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第38話 騎士団からの提案
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騎士の一団がこちらへとやってきた。
「ご苦労だった。ギルドを通じ、改めて騎士団より感謝の気持ちを込めて追加報酬が払われるだろう」
悪人顔の騎士はそう言うと、後ろを振り返って若い騎士たちに指示を出す。
「お前たち、魔物の死体を回収しろ」
おそらく隊長なのだろう。
悪人顔の騎士の号令一下、若い騎士たちが地面に転がっているオーガの下へと駆け寄る。
「酷いありさまだな」
若い騎士たちはオーガの死体を見ると一様に顔をしかめた。
そして次々と聞こえてくる不満の声。
「うへえ、皮膚なんて半部以上がただれているぞ」
「皮膚は使い物にならんが、角の牙は使えそうなのがせめてもの救いか」
加減したはずなのだが、オーガの皮膚は火魔法による火傷と、爆風による裂傷でボロボロだった。
「オーガの皮膚なんて何につかうんだ?」
戻ってきたばかりのロッテに尋ねた。
「オーガの素材は魔力を流すことで自動修復する特性があるんですけど、状態が悪いとその特性が現れないんです――――」
オーガの素材の特性について説明をしてくれた。
要約すると、オーガの角と牙、皮膚を素材にして作成された代物は魔力を流すことで硬化させたり、細かな傷なら修復もできたりする。
この特性を活かして皮膚はマントや防具の裏地として、角や牙は解体用のナイフや短剣の素材として利用されているそうだ。
なるほど、火傷した状態じゃ価値も落ちるか。
「待ってください隊長さん。このオーガは俺たちじゃなく、そこの兄さんが倒したもんだ。所有権は兄さんたちにある」
年配の冒険者が悪人顔の騎士にそう言うと、隊長は俺に向かって面倒くさそうに聞いた。
「お前も冒険者なんだろ?」
「俺は旅の商人です」
「商人かー」
「兄ちゃん、商人だったのか……」
悪人顔の隊長と年配の冒険者が同時に声を上げた。
「ええ、商人だと何か問題でもあるんですか?」
「いいや、特に問題はないぜ――――」
年配の冒険者の口元が綻ぶ。
前線でオーガを迎撃していた冒険者たちは、ギルド経由で騎士団から出された緊急依頼を受けていた。
契約では討伐した魔物の所有権は依頼者である騎士団にある。
だが、今回はまったく関係ない旅の商人である俺が倒してしまった。
「――――俺たち冒険者からすれば誰が倒したって自分たちのものにはならねえからな」
そう言って年配の冒険者は騎士団の隊長を横目で見ながら笑った。
防衛戦もバリケードを築いただけで実戦には不参加、倒した魔物の素材も手に入らないとなると騎士団としても面目丸つぶれ何だろうな。
オーガの素材が欲しいとは思わないが、昼間の件もあって騎士団にはいい印象もないし、ここはひとつ所有権を主張してみるか。
「魔物の数も多く戦力的に苦戦していたようなので加勢しました。それに、商人の端くれとしてはアンデッド・オーガやオーガの素材も魅力でしたので」
魔物の素材目当てで参戦したのだと明言すると、騎士団の隊長が小さな舌打に続いて聞いてきた。
「小僧、名前は? 身分証もだ」
「シュラ・カンナギです。この国の出身ではないので身分証はありませんが、ラタの街の滞在許可証ならここにあります」
街に入る際に門番の詰所で発行してもらった書類を提示する。
俺とユリアーナの二人と滞在許可証を見比べると、登録するときと同じような質問が飛んできた。
「その子どもとはどんな関係だ?」
「異母兄妹です。家名が違うのは家庭の複雑な事情です――――」
登録時と同じように実家を継いだ正妻の息子である兄に追いだされ、兄妹二人だけで外国に流れてきたのだと説明した。
すると、隊長がギョッとした表情で俺を見た。
「まさか、盗賊団を捕らえたのもお前なのか?」
「はい、そうです」
「なるほどな。報告では盗賊が油断していたためだとなっていたが……、どうやら盗賊を捕らえるだけの力は持っているということか」
隊長はそう言うと、爆発で形が崩れ炎で焼け焦げた地面とオーガの死体を一しきり見回した。
「問題はないと思いますが?」
「もちろんだとも!」
そう言って俺の方を叩くと上機嫌で続ける。
「私はこの街に駐留する騎士団の第二部隊隊長を務めるコンラートだ。何か困ったことがあったら言ってきなさい」
何だ、いきなり?
