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嘘
しおりを挟む一人の男が飛行機の客席に座っている。着陸まであと少しといったところだ。
男はとても誠実な男で、今まで彼にあった人間はみな、真面目な人間と評するだろう。
しかし、彼は詐欺師だった。それも大犯罪者と言われるほどの。
一年前、彼は愛する彼女のために、かなりの大金を得なくてはいけなくなり、母国から離れた。
その少し前、彼女から自分は余命三年だと病室で告げられた。治すには特効薬が必要で、彼の稼ぎだけではそれを工面することは到底出来なかった。元々嘘をつかないような誠実な男だったが、彼女のために詐欺師になる道を選んだのだ。
自国で犯罪を行えば彼女の耳に入るかもしれないと、彼女には大きな仕事が入ったと話し、遠く離れた国を選び、旅立った。
騙す相手は老若男女問わず、善人も悪人も、大企業や国すら騙した。一度も捕まることなく、ありとあらゆる詐欺に手を染めたのだ。
それ故、その国では大犯罪者として指名手配されていた。しかしそれでも彼は人を、世間を騙し続けた。ただただ彼女のためだけに。
そして今、彼は大金を得て、出国審査の人間をさらりと騙して母国への便に乗っていた。
彼女さえ良くなれば、もう二度と嘘はつかない。彼女と幸せな家庭を築き、今までの罪を償うのだと考えながら、飛行機の席に座っていたのだった。
空港でタクシーを拾い、一年ぶりの病院に向かう。着いた病院は旅立つ前とさほど変わりはなかった。
彼女を驚かせようと受付の目を盗み、病室へと真っ直ぐ向かう。受付を通すと、彼女に知らされてしまうからだった。人を騙し続けた一年が、彼の行動に染み付いていたのかもしれない。人はあまりいなかったが、何事もなく受付を通過できた。
彼女の病室への道は忘れず覚えていて、スムーズに着くことができた。しかし、着いた彼女の病室は空室になっていた。
冷静に考えて、病室が変わったかもしれないと思いつき、改めて受付に聞くことにした。
病状が悪化したことが脳裏に一瞬浮かぶが、すぐに頭から追い出した。
今の私ならなんでも上手くいく。きっとそんなことはないのだ。
そう思い、サプライズは少し浮かれすぎたなと少し反省して受付へと戻った。
今の彼には詐欺を成功させ、大金を得たことからの全能感があった。
女性スタッフが受付の席に座っていたので話しかける。
彼女の名前を告げるとパソコンで病室の検索をかけてくれた。少しするとハッと何かを思い出したのか少々お待ちくださいと奥へと引っ込み、何かを持って戻ってきた。
受付の女性はこれを預かっています。と白い封筒を渡してきた。
男は不思議に思ったが、とりあえず封を開け、手紙に目を通した。読み終えた瞬間、男は手紙を落とし、足から崩れ落ちて、この一年を後悔した。
手紙には震えた文字でこう書かれていた。
おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした。
遠くの地からずっと応援してました。
これを読んでいる時には私はこの世にはいないでしょう。
あなたに謝らなくてはいけないことがあります。最後に嘘をついてごめんなさい。私の本当の余命は一年でした。
少しでも長く一緒にいたいという気持ちからでした。
あなたといられた時間は幸せでした。 最後の一年は一緒に過ごせなかったのは残念でしたが、これからも心だけはあなたと一緒にいます。
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