俺は、俺が死ぬ運命を認めない!! ~死亡後に発現する魔術~

羽田 共

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俺は、俺が死ぬ運命を認めない!! ~死亡後に発現する魔術~(短編)

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「将来何になりたいの?」

「う~ん、悩むなあ。アイス屋さんもいいでしょ。お医者さんもいいなあ……。」

「ふふっ、なんでも頑張ればなれるわよ。」

他愛もない質問。
親子が並んで仲睦まじく会話をしていた。

二人で買い物に行った帰路である。

少女の小さな手には良い子にしていたご褒美にと、買ってもらったアイスが握られていた。

どこにでもある普通の光景。

一つ読者の皆さんの世界と異なっている点があるとしたら、
この世界には魔術があるということだ。

アルムガルド王国。

王国歴128年3月末日ー。

科学の発展の代わりに魔術は急速に進化してきた。

そして、魔術師という職業もある。

このアイス屋というのもジュースを凍らせてできているのだが、
この世界には冷凍庫は存在しない。

よって、人の精神エネルギーであるエーテルと呼ばれる魔術の源泉から、
温度を下げる魔術が用いられて生成されていた。

医者というのも、怪我や病気を魔術で治療を行うのが主であり、外科的手術などは存在しない。

つまりは、この世界は魔術で成り立っていた。

少女はアイスに気を取られ、頬張りながら歩いていると、男と激突した。

「痛てーな! あん!? どこ見て歩いているんだコラ?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

親子はその柄の悪そうな男達に謝罪をした。

ぶつかったのは男一人だったが、他にも二人のチンピラがその場にはいた。

周りの通行人達も助けてはあげたいが、相手が悪い。
厄介ごとに巻き込まれたくはないため、
この親子を助けてあげることができない。

「おい、これアイスがついちゃってるじゃねーかよ! 
クリーニング代寄越せや。」

連れの男が母親の体を上から下を舐め回すように眺めた。

「待てよ、嬢ちゃんがやった事だ。許してやろうぜ。」

急に連れの男は主張を変えた。

「で、でもよー、このズボン新品なんだぜ?」

「あー、代わりにあれだ、お母さんちょっとそこの路地裏まで来てもらおうか。
その間お嬢ちゃんはここで待ってな!」

そう言って、路地裏を指す。
その路地裏は、先が全く見えない暗闇で続いていた。

この辺りはアルムガルド城の近辺に位置するが、
城下の街のように治安が良いわけではなく、
また、そこまでの繁栄はない。むしろ、その逆。
周辺は貧困層の住民であふれていた。
アルムガルドの光と闇。スラム街に近い場所である。
こういった輩がいるのも頷けた。

