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第1章 ちょっとした変化
(3)酒に飲まれた女
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「おい、関本!?」
「先輩、危ない!!」
つい数分前まで、上機嫌に喋りつつ痛飲していた沙織だったが、急に黙り込んでグラスをテーブルに置いたと思ったら、いきなり前傾姿勢になった。
咄嗟に佐々木が手を伸ばして沙織の肩を掴んだ為、彼女は目の前の皿やグラスに顔を突っ込まずに済み、その間に向かい側の朝永と友之が慌てて皿を寄せてスペースを空け、佐々木に声をかける。
「佐々木、取り敢えず、ちょっと寝かせておけ」
「……はい」
そして朝永と佐々木は二人がかりで慎重に彼女の腕を取り、テーブルの上に軽く腕を重ねさせ、その上に沙織を頭を乗せて、テーブルに突っ伏させておいた。
「完璧に潰れたか……。やはり飲むペースが早かったな。途中で止めるべきだった」
判断ミスだったと思いながら友之が悔やむ台詞を口にすると、朝永が半ば腹を立てながら手を伸ばし、沙織の頭を軽く小突く。
「全面的にこいつの責任ですから、課長が気にする事ではありませんよ。おい、関本! このうわばみ女が、少しは自制しろ!」
その叱責に、沙織がピクリと反応した。
「……いですか?」
「え? 今何か言ったか?」
「うわばみ女って、鬱陶しいですか?」
「どうだろうな……」
自分の腕に額を乗せて突っ伏したまま、何やらぼそぼそと言ってきた沙織に、朝永が困惑した表情になった。するとここで彼女が、そのままの体勢でいきなり泣き喚き始める。
「だっ、だから……、うちにジョニーが来てっ、くれなくなっちゃったんだぁぁ――っ!!」
「はぁ? ジョニーって誰の事」
「うわぁぁぁ――ん!! 私やっぱり、捨てられたぁぁ――っ!!」
「えぇ!?」
「関本!?」
「捨てられたって……、おい!?」
いきなりとんでもない事を聞かされた男三人は驚愕したが、沙織の泣き声は止まなかった。そしてすぐに彼らは、沙織に問い質し始める。
「ちょっと待て関本! お前の口から男の話なんて、これまで聞いた事は皆無だったんだが!?」
「と言うか男の話以前に、普段プライベートの話も殆どしないし」
「それにジョニーって、どこの人ですか!?」
「どこって……、アメリカじゃないの?」
俯いたままどことなく自信なさげに沙織が答えた為、尋ねた佐々木の顔が一気に強張った。
「どうして疑問系なんですか? まさか先輩、その人がどこに住んでるかも知らないなんて言いませんよね!?」
「知らないわよ……。時々ひょっこりうちに来て、ご飯食べてゴロゴロ寝て、どこかに帰っていくだけだし……」
力無く沙織がそう続けたのを聞いて、友之と朝永は無言で険しい顔を見合わせたが、佐々木は怒りを露わにしながら腰を浮かせた。
「先輩、何てタチの悪い男に引っかかってるんですか! 普段の先輩は、どこも隙が無さそうなのに! そうだ警察、警察に行きましょう!」
そんな後輩を、朝永が渋面になりながら宥める。
「落ち着け、佐々木。関本が実際に何らかの被害を受けていないと、警察も動かないだろう。どうやらこの話しぶりだと、関本は自分の意志でその男を部屋に入れているしな」
「そうだろうな。明らかな窃盗とか結婚詐欺が立証できるのなら、話は別だが」
難しい顔で友之が口にした内容を聞いて、佐々木が慌てて沙織に尋ねた。
「先輩、そいつに巻き上げられた物とか無いんですか? それとも結婚費用に充てるとか言われて、大金を渡したりしていませんか?」
その問いかけに、沙織は俯いたまま自問自答するように言い出す。
「やっぱり……、気の利いたアクセサリーとか、渡すべきだったのかなぁ……」
「はい?」
「だってそんなの、特に欲しいなんて素振りは見せなかったし……」
「渡さなくって正解ですから! 駄目ですよ、そんなブランド物の時計とかポンと贈ったりしたら! そういう一見気のない素振りが、奴らの常套手段なんですよ!?」
佐々木が語気強く言い聞かせたが、沙織は構わず話を続けた。
「それに……、ジョニーは舌が肥えていたから、いつ来ても大丈夫なように、最近は高級品を常備してたのに……」
「俺の話、ちゃんと聞いてます!? 何いそいそと高級食材を用意して、黙って来るのを待ってるんですか!」
「それに……、色々勉強して頑張ったのに、大して気持ち良く無かったのかなぁ……。私の撫で方、そんなに下手だったとか……。やっぱりそれで、愛想を尽かされたのかも……」
そこまで聞いた佐々木は、盛大に顔を引き攣らせた。
「先輩……、一体何の勉強をしていたと……」
「ブラシ使い」
「はい?」
「ジョニーは短毛種だから、豚毛のソフトタイプの一番良い奴を買ったのに……」
てっきり店内で話題に出すには、きわどい内容なのかと思いきや、咄嗟に言われた内容が理解できなかった為、佐々木が困惑しながら問いかけた。
「あの……、短毛種って、何ですか?」
「だってジョニーは、アメショーだもん。アメショーは短毛種だし」
「『だもん』って……」
