49 / 50
エンゲージゲーム 事故物件王子の新しい婚約者は、魔王のようです。
しおりを挟む
(49)
「レティウスさま――」
外でアードラー伯爵夫人の声がして、馬車の座席に寝転がっていたアルファレドは額に載せた手を退けた。光度を落とした魔晶石の灯りが、ぼんやりと車内を照らしている。
転移魔法で飛ばされた先は、ネミル侯爵邸の広い地所の片隅にある一族の地下霊廟だった。先刻、その墓穴から這い出してきたところだ。
「夜会は少々混乱気味ですわ。侯爵夫妻のほうは、できるだけ宥めておきました。あの様子では素直に調査に応じると思いますが、おそらく無関係かと……」
「うん?」
「なにしろ、侯爵が夫人に内緒で購入したコレクションのことから夫人のヘソクリを隠したタンスまで、洗いざらいぶちまけそうな勢いでしたので……。ところで、アルファレド殿下は?」
「中で伸びてる」
「……こういうときに気絶するのは、王子ではなく姫君の役回りでは?」
「仕方がない。あの地獄の番犬は、初めての素人にはキツイ」
「ケルベロス……、おとぎ話の怪物ではありませんか。そんなものがいきなり出てきたら、確かに慣れていない方は肝を潰しますわね。日常的にキングワームやベヘモスを刺身にしていらっしゃる方ならともかく……」
キングワームもベヘモスもマジわけわからん。あと気絶なんかしていない。それにしても、この枕やけにゴツゴツするな……。
手を伸ばして室内灯の光度を調整し、頭の下からひっぱり出したのは、枕ではなく、分厚い書物だ。表紙には『貴族名鑑』とある。そういえば夜会への道中、ケイツビーがずっと読んでいたような気がするが、なんでこんなものを……。
「できることならば生かしたまま捕えて調べたかったのだが、召喚の術式構築がめちゃくちゃでな。不安定すぎて、無理だった」
「三つ首の犬なんて、奇形でもないかぎりありえませんからね。誰だか知りませんが、随分とおかしなものを召喚したことで」
「だが、それが手がかりになりそうだ」
「私もひとつ気になる点が。ネミル邸の絨毯や壁掛けに、ヴェゼドラ様式の織物が何点か見受けられました。侯爵夫妻に聞いたところ、夜会前に内装に少々手を入れたそうです」
「魔法陣を隠していた絨毯も、新しく入れた品か」
「はい。ヴェゼドラ地方特有の織物は一部に根強い人気がありますが、彼の地はルギア帝国の属領です。テオフィルスは帝国とは正式な国交がないため、ヴェゼドラからの輸入品をあつかう商会は王都でもごく限られております。手がかりになるかと……」
「では、そちらの調査を頼む。私は使われた術式を解析する」
「かしこまりました。お任せを――」
「レティウスさま――」
外でアードラー伯爵夫人の声がして、馬車の座席に寝転がっていたアルファレドは額に載せた手を退けた。光度を落とした魔晶石の灯りが、ぼんやりと車内を照らしている。
転移魔法で飛ばされた先は、ネミル侯爵邸の広い地所の片隅にある一族の地下霊廟だった。先刻、その墓穴から這い出してきたところだ。
「夜会は少々混乱気味ですわ。侯爵夫妻のほうは、できるだけ宥めておきました。あの様子では素直に調査に応じると思いますが、おそらく無関係かと……」
「うん?」
「なにしろ、侯爵が夫人に内緒で購入したコレクションのことから夫人のヘソクリを隠したタンスまで、洗いざらいぶちまけそうな勢いでしたので……。ところで、アルファレド殿下は?」
「中で伸びてる」
「……こういうときに気絶するのは、王子ではなく姫君の役回りでは?」
「仕方がない。あの地獄の番犬は、初めての素人にはキツイ」
「ケルベロス……、おとぎ話の怪物ではありませんか。そんなものがいきなり出てきたら、確かに慣れていない方は肝を潰しますわね。日常的にキングワームやベヘモスを刺身にしていらっしゃる方ならともかく……」
キングワームもベヘモスもマジわけわからん。あと気絶なんかしていない。それにしても、この枕やけにゴツゴツするな……。
手を伸ばして室内灯の光度を調整し、頭の下からひっぱり出したのは、枕ではなく、分厚い書物だ。表紙には『貴族名鑑』とある。そういえば夜会への道中、ケイツビーがずっと読んでいたような気がするが、なんでこんなものを……。
「できることならば生かしたまま捕えて調べたかったのだが、召喚の術式構築がめちゃくちゃでな。不安定すぎて、無理だった」
「三つ首の犬なんて、奇形でもないかぎりありえませんからね。誰だか知りませんが、随分とおかしなものを召喚したことで」
「だが、それが手がかりになりそうだ」
「私もひとつ気になる点が。ネミル邸の絨毯や壁掛けに、ヴェゼドラ様式の織物が何点か見受けられました。侯爵夫妻に聞いたところ、夜会前に内装に少々手を入れたそうです」
「魔法陣を隠していた絨毯も、新しく入れた品か」
「はい。ヴェゼドラ地方特有の織物は一部に根強い人気がありますが、彼の地はルギア帝国の属領です。テオフィルスは帝国とは正式な国交がないため、ヴェゼドラからの輸入品をあつかう商会は王都でもごく限られております。手がかりになるかと……」
「では、そちらの調査を頼む。私は使われた術式を解析する」
「かしこまりました。お任せを――」
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる