文太と真堂丸

だかずお

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~ 真堂丸と鬼神 ~

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ヒョォォォーオー

「良いか鬼達、こいつの仲間には今は手を出すな、俺がヤルカラダ」


「はっ」

大きな鬼神は真っ直ぐ見おろすよう真堂丸を見つめている

まんまるの獣の様な大きな目

この時、ののは恐ろしくてたまらなかった。

全身に走る戦慄

あの目は目の前の獲物を狩る時の本気の目

あんな目で直に見つめられた人間は恐怖に耐えられず

まずは身体が震えだすだろう。

そして直感的に自らの死を悟る

自身の命は鬼神の手のひらの上に転がされてるにすぎない

この時のの の頭の中に見えていたのは真堂丸も自分もここにいる全ての存在の命も、鬼神の大きな大きな手のひらの上に乗っかってるように見えたのだ。

それは何処まで果てしなく向かっても、その大きな大きな手からは決して逃げられないと思えるほどの巨大な手であった。



動物、人間が殺気をおびた鬼神に見つめられるとどうなるか?ののは何度もこの場面に出くわした。

すべての動物、生き物の本能は絶対的強者を鬼神に見出してしまった瞬間、絶望にのまれ気が狂ってしまう

以前、大きな大きな熊の集団がいた、鬼神に見つめらたその熊の集団は次々に自ら崖から飛び降り死を選んだ。

ある時は鬼神に見つめられた人間達は発狂し始め、自らの命を次々と絶ち始めた。



その目の先にあるのは絶望と恐怖

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオー」

鬼神の雄叫びが辺りに響き渡る

真っ黒な大きな瞳は真堂丸を一瞬たりとも離さず見つめている

真堂丸さんあなたは怖くないの?

その目に見つめられ 怖くないのですか?



グオオオオオオオオオオオオオオオー

「鼓膜が破れちまう耳を塞げ」鬼達が一斉に叫ぶ

鬼神の雄叫びで地面が揺れる



直後



ゴンッ ドンッ ボゴオッ



凄まじい音と共に戦闘が始まっていた



「はぇぇ」青鬼は正直驚くこととなる

青鬼が驚く事、ひとつは真堂丸と言う男の事だった。

人間が鬼神さんの動きについていってやがる

こっ、これが真堂丸

こんなに強い人間が居たのか



ドゴオオオーン

「ほぉ」

鬼神の拳を真堂丸の刀が止めていた。



「それならこの速度はどうだ」鬼神が大きな口を開く

鋭く大きな牙が視界に入る

その大きな牙は石をも軽く粉々に粉砕してしまう

凄まじい速度で鬼神の猛攻が始まる



ののはあまりに速い速度で動く、両者の動きを目の当たりにして、自分がまるで夢の中にでもいるような気すらした。

それは初めて真堂丸の戦いを見た人間誰もが感じたこと、まるで幻影でも見てるようなその動きは神業としか言いようがなかった。

信じられない、こんな風に動ける人間がいたなんて。



「道来殿、あの一瞬鬼神は何発の拳を打ってたでごんすか?あっしには6発までしか分からなかった」



「20 俺がとらえられたのはそこまでだ、とんでもねぇ奴らだよ、全く」道来の額からは汗が流れていた。



着地したと思ったら、飛び跳ね、また着地している

それが一瞬のうちに起こるので、常人には目でとらえられないのだ。

とらえたとしても、実際には何度目かの動きがたまたま目にうつったにすぎないだろう。



その時、真堂丸は一瞬下がったように見え、その直後姿が消えた

立ち止まる鬼神は右首、左脇、右手脚が一瞬重くなったと思った瞬間、自身の身体は吹き飛び、次の瞬間の目に映る光景は空だった。



己は倒れたのだ



人間によって倒されたのだ



屈辱?



