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(20)クオンくん誕生秘話
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「まあ、良いわ。それはそれとして、この際、一番重要な事を確認したいのだけど」
「何だ?」
「あなた、久遠様を見たことがあるわよね?」
「あの狐がどうかしたのか?」
「久遠様を可愛く描いてみて」
「はあ?」
「幸吉くんと彩華ちゃんがあんな風に描けるのなら、当然できるわよね?」
「お前な……。すみません、マスター。何かいらない紙と書くものを貸していただけませんか?」
「あ、はい! お待ちください」
いきなり要求されて努は困惑した様子を見せたものの、すぐに呆れ顔になりながら三好に声をかけた。それを聞いた三好は、慌ててメモ用紙とボールペンを努達がいるテーブルに持って行く。
「これを使ってください」
「ありがとうございます。お借りします」
三好に軽く会釈してから、努は真顔でメモ用紙を見下ろした。そして少しだけ考え込む様子を見せてから、ボールペンを手に取ってサラサラとメモ用紙の上を滑らせる。
「こんな感じか? 久遠という名前の響きから、雄かと思ってそれらしく描いてみたが」
ボールペンを置いた努は、久美に向かってメモ用紙を差し出した。それを受け取った久美は、一目見るなり歓喜の叫びを上げる。
「ウエイターとバリスタの久遠様!! 凄く可愛いぃっ! それに加えて、凛々しくて格好良すぎる!!」
久美の絶賛ぶりを見て、郁と三好は彼女に歩み寄った。
「すみません、ちょっと見せて貰って良いですか?」
「あ、できれば私も……」
「はい、ご遠慮なく!」
「おい!」
努が窘めるような声を上げたものの、久美は構わず二人に向かってメモ用紙を差し出す。そこに描かれた、デフォルメされたトレーを抱えた狐と珈琲を淹れている狐のイラストに、二人は揃って感嘆の声を上げた。
「うっわ! 無茶苦茶可愛い! それっぽい制服も着てるし!」
「そうでしょう! 久遠様の愛らしさが炸裂してますよね!」
「鉛筆で下書きしないで、いきなりボールペンで描いているんですよね? 本当に凄いな」
「ですよね! これ、この店のマスコットキャラクターになりません?」
「あ、良いかも! 店内の掲示物に描いておくとか」
「メニューとかの隅に載せても良さそうですよね?」
「あなた! こんな簡単な走り描きじゃなくて、ちゃんとカラーで描いて!」
「…………」
満面の笑みで、久美は夫を振り返った。しかし努は、無表情のまま無言を保つ。そしてさすがにはしゃぎすぎたと自覚した郁と三好は、思わず頭を下げた。
「あの……、先走ってしまって申し訳ありません」
「すみません、筑紫さん。騒ぎ立ててしまいまして……」
しかし久美だけは、そのままのテンションで話を続けた。
「あなた、構わないわよね! 勿論、料金はタダよ!」
「久美さん! そんな一方的な!」
「そうですよ! ご主人だってご迷惑でしょうから!」
二人が慌てて久美を押しとどめようとしたが、ここで努が穏やかに笑いながら申し出てくる。
「いえ……、迷惑ではありませんし、妻がお世話になっておりますので無料で描きますから。お気遣いなく。それでは近日中に数パターンを描いて妻に持たせますので、ご覧になってみてください。気に入らなければ、返却していただければ良いので」
「分かりました。よろしくお願いします」
「あ、そうだわ。あなた、鳥羽さんが暁書店用に幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描いて欲しいと言っていたの。さっきかなり恐縮しながら帰って行ったから、向こうからは頼みにくいかもしれないわ。今夜にでも、あなたの方から電話してみて頂戴」
「分かった」
そこで話は終わりになり、努はいつも通り珈琲を一杯飲んで帰宅した。
「何だか、凄い展開でしたね……」
「人は見かけによらないって、本当ですよね……」
「あの部屋の中って、一体どうなっているのよ……」
「どれどれ? ほう? あの者には、我はこのように見えているのか?」
努を見送ってから半ば呆然としていた三人だったが、ふと新たな声が割り込んできたことで我に返った。
