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第3章 出仕への道
17.苦しい言い訳
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「その剣ダコ、そして先程の身のこなし。……アルティナ様。あなたはアルティン殿と同じ師に付かれたか、アルティン殿から直々に指導を受けられましたね?」
「………………え?」
しかしアルティナが絶句して固まっている為、ナスリーンは不思議そうに確認を入れた。
「それで同じ形状の剣で稽古して、同じ剣捌きを身に付けたから、同様の剣ダコができたのでは無いのですか?」
不思議そうに問われて漸く我に返ったアルティナは、慌てて言い募った。
「ははははいっ! ナスリーン様が仰る通りです! 兄が『閉じこもっているから余計に身体が弱くなるのだから、少し剣の稽古をしろ』と、幼い頃に習っていた師匠を、領地の屋敷に派遣して下さいまして!」
それを聞いたナスリーンが、納得した様に頷く。
「やはりそうでしたか。ですがその師匠は、なかなか厳しい方だった様ですね。レイピアでは無く、女性が扱うには難しいソードで手ほどきするとは」
「兄に比べれば、だいぶ手加減はして下さいましたし、師匠には『剣を扱うなら本格的に学ぶべきだ』とのポリシーがあったみたいです」
「それにしては、剣を習っていたなどと、一言も言って無かったのはどうしてなんだ?」
そこでケインが怪訝な顔で口を挟んできた為、(余計な突っ込みを入れないでよっ!)と罵倒しそうになりながらも、アルティナはそれらしい理由を必死に捻り出した。
「それは、そのっ! 日常生活で剣を振り回す機会なんて殆ど無いし、あくまで健康増進の一環だったから、わざわざ口に出す事も無いと思って!」
「健康増進……」
それを聞いて微妙な顔になったケインから、ナスリーンに視線を移したアルティナは、彼女に向かって訴えた。
「それに! 兄が『護身術としても使えるが、きちんと撃退できる程の腕ではない。あくまで相手を油断させた上で、一撃か二撃反撃して、逃走する為の手段だと思え』と言われておりまして。『中途半端に剣を使えるなどと周囲に振れ回って、襲撃者に余計な警戒心を抱かせるな』とも、言っておりましたから!」
一気に言い切って、乱れた息を整えている彼女を見たケインとナスリーンは、顔を見合わせて深く頷き合った。
「確かにその通りだな。如何にもアルティンが言いそうな事だ」
「アルティン殿は、やはり貴女の事が大事だったのですね。なるべく危険性を少なくしたかったのでしょう」
(良かった。取り敢えず納得してくれたわよね?)
相変わらず床に座り込んだまま、アルティナが胸を撫で下ろしたのも束の間、ナスリーンが急に身体の向きを変えて、仮眠用の続き部屋に繋がるドアに向かって呼びかけた。
「殿下。これでご満足頂けましたか?」
「え?」
「殿下って……」
アルティナとケインが当惑しながら、彼女と同様にドアに視線を向けると、それをゆっくり押し開けながら、満足そうな顔つきのジェラルドが姿を現す。
「ああ、思った以上だ。嬉しい誤算と言うべきだろうな」
「王太子殿下! どうしてここにいらっしゃるんですか!?」
思わず驚きの声を上げたケインの足元で、アルティナはひたすら唖然としていた。
(ちょっと待って、勘弁して! 何だか益々、厄介事が増えそうな気がするんだけど!?)
仰天したアルティナと怪訝な顔のケインに構わず、ジェラルドは真っ直ぐナスリーンに歩み寄りながら、感心した様に述べた。
「しかし剣ダコとは……。舞踏会で踊った時には、全く気が付かなかった」
「女性は正装時には、手袋は必須ですから。気が付かなくても、仕方がありませんわ」
「だが、握手しただけで気が付くとはさすがだな。やはり貴女に相談して良かった」
「光栄です。殿下」
そう言って互いに微笑み合った二人は、改めてアルティナ達に視線を向けた。
「アルティナ様、先程は大変失礼致しました。今椅子を出しますので、お座り下さい。殿下はそちらの席を」
「……ありがとうございます」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
ナスリーンが壁際に寄せてあった椅子に手をかけて運ぼうとした為、ケインが礼を言ってそれを机の前に運び、アルティナを座らせた。一方で隊長席の椅子を示されたジェラルドは、周囲を見回して困惑気味に声をかけてくる。
「ナスリーン? 室内には他に椅子が見当たらないが、私は女性を立たせて自分は座る様な主義は持ち合わせていないんだ」
しかしそれに彼女が、毅然とした口調で言い返す。
「私の立場上、王太子殿下を立たせて、自分が座るわけにはいきません。この部屋の主は私です。私の指示に従って頂けないのなら、即刻ここから叩き出しますよ?」
「やれやれ、相変わらずだな」
そう言って苦笑した彼はおとなしく隊長席に座り、ナスリーンがその傍らに立った。それを見たアルティナが、不思議そうに首を傾げる。
