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『想い出』
しおりを挟む「ただいま」
小学校の授業が終わり家に帰ってきた。
僕には五歳になる弟がいる
うちは母子家庭で、家にはあまりお金がなく、毎日きりきりの生活を続けていた。
母は優しく
僕らをとても可愛いがってくれている
ある時三人で、いつもよく行く近所のスーパーに行った。
すると、弟と僕はオモチャを見つける
欲しい
弟はすぐさま口にした
「ママ欲しい 欲しい」
僕も本当は欲しかったが、家の事情を知ってる僕は母の気持ちを思い、素直に口にすることは出来なかった。
母は困っていた
家にお金がないことを僕は、誰よりも知っている
そして、優しい母が本当は誰よりもこのオモチャを買ってあげたいと思っていたことは幼い僕でも分かっていた。
僕は気づかれない様に母の表情をちらりと見る。
あの困った母の表情を表現する言葉は僕には思い浮かばない
そんな母の姿を見て胸が痛くなった。
母は「ごめんね、今度絶対買ってあげるからね」
弟は周りの人や、母の気持ちなど、お構いなく、パトカーのサイレンの様に泣きだした。
「うわーん やだ やだ 欲しい」
母は弟をなだめ、僕等は家に帰った。
その間、弟は泣きやむことはなかった。
母に文句を言う弟に、僕は腹を立てていたが、同時に可愛そうに思う気持ちもあった。
本当は僕も欲しかった、でもそんな事は口にできない
きっと母は、そんな僕の気持ちも分かっていたのだろう。
母はこの時どんな気持ちだったのだろう?
母の背中姿は見ていたが、顔は見れなかった。
僕はなんだか少し胸が痛かった
転んだ時は身体が痛いのは当たり前だ。
しかし、なにも転んでもいない僕の胸は、どうして転んだ時よりも痛いのだろう。
それから数日くらいたった時
母がとても嬉しそうな表情を浮かべ
「スーパーに行こう」
そう僕らは、あのオモチャを買ってもらった。
とても
とても
嬉しかった
ぼくも欲しかったもの
弟も欲しかったもの
母の嬉しそうな顔が忘れられない
髪は、ぼさぼさ、顔をしわくちゃにして笑っている、嬉しそうな母の姿がそこにあった。
僕らは 嬉しくなり 帰り道
オモチャをもって川辺に行った。
僕はオモチャを川に流し、少しの間、手を離しては掴み、また流して遊んでいた。
その時、僕は思った。
少し手を離してオモチャを川に流すと、あたかもそのオモチャが修行を積んで、少し強くなった気がしたのだ。
僕はさっそく嬉しくなり弟に
「やってごらん、オモチャが強くなるよ」
もちろん、悪気はなかった。
弟のオモチャも強くなる気がして、同じ様にやってあげたかったのだ。
手を離し、すぐさま掴もうとしたが
「あっ、お兄ちゃん僕のオモチャがいっちゃうよ」
「あっ!!」
オモチャは流れていってしまった。
頭の中は何も考えられず、真っ白になり、手の届かない所に流れて行くオモチャを、ただただ見つめているしか無かった。
僕はとんでもないことをしてしまった。
なんてバカなことをしてしまったんだという後悔の念と、弟と母に申し訳ない気持ちが一瞬でこころの中にひろがった。
「僕のオモチャが」
弟の顔は歪み、今にも泣きだしそうな声をだした。
ああ
ああ
母親の顔は見れなかった。
自分にとってもようやく手に入れた大切なオモチャ
弟にあげるなんてこと言えなかった。
弟は泣き出した
僕も泣いてしまいそうだった。
どうしていいか分からず、弟にも申し訳なく。
僕は持っていたオモチャを離そうとせず、強く握りしめた。
せっかく買ってくれた弟のオモチャを流してしまい怒られるのを覚悟し、僕は目をつむった。
その時だった、一部始終を見ていた母は言った。
「ちょっと待ってなさい」
それから 母は、箱に入ったオモチャを握り、戻って来た。
「もう、泣くんじゃないよ はいこれ」
母親は再びオモチャを買ってきてくれたのだ。
僕は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいであったが、 叱りもせずに、すぐにオモチャを買ってきてくれた母の姿が、なんだか妙に印象に残った。
申し訳ない気持ちもあったが、優しい母に触れられた気がして、それが子供ながらに嬉しかった。
それから何日間は、母はお腹が空いてないからと言い、夕食を食べなかった。
僕には理由はちゃんとわかっていた。
あれから40年たち
母は去年亡くなった。
僕の今住む部屋のタンスの上には、あの時のオモチャが今も色褪せず立っている。
あのオモチャを見ると、優しい母を思い出し 今だに瞳が潤む。
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