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第3章 陰謀の余波
(12)別方向からのアプローチ
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「朝永、只野、関本、佐々木、ちょっと来てくれ」
「はい」
「今行きます」
「課長、どうかしましたか?」
課長席からの声に、呼ばれた四人が仕事の手を止めて向かうと、全員が揃ったところで友之が口を開いた。
「今、開発部で、今後の方針で揉めていてな。TRW‐ⅡとSJ25Hの後継機開発を、断念する話が出ているらしい」
「は? どうしてですか!?」
「どちらも製作機械ラインナップの、主力商品に入っていますよね?」
「開発部内で、何か内輪揉めですか?」
寝耳に水の話に沙織達が揃って渋面になったのを見て、友之も面白く無さそうに続ける。
「はっきり言えばそうだ。開発費を小型の工作機械開発に回すなら、単価の高い大型機械に回した方が良いと主張する人間が多いらしい」
「開発部内の力関係で、商品ラインナップを変えられるのは、勘弁して欲しいんですが」
「勿論、この話は本決まりでは無い。商品ラインナップに関しては、営業部の意向も無視できないからな」
「ですが、手をこまねいてもいられませんよね」
「小型の工作機械は、うちの課の主力商品でもありますし」
難しい顔で考え込む部下を見ながら、友之は指示を出した。
「ああ。松原工業発足時からの、販売商品でもあるからな。幾ら日本国内での精密部品や金型製造が、海外製に押されているとは言っても、物造りは産業の基本だ。それで通常業務とは外れるが、四人には市場調査と、今後の売り込み先の可能性を纏めたレポート作成を頼みたい」
それに朝永が、余計な事は言わずに即座に頷く。
「分かりました。期限は?」
「来月上旬までで良い。来月以降に開発部内で見直しが提起されて、議論になると聞いている」
「分かりました。それでは俺達で分担して進めます」
「ああ、宜しく頼む」
そこまで話を進めた朝永は、沙織達を振り返った。
「じゃあ、関本、佐々木。俺と只野はもうすぐ外に出ないといけないから、夕方に今後の方針を話し合おう」
「分かりました。今日は私達は一日出ませんので、それまでに必要な資料を集められるだけ集めておきます」
「頼んだぞ」
そこで当面の話は終わったと判断した四人は、自分の机に戻ろうとしたが、友之が沙織に声をかけてきた。
「ああ、そうだ。関本、ちょっと待ってくれ」
「何でしょうか?」
「貰い物だが、良かったらジョニーが来た時にでも食べさせてやってくれ。朝来た時に、渡すのを忘れていた」
「はい?」
いきなりごそごそと鞄から何かを取り出す音がしたと思ったら、白いビニール袋を差し出された沙織は本気で戸惑った。しかし受け取って中身を確認すると、高級缶シリーズとして名高いキャットフードが四缶入っており、意味が分からずに固まる。
「あまり好きでは無さそうか?」
「いえ……、ジョニーは食べ物に関して、不服を言うタイプではありませんから、大丈夫かと思いますが……」
「それなら良かった。家に猫は居ないから、有効活用してくれ。引き止めて悪かった」
「はぁ……、ありがたく頂いていきます」
(猫が居ない家に、キャットフードを贈る人が居るの? しかも四缶だけって、微妙過ぎる。絶対貰い物とかじゃなくて、わざわざ買ったのよね? どういう事?)
