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第31話 課外学習
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「やぁ、ちゃんと来たね」
そう言って出迎えたのは大木だ。
ここまで複雑な道を通って、よくわからないエレベーターに乗って、ものの十数分で謎の広大な施設にたどり着いてしまった。
正面には何インチかもわからない巨大なモニターがあり、いくつかの地図やどこかのカメラを映し出している。
アキはそんな近未来的な施設に少しだけ胸を躍らせて周囲を見回していると、マリアが大木に向かって敬礼した。
「はっ。それでは配置につきます」
「いや、今日はアキ君に色々教えてほしい。ちょうど今から作戦が始まる。我々の仕事を見てほしくてね」
「了解」
そんなテキパキとした仕草で動きマリアをぽけっと見ていたアキは、いつの間にかに用意されたパイプ椅子に座らせられる。
マリアは近くのデスクから椅子を引っ張ってきて、隣に座った。
そっちの方が座り心地よさそうだなぁ、と思うが、お尻に可愛いクッションが置いてある辺り、マリア専用の席なのだろう。
「急に呼び出してすまないね、アキ君。ここは課外学習だと思って暖かく見守ってくれ」
「はぁ……」
アキは状況が飲み込めず、マリアに小さな声で聞く。
「ねぇ、マリア。作戦って……」
「境獣の殲滅作戦だ。前面のモニターを見ろ。場所は……富山県の湾岸沿いだな。20分前に海中で現出したようだ」
「【牛頭】とかって泳げたっけ?」
「泳ぐという目撃例もある」
海中で、と言われ、アキは溺れる【牛頭】の姿を思い浮かべた。
なにせ異世界では大陸の国の、主に内陸にいたので海というのが身近ではなかったからだ。
マリアは説明を続ける。
「すでにピスケス、キャンサー隊が現着。あと10分でアックス、プリーストの攻撃ヘリ部隊も到着するようだ」
「……どこに書いてあるの?」
「見ればわかるだろう」
わからないよ、とアキは声を上げそうになった。
表示されているのはだいたいアルファベットであり、その細かい線や図形がなにを示しているのかがわからないのだ。
すると、前に立つ大木が振り返って口端を吊り上げる。
「まぁ、それはおいおいわかるようになるさ。――市民の避難が完了次第、海自のSSMも期待できる。いいところに出てくれたね」
「えすえすえむってなに?」
「そんなことも――……知らぬか。対艦ミサイルだ」
「へぇ~」
「緊張感のないやつめ」
大木の言う通り、課外学習のつもりで聞いていたらマリアに脇を小突かれた。
すると、施設に何かの警報が鳴って、続くようにアナウンスが流れる。
『目標群、陸戦部隊との会敵予想時刻ネクストツーワン』
「周辺の民間船の退避はどうだ?」
見れば、その声は近くの席に座る男性のものだった。
その他にも同じようにマイクに向かって喋る大人たちがいて、大木は彼らに指示を出している。
『すでに退避完了済みです。現地からも報告があります』
「では射程に入り次第、陸戦部隊は攻撃を許可。まずはお手並み拝見だ」
そんな姿を見て、アキは素直にカッコいいな、と思った。
そして、ふと気づき、マリアに聞く。
「もしかして、マリアもああいうのやってるの?」
「ああ。常駐は厳しいが、作戦時にはオペレーターとして席についている」
学生だというのにすでにこうした場で働いているというのは、やはり学校の特殊性もあるのだろう。
それ以上、詮索することはマリアにも禁止されているので、アキは黙って体を正面に向けた。
そして数分後、表示されたモニターのいくつかが振動し、射撃音が響き渡る。
発射された弾丸が海上の黒い点に向かって飛んでいき、水しぶきをあげた。
また別のカメラでは号令の声と共に、ポンと音がして筒のようなものから何かが飛んでいき、着弾と共に派手な爆発を起こす。
