アンブラインドワールド

だかずお

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〜 実戦 〜

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どこまでも果てしなく続く、真っ暗な海

俺は気づいたら泳いでいた
ここはどれくらい元いた場所から離れたのだろう?
真っ暗で底の見えない、この海はどれくらい深いのだろう?

随分遠くまで泳いだ気がする

果てしなく続く暗闇が前方にも後方にも続いている

突然、前に進むのが怖くなり、俺は引き返そうとした

これ以上進んだら後には戻れなくなる様な、そんな気がして

ハッ

「夢か」

タケルの修行はあれから一向に進まずにいた。
一方、神井の修行はどんどん高度なものになっている、焦りばかりが募りだす。
俺には出来ないんじゃないか?
才能ないんじゃないか?
俺ってこんなに自分を疑う奴だったのか?自信が揺らぐ。
現実に起こる状況での反応が、自身のリアルな姿を浮き彫りにさせる。
もしラルフォートがまた襲ってきたら・・・・
俺はこんなにも心配症だったか?

コンコン

「誰?」

「タケル君、私だ」

その声は北條のもの
「入るよ」

「どうぞ」
北條さんの姿を見た時、俺は何故だが部屋にひとすじの光が射し込んだように思えた。

「悩んでいる様だね」

北條さんは不思議な人だった。
常に自分の心の内、全てを見渡し、理解している気がしたのだ。

「君のオーラが少し濁っていたのでね」

「オーラ?」

「全てのエネルギーはそれぞれ独自の振動数を持ちます、そして、それぞれの色も放ちます、性格、個性を表す、波動や波長の色と言っても良いでしょう、それらをオーラと言います」

「見てご覧」北條が部屋の隅にある花を指さす

「あの花にもオーラがある、見えるかい?」

「いや俺にはまったく、素質ないんすよ俺」

「神井はどんどん成長してるのに、俺は何一つ進んでない」

北條は優しく微笑んだ。
「人と比較しなくて良いんですよ、タケル君にはタケル君のペースがある。もし比べるのなら昨日の自分にすれば良い、焦らないで大丈夫、少しずつ、後退してる様に思える時でも、人は必ず成長しているものです」
北条はそう言いタケルのもとに近寄り、突然タケルの額に手を当てた。

「ここに霊眼があります、ここに意識を向けて」

ズゥオオンッ
なんだっ?額が物凄く熱いっ、なんだこれは

花のまわりを紫色の光が覆ってるのが一瞬見えた気がした。
「紫色」タケルは感動と驚きのあまり気がついたらつぶやいていた。

「そうです、これなら手のひらにオーラの円をつくる練習が、はかどるでしょう」

「やだなぁ北條さん、最初っから、これやって下さいよ、だったらもっと簡単に速く出来たじゃないっすか」

北條が微笑む「いや、ここまでの過程にこそ、気づきの宝があったんです。最初からやってたら、確かに簡単だったかも知れない。しかし、そしたらこの間に得た経験や努力、悩み、感情を体験出来なかった。結果までの道程、結果、今と言う瞬間、すべてに等しく、大切なものがあるんです」

「さあ、修行を続けましょう」

俺は北條さんの言葉を理解出来た気がした。
そう、きっと全て無駄ではない。
いや、本当の事を言えば、そんな事はどこまでいっても結局分からない。
でも、だからこそ自分で決めるんだ。
己がそこから受け取る意味を、己自身で。

「ありがとう北條さん」

三日後、俺は波動で円をつくる事に成功していた。
それから一週間ひたすら波動を身体に纏うイメージを保つ瞑想に明け暮れ、少しずつだけど要領を掴んで来ていた。
波動をコントロールするのはあまりにも大変で、どっと体力を浪費する。
光堂さんが戦闘してる時、こんなのを放ったり、纏ったりと、軽々波動を扱っていたが、光堂さんの凄さが今になって身に沁みて分かった気がした。

「さて、ここからは命懸けとなりますよ、実戦で波動のコントロールを更に学んでもらいます」

「実戦?」

ギロッ
北條に睨まれた瞬間タケルの意識は飛んだ
気づいたら周りに何もない空間に居たのだ
「ここは?」
隣には神井の姿

「どうやら俺たちは北條の空間に飛ばされたらしいな、貴様はせいぜい俺の足を引っ張るなよ」
北條の野郎こんな事まで出来るとはな、ますます奴の力を超えたくなってきたぜ。

「貴様じゃねぇ、俺にはタケルって名前があんだよ神井」

「貴様の名前などどうでも良い」

「てめえっ」

そこまでっ

北條の声が何もない空間に響き渡る

「君達の本当の肉体はこちらにある、君達は今一時的に肉体から抜け、私の創る空間に飛んでもらった。
だが、そこに居る君達も半透明ではあるが、肉体の形を持っているはずだ、さてこれから私がイメージして作る刺客を送ろう、二人で力を合わせて倒してごらんなさい」

