女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

文字の大きさ
3 / 53

第3話 異世界

しおりを挟む
「うっ、背中を打ったのか……?」

 背中に軽い痛みを覚えた図南は慎重に身体を起こしてゆっくりと辺りを見回した。

 目に飛び込んできたのは幾つもの大木と鬱蒼《うっそう》と生い茂る草木。大木の枝が幾重にも重なり、その隙間から射し込む陽射しが幾つもの小さな陽だまりを作りだしていた。
 さながら原生林のような光景が広がっている。

 その原生林のような光景に似つかわしくない、ブレザーの制服を着た男子生徒が少し離れた大木の傍らに横たわっていた。
 見覚えのある顔に安堵した図南が男子生徒に声をかける。

「拓光! 無事か?」

「図南か……?」

「そうだ、宵闇図南だ。怪我はしていないか?」

「胸と腹が少し痛むが、他は異常なさそうだ」

 拓光が『図南は?』と問い返した。

「問題ない」

 図南が全身を確認しながら立ち上がると、彼に続いて起き上がった拓光が辺りを見回してつぶやく。

「ここが異世界なのか?」

「らしいな」

「俺たちだけか?」

 拓光の質問に答えず、顔を蒼ざめさせた図南が声を張り上げる。

「紗良! どこだ! いるなら返事をしてくれ!」

「はーい。ここよー」

 間延びした返事が頭上から聞こえた。

「紗良!」

 振り仰ぐと三メートル程の高さにある枝の上から自分たちを覗き込む紗良がいた。

「図南ー。降りられないんだけど、どうしたらいい?」

「枝にぶら下がってから手を放せ。枝にぶら下がれば地面まで一メートルちょとだ。大丈夫、その高さなら俺が下で受け止める」

「あたし、スカートなんだけど」

「そんなこと気にしている場合じゃないだろ」

「えー」

 紗良が余裕のありそうな様子で不満そうに頬を膨らませた。

「置いて行くぞ」

「それは困る。言われた通りにするから、ちゃんと受け止めてね」

「来い!」

「責任とってねー」

 奇妙な掛け声とともに紗良がスカートを翻《ひるがえ》して図南の胸へと飛び込んだ。

(スパッツ穿いてるじゃねえか!)

 心の中で悲痛な叫び声を上げる図南の胸に、紗良の両足がドロップキックの要領でヒットした。
 鈍い音を伴って二人が盛大に転がる。

「痛たた」

「うう、お尻が痛い」

「右も左も分からないような世界に放り出されたというのに、二人とも余裕だな」

 拓光が呆れたように言った。

「わりー、そんなつもりじゃなかったんだ」

「あたしは木の上から降りられずに困ってました。いまようやく地に足が付いたところです。異世界に飛ばされたことで悩んだり困ったりするのはこれからですよ」

 痛みを堪《こら》えて立ち上がる図南と、四つん這いでお尻をさすりながら奇妙な理屈を展開する紗良。
 いつもと変わらぬ二人の反応に怒る気が失せた拓光が話題を変えた。

「俺たちしかいないようだぞ」

「だろう、とは思った」

 拓光も図南も自分たち三人だけが弾かれるように別方向へと飛ばされたのを思いだしていた。

「勇者召喚とか言っていましたし、他の皆さんはどこかの王国の召喚の間、とかでしょうか……」

「勇者になり損ねた俺たちだけが弾かれた、という可能性はあるよなー」

 紗良の言葉に図南が反応した。

「白峰のヤロー、絶対にあいつだけは許さねえ」

 スキルの種を白峰に奪われた怒りと悔しさを顕わにする拓光を図南が窘《たしな》める。

「腹は立つが、いまは白峰なんてどうでもいい。俺たちがこの世界で生きていくことが最優先課題だ」

「そうは言けど、この世界で生きていく力を俺たちは奪われたんだぜ」

「だからこそ、よけいに考えないとダメなんだ。悲観したり白峰を恨んだりしたところでプラスにはならないだろ」

 白峰に対する怒りや復讐心がモチベーションアップに繋がるかもしれないと考えはしたが、同時に白峰たちが同じ世界にいるとは限らないことに思い至る。
 図南は当面の間、白峰や他のクラスメート、女神のことを思考の外に置くことにした。

