堕天使転生 ~Lip Magic Generations~

すふぃんくす のーば

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第Ⅰ期 Lip Magic Generations 結成

7 マーメイド

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(1) 海水浴

 夏だ。海だ。涙の海水浴だぁ~~
 苦節耐える事6年、やっと乙女の胸が膨らみ始める頃、海水浴に来ることができたぁー!
 海水浴といっても、これも修行(けっして遊びではない!)の一環である。
 この海水浴場の海岸線を歩いていくと洞窟がある。そこが魔窟だ。

 でも、折角だし楽しまないとね。
 今回は、中級レベルの生徒(クロ、蓮月、碧衣、紅々李、日葵、瑠璃、その他男子数名)と、引率として梅村先生と美夜が来ている。夏休みになり、例のごとく合宿するのだが、今年はいつもの幽霊屋敷ではなく、海での修行である。

 去年から私も中級レベルになったので、海の合宿に参加したかったのだが、幽霊屋敷の手続きを済ませるため、泣く泣く幽霊屋敷の修行に臨時講師(一応中級レベルなので、剣術では先生である)として行ってきた。
 毎年、地縛霊の面接をするのは面倒なので、浄化(お祓いのできる先生)と面接は寺子屋に委託することにしたのだ。

 合宿先の温泉宿までは、江戸から九十九里浜まで馬車で移動した。九十九里は、見晴らし良く日本一海岸線が長い。波に乗っているサーファーも多い。
 実は海には始めて来た。当然、妹もである。
 格好よく泳いでみせたかったが、泳げない……いわゆる金槌というやつか。

 そういうこともあり、海に入っても腰くらいまでである。女子たちとビーチボールをしたり、砂山を作って遊んだ。女子たちとビーチボールをするとどうしても胸に目がいってしまうが、梅村先生を除き、揺れるようなものはない。

 女子は梅村先生を恨めしそうに見ていたが、「そのうち私だって」……と握りこぶしを作っていた。男子たちとも、ついでに海で水を掛け合って遊ぶ。
 泳ぎがうまいものがいて、海の中から足を引っ張られて、少し溺れそうになった。――ああいう危険な遊びは止めてほしいものである――頭は濡れるし、格好悪いじゃないか(泣)……ま、いいけどね。楽しいし(笑)

 妹とは、両手をとって泳ぎの練習である。まずは、バタ足から……自分は泳げなくていいのか?

 そんなこんなで一通り遊んだあと、さぁ修行である。


(2) 洞窟(ダンジョン)

 夏休みの合宿、1日目は海水浴を楽しんだが、2日目は魔窟の探索だ。
 この魔窟も中級レベルの修行を行うこともあり、そんなに攻略レベルは高くない。とはいえ、レベルの低い弱い魔物は出る。深部に行くと、少し強い魔物も出るそうだ。

 今回は、5人グループで探索する。引率は美夜だ。
 前衛は私とクロ、中衛は美夜、後衛は蓮月と瑠璃という構成にした。ただし、美夜は引率のため、極力手は出さず、様子を見るとのこと。

 海水浴場から海岸線に沿って北上していき、岩礁を上り下りした先にその洞窟はあった。まだ昼間なのに、冷っとした感じがする。洞窟の入口から中に入る。

 少し暗くなってきたところで、「バタバタバタッ」と音がする。
 みんな身構え、各々真剣を持つ。寺子屋の稽古場とは違い、それぞれ親にもらった真剣を身につけている。

 黒いコウモリが出てきた。――驚いたぁ
「みんな最初からそんなに緊張してると、長続きしないよ」
 美夜は笑みを浮かべ余裕の表情だ。
「私は周りを注意してみるけど、前衛は前方だけ、後衛は後ろだけ注意してね」

 しばらく奥に進むと、水晶が薄暗く点っている。魔窟兼訓練場だから多少明かりを入れているのだろう。

 クロは生まれながら、種族の特性もあって夜目が利く。今日は黒い忍者姿をしている。
 蓮月は音に敏感だ。これも種族特性だ。スキルとは少し違う。

 蓮月が奥で岩が崩れる音に気づく。皆、刀を鞘から抜き、身構えながら更に奥に進む。

 魔物が現れた! スライムだ……なんか、かわいい。

 スライムは、身を揺らしながら襲ってくる。こんなかわいい魔物を傷つけていいのか迷うが、余計な雑念は振り払い、戦うことにする。
 剣で切りつけたが、二つに別れたあと、また一つになる。クロも短剣でみじん切りにしたが、また元に戻った。

