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第1章 進退窮まった人々
(9)千客万来
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クライブとの結婚話が持ち上がって以降、セレナはレンフィス伯爵邸で落ち着かない日々を送っていたが、朝食の席で唐突にラーディスに言われた内容を聞いて、本気で頭を抱えたくなった。
「セレナ。今日も特に、外出の予定は無いよな?」
「ええ。急にあちこちから、今まで微塵もお付き合いが無かった家からもご招待を受けているけれど、丁重にお断りしているわ。格上の家からの物もそれなりにあるけど、今まで全く親交の無い、とるに足らない我が家を厚遇する必要なんか無いでしょうし」
皮肉っぽく告げたセレナが、八つ当たりのようにパンを乱暴にちぎって口に放り込むと、エリオットが心配そうな顔を向けてきた。
「姉様……」
「大丈夫よ。お断りするにしても、一応礼儀を保ったお返事を出しているから。と言うか、最近は専らそれを書くのにかなりの時間を取られていて、自由に動ける時間が少ないのが実状なの」
「ご苦労様です」
「それなら良いんだが。セレナ。不必要に怖がらせるつもりは無かったから今まで黙っていたが、クライブ殿下とのでっち上げ恋愛話が持ち上がって以降、何人もこの屋敷に招かれざる客が来ていたんだ」
再びラーディスが告げてきた内容を、瞬時に理解したセレナは、思わず声を荒げた。
「『招かれざる客』? え? それってまさか!?」
動揺したのはセレナ一人で、ここでエリオットが渋面になりながら、会話に加わる。
「それに物騒な人以外にも、ろくでもない物が屋敷に送りつけられていまして。全て姉様の目に触れる前に、僕達で処分しておきましたが」
「義兄様、エリオット! そういう事はちゃんと言って頂戴!」
そこで兄弟は顔を見合わせて肩を竦めたが、そのまま話を続けた。
「それで、今までは屋敷内の人間で昼夜対応してきたが、このまま続くとさすがに体力と集中力が保たなくなる可能性があるからな。余裕を持ってシフトを組めるように、領地から応援人員を出して貰った。その第一陣が、今日中に到着する予定なんだ。だからセレナ。万が一外出する時は、これまでより付き添いの人員を多くするように心がけてくれ」
真顔で指示されたセレナは、思わず深い溜め息を吐いた。
「当事者なら、詳細は教えておいてください……。因みに『招かれざる客』と言うのは、今までに何人くらい出向いて来たのですか?」
「現時点で十五人だ」
「……知らなかったわ。私って密かに人気があったのね。それで、その人達はどうしたの?」
セレナが一応聞いてみると、ラーディスが人の悪い笑みを浮かべた。
「昨日捕らえた三人以外は、全員領地の鉱山に送り済みだ」
「伯爵家の人間の命を狙った訳ですから、強制労働は寧ろ温情ですよね」
それにセレナが何か言う前に、当然の如くエリオットが応じ、兄弟間で楽しげに不埒者に対する処遇が語られる。
「一応身元を聞いて、身内が罰金を払えば解放してやっているんだから、本当に良心的だよな」
「でもそんな後ろ暗い所がある人間が、素直に身元を明かしたりしませんし、仮に話しても身内が殺人未遂犯の為に、大金を用立てるとは思えませんが」
「まあそれでも、足枷付きでニ十年も労働して貰えば解放してやるからな。働きが良ければ十年位か?」
「最近は鉱山の労働力不足が心配されていましたから、後腐れの無い屈強な男性が続々と確保されて助かっていると、領地からの手紙に書いてありました」
「それならこれからも、できるだけ無傷で確保だな」
「そうですね。腱を切らないでくださいね? 生産性が落ちますから」
そこまで黙って聞いていたセレナは、呆れながら二人を窘めた。
「二人とも……。朝から物騒な話で、盛り上がらないで。それで取り敢えず、出て来る人達が寝起きする場所はどうするの?」
「そこはすぐ裏の別宅を、一昨日から掃除して貰っているから大丈夫だ」