「はあ、その時はよろしくお願いいたします」
「第一部隊隊長のパウルあたりが無理難題を言って来たら私のところへきなさい」
ピンポイントで名指しかよ。
「無理難題、ですか?」
「そう、たとえば、だ。盗賊からの押収品を差しだすように言われたら、後日差しだすことを約束だけして、私に相談してもらえれば君の力になれると思うぞ」
悪人顔のコンラート隊長がとても悪そうな笑みを浮かべた。
騎士団内部の権力争いの臭いがする。
この悪人顔の隊長さん、ライバルをはめるのに俺を利用するつもりだな。
「分かりました。詳しいご指示があれば後ほどお話をお伺いに上がります」
「よろしい。それでは二時間後に詰所に来なさい」
「承知いたしました」
口元の笑みを隠そうともしない悪人顔の隊長と固く握手を交わした。
「ご苦労だった。ギルドを通じ、改めて騎士団より感謝の気持ちを込めて追加報酬が払われるだろう」
悪人顔の騎士はそう言うと、後ろを振り返って若い騎士たちに指示を出す。
「お前たち、魔物の死体を回収しろ」
おそらく隊長なのだろう。
悪人顔の騎士の号令一下、若い騎士たちが地面に転がっているオーガの下へと駆け寄る。
「酷いありさまだな」
若い騎士たちはオーガの死体を見ると一様に顔をしかめた。
そして次々と聞こえてくる不満の声。
「うへえ、皮膚なんて半部以上がただれているぞ」
「皮膚は使い物にならんが、角の牙は使えそうなのがせめてもの救いか」
加減したはずなのだが、オーガの皮膚は火魔法による火傷と、爆風による裂傷でボロボロだった。
「オーガの皮膚なんて何につかうんだ?」
戻ってきたばかりのロッテに尋ねた。
「オーガの素材は魔力を流すことで自動修復する特性があるんですけど、状態が悪いとその特性が現れないんです――――」
オーガの素材の特性について説明をしてくれた。
要約すると、オーガの角と牙、皮膚を素材にして作成された代物は魔力を流すことで硬化させたり、細かな傷なら修復もできたりする。
この特性を活かして皮膚はマントや防具の裏地として、角や牙は解体用のナイフや短剣の素材として利用されているそうだ。
なるほど、火傷した状態じゃ価値も落ちるか。
「待ってください隊長さん。このオーガは俺たちじゃなく、そこの兄さんが倒したもんだ。所有権は兄さんたちにある」
年配の冒険者が悪人顔の騎士にそう言うと、隊長は俺に向かって面倒くさそうに聞いた。
「お前も冒険者なんだろ?」
「俺は旅の商人です」
「商人かー」
「兄ちゃん、商人だったのか……」
悪人顔の隊長と年配の冒険者が同時に声を上げた。
「ええ、商人だと何か問題でもあるんですか?」
「いいや、特に問題はないぜ――――」
年配の冒険者の口元が綻ぶ。
前線でオーガを迎撃していた冒険者たちは、ギルド経由で騎士団から出された緊急依頼を受けていた。
契約では討伐した魔物の所有権は依頼者である騎士団にある。
だが、今回はまったく関係ない旅の商人である俺が倒してしまった。
「――――俺たち冒険者からすれば誰が倒したって自分たちのものにはならねえからな」
そう言って年配の冒険者は騎士団の隊長を横目で見ながら笑った。
防衛戦もバリケードを築いただけで実戦には不参加、倒した魔物の素材も手に入らないとなると騎士団としても面目丸つぶれ何だろうな。
オーガの素材が欲しいとは思わないが、昼間の件もあって騎士団にはいい印象もないし、ここはひとつ所有権を主張してみるか。
「魔物の数も多く戦力的に苦戦していたようなので加勢しました。それに、商人の端くれとしてはアンデッド・オーガやオーガの素材も魅力でしたので」
魔物の素材目当てで参戦したのだと明言すると、騎士団の隊長が小さな舌打に続いて聞いてきた。
「小僧、名前は? 身分証もだ」
「シュラ・カンナギです。この国の出身ではないので身分証はありませんが、ラタの街の滞在許可証ならここにあります」
街に入る際に門番の詰所で発行してもらった書類を提示する。
俺とユリアーナの二人と滞在許可証を見比べると、登録するときと同じような質問が飛んできた。
「その子どもとはどんな関係だ?」
「異母兄妹です。家名が違うのは家庭の複雑な事情です――――」
登録時と同じように実家を継いだ正妻の息子である兄に追いだされ、兄妹二人だけで外国に流れてきたのだと説明した。
すると、隊長がギョッとした表情で俺を見た。
「まさか、盗賊団を捕らえたのもお前なのか?」
「はい、そうです」
「なるほどな。報告では盗賊が油断していたためだとなっていたが……、どうやら盗賊を捕らえるだけの力は持っているということか」
隊長はそう言うと、爆発で形が崩れ炎で焼け焦げた地面とオーガの死体を一しきり見回した。
「問題はないと思いますが?」
「もちろんだとも!」
そう言って俺の方を叩くと上機嫌で続ける。
「私はこの街に駐留する騎士団の第二部隊隊長を務めるコンラートだ。何か困ったことがあったら言ってきなさい」
何だ、いきなり?
「はあ、その時はよろしくお願いいたします」
「第一部隊隊長のパウルあたりが無理難題を言って来たら私のところへきなさい」
ピンポイントで名指しかよ。
「無理難題、ですか?」
「そう、たとえば、だ。盗賊からの押収品を差しだすように言われたら、後日差しだすことを約束だけして、私に相談してもらえれば君の力になれると思うぞ」
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「分かりました。詳しいご指示があれば後ほどお話をお伺いに上がります」
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