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エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
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ネミル侯爵邸の表側、玄関やホールといった頻繁に客を迎える空間は、異国情緒を香らせながらも、まだしも趣味よくまとめられていた。が、館の奥にむかうにつれて徐々に趣味が丸出しになり、見慣れない品々が壁面を占拠するようになった。
遠国の部族が使う羽根付きの槍だの棍棒だの、彩色の盾だのが、廊下の両側の壁に所狭しと飾られているのは、かなり壮観だ。
ここまで入ってくる客は少ないが、複数の展示室は扉が解放されているうえ、ご丁寧に順路などという案内札が矢印付きで立っているところを見ると、ご自由にご観覧くださいということなのだろう。と、廊下の先に青いドレスが見えた。
うち沈む背に声をかけると、令嬢は飛びあがらんばかりに驚いた。
「お、王子さまっ?」
うーむ。一発で顔バレか。まあ、二年前も一年前も数日前も、新聞にさんざん肖像写真が刷られたから、別に不思議はないが。これじゃ失踪もできないな。
レースのハンカチを返すと、令嬢は恐縮して何度も頭をさげた。
「も、申し訳ございません。王子さまにハンカチを拾わせるなんてっ」
「気にしないで。落とし物も拾えないほど無能じゃないよ」
「え?」
令嬢がきょとんとする。今のはさすがに自虐がすぎたか。
「目が赤いけど……、なにか、嫌なことでもあった?」
別にナンパってわけじゃない。自分も泣きたい気分だったから気になっただけだ。令嬢はハンカチを手の中で押し揉み、視線をさまよわせた。
「……本当は、婚約者と一緒に来たのです。でも……」
ホールのほうに目をむける。
「ダメになるかも……」
令嬢が握り締めたペンダントトップは、銀のロケットだ。
ああ。もしかして、あの大公の前に並ぶ売り込みの列に、彼女の婚約者も交じっていたのか。それとも他の女性に目移りでもしたのか。ロケットの中身は、その婚約者の肖像かも知れない。
不誠実なやつだな。
しかし、その呟きは、かえってアルファレド自身の胸に落ちた。――誰が、不誠実だって? 浮気男が、なに言ってやがる……。
「ええと、君――」
「あ、失礼しました。コレット・シェリースと申します」
コレットはドレスの裾を摘んでお辞儀したが、こなれた仕草とは言い難い。
なんだか出会ったころのミリアムを思い出す。シェリースという家名は聞いたことがないので、貴族ではないのかもしれない。
「じゃあシェリース嬢……、コレットと呼んでも? 少し外の空気を吸いに出ないか。無理して、ここにいることはない」
コレットはポカンとアルファレドを見上げたが、やがて恥ずかしそうにうつむき、小さくうなずいた。
なんだ、簡単じゃないか。コレットに腕を貸し、その場を立ち去ろうとして、ふとアルファレドは会場の明かりを振り返った。
どうせ大公は、なんとも思わないだろう。
ネミル侯爵邸の表側、玄関やホールといった頻繁に客を迎える空間は、異国情緒を香らせながらも、まだしも趣味よくまとめられていた。が、館の奥にむかうにつれて徐々に趣味が丸出しになり、見慣れない品々が壁面を占拠するようになった。
遠国の部族が使う羽根付きの槍だの棍棒だの、彩色の盾だのが、廊下の両側の壁に所狭しと飾られているのは、かなり壮観だ。
ここまで入ってくる客は少ないが、複数の展示室は扉が解放されているうえ、ご丁寧に順路などという案内札が矢印付きで立っているところを見ると、ご自由にご観覧くださいということなのだろう。と、廊下の先に青いドレスが見えた。
うち沈む背に声をかけると、令嬢は飛びあがらんばかりに驚いた。
「お、王子さまっ?」
うーむ。一発で顔バレか。まあ、二年前も一年前も数日前も、新聞にさんざん肖像写真が刷られたから、別に不思議はないが。これじゃ失踪もできないな。
レースのハンカチを返すと、令嬢は恐縮して何度も頭をさげた。
「も、申し訳ございません。王子さまにハンカチを拾わせるなんてっ」
「気にしないで。落とし物も拾えないほど無能じゃないよ」
「え?」
令嬢がきょとんとする。今のはさすがに自虐がすぎたか。
「目が赤いけど……、なにか、嫌なことでもあった?」
別にナンパってわけじゃない。自分も泣きたい気分だったから気になっただけだ。令嬢はハンカチを手の中で押し揉み、視線をさまよわせた。
「……本当は、婚約者と一緒に来たのです。でも……」
ホールのほうに目をむける。
「ダメになるかも……」
令嬢が握り締めたペンダントトップは、銀のロケットだ。
ああ。もしかして、あの大公の前に並ぶ売り込みの列に、彼女の婚約者も交じっていたのか。それとも他の女性に目移りでもしたのか。ロケットの中身は、その婚約者の肖像かも知れない。
不誠実なやつだな。
しかし、その呟きは、かえってアルファレド自身の胸に落ちた。――誰が、不誠実だって? 浮気男が、なに言ってやがる……。
「ええと、君――」
「あ、失礼しました。コレット・シェリースと申します」
コレットはドレスの裾を摘んでお辞儀したが、こなれた仕草とは言い難い。
なんだか出会ったころのミリアムを思い出す。シェリースという家名は聞いたことがないので、貴族ではないのかもしれない。
「じゃあシェリース嬢……、コレットと呼んでも? 少し外の空気を吸いに出ないか。無理して、ここにいることはない」
コレットはポカンとアルファレドを見上げたが、やがて恥ずかしそうにうつむき、小さくうなずいた。
なんだ、簡単じゃないか。コレットに腕を貸し、その場を立ち去ろうとして、ふとアルファレドは会場の明かりを振り返った。
どうせ大公は、なんとも思わないだろう。
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