「三代前の伯爵に感謝ですね。『この屋敷内に、絵を書くのに適当な、落ち着いたアトリエが無い』と我が儘を言って、ここよりは各段に狭いながらも、屋敷を丸々一つ買い上げましたから」
話題に上がった、レンフィス伯爵邸とは街路を挟んで背後の並びにある屋敷の事を思い出したセレナは、ある事に思い至った。
「ひょっとして……、今まで捕らえた人達も、地下通路を経由してそちらから領地に送り込んでいたの?」
捕らえた侵入者を、玄関から堂々と領地に送り出していれば、幾ら何でも気が付く筈と思いながら彼女が確認を入れると、エリオットが頷いてそれを肯定する。
「ええ。この屋敷の人や物品の出入りは、監視されている恐れがありますから。本当にご先祖様々ですよね」
「わざわざ玄関を出て、敷地を回り込んで行くのが面倒くさいと、最短距離で地下に連絡通路を掘らせたからな」
笑いを堪える表情のエリオットと、呆れ顔のラーディスを眺めながら、セレナはもう何度目になるのか分からない溜め息を吐いた。
(事が落ち着くまで、何人の賊がここに送り込まれてくるのかしら。本当に迷惑よね。それを悉く捕らえて労働力にしてしまっている、義兄様も義兄様だけど)
そんな事を考えながらも彼女は順調に朝食を食べ終え、王城の勤務に向かうラーディスを見送ってからは、書斎に籠もって文書の整理を始めた。それに集中して一時間ほど経過したところで、ノックをして入室して来たマリーが、恭しく箱を捧げ持ちながらセレナに差し出す。
「お嬢様。クライブ殿下からの贈り物が届きました」
「また? 『駄目になったドレスの代わりに、好きに仕立ててください』ってメッセージ付きで、昨日あれほど超高級生地を送りつけてきたのに?」
「取り敢えず、こちらをご覧ください」
呆れた表情を隠そうともせず、セレナはまず同時に届いた封書を開けて中身を確認した。それを読み終えたセレナが疲れたように溜め息を吐いた為、マリーは好奇心に負けて控え目に尋ねてみる。
「あの……、お嬢様? そちらには、何と書いてあったのですか?」
「『母に理不尽な扱いをされて、傷心なあなたをお慰めする為に』云々よ。歯が浮きそうな美辞麗句の羅列で、それだけでお腹一杯だわ。本当に、何を考えているのよ。因みに物は何かしら?」
「この箱の大きさと形状と重さからすると、宝飾品では無いでしょうか?」
「……そうね。私もそんな気がしていたの。それに敢えて一箱という事は、中にはそれなりの物が入っているのではないかしら?」
「そこまでお分かりなら、さっさと受け取ってください!」
「ごめんなさい、マリー。心が、受け入れを拒否していて……。このまま送り返したら駄目かしら?」
「駄目に決まってます!」
「そう怒らないで頂戴。お願いだからちょっとだけ、現実逃避をさせてよ……」
恨みがましく呟きながらセレナは箱を受け取り、押し問答から解放されたマリーは、安堵した表情で話を続けた。
「あ、それから先程別宅の方に、領地から派遣された者達が到着しました。今フィーネ様とエリオット様が、挨拶に出向いています」
それを聞いた途端、セレナは受け取った箱を机に置きながら、勢い良く立ち上がった。
「マリー! どうしてそれを早く言わないの! 贈り物より、そっちが大事でしょうが!」
「そう言われましても……」
「今から私も行くわ!」
そう言うなりドアに向かって駆け出したセレナの後を追いながら、マリーが叫ぶ。
「あ、お嬢様! 念の為!」
「勿論、外には出ないで、地下通路経由で行くから!」
「そうしてください。私も行きますので」
そして二人は慌ただしく階段を下り、地下室から繋がる通路を通って、別宅として使っている屋敷に向かった。
「誰が来るかと思っていたら、ルイ自ら来たの!? 領地の方での訓練とか、大丈夫?」
おそらくまず応接室に全員集まっているだろうと見当をつけたセレナが、挨拶抜きでそこに飛び込んだ次の瞬間、真っ先に領地の私兵集団の束ね役である人物を認めて、驚きの声を上げた。そのルイは話をしていたフィーネとエリオットから彼女に視線を移し、満面の笑みを浮かべる。
「これは嬢様、お久しぶりですな。楽したい若手の連中が、儂を率先して送り出しまして。儂がいないと、楽ができるとでも思っているのでしょう。全くもって、けしからん事ですな」
