、複数の通報があったのです!」
「こちらに、陛下と宰相閣下もおられます! 即刻、ここを開けていただきたい!」
「応じていただけない場合は、扉を破らせていただきますが宜しいですか!?」
その切羽詰まった複数の叫びを聞いたジュリアは、準備が整ったのを確認して女官達に指示を出した。
「いいわ。開けなさい」
「畏まりました」
(もう、何が何だか……。王族って秘密主義の、変人の集まりなのかしら? 一体、私にどうしろと……)
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