この俺がひっくり返った





しかも





人間にひっくり返された



次の瞬間鬼神に湧き上がった感情



それは怒りではなかった



なんと、歓喜だったのだ



鬼神の本当の本性

戦闘の快感、いや狩りの喜びは見出されてしまった。

長らく忘れていた この感覚

絶対的強者と恐れられるようになった鬼神

今や自分を恐れ立ち向かってくる者などいない

そんな鬼神の脳裏に自身と同じく強者と出会い戦った記憶と興奮が蘇る



金閣、銀閣 なんて奴らもいたな



強くなっていく女狐嬢と戦う興奮もあった



一山



それに白龍



鬼神は笑い始める

「少しは楽しめそうだ」



驚くことに鬼神は何事も無かった様に立ち上がり、

目は純粋に狩りを楽しもうとする瞳

その瞳は童心の様に輝いていた。



道来はその鬼神の姿を見こんな事を感じていた。

真堂丸こいつは厄介な敵だ、あのまま怒り狂ってくれるくらいの奴なら、隙も生じ戦いやすい相手だった。

だがこいつは違う

怒るどころか、自身の戦いの喜びを見出してしまった

いわば覚醒。



気をつけろ

妙な胸騒ぎがする。



事実揺らがないひとつの事柄がある

鬼神から見える真堂丸は、やはりただの餌にしか見えなかった。

先ほどの動きや攻撃では全く驚かず焦らない鬼神

鬼神の立ち位置は何一つ揺るがなかった



人間は可愛いただの餌

餌が自身を打ち負かすことなど宇宙がひっくり返ってもあり得ないことだったのだ。



「さて、狩りをするか」



ゴオオオオオオオー



鬼神は喋りだす

「貴様は良くやったほうだ」



「今の世の中において、大帝国に歯向かうものなどまずいないだろう、それはただただ数のせいではない、幹部に我々がいたからだ、誰が我々に勝てる?」



「だが貴様らはその大帝国と向き合う事を選んだ、怖かったか? 恐ろしかったか?生きた心地などしなかったか?」



「烏天狗」



「女狐」



「蝿王蛇」



「大帝国の幹部を随分打ち負かした、そこまでは良かった」



「女狐嬢を打ち負かした後、おまえは永久に身をひそめるべきだった、お前が死んだのは白龍や俺に目をつけられた時、ここだけには手を出すべきでは無かった」



「残念だ」



ガキィン

自身の目の前の真堂丸の刀を鬼神は二本の指でつまんで止めた。



「良いか小僧、鬼神の強さをオシエテヤル」



その言葉に子分の鬼達が逃げ出そうとする

「やべえっ、鬼神さんが暴れるぞ」



ドゴオオオーン



真堂丸の腹に鬼神の拳が打ち込まれ吹っ飛ぶ



「真堂丸~~っ」叫ぶ文太達



直後鬼神の子分の鬼達の首が飛ぶ

ゴロンンッ

「逃げんじゃねーよ、見届けろ」



ゾクッ

吹き飛んだ真堂丸は即座に鬼神の前に戻っていた



「先生」



「うおおおおーっ」

真堂丸の凄まじい速度の刀の一撃



鬼神は笑った「これじゃあ、流石の俺の肉体にも傷がつくだろうな」

鬼神は全て見切りかわしている

「あれを全て躱している、ちっ 嘘だろう」

この光景を見て道来にこんな気持ちが浮かんでしまう。



「うっシャー」

ドゴオオオーン

鬼神の拳が真堂丸の顔面をとらえる

吹き飛ばされても、即座に鬼神に向かってゆく

「あんな、拳 常人がくらえば全身の骨は木っ端微塵になる、先生 あんた 本当に大丈夫なのかい?」

この時、鬼神の子分の鬼達は二人の強さに見惚れ、また、恐怖し動けなかった。



すると後ろによろめきながら青鬼が

「青鬼さんっ」ののが気づく



「お前達、見ているだろうこの戦い」

青鬼は文太達に語りかける



「じきに決着はつく、真堂丸は確かに強い、だが勝つのは不可能、今の状況を見れば分かる」



うるせーと叫ぼうとするしんべえだったが、それはしんべえの目からにしても同じだった、鬼神の拳を受けてる真堂丸が何度も何度も見えたが真堂丸の刀が鬼神にあたってる気配が見られないのだ。