そう言ってカラカラと笑った彼の背後に立っている若者達も、口々にセレナに声をかけてくる。
「お嬢様!」
「私達もお忘れなく!」
「うわ、ネリアにトーマスにイーサンまで来ているなんて」
「これからまだまだ、来る予定ですから」
「どれだけ来るの。領地の屋敷が空になるわ……」
「大丈夫ですって。取り敢えず領地の管理運営に必要な人員は、ちゃんと残してありますから」
「それなら良いんだけど……。本当に面倒をかけるわね」
まさかこんな事態になるなんてと、セレナが申し訳なく思っていると、ネリアが笑いながら手を振った。
「気にしないで下さい、お嬢様。こんな機会でもないと、滅多に王都とかには来れませんし。空き時間には観光させてくださいね?」
「ええ、特別手当も出すように調整するわ」
「やった!」
「こら、ネリア。物見遊山じゃないんだからな?」
「ラーディスからの報告に、目を通しておいたよな? それなりに物騒だぞ?」
「分かってますって。お任せください!」
そして挨拶が済んでいたフィーネとエリオットが先に屋敷に戻り、セレナがルイ達と領地やそこの使用人達の話で盛り上がっていると、一人の侍女がその部屋に駆け込んで来た。
「おっ、お嬢様、大変です! お屋敷に!」
「今度は何が届いたの? お花? お菓子? それとも香水?」
内心でうんざりしながら、すかさず問い返したセレナだったが、その侍女の報告に一瞬思考が停止した。
「お屋敷に、クライブ殿下がいらっしゃいました!!」
「…………はい?」
「お嬢様、呆けている場合ではございません! 王都内を視察の途中に、急遽こちらにお寄りなられたそうです。今、先程屋敷にお戻りになられた奥様とお坊ちゃまが、玄関で対応をされていますので」
「今すぐ戻るわ! 皆、また後でね!」
(どうしてクライブ殿下が、いきなりここに押しかけて来るわけ!?)
そして泡を食って走り去ったセレナを見送った面々は、顔を見合わせて率直な感想を述べた。
「本当に、大変そうですね」
「王子様か。そんな高貴なお方とは、正直あまり関わり合いにはなりたくないんだがなぁ……」
そんな彼らの心情は、セレナのそれと全く同じ物だった。
「セレナ。今日も特に、外出の予定は無いよな?」
「ええ。急にあちこちから、今まで微塵もお付き合いが無かった家からもご招待を受けているけれど、丁重にお断りしているわ。格上の家からの物もそれなりにあるけど、今まで全く親交の無い、とるに足らない我が家を厚遇する必要なんか無いでしょうし」
皮肉っぽく告げたセレナが、八つ当たりのようにパンを乱暴にちぎって口に放り込むと、エリオットが心配そうな顔を向けてきた。
「姉様……」
「大丈夫よ。お断りするにしても、一応礼儀を保ったお返事を出しているから。と言うか、最近は専らそれを書くのにかなりの時間を取られていて、自由に動ける時間が少ないのが実状なの」
「ご苦労様です」
「それなら良いんだが。セレナ。不必要に怖がらせるつもりは無かったから今まで黙っていたが、クライブ殿下とのでっち上げ恋愛話が持ち上がって以降、何人もこの屋敷に招かれざる客が来ていたんだ」
再びラーディスが告げてきた内容を、瞬時に理解したセレナは、思わず声を荒げた。
「『招かれざる客』? え? それってまさか!?」
動揺したのはセレナ一人で、ここでエリオットが渋面になりながら、会話に加わる。
「それに物騒な人以外にも、ろくでもない物が屋敷に送りつけられていまして。全て姉様の目に触れる前に、僕達で処分しておきましたが」
「義兄様、エリオット! そういう事はちゃんと言って頂戴!」
そこで兄弟は顔を見合わせて肩を竦めたが、そのまま話を続けた。
「それで、今までは屋敷内の人間で昼夜対応してきたが、このまま続くとさすがに体力と集中力が保たなくなる可能性があるからな。余裕を持ってシフトを組めるように、領地から応援人員を出して貰った。その第一陣が、今日中に到着する予定なんだ。だからセレナ。万が一外出する時は、これまでより付き添いの人員を多くするように心がけてくれ」