「一つ言っておこう、万が一そちらで死ぬ様な事があったら二度とこちらには戻って来れないと思って下さい、それでは」

「嘘だろ、マジかよ」

「いちいちビビるな貴様、刺客を倒せば良いだけの話」

ザッ ザッ
真っ黒の人型の一つの影が近づいてくる

「さあて、二人共行くよ」

「えっ?北條さんの声」俺は少し安心した、口では厳しい事言うけど北条さんなら手加減してくれるはずさ。

「ここなら思う存分暴れられますからね、手加減はいりませんよ、殺されますから」

え?北條さんマジかよ。

「北條ちょうどいい機会だ、貴様より俺のが上だって事証明してやるぜ」
影に飛びかかる神井「消えやがれ」

ザアンッ
影は神井の攻撃をしゃがみ躱す。
「馬鹿め、狙い通りなんだよ」相手をしゃがんだ姿勢にさせる事が神井の狙いだった「消えろ」神井の手のひらから黒い光の球が容赦なく発せられる。

ズゴオオオオンンッ
神井、悔しいけどやっぱあいつは凄えっ。タケルは悔しさのあまり、拳を力強く握りしめていた。

「北條終わったぞ、俺をここから出せ」

「終わった?」
なんとその影は神井の放った霊波動をすべて吸収していた。

「なんだとっ?」

「二人共しっかり霊波動を身体に纏いなさい、死にますよ」

ゾクッ
「やべえっ」気づいた時にはタケルの目の前に黒い球が、頭が消し飛ぶ

ズギャアアアンッ
辺りに鈍く、力強い音が鳴り響いていた
タケルは頭一点に波動を纏い、防いでいたのだ、しかし、頭部以外の全身は血塗れになっていた。

おいっ、マジかよ、もし間に合わなかったら頭がふっ飛んでた。

「全身守ろうとしたら間に合わなかったぜ」一瞬一瞬の判断ミスが死に繋がる、背筋がゾクッとした。
毎瞬間が命のやりとり……

なるほど、タケル君は実戦から急激に成長するタイプとみます。
北條は神経を研ぎ澄まし、それぞれを観察している。
神井君は?

「きさまああああっ、これならどうだ」
グギュルルルルル
鋭く回転する金属が激しくぶつかり合う様な音と共に、神井の左腕の先に先程の二倍の大きさはある黒い霊波動の球が練り上げられている。

怒りや憎しみ、恐れ、を基盤に波動を使うタイプ、神井の心臓から真っ黒い血液が全身をめぐる様に北条には見えていた。

「消えろ北條ーーーっ」

ズゥオオオオンンッ

「やったか」タケルが叫ぶ

なんと影は、またも全てを吸収していたのだ。
「嘘だろ」こんなのにどう勝てば良いんだよ?
タケルの足がすくむ。

「神井君、何度やっても無駄だよ、またその腕にためてる霊力をぶつけても構わないが、繰り返せば影を倒す前に、君の霊力が尽きる、この影には君の微量な闇波動は効かない、他の策を考えるんだ」

「微量だとおおっ、黙れえええっ北条」

「待て神井」止めたのはタケルだった。
「このままじゃ勝てない、二人で力を合わせよう」

「ふっ、フハハハハ笑わせんじゃねぇ、てめぇに何が出来る?無力のてめぇに、なにか案でもあるって言うのかよ」

「ああ」

「俺にはどうして違うかは良く分からねーけど、お前のつくる波動の球は黒い、さっき北條さんが言っていた、闇波動は効かないって、もしかしたら俺の透明の球なら効くのかも知れない、だけど今の俺には、これをあいつにくらわせる事は出来ない、だから俺に、この球をあいつにぶち込む為の隙を、お前が作ってくれ」

「貴様の案など信用出来るか、第一、お前如きの波動が奴に効く保証が無い」

「だが、他に策も無い」

チッ「しくじるなよ」

「ああ」

北條がニヤリとほくそ笑む。そう、この影は光の波動しか通らない様になっている。
神井君の攻撃は効かない、かと言って今のタケル君は霊球を作るのがやっと、とても一人で影に狙い当てるのは不可能。
そう、唯一この状況を乗り切る方法は、タケル君と神井君が手を組むこと。
最初から北條はこれを考えていたのだ。
これから先、必ず二人が力を合わせなきゃ切り抜けられない修羅場が訪れる。
この影は、あなた達二人が共に力を合わせなければ勝てなかった最初の相手となります。

「貴様、しっかり攻撃のタイミングを俺に合わせろ」

「ああ、分かってる」

「行けっ」

「うおおおおおーーっ」

ズドオオンッ
二人の息は意外にもぴったりだった。
目の前の影は、霧が散るように消えて行く。

「よっしゃー影が消えたぜーっ」

「まずは第一試験突破ってところですね」



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