あなたの睡眠買います。

戒=かい

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あなたの睡眠買います。

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 ある朝のことだ。いつものように新聞を拡げるとヘンテコな広告が入っていた。
 あなたは睡眠時間で人生を無駄にしている!時間効率を良くして人生をより良いものにしませんか?という文言がデカデカと赤い文字で書かれていたのだ。
 興味を惹かれ、見てみると、睡眠代行サービスといい、会社の名前は睡眠会社という。
 あまりにも怪しい。お試し期間で1回1万円で1週間は眠らずに済むという。眉唾物だ。
「こういうのに騙される人はいるんかね。俺は騙されないよ」
 そう独り言を言いながら、広告で紙飛行機を作ってゴミ箱へと投げ入れた。
 まさかこの睡眠代行サービスがあんなに大人気になるとは、この時は思いもしなかった。





 あれから1ヶ月程だろうか。睡眠代行サービスはテレビや雑誌で特集され、今となっては芸能人や政治家、著名人しか利用できないほどになってしまった。1年先まで予約が埋まっているそうだ。サービスが追いついてないのか、最近は深夜料金まで設定されて24時間営業になっているという。
 睡眠を取らなくても老いや健康状態、寿命に影響なく生活ができる。これは人にとってメリットしかないのだ。今までの寝ていた時間も活動でき、仕事も趣味にもなんでも使えるのだから。
 今主流になっているコースは1回20万円程で1時間もかからず、サービスを受ければ1ヶ月は寝ずに動けるというものだ。
「最初の1万円くらいのうちに受けていれば良かったなぁ」
 ただただ、後悔が残るばかりだ。
 睡眠会社はその後も急速に成長していきそうだった。





 睡眠会社の前を通った時、1人の男が睡眠会社の店舗の入り口に立っていた。
 少し緊張しているのかソワソワしているようだった。
 俺はその人に興味を持ったので、話しかけてみることにした。
 話を聞いてみると、男は数ヶ月前から予約をしていて、ついにサービスを受けられる日が来たようだった。

ーーんじゃ、サービスを楽しんで。

と俺は男を見送っていった。
 男は笑顔で会釈をして、店へと入っていった。

ーーちょっと羨ましいな。

 そう思いながら、俺は店を後にした。




「ちょっと緊張がほぐれたな」
 たまたま、声をかけてくれたお兄さんのお陰でリラックスできた。その気持ちのまま、僕は睡眠会社のお店に入る。
 入口では美人なお姉さんが、にこやかに受付してくれた。
 予約した旨を伝え、アンケートを書いて渡すと、僕は清潔感のある施術室に通された。
 その部屋はアロマオイルだろうか、柑橘系の香りがして、薄暗かった。部屋自体はベッドが置かれているだけのシンプルなものだった。
 お姉さんから、ベッドの上に寝るよう言われ、横になると、どこからかアジア系の音楽が流れてきた。
 それを聴きながら、目を瞑っていると、別のスタッフが奥からアイマスクを持ってきた。
 アイマスクをつけると、施術中はほとんど動けることは無いのですが、絶対にアイマスクを取らないでくださいとスタッフに念を押された。
 僕はその言葉に同意しようとしたが、急な眠気がやってきて、答える前に完全に眠りに落ちてしまったようだった。





 目が覚めるとアイマスクが外されていた。自分の腕時計を見ると、確かに1時間が過ぎていた。時間が全く経っていないような感覚だった。しかし、確かに全身軽く、まるで羽が生えたかのような解放感に包まれていたのだった。
 僕は部屋の匂いが微かに変わったことに気づいた。柑橘系の匂いが、なんというか、少し獣臭い感じに変化したような気がした。
 たしかに動物系のアロマはあるというし、ホルモンなどに効果があるらしい。けれど、以前雑貨屋で嗅いだ匂いとは少し違った感じがした。
 そんなことを考えながらベッドから足を下ろすと、床には入ってきた時にはなかったはずの、長い毛が落ちていた。人とは違うような硬そうな毛だった。
 その毛が気になったのだが、今は解放感の方が大きく、またスタッフから次の方がお待ちなので。と退室を促されたので、些細なことだ、忘れようと考えた。
僕は解放感のまま店を後にしていった。





 ここは睡眠会社の地下室である。そこには檻に入れられた生き物が何匹もいた。
 彼らは清潔感のある店に似つかわしくなく、既存の動物たちと少し姿形が違った。
 彼らは作られた生き物だった。
 元々、睡眠会社は生物の研究会社であったのだ。
 この睡眠代行サービス、実は生物の掛け合わせの末に生まれた生き物により行われたものだった。
 その生物はバクのような生物で、本当に人間の眠りを食べてしまう、まさに伝説のバクそのものだった。
 違うとすれば、悪夢を人に見せたりしないことや、健康被害がないこと、睡眠会社のスタッフの言うことを聞くように作られたことだった。
 彼らはただただ言いなりになって、来る日も来る日も人の睡眠を食べ続けていた。





 ある深夜。
 睡眠会社のスタッフが電話応対を終え、喜んで受話器を置いた。
「よし。この後は流行りのアイドルだ!俺、ファンなんだよ!流石アイドル、深夜料金、追加料金でも出してくれるんだなー」
それを聞いてスタッフの一人が声をかける。
「また今日も追加ですか?そんなのが1週間になります。もう少しどうにかなりませんか」
「おいおい。今が稼ぎ時なんだよ。それにアイドルがやったら、また話題になるだろう?」
「しかし……」
もう一人のスタッフが言い淀む。
「ならば、うまく店の休みでバクを休ませてあげてください。休養が必要なんですよ。バクは自分達の夢は食べられないんです。バクはもう、1週間も不眠不休で働いているんですよ」
それに対し、こう先のスタッフは答えた。
「ならばバクの夢を食べる生き物を作るしかないな」

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