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第24話 近くにいる
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「今日から編入します。松里アキです。よろしくお願いします」
綺麗に並べられた机と椅子――そしてそこに座る生徒たちへ向かって挨拶をすると、拍手が起こる。
この日、アキは高校に編入した。
国立聖星彩学院。
中高一貫の、境獣被災者のための学校らしい。
寮も完備しており、境遇も似ている生徒が多いとのことで、大木の伝手で編入を許された。
「うん。じゃあ松里の席は苗山の後ろだ」
「はーい。こっちだよ!」
担任の柏葉先生に言われ、教室を見ると窓際の後ろの方で女の子が手を挙げる。
どうやらアキの席は一番後ろらしい。
「ありがとう。よろしく」
「うん。よろしくね! 私、苗山 幸奈!」
手を挙げてくれた彼女にお礼を言うと、元気な返事が返ってきた。
そうして座ると、隣の色黒の男子生徒が不意に手を出してくる。
「潮下だ」
「……あっ、よろしく」
一瞬、握手だと気づかなかった。けれど律儀な人だな、とアキは思う。
手を握り返すと何かスポーツをやっているようで、手の皮の厚さを感じた。
そうしてホームルームが終わり、先生が出ていくや否や、アキは一斉にクラスメイトに囲まれる。
「ねぇ、松里くん、RINE教えてよ。クラスのグループもあるんだ~」
「あ、うちもうちも~」
RINE、というものがスマフォで連絡を取るソフトなのは知っている。
ここに入学する前の期間、槇原に最低限の知識を叩き込まれたのだ。
だがいざスマフォを出して起動してみると。
「あ、うん……えっと、どうやるんだろ」
「ちょっと見せて~」
アキはまだこのスマフォに不慣れだった。
率先して助け舟を出してくれた苗山にアキはスマフォを渡す。
たぶんソフィアに頼めば一瞬でやってくれるとは思うが、公の場でそれをやると怪しまれてしまう。
すると、苗山が驚きの声を上げた。
「あれ、友達ゼロ人!? 初めて見た!」
「うぐっ……。スマフォ買ったばっかりで……」
痛いところを突かれてしまった。
まぁ、実際友達どころか家族もいないので当然である。
「えー! 珍しー! じゃあ私が初めての友達だねぇ」
「幸奈、アンタ彼氏持ちでしょ。なにツバつけてんの」
「そういうんじゃないよぉ」
きゃいきゃいとはしゃぐ女子生徒たちに、アキは苦笑いするしかない。
すると、男子生徒たちが横から話しかけてきた。
「松里、中学では部活なにやってた? 柔道部とか興味ねぇ?」
「うち、尺八部があるんだぜ。全国で三校だけだけど」
「バレーどうよ?」
「いやいや、バスケだろ!」
「ドカ書きラノベ執筆部はどうでござるか!?」
男子たちは次々と部活に誘ってくる。
「陸上だったよ。でもちょっと考え中……」
気圧されはしたが歓迎してくれるのは嬉しいな、とアキは素直に思う。
「テニスはどうだ」
「私と誠也は水泳部だよ。よかったら見学来る?」
ついでに潮下と苗山まで部活に誘ってきた。
誠也? と思って苗山を見ると、右前の席の短髪の男子生徒を指し示した。
振り返ったその目つきは鋭く、どこか異世界でのパーティリーダーだった青年を思い浮かべる。
「来栖 誠也くんでーす。挨拶しなよ~」
「……おう」
アキは「よ、よろしくね」と挨拶すると、返答もせずに前を向いてしまった。
取っつきづらそうなところまでそっくりだ。
柔らかい雰囲気の苗山とセットでやっとバランスが取れているような感じだ、とアキは思った。
そのとき教室の扉が開く。
「松里アキはいるか」
その銀鈴の声に静まり返る教室が静まり返った。
自然と声の方向に人が割れる。
そこには背の高い女子生徒が立っていた。
目を奪われる。銀色の髪に青い瞳。外国人とのハーフだろうか、という思考の前に何かがアキの頭の中を引っ掻いた。
似ている。異世界で最初に会った女性。王国の王女に。
「会長だ……」
「あわわ、マリア様よ」
幸い、顔を歪めたことに誰も気づいていない。
アキは姿勢を正すと、その女子生徒に向き直って返事をした。
「はい、ぼくです」
言うや否や、彼女は堂々とした歩みでこちらに近づいてくる。
そして、周囲の生徒が自然に散ると目の前に立って言った。
「遅いぞ。たわけめ」
「えっ?」
――遅い?
