女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有

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第35話 カッセル市、目前

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 図南と紗良、拓光の三人は危なげなく騎馬を操り、馬車隊と隊商の最後尾を進んでいた。
 本来なら最後尾は騎士なり護衛が務めるのだが、会話を聞かれたくなかった三人が最後尾を買ってでたのである。

 丘を迂回する大きく緩やかなカーブを抜けると丘と岩山との間に中世ヨーロッパを彷彿とさせる石造りの長大な城壁が、突然、視界に飛び込んできた。
 神聖バール皇国の首都ドルンに次ぐ第二の都市にして、城塞都市の別名で呼ばれるのに恥じない堅牢さを示威している。

「堅牢な城壁に守られている都市とは聞いていたけど、想像していた以上に迫力があるな」

 二キロメートル程先に見えたカッセル市の城壁と巨大な門を視界に収めた図南がため息交じりにつぶやいた。
 図南を挟んでくつわを並べていた拓光と紗良も茫然とした様子でつぶやく。

「あの城壁、高いところは百メートル以上あるんじゃないのか……?」

「中世ヨーロッパみたい……」

「城壁の厚みもかなりありそうだな」

 都市の周囲に巡らされた石造り城壁。そのところどころに城壁と一体化した塔のようなものが建てられていた。

「あの塔みたいなのは何かしら?」

「戦闘の際にあそこから弓を射掛けたり投石をしたりするんだと思う。こっちの世界じゃ、遠距離攻撃魔法を撃つのもあそこからじゃないかな」

 興味本位で調べた範囲のことを図南が口にした。

「門もかなりでかいぞ」

 拓光の言葉通り、整列した軍隊がそのまま出陣できそうなほどの大きさである。その強大な門の周辺に大勢の人々が見えた。

「随分と人が多いな」

 図南の独り言に、千里眼で様子をうかがっていた紗良が答える。

「ほとんどの人が武装しているからはっきりは言えないけど、三分の一くらいが衛兵っぽいひとで、残りが一般の市民や冒険者みたいよ」

「三分の一が衛兵とは随分と警戒が厳重だな」

「もしかしたら、カッセル市に入るのに時間が掛かるかもな」

 図南と拓光が顔を見合わせた。
 だが、図南がすぐに割り切る。

「時間が掛かるなら、その待ち時間に都市の外の様子を見学しないか?」

「いいねー、面白そうだ」

 少年らしい笑顔で拓光が同意する。

「決まりだ! 紗良はどうする?」

 図南と拓光の二人だけで決めてしまったことに、多少の不満を漏らしたものの、結局は紗良も二人に同行することにした。

「どうせなら馬車隊に先行して城壁まで馬を駆けさせないか?」

「ちょっと待ってくれ。そう言う話ならテレジアさんに一言断ってくる」

 図南の提案に拓光が待ったをかけた。

「そうか、テレジアさんに馬を借りているんだったな」

 図南と紗良はフューラー大司教から騎馬を自由に使って良いと許可をもらっていたが、拓光の乗っている馬はテレジアさんから借りたものなのでそうはいかない。
 拓光が隊商の中央を走るテレジアさんの馬車に向かおうと騎馬の速度を上げると、図南と紗良も合わせて速度を上げた。

 ◇

 図南たち三人がテレジアさんの操る馬車の側まで来ると、御者席から身を乗り出したニーナが若い女性冒険者と会話をしているところだった。
 彼らに真っ先に気付いたのは若い女性冒険者。

「サラ様!」

「アリシア、元気そうね」

「お陰様で怪我をする前よりも元気なくらいです」

 若い女性冒険者が崇拝の視線を紗良にむける。
 テレジアは図南の姿を見ると途端に畏まる。そして開口一番、図南へのお礼を口にした。

「トナン様、危ないところ助けて頂きありがとうございます」

「いえ、もう本当に気にしないでください」

(会うたびにお礼を言われ、食べ物をくれるのはそろそろやめて欲しいなー)

「ニーナ、リンゴがあったでしょ。ほら、トナン様に――」

「テレジアさん、本当にもう十分ですから」

 困り果てた図南にニーナが言う。

「トナン様はお母さんの命の恩人です。カッセル市に着いたら、改めてお礼をさせてください」

 図南が視線で紗良に助けを求める。
 だが、彼女は彼女でやはり神聖魔法で治療した若い女性冒険者から崇拝の視線とお礼の言葉を受けていた。

「そうだ! トナン様」

 ニーナの笑みに図南も思わず笑みを返す。
 するとニーナが勢いよく話しだした。

「カッセル市でお父さんが雑貨屋をやっているんですけど、お母さんとあたしが到着したら食堂も開く予定なんです。あたしとお母さんの料理を食べに来て頂けませんか?」

 ニーナの父親はテレジアさんとニーナよりも半年以上前にカッセル市に移り住んでいた。

 念願の自分の店を出すためである。
 その雑貨屋が軌道に乗ったのでテレジアさんとニーナを呼び寄せたという。

「それはいい考えね。サラ様とタクミと一緒に是非いらしてください」

 ニーナの案にテレジアさんが乗った。

「下町の味ですけど、あたしもお母さんも料理の腕は確かですよ」

「ありがとう。一度、ごちそうになりに伺います」

 内心で苦笑しながらも、ニーナの笑顔に負けて図南が承諾する。
 会話が一段落したと見て取った拓光が『テレジアさん、頼みがあるんですけど』、と切り出した。

「図南と紗良と自分の三人で、城壁付近まで隊商に先行する形で借りた騎馬を駆けさせたいんですけど、構いませんか?」

「何を遠慮しているのよ。行ってきなさい」

 とテレジア。
 城塞都市付近であれば魔物や盗賊が出る心配もない上、拓光の乗馬の腕も大分上がっていたこともありすぐに承諾してくれた。

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

「本当、タクミは礼儀正しいのね」

「そうですか? 俺たちの住んでいた国ではこれが普通なんですけどね」

 感心するテレジアさんに拓光が照れくさそうに答る。

「お母さん、あたしもトナン様やタクミお兄ちゃんと一緒に行ってもいい?」

「馬車の馬をこれ以上減らすわけにはいきません」

 甘えるニーナをテレジアが一蹴した。

「大丈夫! タクミお兄ちゃんと一緒に乗るから」

 タクミを振り返り、『いいよね、お兄ちゃん』甘えた顔を向けると、拓光もまんざらでないような顔で答えた。

「俺なら構いませんよ」

「タクミもニーナの我がままに付き合わないでいいんだよ」

 ここ数日繰り返されたことなのだろう、テレジアがため息交じりにそういうとニーナを軽く睨み付けた。
 だが、当のニーナは悪びれる様子もなく、

「タクミお兄ちゃん、お願いしまーす」

 御者席から拓光の馬へと飛び乗った。
 こうして俺たち三人はニーナを連れ立ってカッセル市の門へ向けて騎馬を掛けさせることになった。
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