 ――意外と強いぞ。 

 美夜は後ろで微笑んでいる。
 美夜がスライムに刀を向けて教えてくれる。
「魔物にはそれぞれ急所があるの。目であったり、首筋であったり、足首だったりね。スライムは透明になってるから分かり易いけど、スライムの中にある少し濃い玉が見えるかしら。それが急所よ」

 教えてもらったとおりに、急所を狙ってみた。
 スライムは、蒸発して魔核を残して消えていった。その破片を回収し袋に入れておく。スライムは植物性の魔物で傷薬の材料になる。

 さらに奥に行くと、大小様々なスライムが数匹出てきた。美夜を除く4人で戦う。
 互いに連携をとりつつ、的確に急所を狙っていく。
 急所が分かってしまえば、スライムは楽に倒せた。

――◇●◇――

 洞窟に入って2時間、約30匹程のスライムを退治したところで、今日は引き上げる。帰ってくるのに2時間、途中にもスライムが出現し、出口に戻るまでに約50匹程仕留めた。――かなり薬の材料も貯まったぞ。

 スライムは、粘液質で切るたびに体液が飛ぶから身体がベトベトだ。
「早く帰って、温泉に入ろう。」
 潮風に吹かれながら海岸線を歩き、温泉宿に戻った。

「フー疲れた~~」蓮月、瑠璃らもくたくただ。
 確かに疲れた。他の組も無事みたいだ。
 洞窟は3箇所あり、それぞれ別の入口に入って探索する。奥で繋がっているところもあるが、かなり奥に入らないと合流しない。それぞれ、魔物の種類が違うそうだ。

 早速、温泉の洗い場でベトベトの粘液を洗い流した。
 この粘液も何かに使えそうだ。どんな成分が入っているか調べてみよう。

 温泉に入り、まったりする。
「温泉って気持ちいいな……ここは海が近いから、塩泉だな。若干硫黄も入ってるな」なんて、温泉の泉質を分析しながら入っていた。
 例の如く、男子が入ってきて騒がしくなる。まぁ合宿だからしょうがない。
 今日の魔物について情報交換しながら、温泉に入った。明日の修行はない。

 ここの修行は1日おきに行われる。明日は自由時間。また海水浴だ。

(3) マーメイド

 今日は天気はいいが、海が少し荒れている。
 サーフィン日和だな――できないけど。

 今日も海水浴だ。
 女子は、お肌が焼けないようにしっかりお手入れしているが、クロは気にせずそのままだ。今日もまた、それぞれビーチバレー、水泳、砂山遊びに興じている。
 私はビーチパラソルを開き、砂の上に寝ていた。

 日差しはキツイが、海の風が心地よい。しばらく寝ていたら、妹に起こされ水泳の練習に付き合わされた。
 うまいものだ。もうすでにクロールができるようになっている。本当に何をやらせても上達が早いな。私は、まだ足が立つところで、不格好な平泳ぎのようなものしかできない。

――○●○――

 妹が「少し泳いでくる」といって、少し沖の方に行ってしまった。
 置いてけぼりだ。見てると、すごい勢いで離れていく。
 ……ずいぶん、上達したな……って思っていたら、少し様子が変だ。
 潮に流されてるんじゃないか?

「瑠璃!!」 念波で大きな声で叫ぶ。
 瑠璃は振り返り、沖に流されたことに気がついたようだ。
 慌てて、こちらに戻ろうとするが、潮の流れが強く戻ってこれないらしい。

「おにいちゃん!!」って念波で叫んでいる。
 瑠璃はそのまま姿が見えなくなった。慌てて、瑠璃を追いかける。

 ★瑠璃視点
「瑠璃!!」 お兄ちゃんの声が頭に聞こえる。
 振り返ると、お兄ちゃんが遠くに見える。――こんなに遠くまで泳いできたんだ。
『戻らないと』……えっ全然前に進まない!……足が疲れてきた。

「――アゥ――」 大きな波が来る
「おにいちゃん!」あっしまった。お兄ちゃんを呼んでしまった。
 まだ、泳げないのに……「お兄ちゃん来ちゃダメ」

 波間から太陽の光芒が振りそそいでいる。……このまま海に沈んじゃうのかな?
 海ってきれいだな……息がもうできない。
 ――あっお兄ちゃんだ。『来ちゃダメ――』
 ……意識が遠のいていく…… …… ……

――◆□◇――

 その時、瑠璃の身体が瑠璃色の光に包まれるように、輝いた。
『水の精霊』が瑠璃の周りに集まってくる。
 すると人魚が近づいてきて、瑠璃とショウを掴み、海面から飛び上がった。

 バッシャーン!! 