「へへへ、そういうことか。それならしゃーないか。」

母親は察する。自分の身に危険が迫っていることを。

「すみません、お金を払います。許してください。」

「母親なら、子供がやったことに対して責任を取ってもらわないとな……」

その時、男達の一人の肩にトントンと背後から肩を叩かれる。
そして、男が振り向いた瞬間に、顎を思いっきり殴打された。

その男は地面に伏せる。

男二人は振り返り、その殴った相手を睨みつける。

「テメー! 何しやがる!」

殴りかかった男は少年であった。
母親の目から見ても、まだ10代半ばくらいであろうと想像できた。

ただ、その少年は普通の少年ではないようだ。
何故なら、軍服を着用しているからだ。

「おっさん達、ちょっとズボン汚されたくらいでやり過ぎじゃない?」

「テメー、軍の狗かよ!! ハッ、たかが一人で何ができるよ?」

少年が殴った男も顎をおさえながらも立ち上がってくる。
軍人といっても少年。
腕っぷしが弱く、男にはあまり効いていなかった。

「マジかよ、立ち上がんのかよ。武術訓練でクロエから教わりまくったのに。」

他の男一人がいつの間にか少年の後ろに回り込んだ。

男達は気づいていない。

この少年はただの歩兵ではない。

少年は自己の精神エネルギーであるエーテルを消費して詠唱した。

肉体強化ストレングス!!」

文字通り、短時間の間、自己の脚力や腕力を高める魔術である。
少年は武術には精通していなかったが、チンピラ程度ならばこの魔術で充分。

まずは退路を絶っていた後ろの男に回し蹴りをかます。

魔術で自身の脚力を強化しているため、一般人にはとんでもない破壊力となる。

「ぐおっ!」

そう言って倒れこむ。

続け様に前方の男の腹にも正拳突きを食らわせた。

「うぉっ!」

二人は唸りながら倒れ込んだ。

「クソっ!! テメー、軍魔術師ウィザードかよ!! 覚えてろよ!!」

そういいながら最後の一人は、失神している二人を肩で支えて、
しょぼしょぼとこの場から離れていった。

「ふぃーっ、怖かった……、でもなんとかなってよかったなお嬢ちゃん!!」

そういって少年は親子にくしゃっとした笑顔で微笑みかけた。


少女は男達がいなくて安堵したのか、今になって泣き出した。

「お兄ちゃん、ありがどーぉ。」

母親は何度も何度も深く頭を下げた。

「ありがとうございます、ありがとうございます! 感謝しても仕切れません。
どうお礼を申し上げれば良いか……」

「あー、お礼はいらないんですけど、ここのホテルどこにあるかわかります?」

そう言って、地図を母親に見せる。

「ここでしたら、うちの近くになりますのでご案内します。」

「お、本当ですか!? ラッキー!!」

「あの失礼ですが、お名前はなんていうのですか?」

母親が少年に尋ねる。
恩人である方をなんて呼べばいいのか迷っていたのであろう。

「俺は、ネロ=チャップリン。明日、軍魔術師ウィザードになる予定の者です。」

…。
……。
………。


少女はいつの間にかネロに懐いており、
手を繋いでホテルまで向かった。
無理もない。
少女からしたらチンピラ共に制裁を下した正義のヒーローにみえたのであろう。

「では、今日こちらに来られたのですか?」

「そうなんですよ、初めて王都に来たんですが、いやー、広いっすね。
 明日アルムガルド城で俺たちの入隊式があるんで、
 前乗りして、ホテルに泊まろうとしたんですけど、
 場所が全く分からなくて。」

「お兄ちゃんは、軍人さんなの??」

「そうだねー、厳密には、明日から軍魔術師ウィザードになる予定だね。」

軍魔術師ウィザードってなーに?」

「そうだよねー、わからないよね。
うーん、魔術を使って、みんなを悪いやつから守ったり、助けたりする仕事かなぁ。」

「へ~、すごいんだねー!」

そのような会話をしているとホテルの前に着いた。

「本日は本当にありがとうございました。」

母親は娘に、再度感謝を伝えるように促した。

「お兄ちゃん、ありがとう!!」

「いえ、当然のことをしただけなので!
 本日中はこのホテルにいますので、何かあれば言ってください。」

そう言って、ネロは親子の背中を見送った。

背中が見えなくなったことを確認し、
ホテルにチェックインをして、部屋へと案内される。

ここまでの旅路で疲れたのか、ネロは部屋に入るなり、
ベッドへと倒れこみ、深い眠りへと誘われた。

 ◆◆◆

第1魔道具倉庫ー。
かつて、この倉庫は、北海の向こうに位置する軍事国家ブリステンより、
輸入してきた魔道具を保管する軍事施設の一つであった。
しかし、現在では、魔道具倉庫は各軍事拠点内に作られており、この倉庫は廃墟となっていた。

チーム”東欧の鷹”は、この廃墟となった倉庫を拠点として活動していた。

「すみやせん、東雲しののめさん。
 軍服を着た少年の軍魔術師ウィザードに絡まれまして、2人はこのざまです……。」

チンピラは、チームを仕切っているボスに報告をした。

「おいおい、軍人とはいえ、たかが少年兵だろ?
なにやられてノコノコ帰ってきてやがるんだよ、あぁ!?」

そう激高して、近くにあったテーブルを蹴りとばす。

「すみやせん、すみやせん。」

「チッ、これ以上舐められたら、俺らのメンツをつぶすことになるぞ!!」

最近は新規勢力も台頭してきており、自分たちの影響力が落ちていることを痛感していた。
正にチンピラたちのチーム”東欧の鷹”は崖っぷち。
片翼をもぎ取られたような状態であった。

「しょうがねー。どんな手をつかっても、その少年兵をここに連れてこい。
元東欧諸国 軍魔術師ウィザードである俺様が殺してやるぜ。」

「へい、わかりやした。」

ネロの背後には危険が迫っていることを当人は知る由もなかった。

 ◆◆◆

ドンドンドン。

ドンドンドン。

ホテルの部屋扉をノックする音でネロは起こされる。
いや、厳密にはノックではない。
ノックは、入室に伴う際に相手に気づきを与えるマナー。
今鳴っている音は、扉を破ろうと叩かれるほどの大音量である。