真顔で指示されたセレナは、思わず深い溜め息を吐いた。
「当事者なら、詳細は教えておいてください……。因みに『招かれざる客』と言うのは、今までに何人くらい出向いて来たのですか?」
「現時点で十五人だ」
「……知らなかったわ。私って密かに人気があったのね。それで、その人達はどうしたの?」
セレナが一応聞いてみると、ラーディスが人の悪い笑みを浮かべた。
「昨日捕らえた三人以外は、全員領地の鉱山に送り済みだ」
「伯爵家の人間の命を狙った訳ですから、強制労働は寧ろ温情ですよね」
それにセレナが何か言う前に、当然の如くエリオットが応じ、兄弟間で楽しげに不埒者に対する処遇が語られる。
「一応身元を聞いて、身内が罰金を払えば解放してやっているんだから、本当に良心的だよな」
「でもそんな後ろ暗い所がある人間が、素直に身元を明かしたりしませんし、仮に話しても身内が殺人未遂犯の為に、大金を用立てるとは思えませんが」
「まあそれでも、足枷付きでニ十年も労働して貰えば解放してやるからな。働きが良ければ十年位か?」
「最近は鉱山の労働力不足が心配されていましたから、後腐れの無い屈強な男性が続々と確保されて助かっていると、領地からの手紙に書いてありました」
「それならこれからも、できるだけ無傷で確保だな」
「そうですね。腱を切らないでくださいね? 生産性が落ちますから」
そこまで黙って聞いていたセレナは、呆れながら二人を窘めた。
「二人とも……。朝から物騒な話で、盛り上がらないで。それで取り敢えず、出て来る人達が寝起きする場所はどうするの?」
「そこはすぐ裏の別宅を、一昨日から掃除して貰っているから大丈夫だ」
「三代前の伯爵に感謝ですね。『この屋敷内に、絵を書くのに適当な、落ち着いたアトリエが無い』と我が儘を言って、ここよりは各段に狭いながらも、屋敷を丸々一つ買い上げましたから」
話題に上がった、レンフィス伯爵邸とは街路を挟んで背後の並びにある屋敷の事を思い出したセレナは、ある事に思い至った。
「ひょっとして……、今まで捕らえた人達も、地下通路を経由してそちらから領地に送り込んでいたの?」
捕らえた侵入者を、玄関から堂々と領地に送り出していれば、幾ら何でも気が付く筈と思いながら彼女が確認を入れると、エリオットが頷いてそれを肯定する。
「ええ。この屋敷の人や物品の出入りは、監視されている恐れがありますから。本当にご先祖様々ですよね」
「わざわざ玄関を出て、敷地を回り込んで行くのが面倒くさいと、最短距離で地下に連絡通路を掘らせたからな」
笑いを堪える表情のエリオットと、呆れ顔のラーディスを眺めながら、セレナはもう何度目になるのか分からない溜め息を吐いた。
(事が落ち着くまで、何人の賊がここに送り込まれてくるのかしら。本当に迷惑よね。それを悉く捕らえて労働力にしてしまっている、義兄様も義兄様だけど)
そんな事を考えながらも彼女は順調に朝食を食べ終え、王城の勤務に向かうラーディスを見送ってからは、書斎に籠もって文書の整理を始めた。それに集中して一時間ほど経過したところで、ノックをして入室して来たマリーが、恭しく箱を捧げ持ちながらセレナに差し出す。
「お嬢様。クライブ殿下からの贈り物が届きました」
「また? 『駄目になったドレスの代わりに、好きに仕立ててください』ってメッセージ付きで、昨日あれほど超高級生地を送りつけてきたのに?」
「取り敢えず、こちらをご覧ください」
呆れた表情を隠そうともせず、セレナはまず同時に届いた封書を開けて中身を確認した。それを読み終えたセレナが疲れたように溜め息を吐いた為、マリーは好奇心に負けて控え目に尋ねてみる。
「あの……、お嬢様? そちらには、何と書いてあったのですか?」
「『母に理不尽な扱いをされて、傷心なあなたをお慰めする為に』云々よ。歯が浮きそうな美辞麗句の羅列で、それだけでお腹一杯だわ。本当に、何を考えているのよ。因みに物は何かしら?」
「この箱の大きさと形状と重さからすると、宝飾品では無いでしょうか?」
「……そうね。私もそんな気がしていたの。それに敢えて一箱という事は、中にはそれなりの物が入っているのではないかしら?」