「久遠様、いらっしゃいませ!」
「そんなわけないでしょう。これは万人受けするように、可愛らしく描いただけですって」
「あの……、こんな風に描かれるのはお嫌でしょうか?」
三好が恐る恐るお伺いを立てたが、久遠は僅かに首を傾げただけで淡々と言葉を返す。
「いや、別に嫌ではない。このように我の姿を描く者はこれまでいなかったのでな。新鮮、とでも言えば良いか。別に構わんぞ?」
「ありがとうございます」
久遠が鷹揚に頷き、三好は安堵しきった顔になった。するとここで久美が、控えめに申し出てくる。
「あの……、久遠様。お尋ねしても良いでしょうか?」
「うん? 何だ?」
先程までとは打って変わって神妙な様子に、久遠が怪訝な顔で問い返した。郁と三好も何事かと視線を向ける中、久美が話を切り出す。
「あの……、以前、書店での万引きについて話をしましたが、覚えておいでですか?」
「ああ、不心得者どもの話だな。それがどうかしたか?」
「夫が暁書店用の幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描くことになりましたので、それに泥棒よけの細工とかしていただくことは可能でしょうか?」
「ほう? なるほど……」
控え目な訴えに、久遠は真顔で考え込んだ。郁と三好もどうなることかと固唾を飲んで見守っていたが、久遠はあっさりと言葉を返してくる。
「一応、商売を妨げるような悪しき心を取り除く類の神力を込めることはできるが、そもそも信心を持たぬような輩に効くとは思えんな。だがそれで良ければ、持ってくるが良い」
「ありがとうございます! それで十分です! よろしくお願いします!」
途端に顔つきを明るくして礼を述べた久美に、久遠は鷹揚に頷いてみせる。
「そなたには常日頃、色々と供えてもらっているからな。これくらいは良かろう」
「それから、店内でこの久遠様のイラストを使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「使いたければ使えば良い」
「ありがとうございます! でもさすがに恐れ多いので、こちらの絵はクオンくんと呼ばせていただきますね!」
久美と久遠の間でどんどん進んでいく話に郁と三好は半ばついて行けず、唖然として事態の推移を見守るのみだった。
「何だ?」
「あなた、久遠様を見たことがあるわよね?」
「あの狐がどうかしたのか?」
「久遠様を可愛く描いてみて」
「はあ?」
「幸吉くんと彩華ちゃんがあんな風に描けるのなら、当然できるわよね?」
「お前な……。すみません、マスター。何かいらない紙と書くものを貸していただけませんか?」
「あ、はい! お待ちください」
いきなり要求されて努は困惑した様子を見せたものの、すぐに呆れ顔になりながら三好に声をかけた。それを聞いた三好は、慌ててメモ用紙とボールペンを努達がいるテーブルに持って行く。
「これを使ってください」
「ありがとうございます。お借りします」
三好に軽く会釈してから、努は真顔でメモ用紙を見下ろした。そして少しだけ考え込む様子を見せてから、ボールペンを手に取ってサラサラとメモ用紙の上を滑らせる。
「こんな感じか? 久遠という名前の響きから、雄かと思ってそれらしく描いてみたが」
ボールペンを置いた努は、久美に向かってメモ用紙を差し出した。それを受け取った久美は、一目見るなり歓喜の叫びを上げる。
「ウエイターとバリスタの久遠様!! 凄く可愛いぃっ! それに加えて、凛々しくて格好良すぎる!!」
久美の絶賛ぶりを見て、郁と三好は彼女に歩み寄った。
「すみません、ちょっと見せて貰って良いですか?」
「あ、できれば私も……」
「はい、ご遠慮なく!」
「おい!」
努が窘めるような声を上げたものの、久美は構わず二人に向かってメモ用紙を差し出す。そこに描かれた、デフォルメされたトレーを抱えた狐と珈琲を淹れている狐のイラストに、二人は揃って感嘆の声を上げた。
「うっわ! 無茶苦茶可愛い! それっぽい制服も着てるし!」
「そうでしょう! 久遠様の愛らしさが炸裂してますよね!」
「鉛筆で下書きしないで、いきなりボールペンで描いているんですよね? 本当に凄いな」
「ですよね! これ、この店のマスコットキャラクターになりません?」