(今までこういう場面を見た事が無かったけど、王太子殿下とナスリーン隊長は随分懇意にされているのね。知らなかったわ)
そんな事を考えていると、ナスリーンがさり気ない口調でジェラルドを促した。
「………………え?」
しかしアルティナが絶句して固まっている為、ナスリーンは不思議そうに確認を入れた。
「それで同じ形状の剣で稽古して、同じ剣捌きを身に付けたから、同様の剣ダコができたのでは無いのですか?」
不思議そうに問われて漸く我に返ったアルティナは、慌てて言い募った。
「ははははいっ! ナスリーン様が仰る通りです! 兄が『閉じこもっているから余計に身体が弱くなるのだから、少し剣の稽古をしろ』と、幼い頃に習っていた師匠を、領地の屋敷に派遣して下さいまして!」
それを聞いたナスリーンが、納得した様に頷く。
「やはりそうでしたか。ですがその師匠は、なかなか厳しい方だった様ですね。レイピアでは無く、女性が扱うには難しいソードで手ほどきするとは」
「兄に比べれば、だいぶ手加減はして下さいましたし、師匠には『剣を扱うなら本格的に学ぶべきだ』とのポリシーがあったみたいです」
「それにしては、剣を習っていたなどと、一言も言って無かったのはどうしてなんだ?」
そこでケインが怪訝な顔で口を挟んできた為、(余計な突っ込みを入れないでよっ!)と罵倒しそうになりながらも、アルティナはそれらしい理由を必死に捻り出した。
「それは、そのっ! 日常生活で剣を振り回す機会なんて殆ど無いし、あくまで健康増進の一環だったから、わざわざ口に出す事も無いと思って!」
「健康増進……」
それを聞いて微妙な顔になったケインから、ナスリーンに視線を移したアルティナは、彼女に向かって訴えた。
「それに! 兄が『護身術としても使えるが、きちんと撃退できる程の腕ではない。あくまで相手を油断させた上で、一撃か二撃反撃して、逃走する為の手段だと思え』と言われておりまして。『中途半端に剣を使えるなどと周囲に振れ回って、襲撃者に余計な警戒心を抱かせるな』とも、言っておりましたから!」
一気に言い切って、乱れた息を整えている彼女を見たケインとナスリーンは、顔を見合わせて深く頷き合った。
「確かにその通りだな。如何にもアルティンが言いそうな事だ」
「アルティン殿は、やはり貴女の事が大事だったのですね。なるべく危険性を少なくしたかったのでしょう」
(良かった。取り敢えず納得してくれたわよね?)
相変わらず床に座り込んだまま、アルティナが胸を撫で下ろしたのも束の間、ナスリーンが急に身体の向きを変えて、仮眠用の続き部屋に繋がるドアに向かって呼びかけた。
「殿下。これでご満足頂けましたか?」
「え?」
「殿下って……」
アルティナとケインが当惑しながら、彼女と同様にドアに視線を向けると、それをゆっくり押し開けながら、満足そうな顔つきのジェラルドが姿を現す。
「ああ、思った以上だ。嬉しい誤算と言うべきだろうな」
「王太子殿下! どうしてここにいらっしゃるんですか!?」
思わず驚きの声を上げたケインの足元で、アルティナはひたすら唖然としていた。
(ちょっと待って、勘弁して! 何だか益々、厄介事が増えそうな気がするんだけど!?)
仰天したアルティナと怪訝な顔のケインに構わず、ジェラルドは真っ直ぐナスリーンに歩み寄りながら、感心した様に述べた。
「しかし剣ダコとは……。舞踏会で踊った時には、全く気が付かなかった」
「女性は正装時には、手袋は必須ですから。気が付かなくても、仕方がありませんわ」
「だが、握手しただけで気が付くとはさすがだな。やはり貴女に相談して良かった」
「光栄です。殿下」
そう言って互いに微笑み合った二人は、改めてアルティナ達に視線を向けた。
「アルティナ様、先程は大変失礼致しました。今椅子を出しますので、お座り下さい。殿下はそちらの席を」
「……ありがとうございます」
「お言葉に甘えさせて頂きます」
ナスリーンが壁際に寄せてあった椅子に手をかけて運ぼうとした為、ケインが礼を言ってそれを机の前に運び、アルティナを座らせた。一方で隊長席の椅子を示されたジェラルドは、周囲を見回して困惑気味に声をかけてくる。
「ナスリーン? 室内には他に椅子が見当たらないが、私は女性を立たせて自分は座る様な主義は持ち合わせていないんだ」
しかしそれに彼女が、毅然とした口調で言い返す。
「私の立場上、王太子殿下を立たせて、自分が座るわけにはいきません。この部屋の主は私です。私の指示に従って頂けないのなら、即刻ここから叩き出しますよ?」
「やれやれ、相変わらずだな」
そう言って苦笑した彼はおとなしく隊長席に座り、ナスリーンがその傍らに立った。それを見たアルティナが、不思議そうに首を傾げる。
(今までこういう場面を見た事が無かったけど、王太子殿下とナスリーン隊長は随分懇意にされているのね。知らなかったわ)
そんな事を考えていると、ナスリーンがさり気ない口調でジェラルドを促した。
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