 海面を叩きつけるような音の後、マーメイドは砂浜まで2人を運んでいった。

 2人は意識を失っていた。

 真っ先に異変に気がついた、美夜とクロ、日葵が集まってきた。その後、梅村先生や紅々李、蓮月、碧衣たちも遠くから次々集まってくる。
 陸に上がったマーメイドはとても息切れしている。

 クロがショウに、美夜が瑠璃に人工呼吸を始めた。
 心臓の位置にある胸の中央を30回押す、次に2回息を吹き込む。その繰り返しだ。5回くらい繰り返したところで、ショウは海水を吹き出した。

「……ゴホッ。ハーハーハァー ――」
 むせたあと、深呼吸する。(頭の中に黒い炎が燃え上がった)
 妹は! 大丈夫なのか? 
 隣を見ると、妹が人工呼吸されている。
「瑠璃!! まだ死んじゃダメだ!」……オレは妹に叫び、揺り動かす。

 間もなく、妹も激しく咳き込んで、意識を取り戻した。
 ――良かったぁ――周りを見渡すと集まってきた仲間が、心配そうに青い顔をして覗き込んでいた。

「みんなごめん。というより本当にありがとう。助かった。妹も助けてもらって本当にありがとう」私は涙ぐみながらお礼を言った。

「おにいちゃん!!」
 正気に戻った妹が、オレを抱きしめキスをしてきた。……ちょっとびっくりしたが、6歳だし気が動転しているんだろう。あまり気にしないことにしよう。

 周りはかなり驚いていたようだが――アレッ 瑠璃色の炎が瞬いている。

 妹は泣きながら、
「怖かったぁ。お兄ちゃんが助けてくれたの?」と聞いてきた。
「助けには行ったけど、オレも溺れてしまって、その後のことは覚えてないんだ」

「あのマーメイドが助けてくれたんだよ」と美夜が教えてくれる。
 私はふらつきながら人魚のところに行き、
「本当にありがとうございます。助かりました。なんてお礼を言っていいか……」

「あ、はい。驚きました。海を泳いでいたら、遠くから二人を見かけたんです。そしたら、あちらの方が光って、――あれはそう、水の精霊の加護ですね。精霊が呼んでるのが聞こえて、2人を掴んで、後は無我夢中で……助かってよかったです」

 マーメイドは尾ひれをパタパタさせ、安堵した表情だ。
「そうですか。助かりました。このお礼はいずれなにかの時にお返ししないと。  ――もし、困ったことがあったら、私を頼ってください。オレは「立花 翔」っていいます」
 今の私に何かできるわけではないが、こう言わずにはおれなかった。

「ん? あなたも少し水の精霊の加護があるような? でも少し違うかな。いずれまた会うこともあるような気がします。…あちらの方は妹さんですか? これからもよろしくお願いしますね」
 マーメイドは私にウインクしてきた。
「はい! こちらこそよろしくお願いします」
 初めて見るとても美しいマーメイドにカチコチになってお礼をした。

「もしできればなんですけど……私たちあんまり洞窟には入らないんですね。洞窟の中に悪さをするタイ魔王いるんです。いつも私たちが愛し合ってると、邪魔をしにくるんです。タイ魔王を退治してくれるとうれしいかな」

「大魔王ですね。かなり強そうな魔物のようですが、皆と協力して倒してみたいと思います」
「無理しないでくださいね。いずれ皆さんが強くなってからでいいので」
 大魔王だもんな。今すぐには倒せないような気がする。いずれ、きっと!

 そして人魚は海に戻っていった。――マーメイドって本当に綺麗だな。
 私は、思いがけず2つのスキルを取得してしまったようだ。

――★☪★――

 夕日が落ち、クロに誘われて、天の川が見える夜の浜辺を歩いている。
 クロは浴衣姿だ。
 昼間に人工呼吸とはいえ、口づけをした仲だし、ちょっと気不味い。

「クロ、ほんとにありがとう」
「ほんとだにゃん。すごいびっくりしたんだから……また死んじゃうんじゃないかって思って」

 ――え? また?

「あたしね、変身できるようになったんだにゃん。ほら」と言って猫に変身した。
 猫の姿のままで
「好きな人とキスすると変身できるんだにゃん」
 ――って、それってある意味告白だよね。
 クロはまた元の姿に戻った。

 人以外の種族は、変身ができる。
 ただそれには条件があり、好きな相手に対して口づけをすることであった。

「オレもクロのことは好きだよ。でももっと前から好きだったような気がする。 また死んだって、前世からオレのこと知ってるってこと?」
「ふふ~ ないしょ。 もっともっと前かな~ もっと親密な関係になったら、教えてあげるにゃ」
 クロは謎めいているよなぁと思いつつ、夜の浜辺ということもあり、人工呼吸ではなく、

 ――本当の『キス』をした――
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