突然の叱咤に困惑していると、襟首を掴まれて立たされる。
「ついてこい。今日は私が校内を案内する」
「あ、ちょ……授業は……!?」
無理やり連行されそうになったアキは抗議の声を上げるが、女子生徒は意に返さずグイグイと引っ張られる。
「そんなものは明日からでも変わらぬ。教諭には通達済みだ。気にするな」
皆がこそこそと何かを言い合う中、アキは教室から連れ出されるのだった。
◇ ◇ ◇
「松里アキ。話は聞いている。私はこの聖星彩学園の生徒会長を務める芹生マリアだ」
授業の始まった学校の廊下は静かだ。
ときおりどこかの教室で笑い声や先生の声が聞こえてくるが、前を歩くマリアが振り返らずに言う声が聞こえる程度には閑散としている。
「事前に説明はされているだろうが、今一度、この学園での注意すべきことを話しておこう」
高校生にしては独特な喋り方だ、とアキは思いつつ、「はい」と続きを促した。
「まず、自他共に過去について安易に口にするな。学園のほぼ全生徒が境獣災害の被災者であり、その悲しみから立ち直った者もいれば、今もなおPTSD――被災時のショックによる精神疾患に悩まされている者もいる。そういった者たちのケアもこの学園の目的でもあるのでな」
それはマリアも言う通り、大木や槇原から聞いていたことでもある。
この学校は日本に境獣が出現してから創設された学校であり、その生徒のほとんどは孤児だ。
両親を亡くして居場所を失った子供たちの受け皿だと聞いていた。
だからこそ、アキと境遇が似ているとこの学校が選ばれたのだから。
「次に、そういった教育機関は国内に多くあるが、その中でも我が校は特殊だ。能力の秀でる者、目的意識の高い者、そして現在政府が推進している養親に有力者――政治家や官僚、大企業の幹部に引き取られた者が集められている」
「あー……エリート校ってことですか?」
高校生にしては難しい言葉を並べるマリアに、アキが要約して言うとフッと鼻で笑われる。
「世間的にはそう表現されているが本質ではないな。現在は表沙汰にできない素性のお前を編入させた理由を考えてみるといい」
「……監視の対象、とか?」
階段を下りながらもう一度考えたことを言ってみると、マリアは軽く頷いた。
「間違いではない。要は手元に置いておきたい人材を集めているというところだ。故に我が校の警備や避難設備は随一。この通り、地下には全校生徒を収容して余りあるシェルターが用意されているが、周辺住民の受け入れ先には指定されていない。そういうことだ」
マリアは周囲を見回して言う。
教室の並んでいた校舎の地下に降り立ったそこには、頑丈そうな金属の壁で出来た広い部屋がいくつも並んでいた。
そして、その一番奥に【生徒会室】と大きな文字で書かれた扉がある。
マリアがその扉を開けると、そこにはアンティークな執務机やソファが置いてあり、この地下ではそこだけが日常の風景を保っていた。
地下のはずなのに窓から太陽のような光が漏れていて、どういう仕組みなのだろうとアキは不思議に思う。
「と、まぁ、鬱陶しかろう話をしたが、深く考えず学園生活を謳歌してほしいというところも本音だ。困ったことがあれば私を頼れ。私はこの生徒会室、あるいは……近くにいるであろう」
それはマリアの教室のことなのだろうか。
アキはあまり深く考えずに頷いた。
それからは体育館や屋上、図書室などの一般的な学校の設備を巡ったところで、2時限目の終わりのチャイムが鳴る。
そして、昼食はマリアと一緒に食べるという約束をして、アキは3時限目から授業に参加することになったのだった。
綺麗に並べられた机と椅子――そしてそこに座る生徒たちへ向かって挨拶をすると、拍手が起こる。
この日、アキは高校に編入した。
国立聖星彩学院。
中高一貫の、境獣被災者のための学校らしい。
