ブラインドワールド

だかずお

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『予想外の場所へ』

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朝方、皆は、新たなる旅に向け出発の準備を整えている。

「いよいよ新たなる場所ウキね、気合い入るウキ」

マサも酔いはさめ、準備万端だった。

「マサ二日酔いは大丈夫ウキか?」

「完璧だよ」

マナは露天風呂に浸かりに行っている。
空の情景は、いっときの間、空を占めていた黒い色のキャンバスが終わりを告げ、新しい一日の始まりを表すオレンジ色の光が薄っすらと空に滲み始めていた。

多村はリュックに何やら準備しているようだ、そんな多村が光堂に質問する。

「光堂、今はどういう気分なんだ?」

「ワクワクと不安半分ずつかねぇ」
今までの旅の経験からか、一同には少しばかりの余裕、自信などがついてきていた。
人は経験から学び、成長出来る、ここまで命を懸け、向き合った経験達が皆を変えていた。
見る者が見たらすぐに分かるだろう、それらは表情と生きる姿勢に如実に現れる。
そう、なんとかなる。
ここまでの旅のおかげだろう、皆は、その理由も根拠もない、気持ちを信頼することが出来るようになってきていたのだった。
この旅を通じて、全員が、頼もしいくらい成長したのかも知れない。

「この場所も見納めだぞ、今の内に見とかなくていいか?」多村が言った。

「そうウキねっ」

ペレーとマサは、出発前にジャングルに散歩に出る。

もし、次の場所で元の世界に帰れるなら多村、ペレー、マナとはお別れになるのか、次はいつ会えるかわからない、もう会えるのかどうかさえも、それらを投げ打ってでも自分は本当に元の世界に帰りたいんだろうか?
少し疑問だった。
みんなでこうして旅を続ける、このこと自体が本当は何より宝の瞬間だったことに光堂は気付き始めてもいた。
みんなで過ごす このひと時か。
終わりが見えるから意識するというのもなんだか寂しいことのようにも思えたが、これからもいつだって自分の目の前には今と言う時がひろがってる事を今後も忘れないようにしようと、自分に誓った光堂であった。

彼らがいて、自分もいる

自分がいて、彼らもいる

当たり前だと思っていたが、出会いとは、なんとも不思議で神聖な感じがする
ちょっとしたタイミングや、産まれる場所、時間がほんの少しずれていても出会えなかった。まさに奇跡とも呼べるような出会い
本当はすべてに偶然などないのかも知れない。
とにかく、存在してくれて、居てくれてありがとう、と言う感謝の気持ちが自然と湧き上がってきた。
こんな風に人付き合いや、出会いに感謝したことも、今まであまりなかったなあと、自分の変化にも嬉しくなり微笑む。

そうこう考えてるうちに、マナが風呂から小屋に戻ってきた。
「いゃあ最高の湯加減でした、お風呂は最高ですね」

外からはペレー達の声が
「甘い木の実ウキ、この場所の土産ウキ」

小屋にペレーとマサはたくさんの木の実を持って帰って来てくれた。
見たことも無いような不思議な形の木の実、一つ食べたがとても甘くて美味しかった 「うん、これは、美味い」

暫しの平穏な時を過ごし心も身体も準備万端である

深呼吸をし
「行くか」光堂は言った。

「おーっ」みんなの気持ちも一つだった

小屋のドアを開けた瞬間、外から何やら賑やかな音楽が

「この音楽」

そう、きっとあの部族の人達が俺達の旅の無事を祈り奏でてくれてるんだ

「出発の祈りと言ったところか、ありがたい」と多村

それは盛大に大地に鳴り響いていた。
彼らの感謝の気持ちの表れ

「ありがとう」 遠い地に新しい家族が出来たような、そんな気分だった。

ピラミッドの男が言ったように、確かに小屋の裏を歩いて行った所にそれはあった

今回は黄色いモヤである

みんなは手を繋ぎ、お互いの顔を見合い 覚悟を決め、胸にかかる誓いのアクセサリーを握った。

「みんなで無事に帰ろう」

多村、マナ、ペレー、マサ、光堂は微笑み
そして、しっかりと手を繋ぎ、そのモヤに飛び込んで行った。

次の瞬間起こったそれは、一瞬の出来事だった。
気がつくと、五人は静かな場所にいる
とっても静かだ。
一体今度はどんな場所なんだ?
周りはまだ黄色いモヤに覆われている。
ただ、何よりも不思議だったのは、全く知らない未知の場所に居るというのに、何故か心の底から調和がとれ、何とも言えない安心感に一同は包まれていた事だった。

