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第28話 報告(1)
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正体不明の襲撃者を撃退し、重傷者の治療が一段落するころには、神聖教会の野営地も落ち着きを取り戻していた。
負傷者の治療を他の神官に引き継いで、自分の天幕へ戻ったフューラー大司教がため息とともに倒れ込むように椅子へ座る。
「やれやれ。治療の魔法をかけるよりも、足元を気にしながら怪我人の間を歩き回る方が疲れたわい」
「お疲れ様です」
二十代半ばの女性神官がテーブルの上にティーカップを置いた。
フューラー大司教は女性神官にお礼を言いながら熱い紅茶の入ったティーカップへと手を伸ばす。
「これだけの数を治療したのは何年ぶりになるかのう」
「随分と早くお戻りになられたのですね」
聞いていた損害の規模が正しければ明け方までかかってもおかしくなかった。それだけに、一時間余で戻ったことが逆に悪い想像を掻き立てる。
女性神官の不安を感じ取ったフューラー大司教が言う。
「心配しなくてもワシが出向いてからは誰一人死んでおらんよ」
「失礼いたしました」
要らぬ気を使わせたことに女性神官が恐縮していると、天幕の外から男性が声を掛けた。
「ミュラーです。ご報告に上がりました」
「なんじゃ、待ち構えていたように来るのう」
フューラー大司教は女性神官を退出させ、ミュラーに天幕へ入るように命じた。
報告に来たのは神聖騎士団のミュラー隊長と、同じく神聖騎士団のラルスの二人である。
「報告を聞こう」
フューラー大司教に促されたミュラーが口を開いた。
「我々の被害は死亡した騎士が十二名、神官が十七名です。重軽傷者も多数でましたが大司教様のお陰をもちまして一命を取り留めました」
治療を終えた重傷者たちは何れも回復中であることが告げられる。
「カッセル市への到着が一日二日遅れても構わん。重傷者の体力の回復には特に留意するようにな。隊商にも我々と足並みを揃える必要はないと伝えておきなさい」
「承知いたしました」
「殉職した者たちの扱いはくれぐれも丁重にな。親族へ連絡する準備も怠りのないよう頼んだぞ」
「はい、滞りなく進んでおります」
事後処理が問題なく進んでいると告げたミュラーに首肯して答えると、フューラー大司教が話題を襲撃者へと移した。
「襲撃者の方はどうなっている?」
「襲撃者は確認できている範囲で百八名。そのうち八十七名を生け捕りにいたしました。現在、トナン様とサラ様が襲撃者たちの治療にあたっております」
図南と紗良も、フューラー大司教と共に騎士や神官の治療に当たっていたのだが、彼らの治療を終えたところで襲撃者たちの治療に移っていた。
「尋問はいつ頃から始められそうかね」
「治療を終えた襲撃者の尋問は既に開始しております。ですが、背後関係は未《いま》だに聞きだせておりません」
「まあ、口は割らんだろうな」
フューラー大司教もミュラーも、今回の襲撃者がプロの戦闘集団であると予想している。そして、その予想が正しければ容易く口を割ることはないだろうと考えていた。
それでもミュラーは一縷の望みを口にする。
「生け捕りにした人数が多いので、なかには間抜けがいるかもしれません」
カマを掛けてみるつもりだと仄《ほの》めかした。
「エーレの名前が出てくることはないだろうが、それでも汚れ仕事をする者を追い詰めることが出来れば、エーレのヤツを悔しがらせるくらいはできるな」
エーレ大司教。
フューラー大司教と並ぶ、次期教皇候補の一人である。
「仮にエーレ大司教一派の誰かだとして、ここまの強硬手段に出てくると我々も予想をしておりませんでした」
油断があったことにミュラーが唇を噛む。
「慢心があったのはワシだ。お前たちが気に病むことではない。それよりも、第二の襲撃に備えて警戒を行たないよう頼む」
第二陣の襲撃があってもおかしくないのだと告げた。
「承知いたしました」
改めて敬礼するミュラーに、フューラー大司教が穏やかな笑みを向ける。そして、世間話をするような気安さで話題を変えた。
「それで、トナン君の戦いぶりはどうだったかね?」
穏やかな笑みと気安い口調。
だが、眼光は普段見せることのない鋭い光を湛えている。
襲撃者たちから背後関係を聞き出すことよりも、図南の戦いぶりの方が気になっているのは明らかだった。
「実際にトナン様の戦闘を目の当たりにしたラルスからご報告させて頂きます」
ミュラーがラルスを促す。
「ほう、実際に戦いぶりを見たのか」
