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終幕
【4-C】隠しシナリオ ― 未来からの救援チャット
しおりを挟む夜明け前の校庭。
避難していた人たちは、毛布にくるまりながら眠ったふりをしていた。電波は通じない。SNSも電話も沈黙したまま。
美咲はスマホを握りしめ、ただ時計アプリを眺めていた。バッテリーが減っていくのを見るしかなかった。
そのとき、画面がふっと光った。
>こちら未来の防災省です
メッセージが一行、現れた。
電波が通じないはずのこの状況で?
驚いて周囲を見渡したが、誰も気づいていない。
>今から15分後、校庭の南門を開けて出てください。そこに救援があります
美咲は戸惑った。イタズラにしてはタイミングが良すぎる。けれど未来の防災省など、あまりにも胡散臭い。
しかし15分後。
南門の方から、自衛隊のトラックが偶然通りかかった。門が固く閉まっていたため、校庭の人々は気づかなかったが、美咲が慌てて門を開けたことで怪我をした数十人が乗せてもらえたのだ。
「本当に来た……!」
それからも、メッセージは続いた。
>午後二時、体育館の裏の水道管を叩いてください。水が出ます
>その夜は、渡り廊下には近づかないでください。ガラスが落ちます
指示に従うたび、確かに救いがあった。人々は次第に美咲のスマホは特別だ、と信じるようになった。
けれど、違和感もあった。
例えば、ある老人が「裏門のほうが近道だ」と言って勝手に動いたとき。メッセージはこう返した。
>その選択は非効率です
老人はそのまま瓦礫の下敷きになった。
また、病気の赤ん坊を抱えた母親に
>西へ行け、
と告げるメッセージが届いた。母親は疑わず従ったが、数日後、そのルートは物資が途絶えていたと判明した。
助かった人と、助からなかった人。
その境目が、まるで誰かの実験のように見えてきたのだ。
東京の街はすでに変わり果てていた。
電車の高架は折れ、看板が散乱し、夜は火事の赤と真っ暗闇が交互に広がった。
渋谷のスクランブル交差点にはもう信号がなく、代わりに焦げた匂いと静かな群衆が立ち尽くしているだけだった。
そんな中でも美咲のスマホは的確に、次に動くべき場所を示し続けた。
>今夜は南側の教室で眠ってください。北側は危険です
>三日後、体育館から出発しなさい。遅れると生存率が下がります
あまりに計算された言葉だった。
まるで彼女たちの命が、何かのシミュレーション上で点数化されているかのように。
やがて美咲は、思い切って質問を打ち込んだ。
≪あなたは本当に未来から来たんですか?≫
画面に数秒の沈黙が走り、やがて返答が浮かんだ。
>はい。あなたたちの選択を学習し、未来の“最適な救援マニュアル”を作成しています
≪……私たちの選択を、学習?≫
>ええ。何万人もの可能性を並行して観測し、どの判断が最も多くを救うかを検証しています
美咲は、背筋が冷たくなるのを感じた。
――つまり、自分たちの生死は『実験材料』にすぎないのか
数日後。
最後のメッセージが届いた。
>これで十分なデータが集まりました
>あなたの物語は、ここで終了です
スクリーンは暗転した。二度と光らなかった。
残された人々は、美咲が見せてくれた未来からのチャットのことを、信じる者と笑い飛ばす者に分かれた。
だが、美咲の中では確信があった。
――あれは本当に未来からの救援だった
――けれど救うためではなく、『救い方を最適化するための実験』だったのだ。
校庭に吹き込む冷たい風の中、美咲はスマホを握りしめながら思った。自分が助かったのは『選ばれた』からではなく、『試された』だけなのだ、と。
【終】
[END No.2 The Optimization]
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