「なんだ、この感覚とっても懐かしいような」多村がつぶやく

みんなも、多村と同じ気持ちを共有している様

「不思議ですけど何だかわたし、安心しきっちゃってます」誰もが納得した、マナの言葉だった。

何と言うとてつもない安心感なのだろう、果てしなく続く調和
何処までも途切れる事なく続く絶対的な安心感
こんな風に感じる感覚が人間にはあったのか?と驚く程の終わること無い安堵感に包まれていた。
人間は時として、現実と言う物にフォーカスし過ぎて、悩み、不安、問題、罪悪感、分離感、などの意識状態により、本来持つ、この感覚から切り離されているのかも知れない。
そんな事を考えていた。

モヤがはれ、辺りの風景をよく見渡して光堂は驚いた「これ外じゃない、何かの中に俺たちはいる」

その時だった

「ついに来ましたか、あなた達にお会いするのを楽しみにしてましたよ」

「誰だ?」光堂が叫ぶ。
皆はこの状況の最中、しっかりとお互いの手を握り締めていた。
ゆっくりとぼやけていた視界に人影を捉える。
目の前には銀色の宇宙服の様なものに身を包んだ、男が立っていた。
年は三十前後と言った感じだろうか。

「ようこそ、心よりお待ちしておりました」

「あんたは一体誰なんだ?」

「そうですね、何から説明しましょうか。ここは宇宙連合の船の中とでも言っておきましょうか」

訳が分からなかった

「みんな気をつけるウキ、何か企んでるかも知れないウキよ」

皆が警戒する中、立っている男は優しい表情で微笑んだ
「コードーを探してるんでしょう?彼もここにいるよ」

その言葉に、光堂は驚いた。
ずっと探していた、こちらの世界の自分、その招待をこいつは間違いなく知っている。

「なっ、なんだって?」

「どうしてそれを?」すぐに光堂がその男に質問する

「どうしてって、ここではみんな、皆さんの頭の中の考えが分かりますよ、あなたがたの世界じゃ、テレパシーは使われてないんでしたね、ここは地球の外の世界」

「警戒はいりませんよ、なにも、とって食おうとは思いませんから、こちらに来て下さい。案内します」

皆は、次の瞬間この男が何一つ嘘を言ってなかったと実感することになった。
なんと、そこの窓にうつる景色は宇宙だったのである

「そんな、馬鹿な俺たちは夢でも見てるのか?」と光堂

「どうやらリアルらしいな」と多村

「すっ、すごい宇宙に来ちゃった」マサも驚いている

「一体どういうことウキか?」

「驚くのも、無理はないです、あなた達の世界では、宇宙に他の存在がいる事を知らされずに生活してるんですから」

ある部屋について更に驚いた。
見た事もない生き物、身体の大きな者や、頭の長い人、更には人間と全く同じ姿の存在などがたくさん居たからだ、それに人間が光輝いて見える。
この光景に一番驚いていたのは光堂とマサだった。

「光堂さんとマサさんの二人が住んでたパラダイムの地球は、他の方がたより、更に制限されてた世界だったから余計驚いてますね」

確かに多村達の居た世界では色んな生き物達と人間が共存していた。
それにしてもなんだ?パラダイムとは…

光堂は今、始めてあのピラミッドの男が言った地球は一つじゃないという言葉を理解しつつあった。

地球は無数にあるのか?
俺たちが住む地球
それに多村達の住む地球もまた地球だった
確かに自分の見て、体験した地球はひとつではなかったのである。

「わあ、懐かしい、ついに来たね」
ブロンドの美しい女性が寄ってくる。

「懐かしいって、初めてですよね」多村は言った

「ふふっぜんぶ、忘れちゃってるのね、わたしはピピ」微笑んで手を出してくれた 多村も手を出し握手を交わした。

不思議だったのは初めてなのに初めてじゃない、何処かとても懐かしい感じがしたことだった。
先程の何とも言えない調和感、安心感が再び戻って来た感覚になる。

「あのう、俺たち元の場所に帰りたいんだけど帰れるのか?」光堂は男に尋ねた。

「もちろん帰りたければ、ただ少しこちらに滞在してもらってからになると思います、あなた達は来るべくしてここに来たんですよ、あなたがたが生まれる前に私たちと約束したのです」

