愛の言葉

佐々

文字の大きさ
上 下
29 / 39
愛の言葉

29

しおりを挟む
 背後に立った如月の腕が体に回される。
「お、おい」
「市川さん、体冷たい。寒いですか?」
「馬鹿、お前が暑いんだよ。先にシャワー浴びてくれば?」
 密着したところから如月の体温が伝わってきて落ち着かない。おまけにシャツの上から体を撫でる手が妙にいやらしい。
「おい、俺包丁使ってんの。危ないから離せ」
「さっき、電話で市川さんがご飯作ってくれるって聞いたとき、ものすごく嬉しかったのに、その後すぐに不安でたまらなくなりました。帰って市川さんがいなかったらどうしよう。昨日のことも、全部なかったことにされたらどうしようって」
「お前それ、心配しすぎだろ。だいたい、昨日とか俺から誘ったようなもんなのに」
 自分で言ってて恥ずかしくなる。
「それでも、やっぱりあなたは、俺が好きなわけじゃない」
 如月は溢れ出しそうな感情を必死に押さえ込もうとしているようだった。こいつのこういう姿を目の当たりにする度、俺はたまらなくなる。
「市川さん……」
 耳元で俺を呼ぶ如月を、今すぐ抱きしめ返して、俺もお前が好きだと告げればこいつは救われるのだろうか。手立てはわかっていても実行に移すことはできない。俺はこいつと同じ気持ちで、同じ重さで如月を好きなわけではない。
「お前やっぱり先に風呂入ってきな。体、熱いよ」
 正確には先程から尻のあたりに押し付けられている如月の股間が熱い。
「汗くさいですか? 俺」
 背後から回した手で俺の腰や腹を撫でていた如月は、首筋に唇を寄せてきいた。
「いや、むしろなんか甘いにおいがするけど」
「ああ、ショコラティエに連れていかれたんですよ。青山にある、女の人しかいないような店」
「へえ、で、なんか食ったのか?」
「はい。俺だけ頼まないわけにはいかないなあと思って、コーヒーと、ケーキを」
 店内に漂う甘い香りがうつったのだろうか。如月からは本当にチョコレートのにおいがする。
「市川さん、甘いもの好きだって言ってましたよね。なんかお土産買ってくればよかった。ごめんなさい。気が回らなくて」
 腰骨をさすっていた手のひらが下半身に伸びる。
「お、おいっ、ちょっと待てって。俺手、洗いたいんだけど」
 先程から手が玉ねぎ臭いのが気になっていた。
「どうぞ、洗って下さい」
 如月が耳元で言う。くすぐったくて肩を竦める。それでも俺はまな板の上に包丁を置き、手を洗った。その間も如月の手は短パンの上から俺の股間を触り、もう一方の手はシャツごしに乳首を撫でていた。
「ちょ、ちょっと」
 少しでも気持ちがいいと感じてしまうのが恥ずかしくて、濡れた手を拭けないままシンクの縁を掴む。
「昨日ここに触る余裕がなくて残念でした。前にしたときすごく良さそうだったのに」
 左側の乳首をつねられる。
「いっ、痛い、如月」
「痛くされた後で優しく撫でられるのがいいんでしょ?」
 たちあがっているのがわかる先端を指の腹で優しく撫でられると確かにぞくぞくした。
「やめろって……」
 如月に揉まれている股間も気持ち良くて声が震えてしまう。
「市川さんやらしい……」
「やらしいのはお前だろ、っていうか、さっきから当たってるんだけど……」
「当ててるんですよ。ねえ、これ、市川さんのお尻にこすりつけていってもいい?」
「は、はあ!?」
 またなんつーとんでもないことをさらっと言うんだこの馬鹿は!
「ふざけんな! 駄目! 絶対だめ!」
「ちょっとだけでも駄目ですか? ちょっと擦るだけ」
「駄目駄目駄目! つーかなんだよちょっとって! 絶対ちょっとじゃすまねえだろ!」
「ほんとにちょっとだけですから。絶対入れたりしないし」
「入れるってなんだよ昨日の今日で入るかアホ!」
「じゃあ時間をかけてじっくり広げて入るようになったら入れてもいいの?」