余程の緊急事態であることがネロにも把握できた。

「うぅ~、は~い! ちょっとお待ちを~。」

ネロはそういうと、扉を開けた。

扉を開けて入ってきたのは、先ほどの母親であった。

「夜分遅くに申し訳ありません!!
家の子が攫われてしまいまして、ネロさんに助けていただきたいのです!」

怒涛の勢いでまくしたてられる。

「お、落ち着いてください、お母さん! 一体何があったんですか?」

「じ、実は……」

そういって母親は口を開いた。

……事情は、把握できた。要約すると次のようになる。
親子は問題なく帰宅したらしいが、
どうやって家を特定したのかは分からないが、
チンピラどもが押し掛けてきたらしい。

そして、チンピラが少女を背中に抱え、
軍や警備隊には報告するな、
先程の少年の軍魔術師ウィザードを第1魔道具倉庫に連れてこいという話だった。

「許せねえ!!」

沸々と怒りが沸き上がる。

「お願いします! お願いします! 家の子を助けてください!!」

そう言って、母親はネロの膝に縋り付いてくる。
藁にでも縋りたい気持ちであろう。
母親はネロの膝を強く、強く握りしめる。

「俺に任せて、安心して、ここで待っていてください。
 すぐにお子さんを連れていきますから。」

ネロは軍服ズボンの右ポケットに手を入れて、アレがあるかを再度確認する。

大丈夫だ。問題ない。

ネロはそれを握りしめて、ホテルの自室から飛び出した。

 ◆◆◆

少女は倉庫内に縛られて転がされていた。
悲鳴、叫び、助けを求める声を発する。
だが、猿轡(さるぐつわ)をされており、その悲鳴は外へと漏れない。

目には、涙を浮かべている。

親に会いたい。
父に。母に。
もう、助からないかもしれない、もう、親に会えないかもしれない。

そう思うと、さらに涙が溢れてくる。

「おい、うるせーぞ! ガキ!」

チンピラのうちの一人が少女に唾を吐く。
そのチンピラは少女の前に座り、
軍用ナイフの腹を少女の頬にペチペチと当てた。

それは、いつでも殺せるという威圧。

少女はこれまでに感じたことがないような恐怖を覚えて、お漏らしをする。

「ハハ、こいつ漏らしたぞ!」

ギャハハと他のチンピラ共も笑う。

「五月蠅いっ!!!」

リーダーである東雲はチンピラ共に一喝する。
倉庫に転がっている木箱の上に座り、
両手をあわせながら精神を統一していた。

そして、倉庫の入口の方向から足音が響く。

「来たか……。」

「俺はぁあああああ、ネロ=チャップリン!!
お前らを牢獄へとぶち込んでやる!!!」

これは臆病である自己への鼓舞。決意。

チンピラたちが倉庫の入口へと集い、ネロの周囲を囲む。
その人数は優に20人を超えていた。

ネロは右手をチンピラ共に向けて魔術の詠唱を始める。

「我、業火により、侵略すー。火炎フレイム!!」

右手から火炎放射器のように炎が吹き出す。
消費エーテル量を抑えることで、数メートル規模の火炎放射となる。
右手を掲げたまま、ネロは自分を軸に弧を描いた。

ネロの周囲から叫び声や悲鳴が聞こえる。

「熱っ、あちー!!」
「や、やめてくれー!!!」

そういいながら、チンピラ達はネロから距離をとった。

そんな中、命知らずの軍用ナイフを所持した一人のチンピラがネロに果敢に突っ込んでいった。

ネロはまだ正式に軍魔術師ウィザードではない。
この状況であれば、ネロに正当防衛が認められるではあろうが、
不殺にできることならばそれに越したことはなかった。

油断。
軍魔術師ウィザードと一般人という戦力差による油断である。
また、予想よりも人数が多く、全員の動きまで把握できなかったことも一因であった。

ナイフはネロの横腹を貫く。

「グっ!!」