「そこまでお分かりなら、さっさと受け取ってください!」
「ごめんなさい、マリー。心が、受け入れを拒否していて……。このまま送り返したら駄目かしら?」
「駄目に決まってます!」
「そう怒らないで頂戴。お願いだからちょっとだけ、現実逃避をさせてよ……」
恨みがましく呟きながらセレナは箱を受け取り、押し問答から解放されたマリーは、安堵した表情で話を続けた。
「あ、それから先程別宅の方に、領地から派遣された者達が到着しました。今フィーネ様とエリオット様が、挨拶に出向いています」
それを聞いた途端、セレナは受け取った箱を机に置きながら、勢い良く立ち上がった。
「マリー! どうしてそれを早く言わないの! 贈り物より、そっちが大事でしょうが!」
「そう言われましても……」
「今から私も行くわ!」
そう言うなりドアに向かって駆け出したセレナの後を追いながら、マリーが叫ぶ。
「あ、お嬢様! 念の為!」
「勿論、外には出ないで、地下通路経由で行くから!」
「そうしてください。私も行きますので」
そして二人は慌ただしく階段を下り、地下室から繋がる通路を通って、別宅として使っている屋敷に向かった。
「誰が来るかと思っていたら、ルイ自ら来たの!? 領地の方での訓練とか、大丈夫?」
おそらくまず応接室に全員集まっているだろうと見当をつけたセレナが、挨拶抜きでそこに飛び込んだ次の瞬間、真っ先に領地の私兵集団の束ね役である人物を認めて、驚きの声を上げた。そのルイは話をしていたフィーネとエリオットから彼女に視線を移し、満面の笑みを浮かべる。
「これは嬢様、お久しぶりですな。楽したい若手の連中が、儂を率先して送り出しまして。儂がいないと、楽ができるとでも思っているのでしょう。全くもって、けしからん事ですな」
そう言ってカラカラと笑った彼の背後に立っている若者達も、口々にセレナに声をかけてくる。
「お嬢様!」
「私達もお忘れなく!」
「うわ、ネリアにトーマスにイーサンまで来ているなんて」
「これからまだまだ、来る予定ですから」
「どれだけ来るの。領地の屋敷が空になるわ……」
「大丈夫ですって。取り敢えず領地の管理運営に必要な人員は、ちゃんと残してありますから」
「それなら良いんだけど……。本当に面倒をかけるわね」
まさかこんな事態になるなんてと、セレナが申し訳なく思っていると、ネリアが笑いながら手を振った。
「気にしないで下さい、お嬢様。こんな機会でもないと、滅多に王都とかには来れませんし。空き時間には観光させてくださいね?」
「ええ、特別手当も出すように調整するわ」
「やった!」
「こら、ネリア。物見遊山じゃないんだからな?」
「ラーディスからの報告に、目を通しておいたよな? それなりに物騒だぞ?」
「分かってますって。お任せください!」
そして挨拶が済んでいたフィーネとエリオットが先に屋敷に戻り、セレナがルイ達と領地やそこの使用人達の話で盛り上がっていると、一人の侍女がその部屋に駆け込んで来た。
「おっ、お嬢様、大変です! お屋敷に!」
「今度は何が届いたの? お花? お菓子? それとも香水?」
内心でうんざりしながら、すかさず問い返したセレナだったが、その侍女の報告に一瞬思考が停止した。
「お屋敷に、クライブ殿下がいらっしゃいました!!」
「…………はい?」
「お嬢様、呆けている場合ではございません! 王都内を視察の途中に、急遽こちらにお寄りなられたそうです。今、先程屋敷にお戻りになられた奥様とお坊ちゃまが、玄関で対応をされていますので」
「今すぐ戻るわ! 皆、また後でね!」
(どうしてクライブ殿下が、いきなりここに押しかけて来るわけ!?)
そして泡を食って走り去ったセレナを見送った面々は、顔を見合わせて率直な感想を述べた。
「本当に、大変そうですね」
「王子様か。そんな高貴なお方とは、正直あまり関わり合いにはなりたくないんだがなぁ……」
そんな彼らの心情は、セレナのそれと全く同じ物だった。
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