寮も完備しており、境遇も似ている生徒が多いとのことで、大木の伝手で編入を許された。
「うん。じゃあ松里の席は苗山の後ろだ」
「はーい。こっちだよ!」
担任の柏葉先生に言われ、教室を見ると窓際の後ろの方で女の子が手を挙げる。
どうやらアキの席は一番後ろらしい。
「ありがとう。よろしく」
「うん。よろしくね! 私、苗山 幸奈!」
手を挙げてくれた彼女にお礼を言うと、元気な返事が返ってきた。
そうして座ると、隣の色黒の男子生徒が不意に手を出してくる。
「潮下だ」
「……あっ、よろしく」
一瞬、握手だと気づかなかった。けれど律儀な人だな、とアキは思う。
手を握り返すと何かスポーツをやっているようで、手の皮の厚さを感じた。
そうしてホームルームが終わり、先生が出ていくや否や、アキは一斉にクラスメイトに囲まれる。
「ねぇ、松里くん、RINE教えてよ。クラスのグループもあるんだ~」
「あ、うちもうちも~」
RINE、というものがスマフォで連絡を取るソフトなのは知っている。
ここに入学する前の期間、槇原に最低限の知識を叩き込まれたのだ。
だがいざスマフォを出して起動してみると。
「あ、うん……えっと、どうやるんだろ」
「ちょっと見せて~」
アキはまだこのスマフォに不慣れだった。
率先して助け舟を出してくれた苗山にアキはスマフォを渡す。
たぶんソフィアに頼めば一瞬でやってくれるとは思うが、公の場でそれをやると怪しまれてしまう。
すると、苗山が驚きの声を上げた。
「あれ、友達ゼロ人!? 初めて見た!」
「うぐっ……。スマフォ買ったばっかりで……」
痛いところを突かれてしまった。
まぁ、実際友達どころか家族もいないので当然である。
「えー! 珍しー! じゃあ私が初めての友達だねぇ」
「幸奈、アンタ彼氏持ちでしょ。なにツバつけてんの」
「そういうんじゃないよぉ」
きゃいきゃいとはしゃぐ女子生徒たちに、アキは苦笑いするしかない。
すると、男子生徒たちが横から話しかけてきた。
「松里、中学では部活なにやってた? 柔道部とか興味ねぇ?」
「うち、尺八部があるんだぜ。全国で三校だけだけど」
「バレーどうよ?」
「いやいや、バスケだろ!」
「ドカ書きラノベ執筆部はどうでござるか!?」
男子たちは次々と部活に誘ってくる。
「陸上だったよ。でもちょっと考え中……」
気圧されはしたが歓迎してくれるのは嬉しいな、とアキは素直に思う。
「テニスはどうだ」
「私と誠也は水泳部だよ。よかったら見学来る?」
ついでに潮下と苗山まで部活に誘ってきた。
誠也? と思って苗山を見ると、右前の席の短髪の男子生徒を指し示した。
振り返ったその目つきは鋭く、どこか異世界でのパーティリーダーだった青年を思い浮かべる。
「来栖 誠也くんでーす。挨拶しなよ~」
「……おう」
アキは「よ、よろしくね」と挨拶すると、返答もせずに前を向いてしまった。
取っつきづらそうなところまでそっくりだ。
柔らかい雰囲気の苗山とセットでやっとバランスが取れているような感じだ、とアキは思った。
そのとき教室の扉が開く。
「松里アキはいるか」
その銀鈴の声に静まり返る教室が静まり返った。
自然と声の方向に人が割れる。
そこには背の高い女子生徒が立っていた。
目を奪われる。銀色の髪に青い瞳。外国人とのハーフだろうか、という思考の前に何かがアキの頭の中を引っ掻いた。
似ている。異世界で最初に会った女性。王国の王女に。
「会長だ……」
「あわわ、マリア様よ」
幸い、顔を歪めたことに誰も気づいていない。
アキは姿勢を正すと、その女子生徒に向き直って返事をした。
「はい、ぼくです」
言うや否や、彼女は堂々とした歩みでこちらに近づいてくる。
そして、周囲の生徒が自然に散ると目の前に立って言った。
「遅いぞ。たわけめ」
「えっ?」
――遅い?