「分かった。自分たちが生き抜くことが最優先だ」

「図南、頼りにしてるねー」

 同意する拓光と紗良に向けて、

「それでこれからどうするかだが――」

 図南がそう切り出すと拓光がそれを遮った。

「ところで、いま俺の眼の前に浮いている半透明のパネルが見えるか?」

 顔から四十センチほど離れた、目の高さに位置する空間を指さす拓光に、真意を図りかねた図南が首を傾げる。

「どうしたんだ、急に?」

「いいから、この半透明のパネルが見えるか?」

 拓光が再び二人に聞いた。

「あれか、バカには見えないというヤツか」

「本当にバカなのは『見える』と言う人ではなく、問い掛けた人です。この場合、不知火さんがバカに相当します」

「ということだ。俺も紗良も『見える』なんて言い出さないぞ」

「お前らなー」

 こんな状況なのに自分が本気でそんなバカなことをする、と思われていたのかと軽く落ち込む拓光に紗良が追い打ちをかけた。

「こんな状況だというのに不知火さんは随分と余裕がありますね。そもそも、貴方が何をしたいのか、あたしにはさっぱりわかりません」

 だが、拓光は挫けることなく言う。

「違うって! 『ステータスを』って念じてみろよ。自分のステータスが見られるからさ」

 声に出すのは抵抗があったが、念じるだけなら、と図南が思った瞬間、『キャッ』と隣で小さな悲鳴が上がり、紗良の声が続いた。

「あら? 何か出ましたよ」

 虚空を覗き込む紗良の仕草を見て、図南もすぐに『ステータス』と念じる。
 すると、眼前に半透明のボードが瞬時に現れた。

 そこに書かれていたのは見知ったステータス。

「何で『幻破天』のキャラのステータスになっているんだ?」

 女神から貰えるはずのスキルを貰えなかったのだから、何のスキルもなく異世界に放り出されると思っていた。
 ところが、目の前にある半透明のボードには、『幻想世界の破天荒解』のキャラクターの膨大な体力《HP》と魔力《MP》、多彩なスキルが表示されていた。

「あたしたちがスキルの種を掴めなかったのもこれのせいかな?」

 紗良の考えに図南と拓光が同意する。

「ありえるな」

「だとしら超ラッキーじゃね? 女神様からたった一つしかスキル貰えないよりも、『幻破天』のキャラの能力を使える方が絶対に役立つって」

 能天気に喜ぶ拓光に図南と紗良の二人がクギを刺す。

「それはこれから検証しないと何とも言えないぞ」

「そもそも、ステータス画面にあるスキルが使えるかも確認していないんです。それに強さは相対的なものですから、この世界の平均的な住民の体力や魔力、所持しているスキルによっては、一見高いように見えるゲームキャラの能力ですら雑魚になるかもしれません」

「分かったよ、降参だ。俺が軽く考えすぎていました」

 軽く両手を上げた拓光の二十メートル程後方で何かが動くのを目撃した図南の脳裏に女神の言葉が蘇る。

『魔法や魔物の存在する世界』

 図南は反射的に声を上げた。

「拓光! 後ろに何かいるぞ! 動け!」

 声と同時に図南と紗良が斜め後方に飛び退り、拓光が図南の隣へと飛び込む。次の瞬間、彼ら三人の居た空間を切り裂いた矢が木の幹に突き刺さった。

「敵襲! 敵はこちらの命を狙ってきてるぞ!」

 木の幹に付き立った矢と図南の言葉に、紗良と拓光の心臓が大きく跳ねた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...