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(18)開かずの間の真相
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「すみません。もの凄く状況が気になってしまったので、双方に確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はぁ、お答えできる範囲であれば」
「私も、もの凄く気になってます」
郁は鳥羽と久美に確認を入れてから、冷静に質問し始めた。
「まず筑紫さん。ご主人は普段、町内会の行事に参加していますか?」
「一切してiいませんから!」
即答した久美だったが、鳥羽が落ち着いた口調で訂正を入れる。
「あ、いえ、確かに普段の活動に参加されてはいませんが、幸彩神社例大祭の時には毎回奉納されていますし、町内会にはお酒を差し入れてくれています。何年か前の社殿の大改修の時には、五十万円寄付していただきましたし」
「全く聞いていませんけど!」
「……そうみたいですね」
語気強く訴えてきた久美から、鳥羽は微妙に視線を逸らした。そこまで聞いた郁は、慎重に問いを重ねる。
「そもそもの疑問なのですが、本来であれば町内会や神社とも関係がなさそうな筑紫さんのご主人が、どういう経緯で幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描く流れになったんですか?」
そこで鳥羽は、当時を思い返しながら説明し始めた。
「あれは……、三十年以上前の話になりますか。例大祭の打ち上げで居酒屋に商店街の若い連中が十人くらい集まって、今後どんなふうに商店街を盛り上げていくかを面白半分に話し合ってたんです。そうしたら誰かが『どこかの商店街が、イメージキャラクターとか作ったよな』とか言い出しまして。『それならうちは、幸彩神社の狛犬だよな』とか『雌雄一匹ずつだな』とか『名前をどうする』とか大盛り上がりで。でも『そういうのを作るとなったら、色々金がかかるよな』で苦笑して話を終わらせようとしたら、カウンターで一人で食べていた筑紫さんが俺たちのテーブルにやって来たんですよ」
それを聞いた久美が、怪訝な顔で口を挟んでくる。
「あの人、普段、この近辺では飲まないと思っていましたが……」
「確かその時、奥さんは上のお子さんを連れて里帰り出産中とか言っていたかと」
「ああ……、あの時期ですか……」
該当する時期を思い返した久美は、再び口を閉ざした。
「それで、『先程から聞くともなしに聞いていましたが、こんな感じではどうでしょうか?』と言って、持っていた手帳の空きスペースにボールペンでサラサラと描いてくれたんです。いや、出来栄えに驚いきましたよ。本職のイラストレーターさんかと思って職業を聞いたら、大手都市銀行の融資課長さんで二度びっくりでした」
「そうでしょうね……」
その意見に、郁は深く同意した。
「それで『商店街には普段妻がお世話になっていますし、趣味で描いているので無料で描きますよ?』と言われて、遠慮なくお言葉に甘えることにしたんです。それから一週間くらいして、商店街の事務局に試しにカラーで描いた幸吉と彩華のイラストをそれぞれ十パターンくらい持参してくれましたが、もうプロとしか思えない出来栄えで、皆で呆然としましたね」
「趣味……」
そこでボソッと呟いた久美に対し、郁が疑問を呈した。
「あの、久美さん? 普通に考えると、それだけ本格的に描くならそれなりの道具とか揃えておく必要があるかと思いますけど。本当にご存じなかったんですか?」
家族が全く知らないとか考えにくいけどと思いながら、郁が尋ねた。すると少しの間黙考していた久美が、重い口を開く。
「実は……、我が家には結婚してからずっと、開かずの間があるんです」
それを聞いた郁は、怪訝な顔になりながら話の詳細について尋ねた。
「何ですか。その得体の知れない部屋は?」
「マーケット分析や案件精査とかに集中したいから、自分が部屋に入っている時は邪魔をするなと内鍵をかけていました。部屋にいない時は、重要な資料があるからと外鍵をかけていましたし。その鍵は家の鍵と一緒につけて、持ち歩いています」
「それ、どう考えても怪しすぎるでしょう!」
思わずツッコミを入れた郁だったが、久美は真顔のまま話を続ける。
「いえ、仕事の事は分からないのでそれはどうでも良いんですけど、内側から鍵をかけられた時に急に意識不明になって倒れたりしたら困ります。看護師の家で不審死なんかされたら、真っ先に私が疑われますよね?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
気にする所が違うと思いながら、郁は肩を落とした。そこで三好が、興味津々の様子で会話に加わってくる。
「でも、そのままずっと開かずの間のままなのですよね?」
「はい。先程の文句を言ったら、中にいる時は外のノブに鍵を下げて、内側から鍵をかけるようになりました」
「あの……、それなら中から鍵をかけても意味がないのでは……」
「外の鍵は、あくまでも非常用なので。何か用がある時は、ドアをノックして呼びかけていました」
その情景を脳裏に思い浮かべた三好は、夫婦揃って微妙にずれた真面目さを発揮しているなと思った。そして正直に感想を述べる。
「筑紫さん、真面目ですね」
「私だったら、『ごめんなさい! うっかり開けちゃったわ!』とか言って入っちゃいます」
「新見さん……。鍵を差し込んで開錠していますから、それは言い訳にもなりませんよ?」
「だって、中に何があるのか気になりますよ!」
同じ状況であれば問答無用で突入するであろう郁を、三好は控え目に窘めた。
