めんどくさがり魔道士、スローライフのため時間魔法を習得する〜未来に飛んだら魔王になっていたのですが、私のスローライフはどこですか?〜

麦茶ブラスター

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スキップ1 世界に仇なす魔王

1-12.魔王、圧倒する

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壊す者ブレイカー】。巨大な銀色のハンマーを出現させる、とっておきの魔法だ。
 ハンマーは魔力で作り出した巨大な腕に持たせ、自由に振り回すことが出来る。

「貴様、魔王か!?」

 目の前に現れた凶器にもひるまず、素早く槍を構えるひげ面男。又の名を聖十字軍《セントール》の「Ⅸ」。

「だったら……どうするの?」

「捕縛する」

 おーおー、威勢の良いことで。

 槍をこちらに向けたまま、ひげ面男は冷や汗1つ流していない。

「ゆくぞっ!」

「えい」

 向かってきたひげ面の横っ腹にハンマーをぶち当てる。

「我の名はーーー

 ズンッ、と音がして、次の瞬間ひげ面の姿が目の前から消えた。

 数秒後、大きな水音とともに、家々の向こうででかい水柱が上がった。
 ハンマーで殴り飛ばされ、ひげ面は運河に落ちたらしい。

「おー、ナイスヒット」

 あいつは聖十字軍《セントール》の何番だったっけ?まあ、何番でもいいか。弱かったし。

「あはっ」

 なんで今、私は笑った?

 楽しいのか?

 それとも、愉しいのか?

 わずかに心を掠めた、黒い衝動は……

 ……………………
『魔王様、お戻りください。貴方は我々を率いる者。これ以上手荒なまねはしたくありません。』

「率いる?そんなこと、勝手に決めないでくれる?」

『勝手、ではありません。それが魔王に定められた役割。現に貴方は私達が救出に向かうより早く、自力で人間の檻を脱出し、ここまで来た。違いますか?』
 ……………………

 魔王。

 ……いやいや、私は大丈夫だ。

 檻を壊したのはサイクロプスだし、見張りを爆発させたのもあいつらだし。

 それに今やってることは、アンを助けるためで……


 大丈夫、なんだよな?



「魔王様!大丈夫ですか?」

 僧侶の声で我に返った。

「ああ、うん。ごめん。ぼうっとしてた」

「そうでしたか。魔王様の力、あなどっていました。このまま正面から向かいましょう」

 この僧侶、眷属しぐさが板につきすぎている。



 橋を渡って、両開きの門に手をかけた。軽い。鍵は掛かっていないようだ。

「あのさ」

 押しながら、僧侶に話しかける。

「はい?」

「私のしたことを、どう思う?」

「どうも思いません。賢者様に比べたら、あんなやつら」

「……そう」

 扉が、開いた。

 誰も、いない。

天井からぶら下がったシャンデリアは、微妙に狭いエントランスと釣り合っていない。左右にドアがあり、真ん中の階段がそのまま2階の通路に続いている。あまり豪華とはいえないつくりだ。

「こんなにあっさり中に入れるとは……」

 入り口の守衛みたいなのもいなければ、門に鍵も掛かってない。

「賢者さまー!!!どこですかーー!!」

 僧侶は頬に両手を当て、声を張り上げる。
 薄暗いエントランスに声が響くと、左右のドアが開いて何人かの聖十字軍がなだれ込んできた。皆同じ鎧を着ている。

「俺は聖十字軍のⅪ!魔王よ、おまっ」

 ぼごぉぉぉぉぉん!!!!

 先頭の男は名乗った瞬間ハンマーに殴り飛ばされ、視界の外へ消えた。

【壊す者】が持続している。10年前は一回振り回したら消えてたのに。

「私は聖十字軍のⅦ、あなっ」

 どがぁぁぁぁぁん!!

 二人目は打ち上げられて天井にめり込んだ。

 正直に言おう。私は吹っ切れていた。

 なにしろ、「超魔の才」をここまで自由にふるえる機会は今まで無かったのだ。
 何番だろうがどうでもいい。まるで相手にならない。

 向かってくる奴らをとにかく吹き飛ばし、叩き、殴った。

「ふう……」

「困りますね。これ以上大切なものたちを傷つけられては」

あらかた全員を戦闘不能にしたとき、上から透き通るような声が聞こえてきた。

 いつのまにか、エントランスの中央から伸びる階段の一番上に、美少女が立っている。私に負けないくらいつややかな金髪をなびかせた、修道服の美少女。まるいほっぺに「Ⅳ」と彫り込まれていた。

「『聖女』……」

 僧侶が声を震わせる。すごい人なのか?

「おや、貴方は……なぜ魔王と一緒に?」

「賢者様を助けるためです。あの人はどこですか!」

「貴方も神にそむくのですね……」

『聖女』が緑色の目を閉じ、両手を合わせた。

「来る……!」

 僧侶を私の後ろに下がらせ、ハンマーを構える。

「導きの手よ。【聖操《セントローラー》】」

 『聖女』の詠唱が終わると、彼女の両手が光り始めた。

 そして、壁にめり込んだり床で伸びたりしていた聖十字軍がつぎつぎと起き上がり、私の方へ突っ込んできた。

「げっ、ゾンビ?」

よく見ると、皆白目をむいていたり、目が開いていなかったりする。さっきと違って体がうっすらと光っている。

正直もう、いちいちハンマーで叩く必要は無い。

【転がるやつ、よろしく】

現れた巨大な毛玉はゾンビもどきをボーリングのピンのように吹っ飛ばしていき、階段を上って『聖女』に突っ込んでいく。

が、『聖女』の手から出た変な光に打ち消されてしまった。

「で、まだやる?」

「流石は魔王……ただの人形では歯が立ちませんか」

『聖女』は淡淡と言い、扉の奥へ消えていく。仲間を人形呼ばわりとはひどいやつ。追いかけるだけ無駄だ。

「早くアンを探さないと……」

 ドォォォォ……ン……

 自分に言い聞かせるように呟いたとき、どこかで爆発のような音がした。
 建物全体がわずかに揺れて、おさまった。

「なんでしょう、今の音は……」

「何かが爆発したみたい……」


 爆発?


 …………………………
「あの!」

 しびれを切らして大声を出した瞬間、見張りっぽい人がした。跡形もなく吹き飛んで、煙がもうもうと上がる。焦げ臭い臭いが鼻をつく。
 …………………………

「まさか、ね」

 なにか、嫌な予感がする。
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