ネロはかなりの量の吐血をする。
致命傷に伴い、炎の威力が弱体化した。

すかさず、他のチンピラ達もネロの後方へと回り込み、ナイフを刺す。

刺す。
刺す。
刺す。

「……ハハっ、やっぱいてーな、こんちくしょう。」

ネロを最後の力を振り絞って呟く。

そして、前のめりになって倒れた。
大量の出血により、辺りは真っ赤に染まった。

「フンっ、軍魔術師ウィザードとか言いやがるから、
 どんだけのもんかと思ったが、大したことなかったな!」

「へへっ、そうですね、東雲さん!」

東雲とチンピラ共は高々と笑った。
ネロは、誰がどう見ても万人共通で死んでいた。

「フーーーッ、フーーーッ!」

猿轡をされている少女は言葉にならない叫びを発した。

「さて、この少女も一部始終を見てしまったわけだし、殺しますか?」

そういって、チンピラは一歩、一歩と少女に向かって歩みを進めた。

だが、ここで不可思議なことが起きた。

「な、なんだ……何が起きている!?」

チンピラ共が騒ぎ出す。

ネロの傷がみるみる塞がっていく。
今まで、ナイフで刺された跡はすべて跡形もなく消え去る。

「よいしょっと。」

そして、ネロは立ち上がった。

「て、てめー!! 何をしやがった!!!」

チンピラはネロに向かって怒鳴る。

「ん? 治した。」

ネロはあっけからんと言った。

東雲は動揺した。
同じ魔術師だからこそわかる。
一瞬で今の刺し傷すべてを修復する魔術など存在しない。
仮に自己修復セルフヒーリングであっても、死んでから詠唱は不可能。
仮にできたとして、あの刺し傷全てを修復など不可能。

ネロを殺した。
死んだことには間違いない。で、あればまた同様に殺せばいいだけのこと。
東雲はどういう手品なのかはわからなかったが、
今と同じプロセスを繰り返せばいつかネロは息絶えると確信していた。

よって、チンピラ共全員に命じた。

「てめえら、刺せ! 刺しまくれええええええ!!!」

その命令を受けたチンピラ共はナイフをネロへと殺意をもって向けた。

「これで……終わりだあああ!」

しかし、先程、腹を背を足を腕を肺を首を、突き刺したはずのナイフはネロの体を貫けない。
刃先がネロの体を突き刺す直前で止まっていた。

チンピラはさらに力を込めて、無理矢理貫こうとするが、
ナイフが震えるのみでかすり傷一つ負わすことなどできなかった。

「う、うごかねえ……。」

そして、ネロは呪文を唱えるかのように、言葉を発した。

「俺は、ナイフで一度刺殺されているー。ナイフで刺殺されて死ぬ運命を、俺は認めない。」

全てのナイフが静止する。
時間が静止しているかのような静寂な時が経過した。

この奇跡を目の当たりにして、
ネロを包囲していたチンピラ共は戦意喪失した。
皆一斉にナイフを地面へと落とす。

カランカラン、と乾いた音が倉庫内に響いた。

だが、東雲だけは戦意を保っていた。
そして、気がついた。
この奇跡を起こせるのは、魔術の中でも一つのみ。

「糞がああああ、神具しんぐか!!!!」

神具とは、特殊能力を付与させてイメージ化することにより、
通常では起こりえない効果を発揮することが可能となる武具や防具である。

刀や剣、弓や鎧など様々な道具に特殊効果を与えることができる。
だが、ネロにはそのようなものは一切身に着けていなかった。

では、どこにあるかというと、
ネロの軍服ズボンの右ポケットに神具は入っていた。

それは、ポケットに収まるサイズの達磨。

特殊効果は、エーテルを予めこの達磨に蓄積しておことで、
自分の心臓が止まったことを契機に自己修復セルフヒーリングの魔術を急速発現させるというもの。
膨大なエーテル量があって初めて実現できる神業である。