「XM109ペイロードとジャベリンの一斉射撃だ。小型境獣ならば上陸する前に殲滅できるだろうよ」
『主目標、視認しました。メインモニターに映します』
マリアが誇らしげに言った。
直後、モニターに大きく映像が表示される。
そこには近くに停泊する漁船が小さく見えるほど巨大な蟹が2体映っていた。分厚く、重そうな大きな鋏を持っている。だがその足は太い2本の足を持っており、盛り上がった背中はヤドカリのようにも見えた。
アキはその姿に見覚えがある。
「【ザラタン】か?」
『映像分析では88パーセントで一致しています』
「陸戦部隊攻撃中止、陣地変換、散開させろ。攻撃はジャベリンのみ。それ以外は撃っても無駄だ」
大木が指示を出すのを聞きながら、独特な響きの名前にアキは首を捻った。
「ぐらたん?」
「【ザラタン】だ。真面目にやれ」
「ごめん……」
つい口走ったアキの言葉に、マリアの目が鋭くなる。
怒られてしまった。
特にウケを狙ったつもりはなかったのだが。
『アックス、プリースト、会敵します』
『市民の避難完了はまだ報告されていません』
「叩くなら上陸前だ。攻撃を許可しろ」
そのとき、ザラタンの口から白いビームのようなものが発射され、モニターの1つが暗転した。
誰かが死んだ、とアキは直感する。
『アックスゼロツー、撃墜されました』
「なんだ? 今のは」
「確認しましたが熱量は高くありません。境界震も微弱です」
「ピスケスリーダーより報告、機体が切断されたようです」
大人たちは困惑していた。
それを見て、アキは自分に何かできることはないかと考えた時、ひとつのことを思い出して声を漏らす。
「あ……」
隣のマリアはこちらを見たが、大木が矢継ぎ早に出す指示にすぐに前へ向き直った。
「攻撃を続行。アックスゼロツーの救助にはバックアップの人員を向かわせろ」
「了解。リブラ第二分隊を向かわせます」
「……あれはビームか?」
伝えた方がいいのか、それとも大人たちの戦場に口を出さない方がいいのか。
アキは迷った末に、口を開いた。
そう言って出迎えたのは大木だ。
ここまで複雑な道を通って、よくわからないエレベーターに乗って、ものの十数分で謎の広大な施設にたどり着いてしまった。
正面には何インチかもわからない巨大なモニターがあり、いくつかの地図やどこかのカメラを映し出している。
アキはそんな近未来的な施設に少しだけ胸を躍らせて周囲を見回していると、マリアが大木に向かって敬礼した。
「はっ。それでは配置につきます」
「いや、今日はアキ君に色々教えてほしい。ちょうど今から作戦が始まる。我々の仕事を見てほしくてね」
「了解」
そんなテキパキとした仕草で動きマリアをぽけっと見ていたアキは、いつの間にかに用意されたパイプ椅子に座らせられる。
マリアは近くのデスクから椅子を引っ張ってきて、隣に座った。
そっちの方が座り心地よさそうだなぁ、と思うが、お尻に可愛いクッションが置いてある辺り、マリア専用の席なのだろう。
「急に呼び出してすまないね、アキ君。ここは課外学習だと思って暖かく見守ってくれ」
「はぁ……」
アキは状況が飲み込めず、マリアに小さな声で聞く。
「ねぇ、マリア。作戦って……」
「境獣の殲滅作戦だ。前面のモニターを見ろ。場所は……富山県の湾岸沿いだな。20分前に海中で現出したようだ」
「【牛頭】とかって泳げたっけ?」
「泳ぐという目撃例もある」
海中で、と言われ、アキは溺れる【牛頭】の姿を思い浮かべた。
なにせ異世界では大陸の国の、主に内陸にいたので海というのが身近ではなかったからだ。
マリアは説明を続ける。
「すでにピスケス、キャンサー隊が現着。あと10分でアックス、プリーストの攻撃ヘリ部隊も到着するようだ」
「……どこに書いてあるの?」
「見ればわかるだろう」
わからないよ、とアキは声を上げそうになった。
表示されているのはだいたいアルファベットであり、その細かい線や図形がなにを示しているのかがわからないのだ。