「長年の習い性で、夫が定年退職してもそこに足を踏み入れた事がありませんので。掃除なども夫が昔から自分でしていますし」
「なるほど、そうでしたか……」
久美の話を聞きながら、鳥羽は驚くやら感心するやらで表情をめまぐるしく変えていたが、ここで得心して頷く。すると出入り口のドアを開けて、新たな客が入ってきた。
「はぁ、お答えできる範囲であれば」
「私も、もの凄く気になってます」
郁は鳥羽と久美に確認を入れてから、冷静に質問し始めた。
「まず筑紫さん。ご主人は普段、町内会の行事に参加していますか?」
「一切してiいませんから!」
即答した久美だったが、鳥羽が落ち着いた口調で訂正を入れる。
「あ、いえ、確かに普段の活動に参加されてはいませんが、幸彩神社例大祭の時には毎回奉納されていますし、町内会にはお酒を差し入れてくれています。何年か前の社殿の大改修の時には、五十万円寄付していただきましたし」
「全く聞いていませんけど!」
「……そうみたいですね」
語気強く訴えてきた久美から、鳥羽は微妙に視線を逸らした。そこまで聞いた郁は、慎重に問いを重ねる。
「そもそもの疑問なのですが、本来であれば町内会や神社とも関係がなさそうな筑紫さんのご主人が、どういう経緯で幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描く流れになったんですか?」
そこで鳥羽は、当時を思い返しながら説明し始めた。
「あれは……、三十年以上前の話になりますか。例大祭の打ち上げで居酒屋に商店街の若い連中が十人くらい集まって、今後どんなふうに商店街を盛り上げていくかを面白半分に話し合ってたんです。そうしたら誰かが『どこかの商店街が、イメージキャラクターとか作ったよな』とか言い出しまして。『それならうちは、幸彩神社の狛犬だよな』とか『雌雄一匹ずつだな』とか『名前をどうする』とか大盛り上がりで。でも『そういうのを作るとなったら、色々金がかかるよな』で苦笑して話を終わらせようとしたら、カウンターで一人で食べていた筑紫さんが俺たちのテーブルにやって来たんですよ」
それを聞いた久美が、怪訝な顔で口を挟んでくる。
「あの人、普段、この近辺では飲まないと思っていましたが……」
「確かその時、奥さんは上のお子さんを連れて里帰り出産中とか言っていたかと」
「ああ……、あの時期ですか……」
該当する時期を思い返した久美は、再び口を閉ざした。
「それで、『先程から聞くともなしに聞いていましたが、こんな感じではどうでしょうか?』と言って、持っていた手帳の空きスペースにボールペンでサラサラと描いてくれたんです。いや、出来栄えに驚いきましたよ。本職のイラストレーターさんかと思って職業を聞いたら、大手都市銀行の融資課長さんで二度びっくりでした」
「そうでしょうね……」
その意見に、郁は深く同意した。
「それで『商店街には普段妻がお世話になっていますし、趣味で描いているので無料で描きますよ?』と言われて、遠慮なくお言葉に甘えることにしたんです。それから一週間くらいして、商店街の事務局に試しにカラーで描いた幸吉と彩華のイラストをそれぞれ十パターンくらい持参してくれましたが、もうプロとしか思えない出来栄えで、皆で呆然としましたね」
「趣味……」
そこでボソッと呟いた久美に対し、郁が疑問を呈した。
「あの、久美さん? 普通に考えると、それだけ本格的に描くならそれなりの道具とか揃えておく必要があるかと思いますけど。本当にご存じなかったんですか?」
家族が全く知らないとか考えにくいけどと思いながら、郁が尋ねた。すると少しの間黙考していた久美が、重い口を開く。
「実は……、我が家には結婚してからずっと、開かずの間があるんです」
それを聞いた郁は、怪訝な顔になりながら話の詳細について尋ねた。
「何ですか。その得体の知れない部屋は?」
「マーケット分析や案件精査とかに集中したいから、自分が部屋に入っている時は邪魔をするなと内鍵をかけていました。部屋にいない時は、重要な資料があるからと外鍵をかけていましたし。その鍵は家の鍵と一緒につけて、持ち歩いています」
「それ、どう考えても怪しすぎるでしょう!」
思わずツッコミを入れた郁だったが、久美は真顔のまま話を続ける。
「いえ、仕事の事は分からないのでそれはどうでも良いんですけど、内側から鍵をかけられた時に急に意識不明になって倒れたりしたら困ります。看護師の家で不審死なんかされたら、真っ先に私が疑われますよね?」
「……確かに、そうかもしれませんね」
気にする所が違うと思いながら、郁は肩を落とした。そこで三好が、興味津々の様子で会話に加わってくる。
「でも、そのままずっと開かずの間のままなのですよね?」
「はい。先程の文句を言ったら、中にいる時は外のノブに鍵を下げて、内側から鍵をかけるようになりました」
「あの……、それなら中から鍵をかけても意味がないのでは……」
「外の鍵は、あくまでも非常用なので。何か用がある時は、ドアをノックして呼びかけていました」
その情景を脳裏に思い浮かべた三好は、夫婦揃って微妙にずれた真面目さを発揮しているなと思った。そして正直に感想を述べる。
「筑紫さん、真面目ですね」
「私だったら、『ごめんなさい! うっかり開けちゃったわ!』とか言って入っちゃいます」
「新見さん……。鍵を差し込んで開錠していますから、それは言い訳にもなりませんよ?」
「だって、中に何があるのか気になりますよ!」
同じ状況であれば問答無用で突入するであろう郁を、三好は控え目に窘めた。
「長年の習い性で、夫が定年退職してもそこに足を踏み入れた事がありませんので。掃除なども夫が昔から自分でしていますし」
「なるほど、そうでしたか……」
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