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第3章
追尾
しおりを挟む相手にとっては未知の森。しかし、こちらはコリダロスが居るおかげでこちらには地の利がある。
道無き道を無我夢中で走った。
敵がこちらの居場所を感知出来ようとも、引き離してしまえば意味は無いのだから。
暫く森を駆け抜けた後、アレンが乱れた呼吸を整えようと深く息を吸う。
「これだけの速度で走り抜ければ、流石についてこれないだろ?」
アレンが走ってきた方向を見ながら言った。
その直後に、またあの笛の音が響き渡る。それもそう遠くない場所からだ。
「まったく引き離せてないないわね。これじゃあ、いずれ追いつかれるわ 」
マナの意見を聞いたコリダロスは、覚悟を決めた表情に変わる。
「刻印者様、確かにこのままではこちらも疲弊させられるだけです。敵が何人なのか見当も付きませんが、ここらで向かい打ちますか?」
「しかし、バルバロの小隊には腕の立つものもいるんだろ?」
コリダロスは槍を取り出しながら、その問に答える。
「確かに今追ってきている隊に、その強者がいる可能性もあります。しかし、これ以上森を駆けこちらも疲弊してからでは、それこそ歯が立ちませぬ。…ですので今のうちに魔力の感知をしている者だけでも討ち取るのが最前かと」
コリダロスの言っている事も一 理ある。納得したアレンは剣を構えた。
「ここからあと少し進んだ先に、崖と崖を結ぶ古びた橋があります。そこで迎え撃てば、相手に囲まれる事も無いでしょう」
「じゃあもう踏ん張りがんばりましょ」
そうマナが言い終わると、3人は橋を目指しさらに森を駆け抜けた。
木々が少なくなり、大きな水の音が聞こえ風が強くなって来た。
少し前方には4本の縄で吊られ、古びた木の橋が見える。
橋が掛かっている場所は、渓谷と呼べるほどの大きな山の切れ間で、その幅は歩いて渡れば2~3分はかかるだろう。そして橋の遥か下には大水が勢いよく流れている。
それを見たアレ ンはひとつ閃いた。
「なぁコリダロス。これほど長い橋なら俺達が向こうに渡って、橋を落としてしまえば奴らも追って来れないんじゃないか?」
その気持ちは分かる。と言った表情を見せるコリダロス。
「確かにその通りでございます。しかし人通りがほとんど無いとはいえ、渓谷を越えるための橋はこの近辺ではここにしか無く、簡単に落とす訳にもいかないのです」
アレンは橋をもう1度見る。
横幅は人1人通れるくらいの狭い橋だが、これほど長い橋をこんな危険な場所に掛けるにはかなり困難を極めるだろう。
自分の考えがあまりに自分勝手な事だと気が付いたアレンは、コリダロスに謝りを入れ た。
橋まであと30歩ほどの距離に出た時、後方から甲高い風きり音がした。
その音の正体が矢であると即座に気付いたコリダロスは、槍を構えたたき落とす姿勢を整えたが、矢は大きく外れ頭上を通過する。
当てずっぽうか。
相手の未熟な弓の腕を見て、大した相手ではないなと、少し気が楽になった。
しかし、大きく外れたと思った矢は、橋を吊っている縄の1本に正確に命中し、バチンと大きな音と共に縄は力無く垂れ下がる。
思いもしなかった事態に虚をつかれた。
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