内心で疑問に思いながらも、ビニール袋を手に提げて戻って行くと、席に着くなり佐々木が小声で尋ねてきた。
「あの、先輩。さっきの話ですが、具体的には何をするんですか?」
「要は、下請けの中小企業が受ける金型や精密部品の製造がこの先先細りだから、それを作る機械も売れない。だからそれらの製造販売を止めようって馬鹿な事をほざいてる奴らに、反論する為の材料を集めるの。確かに景気は良くないし、海外勢に押されてはいるけど、技術が優れている所はしっかり業績を出しているわ。だから商品売り込み先の業績と営業利益を調べた上で、それと他の製品製造に、うちの工作機械が使える可能性がないかの検討ね」
「景気が悪い時は一旦製造販売を控えて、持ち直したら再開と言う風にはいかないんですか?」
そんな率直な疑問を口にした彼に、沙織は小さく笑って説明を加える。
「一旦製造を中止したら、メンテナンスや消耗品の製造にも支障が出るのよ」
「ああ、そういう事もありましたね」
「勿論、うちは慈善事業じゃないから不採算の箇所は削る必要はあるでしょうけど、それを否定したかったらそれなりの判断材料を出せって事ね。課長が幾ら社長の息子でも、社内では一課長に過ぎないし。恐らく開発部内の誰かに、泣きつかれたんでしょうけど」
「そうするとうちが売った機械で作った商品が、どの位売れているかを調べるんですか? 取引先が、教えてくれるものですか?」
不思議そうな顔になった彼に、沙織が冷静に答える。
「うちが売った機械単独で作った製品の方が少ないだろうし、商品事の売り上げデータなんて、余程の事が無いと公表していないでしょうね。そこはそれ、どの程度の製造に関わっているかとか、汎用頻度や割合をデータから読み取る事はできるから、今回はそういう別方向からのアプローチに関して、教える事にするから」
「分かりました。お願いします」
(今のところ仕事に全く影響は出ていないし、傍目には以前と全く変わりは無いし、本人を探っても無理でしょうね。別な方向からのアプローチか。そうなると……)
チラッと友之を眺めながら、仕事とは関係のない事を考えた沙織は、ここで佐々木に尋ねた。
「佐々木君、ちょっと意見を貰いたいんだけど」
「はい、何ですか?」
「可愛い物好きだけど、なかなか流行の所に気軽に行けないお嬢様タイプの人を連れて行ったら、喜びそうな所ってどこかしらね? 因みに以前猫カフェに連れて行ったら、もの凄く喜んで貰えたわ」
いきなり関係のない事を尋ねられた佐々木は、多少戸惑った表情になったものの、素直に答える。
「はい? 可愛い物好きのお嬢様タイプ、ですか? それで取り敢えず、もふもふ系は好きなんですね?」
「まあ、そんな感じね」
「はぁ……、それなら今のトレンドは、フクロウカフェじゃないですか?」
それを聞いた沙織は、意外に思って問い返した。
「フクロウ? あれが可愛いの? 首がぐるっと回って、目がギョロッとしているイメージしか無いけど」
「間近で見るとそんな事ないですし、意外に触り心地も良いですよ?」
「行った事があるの?」
「行ったと言うか、連れて行ったと言うか……」
僅かに顔を赤くしながら、視線を彷徨わせた後輩を見て、沙織は思わず笑ってしまった。
「あら、プライベートも順調そうで、何よりだわ。それで好反応だったんだ」
「ええ、結構喜んで貰えました。店の名前を教えますか?」
「お願い」
(ちょっと現状とか、分かる範囲でさり気無く聞いてみましょうか)
そして佐々木からフクロウカフェの情報を入手した沙織は、その日のうちに真由美と連絡を取り、次の日曜に出かける約束を取り付けた。
「はい」
「今行きます」
「課長、どうかしましたか?」
課長席からの声に、呼ばれた四人が仕事の手を止めて向かうと、全員が揃ったところで友之が口を開いた。
「今、開発部で、今後の方針で揉めていてな。TRW‐ⅡとSJ25Hの後継機開発を、断念する話が出ているらしい」
「は? どうしてですか!?」
「どちらも製作機械ラインナップの、主力商品に入っていますよね?」
「開発部内で、何か内輪揉めですか?」
寝耳に水の話に沙織達が揃って渋面になったのを見て、友之も面白く無さそうに続ける。
「はっきり言えばそうだ。開発費を小型の工作機械開発に回すなら、単価の高い大型機械に回した方が良いと主張する人間が多いらしい」
「開発部内の力関係で、商品ラインナップを変えられるのは、勘弁して欲しいんですが」
「勿論、この話は本決まりでは無い。商品ラインナップに関しては、営業部の意向も無視できないからな」
「ですが、手をこまねいてもいられませんよね」
「小型の工作機械は、うちの課の主力商品でもありますし」
難しい顔で考え込む部下を見ながら、友之は指示を出した。
「ああ。松原工業発足時からの、販売商品でもあるからな。幾ら日本国内での精密部品や金型製造が、海外製に押されているとは言っても、物造りは産業の基本だ。それで通常業務とは外れるが、四人には市場調査と、今後の売り込み先の可能性を纏めたレポート作成を頼みたい」
それに朝永が、余計な事は言わずに即座に頷く。
「分かりました。期限は?」
「来月上旬までで良い。来月以降に開発部内で見直しが提起されて、議論になると聞いている」
「分かりました。それでは俺達で分担して進めます」
「ああ、宜しく頼む」
そこまで話を進めた朝永は、沙織達を振り返った。
「じゃあ、関本、佐々木。俺と只野はもうすぐ外に出ないといけないから、夕方に今後の方針を話し合おう」
「分かりました。今日は私達は一日出ませんので、それまでに必要な資料を集められるだけ集めておきます」
「頼んだぞ」
そこで当面の話は終わったと判断した四人は、自分の机に戻ろうとしたが、友之が沙織に声をかけてきた。
「ああ、そうだ。関本、ちょっと待ってくれ」
「何でしょうか?」
「貰い物だが、良かったらジョニーが来た時にでも食べさせてやってくれ。朝来た時に、渡すのを忘れていた」
「はい?」
いきなりごそごそと鞄から何かを取り出す音がしたと思ったら、白いビニール袋を差し出された沙織は本気で戸惑った。しかし受け取って中身を確認すると、高級缶シリーズとして名高いキャットフードが四缶入っており、意味が分からずに固まる。
「あまり好きでは無さそうか?」
「いえ……、ジョニーは食べ物に関して、不服を言うタイプではありませんから、大丈夫かと思いますが……」
「それなら良かった。家に猫は居ないから、有効活用してくれ。引き止めて悪かった」
「はぁ……、ありがたく頂いていきます」
(猫が居ない家に、キャットフードを贈る人が居るの? しかも四缶だけって、微妙過ぎる。絶対貰い物とかじゃなくて、わざわざ買ったのよね? どういう事?)