また、これだけでは、魔術や武術が他の軍魔術師ウィザードに劣っていると考えたネロは、
もう一つの付与効果を付けた。

それが、”本効果が発生した場合、同日内で凶器・死因が同一事象である殺害方法を回避できる”といったものである。

「このっ! エリートのお坊ちゃんがあああああ!!!」

そう。神の御業である神具は万人が創造できる訳ではない。
創造が可能なのは、軍魔術師養成学校を卒業しているか、軍隊で受勲している者のみ。

東雲の激高は頂点に達した。そして、東雲は詠唱する。

「我、業火により、侵略するー。火炎フレイム!!」

先程、ネロが唱えた魔術と同魔術を詠唱する。
魔術に莫大なエーテル量を込める。

そして、ネロとは比較にならないほどの熱量と放射距離を実現した。

「さすが、東雲さん!! さっきあいつが放った魔術と同じはずなのに全然威力が違うぜ!!」

チンピラ達は、自分たちのリーダーの実力を知り、歓声を上げた。

「くそっ! 肉体強化ストレングス!!」

ネロは、まさかチンピラの中に魔術師がいると推測できておらず対応が後手に回った。
とりあえずは採れる手段として、脚力の強化による回避を選択する。

ネロはバックステップによる後方への緊急離脱により、入口付近まで後退した。

東雲までの距離がひらく。

そこで、ネロは驚愕の行動にでる。
先程の火炎フレイムを詠唱し始めたのである。

「バカか!! さっきの火炎フレイムで、てめーの威力と効果範囲は折り込み済みだ!!」

そう言い放ち、東雲は二歩程下がる。

この距離であれば、東雲の軍魔術師ウィザードの経験からセーフティーゾーン。

仮に保有しているエーテル量が最大レベルのLV5であったとしても、
火炎フレイムでは届かない。

東雲は、次の切り札であるLV4魔術を詠唱して勝ちだと確信する。

火炎フレイム!!」

詠唱を一節唱え、火が轟々と発現し始める。

ネロは東雲に対して叫んだ。

「一ついいことを教えてやるよ。俺の最大エーテル保有量は、
 上限値LV5の中でも群を抜いている。
 ……LV5+だ!!」

刹那、炎が餌を狙いすました鷹のようなスピードで東雲に向かって燃え広がる。
ネロは魔術に込められる最大量のエーテルをこの魔術に賭した。
その威力、効果範囲は上位レベルの魔術比較してとなんら遜色ない。

「ぐあああああああぁぁぁ!!!」

東雲の身体が炎に包まれる。
東雲は、自分の体を回転させて、炎を消そうとする。
近くにいたチンピラ達も己の上着を脱ぎ、
それを東雲に叩きつけることで、着火した炎を消火しようとしていた。

ネロは歩一歩と少女へと駆け寄ろうと走った。
東雲の取り巻きとなっていたチンピラ達は、
ネロに敵うはずもないというのが身に染みて理解できた。
よって、ネロに道を開ける。

ネロは少女に駆け寄り、すぐに手首に縛られた縄と猿轡を振り解く。
そして、精一杯の安らぎの言葉を投げかけた。

「もう、大丈夫だから!」

ネロはくしゃっとした笑顔を見せる。

「お兄ぢゃあああん!! 怖がっだよおおおお!!」

少女は泣きながら、ネロの腰に捕まった。
ネロは、頭を撫でながら、少女と一緒に倉庫の入口へと向かう。

倉庫の出口は入口と同一。
この一箇所しかなかった。

チンピラ共も二人を見送る。
戦意など一切なかった。ただ一人を除いては。

それは、火傷により重症と化している東雲である。

仰向けになりながらも、左手をピストルの様な形にして、人差し指を立てる。
人差し指の向き先は、ネロと少女である。

そして、東雲は詠唱を開始した。

「我、汝に業火の大玉を連らなり放つー。」

ネロはこの詠唱に気がついた。
だが、打つ手がない。こちらも防御魔術を展開したいが、詠唱する時間もない。

それに、仮に詠唱したとしても、この魔術は火炎連弾ラピッドファイア
LV4の上位魔術に該当し、高熱量の巨大な炎の球体が連射される。

防御魔術じゃ、少女を守りながら、防ぎきれない。

だから、決めた。
自分を犠牲にするしかない。
前にいた少女の背中を押して、倉庫から出した。

「えっ!?」

少女は、唐突に背を押されたため、前に倒れこむ。
少女の瞳には、満面の笑みのヒーローの姿が映っていた。

そして、ネロは入口の重厚感のある引き戸を閉めた。

それは閉めるのと同時であった。東雲は咆哮する。

火炎連弾ラピッドファイア!!」

東雲の人差し指から巨大な炎の球が発現し、倉庫の地面が漆黒色に焦げる。

ネロは小型の太陽に背を向けている。最早避けることは敵わなかった。
そこで、ネロは右ポケットにあったそれを遠くに投げる。

そして、ネロは蒸発した。
ネロという存在が跡形もなく消えた。

「ハ! ハハハ!! 勝った!! 勝ったぞ!
俺が最強だああああああ!!
神具創造者に勝った! 勝ったんだ!!」

東雲は絶叫した。

チンピラも認めざるを得ない。
東雲という男の執念が勝(まさ)った結果であると。

……。
……………。

だが、東雲は違和感を覚える。
最後のネロの死直前の行動はなんだったのか。

なにかを投げ捨てていた。
これから死ぬという人間があの様な行動を取るのだろうか?
根底から間違っている気がする。
であれば、投げるという行動になにか意味があったはずなのだ。

投げることでなにかを炎に巻き込まれない様にするため?
なにを??