「はい。トナン様が二十人の襲撃者を一瞬で切り伏せる様子を見ました」
ラルスがその時の様子を語りだした。
負傷者の治療を他の神官に引き継いで、自分の天幕へ戻ったフューラー大司教がため息とともに倒れ込むように椅子へ座る。
「やれやれ。治療の魔法をかけるよりも、足元を気にしながら怪我人の間を歩き回る方が疲れたわい」
「お疲れ様です」
二十代半ばの女性神官がテーブルの上にティーカップを置いた。
フューラー大司教は女性神官にお礼を言いながら熱い紅茶の入ったティーカップへと手を伸ばす。
「これだけの数を治療したのは何年ぶりになるかのう」
「随分と早くお戻りになられたのですね」
聞いていた損害の規模が正しければ明け方までかかってもおかしくなかった。それだけに、一時間余で戻ったことが逆に悪い想像を掻き立てる。
女性神官の不安を感じ取ったフューラー大司教が言う。
「心配しなくてもワシが出向いてからは誰一人死んでおらんよ」
「失礼いたしました」
要らぬ気を使わせたことに女性神官が恐縮していると、天幕の外から男性が声を掛けた。
「ミュラーです。ご報告に上がりました」
「なんじゃ、待ち構えていたように来るのう」
フューラー大司教は女性神官を退出させ、ミュラーに天幕へ入るように命じた。
報告に来たのは神聖騎士団のミュラー隊長と、同じく神聖騎士団のラルスの二人である。
「報告を聞こう」
フューラー大司教に促されたミュラーが口を開いた。
「我々の被害は死亡した騎士が十二名、神官が十七名です。重軽傷者も多数でましたが大司教様のお陰をもちまして一命を取り留めました」
治療を終えた重傷者たちは何れも回復中であることが告げられる。
「カッセル市への到着が一日二日遅れても構わん。重傷者の体力の回復には特に留意するようにな。隊商にも我々と足並みを揃える必要はないと伝えておきなさい」
「承知いたしました」
「殉職した者たちの扱いはくれぐれも丁重にな。親族へ連絡する準備も怠りのないよう頼んだぞ」
「はい、滞りなく進んでおります」
事後処理が問題なく進んでいると告げたミュラーに首肯して答えると、フューラー大司教が話題を襲撃者へと移した。
「襲撃者の方はどうなっている?」
「襲撃者は確認できている範囲で百八名。そのうち八十七名を生け捕りにいたしました。現在、トナン様とサラ様が襲撃者たちの治療にあたっております」
図南と紗良も、フューラー大司教と共に騎士や神官の治療に当たっていたのだが、彼らの治療を終えたところで襲撃者たちの治療に移っていた。
「尋問はいつ頃から始められそうかね」
「治療を終えた襲撃者の尋問は既に開始しております。ですが、背後関係は未《いま》だに聞きだせておりません」
「まあ、口は割らんだろうな」
フューラー大司教もミュラーも、今回の襲撃者がプロの戦闘集団であると予想している。そして、その予想が正しければ容易く口を割ることはないだろうと考えていた。
それでもミュラーは一縷の望みを口にする。
「生け捕りにした人数が多いので、なかには間抜けがいるかもしれません」
カマを掛けてみるつもりだと仄《ほの》めかした。
「エーレの名前が出てくることはないだろうが、それでも汚れ仕事をする者を追い詰めることが出来れば、エーレのヤツを悔しがらせるくらいはできるな」
エーレ大司教。
フューラー大司教と並ぶ、次期教皇候補の一人である。
「仮にエーレ大司教一派の誰かだとして、ここまの強硬手段に出てくると我々も予想をしておりませんでした」
油断があったことにミュラーが唇を噛む。
「慢心があったのはワシだ。お前たちが気に病むことではない。それよりも、第二の襲撃に備えて警戒を行たないよう頼む」
第二陣の襲撃があってもおかしくないのだと告げた。
「承知いたしました」
改めて敬礼するミュラーに、フューラー大司教が穏やかな笑みを向ける。そして、世間話をするような気安さで話題を変えた。
「それで、トナン君の戦いぶりはどうだったかね?」
穏やかな笑みと気安い口調。
だが、眼光は普段見せることのない鋭い光を湛えている。
襲撃者たちから背後関係を聞き出すことよりも、図南の戦いぶりの方が気になっているのは明らかだった。
「実際にトナン様の戦闘を目の当たりにしたラルスからご報告させて頂きます」
ミュラーがラルスを促す。
「ほう、実際に戦いぶりを見たのか」
「はい。トナン様が二十人の襲撃者を一瞬で切り伏せる様子を見ました」
ラルスがその時の様子を語りだした。
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