突然の叱咤に困惑していると、襟首を掴まれて立たされる。
「ついてこい。今日は私が校内を案内する」
「あ、ちょ……授業は……!?」
無理やり連行されそうになったアキは抗議の声を上げるが、女子生徒は意に返さずグイグイと引っ張られる。
「そんなものは明日からでも変わらぬ。教諭には通達済みだ。気にするな」
皆がこそこそと何かを言い合う中、アキは教室から連れ出されるのだった。
◇ ◇ ◇
「松里アキ。話は聞いている。私はこの聖星彩学園の生徒会長を務める芹生マリアだ」
授業の始まった学校の廊下は静かだ。
ときおりどこかの教室で笑い声や先生の声が聞こえてくるが、前を歩くマリアが振り返らずに言う声が聞こえる程度には閑散としている。
「事前に説明はされているだろうが、今一度、この学園での注意すべきことを話しておこう」
高校生にしては独特な喋り方だ、とアキは思いつつ、「はい」と続きを促した。
「まず、自他共に過去について安易に口にするな。学園のほぼ全生徒が境獣災害の被災者であり、その悲しみから立ち直った者もいれば、今もなおPTSD――被災時のショックによる精神疾患に悩まされている者もいる。そういった者たちのケアもこの学園の目的でもあるのでな」
それはマリアも言う通り、大木や槇原から聞いていたことでもある。
この学校は日本に境獣が出現してから創設された学校であり、その生徒のほとんどは孤児だ。
両親を亡くして居場所を失った子供たちの受け皿だと聞いていた。
だからこそ、アキと境遇が似ているとこの学校が選ばれたのだから。
「次に、そういった教育機関は国内に多くあるが、その中でも我が校は特殊だ。能力の秀でる者、目的意識の高い者、そして現在政府が推進している養親に有力者――政治家や官僚、大企業の幹部に引き取られた者が集められている」
「あー……エリート校ってことですか?」
高校生にしては難しい言葉を並べるマリアに、アキが要約して言うとフッと鼻で笑われる。
「世間的にはそう表現されているが本質ではないな。現在は表沙汰にできない素性のお前を編入させた理由を考えてみるといい」
「……監視の対象、とか?」
階段を下りながらもう一度考えたことを言ってみると、マリアは軽く頷いた。
「間違いではない。要は手元に置いておきたい人材を集めているというところだ。故に我が校の警備や避難設備は随一。この通り、地下には全校生徒を収容して余りあるシェルターが用意されているが、周辺住民の受け入れ先には指定されていない。そういうことだ」
マリアは周囲を見回して言う。
教室の並んでいた校舎の地下に降り立ったそこには、頑丈そうな金属の壁で出来た広い部屋がいくつも並んでいた。
そして、その一番奥に【生徒会室】と大きな文字で書かれた扉がある。
マリアがその扉を開けると、そこにはアンティークな執務机やソファが置いてあり、この地下ではそこだけが日常の風景を保っていた。
地下のはずなのに窓から太陽のような光が漏れていて、どういう仕組みなのだろうとアキは不思議に思う。
「と、まぁ、鬱陶しかろう話をしたが、深く考えず学園生活を謳歌してほしいというところも本音だ。困ったことがあれば私を頼れ。私はこの生徒会室、あるいは……近くにいるであろう」
それはマリアの教室のことなのだろうか。
アキはあまり深く考えずに頷いた。
それからは体育館や屋上、図書室などの一般的な学校の設備を巡ったところで、2時限目の終わりのチャイムが鳴る。
そして、昼食はマリアと一緒に食べるという約束をして、アキは3時限目から授業に参加することになったのだった。
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