思考を巡らせる……。
そして、たどり着く。

結論に。

「クソガァああああああ!! 神具か!?
 その神具を壊さない限りあいつは生き返るのか!?」

あくまで東雲の予想。推測の域を出ない。
だが、この男は、最期の最後で慎重であった。

よって、ネロがなにかを投げ捨てた、
いや、なにかを炎に巻き込まれない様な場所へと移した方角に向けて、
再度エーテルを込める。

この火炎連弾ラピッドファイアという魔術の特徴は、
一度詠唱すれば3発までエーテルを消費するのみで、詠唱破棄可能であることである。

そして、再度魔術が展開される。

炎の球が轟音を立てながらあらゆる物を巻き込み、溶解しながら進んでいく。

が、進んだ先に人影が揺らめく。

「俺は、魔術の業火で一度焼死されているー。同魔術で焼死されて死ぬ運命を、俺は認めない。」

人影がそう呟くと、炎球は消え去る。

「くそッ、くそッ!!」

東雲は、再度エーテルを消費して、火炎連弾ラピッドファイアを発現させるが、無駄だった。

同様に消滅する、

そして、ネロは詠唱する。

肉体強化ストレングス!!」

一気に全身に火傷を負い、転がっている東雲との距離を詰める。
そして、ネロは東雲の頭を踏みつけた。

「俺の神具は、七転八起。達磨の神具だ。
この神具が無事であり、達磨に蓄積されたエーテル量が最大の時のみ発動する。
一度発動すれば、発動から24時間限定で、7回死んでも自己修復セルフヒーリングで蘇る。
……。
あと、5回。
あと5回殺さないと、俺は死なないぞ?
その間に貴様ら全員の息の根を止めることなんて至極簡単だ。
……次、あの親子に手を出してみろ、俺の全ての命をはたいてでも、貴様らを殺す。何度でも、何度でもだ!!
わかったな!?」

東雲も含めこの場にいる全員が阿鼻叫喚となる。
最早、戦う力など残っていない。
彼らに残っているのは、悪魔を呼び起こしてしまったという恐怖心のみである。

普段のネロからは考えつかない言葉の暴力。
それだけ、ネロは関係ない親子を巻き込んだ事に腹を立てている証明であった。

「はい……、もう手を出しません。このチームは解散します。」

東雲の一言で決着がついた。

……。
…………。

ネロが倉庫から出ると、少女の姿が見えなかった。
不安になったネロは、全力疾走でホテルの自室へと戻った。

「自室に連れて帰る」と、母親と約束を結んでいたため、
ネロはホテルにいるであろうと推測した。

自室の扉を勢い良く開けた。
そこには、抱擁をしている親子の姿が目に映った。

「おにぃちゃ~ん!!」

こちらに気がついた少女は、ネロの顔を見て号泣した。
母親も泣きながらネロに感謝をした。

「本当に、本当にありがとうございます!」

ネロも無事なのが嬉しくて嬉しくて、釣られて泣いてしまった。

「良かった!! 本当に無事で良かった!
 倉庫から出たら、いなかったから心配しちゃったよ~。」

「ごめんなさい。……なんか、魔法少女?
 の、お姉さーんがわたしをお姫様抱っこで連れてきてくれたの!」

「うん?? ……まあ、いっか。取り敢えず、良かった!」

ネロは、親子に何度も何度も深く頭を下げられ、何度も何度も感謝された。

ネロは親子を家まで送り届けようとしたが、今日は親戚の家へと宿泊する、親戚が迎えに来てくれるので大丈夫だと断った。

他人のために自分の命を投げ打って、我が子を助けてくれたのだ。
親子にとっては、ネロはヒーローであった。
命の恩人であるネロの姿は、少女の心に深く刻まれた。

 ◆◆◆

あの事件から数日が経ち、親子は平穏に暮らしていた。

この日も買い物に行った帰路である。

親子が手をつなぎながら歩いていた。

そして、唐突に、少女は母親にむかって言い放った。

「お母さん、私決めたよ!!」

「うん? なにを?」

「私、軍魔術師ウィザードになる!!」

ある晴れた昼下がり。
少女は1人のヒーローに羨望して、背中を追うことを決意する。

少女が成長し軍魔術師ウィザードとして活躍することになるのは、また別の話であるー。
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