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第2章 アルティナの縁談

15.アルティナの決意

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「アルティナ様、戻りました。手の空いている使用人全員、応接室のドアにへばり付いて、お二人の会話を手に汗握って盗み聞きしていましたよ」
「それで? 結局、どうなったの?」
 シャトナー伯爵家次男がまた乗り込んで来たと報告を受けたアルティナは、話し合いの内容を確認してきて欲しいと頼んだユーリアが戻った為、若干顔を顰めながら結果を尋ねた。すると彼女が、やや興奮気味に報告する。

「アルティナ様の持参金は、最終的に三百七十万リランになりました。しかも『減額した分、現金一括払いで、アルティナ様と同時の引き渡しで』と、どこまでも厚かましく主張して、お帰りになりました」
 その報告を聞いて、アルティナは一瞬怒りを忘れて、思わず口笛を吹いた。

「あのお父様相手にそこまで粘るなんて、随分と交渉上手だったみたいね。内務省のクリフ・シャトナーか。なかなか使えそうな人材が、隠れていたものだわ」
「本当に呆れました。一万リラン金貨一枚あれば、六人家族で1ヶ月は暮らせますよ? おかげでさっきから、屋敷中が大騒ぎですから!」
 まだ若干興奮気味に告げてきたユーリアを見て、すぐにその言わんとする所を悟ったアルティナが、小さく笑った。

「ああ……、幾ら領地や資産があっても、さすがにそこまでの現金を一気に動かせないものね。ゆっくり嫁入り支度を整えるならまだしも、少しでも早く合法的に私を厄介払いしたいなら、急いでお金をかき集めないといけないか」
「普段、金庫にそんなに入れておくわけ有りませんし。お姉様方の嫁ぎ先に声をかけて、一時的にお借りする事になりそうだと、執事の方々が話していました」
「それだけでも、腸が煮えくり返っているでしょうね。ご愁傷様」
 全く同情していない口ぶりでそんな事を言った主に、ユーリアは尋ねてみた。

「それでアルティナ様は」
「勿論、私も腸が煮えくり返っているわよ? 目の前に奴らが居たら、問答無用で絞め殺す程度には」
「……愚問でしたね。失礼しました」
 淡々と答えた彼女の顔に、紛れもない殺気が浮かんでいるのを見て取ったユーリアは、とばっちりを避ける為、俯いて小声で謝罪した。その台詞を聞いているのかいないのか、アルティナの独り言めいた呟きが、ユーリアの耳に聞こえてくる。

「ふ……、ふふふ……、あのろくでなし兄弟。この期に及んでも本人が全然顔を見せない上、私をダシにして持参金をがっぽりふんだくるなんて、いい度胸をしているじゃない。どこまで人をコケにしてくれたら気が済むのかしら? このまま大人しく、結婚したりしないわよ? シャトナー伯爵家に赤っ恥をかかせてやるから、覚悟しなさい……」
 そして勢い良く、ユーリアの肩を掴んで訴える。

「ユーリア、全面的に計画変更よ! 最後まで手伝って頂戴! とことんやってやるわ!!」
「……はいはい、分かっています。最後まで、とことんお付き合いしますから」
 当然そうなると思っていたユーリアに、主の申し出に否と答える選択肢は無く、傍から見ると荒唐無稽な計画に、付き合わされる事になった。

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