「誰もそんなこと言ってねえだろ! もう腕離せ!」
 後ろからがっちりと腰を抱かれていて身動きが取れない。
「やだ。俺も市川さんとえっちなことしたい」
「やだじゃねーよガキがお前は! つーか今まで散々やっただろうが!」
「俺はやってないよ?」
 言いながら如月は俺の短パンに手をかける。
「ちょまっ、待った!」
「待てない。市川さん絶対逃げるもん」
「当たり前だろ! 脱がすなって!」
 如月は素早く俺の短パンと下着を引き下ろした。剥き出しにされた尻にスラックスを押し上げる如月の股間が押し付けられる。
「ひっ、やだやだマジかんべん無理無理無理」
 このまま行為を許したら男として大事な何かを失う気がする。逃れようにも相変わらず如月の腕はしっかりと俺の腰を押さえ付けている。
「市川さんお願い。絶対気持ち良くするから」
「無理だろ! ていうか気持ち良ければいいとかそういう問題でもねえし!」
「だって市川さん、俺をセフレにしてくれるんでしょ? だったらこういうことしないと」
「俺にも心の準備ってもんがあるんだよ!」
「この程度で準備が必要ならいつまでたってもセックスなんかできませんよ。むしろ本番をするための準備でしょこれが」
「あーもうほんとにお前は!」
 尻の間に押し付けられる如月の熱くて固いものの感触が生々しい。不安のような恐怖のような感情が沸き上がってきてシンクを掴む手が震える。
「ねえ、市川さんのここもちゃんといかせてあげるから、やらせて?」
 ちょっと反応している俺の性器に指を絡めながら囁かれ、俺は自分を落ち着けるために深呼吸をした。
「わかった……」
「えっ、いいんですか?」
「よくはない、けど、いいよ……」
 もう自分で言ってて意味がわからない。
「嬉しい。市川さんのお尻でいけるなんて」
 如月の両手が俺の尻を掴む。
「うわっ、ちょ、ちょっと、揉むな!」
「だって、どうしよう……俺すごい興奮してる」
「わ、わかった、わかったから」
 あーもうどうしていいかわかんねえ。なんか泣きそうだ。
「市川さん……」
 後ろでなんかやってると思ったら尻の間に熱いものが触れた。これは……直に……。
「もうちょっと、脚、閉じられますか?」
「あ、ああ……」
 太ももの隙間に無理矢理性器を捩込まれる。そのままゆっくり腰を引かれると背筋が震えた。
「く、くすぐった……」
「気持ちいいです。やばい、すぐいきそっ……」
 腰を掴んで速めに動かれると如月の張り詰めた性器が俺の袋のほうまで刺激してもどかしいのにちょっと気持ちいい。
「あ……う、んっ」
 シンクを掴む手に力を込めて、歯を食いしばる。ぬるぬるした如月の性器が俺の尻の狭間を行ったり来たりする。
「声、出していいですよ?」
「ん、なの、出せるかっ……」
 両手で腰を掴まれ、如月の方に引き寄せられる。AVで女が後ろから犯されているみたいな格好に恥ずかしくて顔が熱くなる。シンクの縁を掴み、顔を伏せてひたすら耐えていると如月の手が俺の性器に触れた。
「うっ、くそ、触るな」
「だって、市川さんのもたってる。一緒に気持ち良くなりましょう?」
 太ももの間の柔らかい皮膚を擦られながら、勃起した陰茎まで扱かれる。優しく撫でるような動きから、だんだん摩擦を強くしていって、耐えられずに濡れ始めたところでまた緩やかな愛撫に切り替えられる。
「んっ、く……」
 ぬるぬると先端を撫で回す指がたまらなくいやらしい。背筋が震えるような快感に、思わず目を閉じる。
「市川さん、好きです……すごい好きっ……」
 如月の切羽詰まった声が聞こえる。そんな風に告白されるとこちらまで切ないような気分になってくる。今までより激しく腰をぶつけられても、乱暴なくらいの手つきで性器を扱かれても文句など言えなかった。俺はただ歯を食いしばって声を殺し、やがて放たれた如月の精液が下半身を濡らす不快感にも黙って耐えた。
しおりを挟む

処理中です...