すると、前に立つ大木が振り返って口端を吊り上げる。
「まぁ、それはおいおいわかるようになるさ。――市民の避難が完了次第、海自のSSMも期待できる。いいところに出てくれたね」
「えすえすえむってなに?」
「そんなことも――……知らぬか。対艦ミサイルだ」
「へぇ~」
「緊張感のないやつめ」
大木の言う通り、課外学習のつもりで聞いていたらマリアに脇を小突かれた。
すると、施設に何かの警報が鳴って、続くようにアナウンスが流れる。
『目標群、陸戦部隊との会敵予想時刻ネクストツーワン』
「周辺の民間船の退避はどうだ?」
見れば、その声は近くの席に座る男性のものだった。
その他にも同じようにマイクに向かって喋る大人たちがいて、大木は彼らに指示を出している。
『すでに退避完了済みです。現地からも報告があります』
「では射程に入り次第、陸戦部隊は攻撃を許可。まずはお手並み拝見だ」
そんな姿を見て、アキは素直にカッコいいな、と思った。
そして、ふと気づき、マリアに聞く。
「もしかして、マリアもああいうのやってるの?」
「ああ。常駐は厳しいが、作戦時にはオペレーターとして席についている」
学生だというのにすでにこうした場で働いているというのは、やはり学校の特殊性もあるのだろう。
それ以上、詮索することはマリアにも禁止されているので、アキは黙って体を正面に向けた。
そして数分後、表示されたモニターのいくつかが振動し、射撃音が響き渡る。
発射された弾丸が海上の黒い点に向かって飛んでいき、水しぶきをあげた。
また別のカメラでは号令の声と共に、ポンと音がして筒のようなものから何かが飛んでいき、着弾と共に派手な爆発を起こす。
「XM109ペイロードとジャベリンの一斉射撃だ。小型境獣ならば上陸する前に殲滅できるだろうよ」
『主目標、視認しました。メインモニターに映します』
マリアが誇らしげに言った。
直後、モニターに大きく映像が表示される。
そこには近くに停泊する漁船が小さく見えるほど巨大な蟹が2体映っていた。分厚く、重そうな大きな鋏を持っている。だがその足は太い2本の足を持っており、盛り上がった背中はヤドカリのようにも見えた。
アキはその姿に見覚えがある。
「【ザラタン】か?」
『映像分析では88パーセントで一致しています』
「陸戦部隊攻撃中止、陣地変換、散開させろ。攻撃はジャベリンのみ。それ以外は撃っても無駄だ」
大木が指示を出すのを聞きながら、独特な響きの名前にアキは首を捻った。
「ぐらたん?」
「【ザラタン】だ。真面目にやれ」
「ごめん……」
つい口走ったアキの言葉に、マリアの目が鋭くなる。
怒られてしまった。
特にウケを狙ったつもりはなかったのだが。
『アックス、プリースト、会敵します』
『市民の避難完了はまだ報告されていません』
「叩くなら上陸前だ。攻撃を許可しろ」
そのとき、ザラタンの口から白いビームのようなものが発射され、モニターの1つが暗転した。
誰かが死んだ、とアキは直感する。
『アックスゼロツー、撃墜されました』
「なんだ? 今のは」
「確認しましたが熱量は高くありません。境界震も微弱です」
「ピスケスリーダーより報告、機体が切断されたようです」
大人たちは困惑していた。
それを見て、アキは自分に何かできることはないかと考えた時、ひとつのことを思い出して声を漏らす。
「あ……」
隣のマリアはこちらを見たが、大木が矢継ぎ早に出す指示にすぐに前へ向き直った。
「攻撃を続行。アックスゼロツーの救助にはバックアップの人員を向かわせろ」
「了解。リブラ第二分隊を向かわせます」
「……あれはビームか?」
伝えた方がいいのか、それとも大人たちの戦場に口を出さない方がいいのか。
アキは迷った末に、口を開いた。
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