内心で疑問に思いながらも、ビニール袋を手に提げて戻って行くと、席に着くなり佐々木が小声で尋ねてきた。
「あの、先輩。さっきの話ですが、具体的には何をするんですか?」
「要は、下請けの中小企業が受ける金型や精密部品の製造がこの先先細りだから、それを作る機械も売れない。だからそれらの製造販売を止めようって馬鹿な事をほざいてる奴らに、反論する為の材料を集めるの。確かに景気は良くないし、海外勢に押されてはいるけど、技術が優れている所はしっかり業績を出しているわ。だから商品売り込み先の業績と営業利益を調べた上で、それと他の製品製造に、うちの工作機械が使える可能性がないかの検討ね」
「景気が悪い時は一旦製造販売を控えて、持ち直したら再開と言う風にはいかないんですか?」
そんな率直な疑問を口にした彼に、沙織は小さく笑って説明を加える。
「一旦製造を中止したら、メンテナンスや消耗品の製造にも支障が出るのよ」
「ああ、そういう事もありましたね」
「勿論、うちは慈善事業じゃないから不採算の箇所は削る必要はあるでしょうけど、それを否定したかったらそれなりの判断材料を出せって事ね。課長が幾ら社長の息子でも、社内では一課長に過ぎないし。恐らく開発部内の誰かに、泣きつかれたんでしょうけど」
「そうするとうちが売った機械で作った商品が、どの位売れているかを調べるんですか? 取引先が、教えてくれるものですか?」
不思議そうな顔になった彼に、沙織が冷静に答える。
「うちが売った機械単独で作った製品の方が少ないだろうし、商品事の売り上げデータなんて、余程の事が無いと公表していないでしょうね。そこはそれ、どの程度の製造に関わっているかとか、汎用頻度や割合をデータから読み取る事はできるから、今回はそういう別方向からのアプローチに関して、教える事にするから」
「分かりました。お願いします」
(今のところ仕事に全く影響は出ていないし、傍目には以前と全く変わりは無いし、本人を探っても無理でしょうね。別な方向からのアプローチか。そうなると……)
チラッと友之を眺めながら、仕事とは関係のない事を考えた沙織は、ここで佐々木に尋ねた。
「佐々木君、ちょっと意見を貰いたいんだけど」
「はい、何ですか?」
「可愛い物好きだけど、なかなか流行の所に気軽に行けないお嬢様タイプの人を連れて行ったら、喜びそうな所ってどこかしらね? 因みに以前猫カフェに連れて行ったら、もの凄く喜んで貰えたわ」
いきなり関係のない事を尋ねられた佐々木は、多少戸惑った表情になったものの、素直に答える。
「はい? 可愛い物好きのお嬢様タイプ、ですか? それで取り敢えず、もふもふ系は好きなんですね?」
「まあ、そんな感じね」
「はぁ……、それなら今のトレンドは、フクロウカフェじゃないですか?」
それを聞いた沙織は、意外に思って問い返した。
「フクロウ? あれが可愛いの? 首がぐるっと回って、目がギョロッとしているイメージしか無いけど」
「間近で見るとそんな事ないですし、意外に触り心地も良いですよ?」
「行った事があるの?」
「行ったと言うか、連れて行ったと言うか……」
僅かに顔を赤くしながら、視線を彷徨わせた後輩を見て、沙織は思わず笑ってしまった。
「あら、プライベートも順調そうで、何よりだわ。それで好反応だったんだ」
「ええ、結構喜んで貰えました。店の名前を教えますか?」
「お願い」
(ちょっと現状とか、分かる範囲でさり気無く聞いてみましょうか)
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