「生まれる前?」
一同、頭の中はチンプンカンプンだ。

「まあ俺は興味があるからゆっくりしてもいいけど、それに帰れるんだしな」多村が言った。

「私も興味あります」とマナ

「バナナがあるんならいいウキけど」

ピピがバナナをペレーに差し出す。
「これ美味しいよペレー」

「どっどうして名前を?ああ、何ともいい匂いウキーっ」

「自己紹介が遅れましたね、わたしはルーサーこの船の副司令官とでもいいましょうか」

「この宇宙船 バーナードシップは数ある宇宙連合の中の一つの宇宙船であります」

「詳しい話は後にして、みなさんの部屋に案内します、ピピ案内してあげてくれないか」

「うん」ピピの案内のもと用意された部屋に向かう。

「こちらの部屋は地球の人用の為にちゃんとトイレもつけてあるのよ」

「えっ、皆さんはしないんですか?」マナがきいた

ピピは「うん」と頷く

部屋の中はカプセルのようなベッドが人数分あり、シャワーまでついていた。

「この水は浴びるだけで、身体の肌を整えたり、傷を治してくれるのよ」

「うひゃー凄い技術ウキ、最高ウキね」
ペレーは腕にある擦り傷に水をあててみる、すると不思議な事に、みるみると傷は消え失せ治っていったのだ。

「信じられないな」驚く多村

「少し疲れてるみたいだから、休憩してからまたいつでも出て来るといいわ、じゃまた後で」

部屋の中で一同は唖然としていた。

「やっぱり予想外だったな」多村が笑い出す

「うん、これは想像してなかった」とマサ

「まさか、あの黒楽町に入ってこんな事になるとは想像以上だったウキ」

一同は声を合わせる
「だって、今は宇宙船の中」
アハハハハ

「でも良かった、みなさん無事帰れるみたいですね」

皆は、この冒険が終わりに近づいて来た事に安堵の表情を浮かべ頷く。

光堂は自分が持ってる沢山の疑問の答えを、彼らが知ってる様な気がしていた。

「じゃ、もうみんなとの冒険は終わりウキね」

ペレーのその言葉に、無事に帰れて本当はみんな喜ばしいはずなのにシーンと一瞬静まりかえった空気が流れる。
誰もが、別れが近いのを感じ、寂しくなり始めていたのだった。

空気を変えるように「何、このボタン」とマサがボタンを発見して押してみた。

「わああああっ」

部屋に突然、窓が出現して、外が見えた。
目の前に広がる光景は大宇宙。
みんなは自分達が今、本当に宇宙にいることを実感することになる。

「しかし、これから何かするのかな?」マサはふと思う

「うーん、まっせっかくだから色々見せてもらうか」光堂は興味深くもある、この現実を探求する好奇心でいっぱいだった。

だがその前に、安堵感からか、今までの疲れが一気に出てきたようで、気付いたら深い安らかな眠りについていた。

眠る前、光堂は自分に問いかける

俺は本当に帰りたいんだろうか?
もし今、もとの地球に帰ったら誰もこんな話信じないだろうな。
サルがしゃべったり
宇宙人がいたり
地球は何個もあったり
時空間を超えたり
変人扱いか、精神病院にでもいれられちまうな、などと考え、笑ってしまった。
ただ、これは少なくとも自分が目にし、体験してる事実でもある。

とにかく光堂は仲間たちとの別れが辛くもあった。

光堂は隣に寝てるマサに小さな声で囁いた
「マサは元いた地球に帰りたいか?」

マサは笑い、そして言った。
「うん、帰りたい」

光堂はそれを聞いて、ぶれ始めていた心がしっかりと決まる。
そうだ、帰ろうその為にここまで来たんだ。みんな命を懸けて

そう帰るんだ!!

まずは、明日この船を見学だ。
久しぶりに、心からの安堵感とワクワクと共に、眠りにつけた光堂であった。
皆は、今の状況を信頼しきって安心しているのだが果たして?
それは本当なのだろうか?
何も分からぬまま五人は夢の中に入っていた。


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