「アメショー?」
「要するに、猫……」
沙織の話を聞いた男三人は、茫然と口の中で呟いてから、三者三様の反応を示した。
「先輩、危ない!!」
つい数分前まで、上機嫌に喋りつつ痛飲していた沙織だったが、急に黙り込んでグラスをテーブルに置いたと思ったら、いきなり前傾姿勢になった。
咄嗟に佐々木が手を伸ばして沙織の肩を掴んだ為、彼女は目の前の皿やグラスに顔を突っ込まずに済み、その間に向かい側の朝永と友之が慌てて皿を寄せてスペースを空け、佐々木に声をかける。
「佐々木、取り敢えず、ちょっと寝かせておけ」
「……はい」
そして朝永と佐々木は二人がかりで慎重に彼女の腕を取り、テーブルの上に軽く腕を重ねさせ、その上に沙織を頭を乗せて、テーブルに突っ伏させておいた。
「完璧に潰れたか……。やはり飲むペースが早かったな。途中で止めるべきだった」
判断ミスだったと思いながら友之が悔やむ台詞を口にすると、朝永が半ば腹を立てながら手を伸ばし、沙織の頭を軽く小突く。
「全面的にこいつの責任ですから、課長が気にする事ではありませんよ。おい、関本! このうわばみ女が、少しは自制しろ!」
その叱責に、沙織がピクリと反応した。
「……いですか?」
「え? 今何か言ったか?」
「うわばみ女って、鬱陶しいですか?」
「どうだろうな……」
自分の腕に額を乗せて突っ伏したまま、何やらぼそぼそと言ってきた沙織に、朝永が困惑した表情になった。するとここで彼女が、そのままの体勢でいきなり泣き喚き始める。
「だっ、だから……、うちにジョニーが来てっ、くれなくなっちゃったんだぁぁ――っ!!」
「はぁ? ジョニーって誰の事」
「うわぁぁぁ――ん!! 私やっぱり、捨てられたぁぁ――っ!!」
「えぇ!?」
「関本!?」
「捨てられたって……、おい!?」
いきなりとんでもない事を聞かされた男三人は驚愕したが、沙織の泣き声は止まなかった。そしてすぐに彼らは、沙織に問い質し始める。
「ちょっと待て関本! お前の口から男の話なんて、これまで聞いた事は皆無だったんだが!?」
「と言うか男の話以前に、普段プライベートの話も殆どしないし」
「それにジョニーって、どこの人ですか!?」
「どこって……、アメリカじゃないの?」
俯いたままどことなく自信なさげに沙織が答えた為、尋ねた佐々木の顔が一気に強張った。
「どうして疑問系なんですか? まさか先輩、その人がどこに住んでるかも知らないなんて言いませんよね!?」
「知らないわよ……。時々ひょっこりうちに来て、ご飯食べてゴロゴロ寝て、どこかに帰っていくだけだし……」
力無く沙織がそう続けたのを聞いて、友之と朝永は無言で険しい顔を見合わせたが、佐々木は怒りを露わにしながら腰を浮かせた。
「先輩、何てタチの悪い男に引っかかってるんですか! 普段の先輩は、どこも隙が無さそうなのに! そうだ警察、警察に行きましょう!」
そんな後輩を、朝永が渋面になりながら宥める。
「落ち着け、佐々木。関本が実際に何らかの被害を受けていないと、警察も動かないだろう。どうやらこの話しぶりだと、関本は自分の意志でその男を部屋に入れているしな」
「そうだろうな。明らかな窃盗とか結婚詐欺が立証できるのなら、話は別だが」
難しい顔で友之が口にした内容を聞いて、佐々木が慌てて沙織に尋ねた。
「先輩、そいつに巻き上げられた物とか無いんですか? それとも結婚費用に充てるとか言われて、大金を渡したりしていませんか?」
その問いかけに、沙織は俯いたまま自問自答するように言い出す。
「やっぱり……、気の利いたアクセサリーとか、渡すべきだったのかなぁ……」
「はい?」
「だってそんなの、特に欲しいなんて素振りは見せなかったし……」
「渡さなくって正解ですから! 駄目ですよ、そんなブランド物の時計とかポンと贈ったりしたら! そういう一見気のない素振りが、奴らの常套手段なんですよ!?」
佐々木が語気強く言い聞かせたが、沙織は構わず話を続けた。
「それに……、ジョニーは舌が肥えていたから、いつ来ても大丈夫なように、最近は高級品を常備してたのに……」
「俺の話、ちゃんと聞いてます!? 何いそいそと高級食材を用意して、黙って来るのを待ってるんですか!」
「それに……、色々勉強して頑張ったのに、大して気持ち良く無かったのかなぁ……。私の撫で方、そんなに下手だったとか……。やっぱりそれで、愛想を尽かされたのかも……」
そこまで聞いた佐々木は、盛大に顔を引き攣らせた。
「先輩……、一体何の勉強をしていたと……」
「ブラシ使い」
「はい?」
「ジョニーは短毛種だから、豚毛のソフトタイプの一番良い奴を買ったのに……」
てっきり店内で話題に出すには、きわどい内容なのかと思いきや、咄嗟に言われた内容が理解できなかった為、佐々木が困惑しながら問いかけた。
「あの……、短毛種って、何ですか?」
「だってジョニーは、アメショーだもん。アメショーは短毛種だし」
「『だもん』って……」
「アメショー?」
「要するに、猫……」
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