「あ、良いかも! 店内の掲示物に描いておくとか」
「メニューとかの隅に載せても良さそうですよね?」
「あなた! こんな簡単な走り描きじゃなくて、ちゃんとカラーで描いて!」
「…………」
満面の笑みで、久美は夫を振り返った。しかし努は、無表情のまま無言を保つ。そしてさすがにはしゃぎすぎたと自覚した郁と三好は、思わず頭を下げた。
「あの……、先走ってしまって申し訳ありません」
「すみません、筑紫さん。騒ぎ立ててしまいまして……」
しかし久美だけは、そのままのテンションで話を続けた。
「あなた、構わないわよね! 勿論、料金はタダよ!」
「久美さん! そんな一方的な!」
「そうですよ! ご主人だってご迷惑でしょうから!」
二人が慌てて久美を押しとどめようとしたが、ここで努が穏やかに笑いながら申し出てくる。
「いえ……、迷惑ではありませんし、妻がお世話になっておりますので無料で描きますから。お気遣いなく。それでは近日中に数パターンを描いて妻に持たせますので、ご覧になってみてください。気に入らなければ、返却していただければ良いので」
「分かりました。よろしくお願いします」
「あ、そうだわ。あなた、鳥羽さんが暁書店用に幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描いて欲しいと言っていたの。さっきかなり恐縮しながら帰って行ったから、向こうからは頼みにくいかもしれないわ。今夜にでも、あなたの方から電話してみて頂戴」
「分かった」
そこで話は終わりになり、努はいつも通り珈琲を一杯飲んで帰宅した。
「何だか、凄い展開でしたね……」
「人は見かけによらないって、本当ですよね……」
「あの部屋の中って、一体どうなっているのよ……」
「どれどれ? ほう? あの者には、我はこのように見えているのか?」
努を見送ってから半ば呆然としていた三人だったが、ふと新たな声が割り込んできたことで我に返った。
「久遠様、いらっしゃいませ!」
「そんなわけないでしょう。これは万人受けするように、可愛らしく描いただけですって」
「あの……、こんな風に描かれるのはお嫌でしょうか?」
三好が恐る恐るお伺いを立てたが、久遠は僅かに首を傾げただけで淡々と言葉を返す。
「いや、別に嫌ではない。このように我の姿を描く者はこれまでいなかったのでな。新鮮、とでも言えば良いか。別に構わんぞ?」
「ありがとうございます」
久遠が鷹揚に頷き、三好は安堵しきった顔になった。するとここで久美が、控えめに申し出てくる。
「あの……、久遠様。お尋ねしても良いでしょうか?」
「うん? 何だ?」
先程までとは打って変わって神妙な様子に、久遠が怪訝な顔で問い返した。郁と三好も何事かと視線を向ける中、久美が話を切り出す。
「あの……、以前、書店での万引きについて話をしましたが、覚えておいでですか?」
「ああ、不心得者どもの話だな。それがどうかしたか?」
「夫が暁書店用の幸吉くんと彩華ちゃんのイラストを描くことになりましたので、それに泥棒よけの細工とかしていただくことは可能でしょうか?」
「ほう? なるほど……」
控え目な訴えに、久遠は真顔で考え込んだ。郁と三好もどうなることかと固唾を飲んで見守っていたが、久遠はあっさりと言葉を返してくる。
「一応、商売を妨げるような悪しき心を取り除く類の神力を込めることはできるが、そもそも信心を持たぬような輩に効くとは思えんな。だがそれで良ければ、持ってくるが良い」
「ありがとうございます! それで十分です! よろしくお願いします!」
途端に顔つきを明るくして礼を述べた久美に、久遠は鷹揚に頷いてみせる。
「そなたには常日頃、色々と供えてもらっているからな。これくらいは良かろう」
「それから、店内でこの久遠様のイラストを使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「使いたければ使えば良い」
「ありがとうございます! でもさすがに恐れ多いので、こちらの絵はクオンくんと呼ばせていただきますね!」
久美と久遠の間でどんどん進んでいく話に郁と三好は半ばついて行けず、唖然として事態の推移を見守るのみだった。
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