これは、明らかに女狐の時とは違う

「良いかお前達、覚悟を決めろ じきに鬼神はこちらに向かってくる、そうなれば全滅、今なら奴が戦ってくれてるうちに逃げられる、奴とてそれが本望だろう、ここにいる鬼は俺がなんとかする、逃げろ」



誰一人首を縦に振らない

「最後の忠告だぞ」



「真堂丸は負けない」文太の言葉だった。



ドゴオオオーン

舞った埃がはれるとそこには真堂丸の刀の柄が鬼神の腹に打ち込まれていた。



一瞬動きが止まる鬼神に真堂丸の容赦ない猛攻が始まる

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ」



ゴオオオオオオオオオオーン



ドゴッ ボゴッ ザシュ ズバンッ ザシュ

吹っ飛んだ鬼神に猛攻は止まなかった



「真の兄貴ーいけーっ」叫ぶ太一



「真堂丸 いまだ」叫ぶしんべえ



「餌が調子に乗るんじゃねえ」

真堂丸の身体を鬼神の両手が掴む

その瞬間、真堂丸の刀が鬼神の身体に縦一直線に振りかざされる



ズバッッ

鬼神の血が噴き出す

「ダメだっ浅い」叫ぶ道来



「っしゃー」

鬼神の足が真堂丸の刀を地面に叩き落とした



「これが狙いだったんだ」一之助が焦る



「おおっー」大きな口を開き、鬼神の牙が真堂丸の肩に突き刺さろうとしている

その牙を両手で食い止める真堂丸

「ぐぎぎぎぎっ」



「このまま牙で貴様の肩ごと貫通させ喰ってやる」



「時間の問題だぜ、どうする?」

その瞬間だった、真堂丸はなんと鬼神の牙を押さえてた手を放したのだ。

牙が突き刺さる

ズクシュ



「諦めたか」



「ガハッ」直後に鬼神の口の中に走る激痛

真堂丸は自身の鞘を掴み、開いてる口の中に一撃打ち込んでいたのだ

「ぐはっ」

真堂丸を放す鬼神

「一瞬遅けりゃ、食いちぎらていた」道来の額に汗が流れる



直後刀を拾い 鬼神目がけてもう一撃



スパンッ

鬼神はそれを躱し致命傷は免れた、即座に鬼神の拳が横から飛んでき、真堂丸は刀で止めたが、あまりの威力に吹っ飛んだ。

ズザザザザザザーッ

ゴドオオン

地面に鬼神の牙が斬り落とされていた



「信じられん、あの鬼神さんとここまでやるとは」青鬼は驚きを隠せないでいる

まさか、これなら ひょっとしたら

ののも同じく驚いていた。



「俺がこんなに、戦いで傷を負うとは白龍以来か」

鬼神は自身の牙を拾い上げ言った。



真堂丸も立ち上がる



「続けようぜ」笑う鬼神



「ああ」真堂丸が刀を向ける



突然鬼神が何かを思い出したかの様に話しだす

「昔、大層強い人間が居た、その時 俺はある処刑方法を考え使ったんだ」



「今日はそれを使うことにしよう」



鬼神は拍手をし始める

パチ パチ パチ パチパチ パチ

「良くやった、嬉しくもあり、俺の心に芽生えたひとつの思い」



「全員処刑」

その言葉に子分の鬼達は震えだす

「俺がこんだけ、苦戦した姿を後世に残すわけにはいかん、この島にいるものは皆今日コロス」



ゾクッ

「鬼神さんっ、俺達喋らねえよ」



その発言をした鬼の首は飛んだ

「ひいいいいっ」



「貴様の仲間だろ」真堂丸が鬼神を睨む



「ああ、それがどうかしたか」



ヒョオオオオオオー

その処刑方

名付けて

「処刑岩」



「真堂丸、貴様に味あわせてやろう」



「イクゾ」



ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオーー



両者は向き合い静かな時が流れる

青鬼はひとつの巨大な岩を見つめていた、震える身体、とんでもなく大きな岩

その岩こそ処刑岩と名付けられた岩だった


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