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終幕
【4-E】ボーナスコンテンツ:『最強の防災グッズ決定戦』
しおりを挟む体育館の天井が突如としてせり上がった。いつのまにか照明はサーチライトへと変わり、観客席らしき場所には避難所に集まった人々がずらりと座っている。
水のペットボトルを握りしめていたおばあさんが「こ、ここはどこ?」と目を白黒させる。子どもたちは「なんかテレビみたい!」と大はしゃぎ。
その中央に、なぜかマイクを握った一人の青年が颯爽と登場した。
「レディース・アンド・ジェントルメン! ようこそ、シドニーからやってきた司会者、陽翔でございます!」
満面の笑みでウインクする。誰も呼んでいないのに、誰も止められない。
巨大なスクリーンが体育館の壁に出現し、ド派手な文字が躍った。
≪最強の防災グッズ決定戦!!!≫
――避難所の空気は、ついさっきまでの不安と疲労が嘘のように、わけのわからない高揚感に包まれていった。
第一試合:美咲 vs リサ
「トップバッターは、この避難所の希望の星! 光り輝く女子高生、ミサキ・タカセェェェ!」
陽翔のコールに、美咲がモバイルバッテリーを頭上に掲げながら入場した。
「見よ、この輝き! 闇を切り裂く、光の剣!」
スマホ充電用のケーブルを抜き差ししながら、チャンバラのように構える。観客席から「おぉ~!」とどよめきが起こった。
「対するは! 謎の翻訳魔女! リィィサ・ヴァン・ローゼン!」
外国人観光客のリサは、スマホを高くかざして登場。翻訳アプリをオンにして叫んだ。
「みなさんに、私は肉まんです!」
会場中が「?」で固まったあと、
「私はここでおしりになります。」
大爆笑の渦。翻訳がズレすぎている。
美咲は光の剣で構え、リサはスマホを連打。
「Stay calm!」が「ステーキ、噛む!」と響き渡り、観客は笑いすぎて涙を流す。
勝敗など誰も気にしていない。すでに「面白い方が勝ち」という暗黙のルールに変わっていた。
第二試合:村上 vs 彩花
元消防士の村上は、長い延長コードを腰に巻きつけて登場。
「俺のホースさばき、見せてやる!」
ブンブンと振り回すたびにコードの先から火花が散り、観客は「危ない危ない!」と逃げ惑う。
対するは看護師の彩花。手に巻いた包帯を一気にほどくと、それはリボン体操のように舞い上がった。
「怪我をしたら、すぐに私のところへ!」
華麗な回転。……しかし、村上のコードが絡みつき、二人はもつれて転倒。体育館の床に倒れ込む姿に、観客は「わははは!」と拍手喝采。
トーナメント表を無視して、蓮がダンボール製のロボットアーマーで現れた。
「正義の防災ヒーロー、ダンボールマン参上!」
胸部に書かれた文字は「Wi-Fiください」。
彼はぎこちなく歩きながら「最強のグッズはこれだ!」と叫ぶ。
しかし動きが鈍すぎて、体育館の入口でつまづき、ガシャーンと豪快に転倒。
観客席から「中身出てるぞー!」と笑い声が飛ぶ。
混乱と爆笑に包まれた会場。
そのとき――
ドォォン!
体育館の壁が轟音とともに突き破られ、土煙の中から一台の自衛隊トラックが乱入した。
スポットライトがトラックを照らし、隊員が厳かに敬礼する。
「宅配ピザをお届けに参りました!」
会場は一瞬静まり返った。
次の瞬間――
「えええええっ!?」と観客が総立ち。
トラックの荷台には、驚くほど大量のアツアツのピザが積まれていた。マルゲリータ、ペパロニ、照り焼きチキンまで。
「ど、どういうこと!?」と美咲が叫ぶ。
隊員は真顔で答えた。
「防災の基本は腹ごしらえです!」
トーナメントは一瞬で有耶無耶になり、場内は「ピザ争奪戦」へ突入した。
村上は延長コードを投げ縄のように使ってピザをゲット。
彩花は素早く包帯で箱を引き寄せる。
リサは翻訳アプリで「ピザは危険物!」と叫び、他の挑戦者を混乱させる。
蓮はダンボールアーマーでピザを積み上げようとするが、重さで潰れてしまう。
そして美咲は――モバイルバッテリーの光剣を振りかざし、最後の一切れを掲げた。
「勝者は……みんなだよ!」
観客席から嵐のような拍手。
体育館は、災害を一瞬だけ忘れた笑いと香ばしい匂いに包まれた。
翌朝。体育館にはピザの空き箱が山積みになり、子どもたちが「夢だったのかな?」と首をかしげていた。
しかし誰の手にも、ほんのりトマトソースの香りが残っていた。
――最強の防災グッズは、笑いと食べ物。
そんな結論に落ち着いたことを、誰かがメモに書き残していた。
[END No.9 Cubisme dreamer]
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