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第2章 夢
冒険記録21.懐かしい相手
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さぁ、いかりをあげろ
いくら止められようと
俺達の旅は続く
手を動かせ! 足を動かせ!
この先に褒美が待ってるぞ!
逃げるように街から出ていったヨシュアとアルヴァーノは今、草原を歩いていた。街付近は整備が行き届いていたのか綺麗だったが、離れれば離れるほど凸凹でこぼこ道が目立つようになってくる。それが楽しかったのか、彼は歌い始めた。
「ん? 今のか? あれは俺の仲間達が歌ってた曲だ」
気分が高揚し、口ずさむ彼に不思議に思った愛馬が不思議そうな目で見ていた。なんとなく言いたいことが伝わったのか、それに答えた。誰が歌い始めたのか、それすら覚えていない程、昔から歌われているものだ。
それこそ、ヨシュアが海賊見習いとなった頃から。
『ねぇ、そのうたってだれの?』
『さぁてね。あたしでも分からんよ』
甲板の掃除をしている小さいヨシュアの隣で、赤い髪の女性が陽気に歌っている。彼女はこの船の船長だ。そして彼の恩人だった。
『さぁ、だらけてないで掃除しな。それが終わったらまた訓練だよ』
『うへぇ……』
小さい背中を彼女が叩き、少年は不満を言う。その後、女船長は船員達に指示を出し、その声を聞いた彼らは自らがやるべき場所へと戻って行く。
視界は良好。海は静寂。船上からは笑い声が響く。そんな過去のお話。
「懐かしいな……」
哀しそうにひっそりと笑い、過去を懐かしがっていた。豪快ごうかいで愉快な女船長。陽気な船員達。彼らはヨシュアをおいて死んでしまったのだ。彼の目の前で。
異世界に来て彼は初めて、涙を流した。
「ああ、すまんな。いろいろと思い出してしまってな」
泣き始めた彼を心配するように、顔を摺り寄せてくる愛馬の背を撫でた。
「次の場所へ向かうか。また頼むぞ」
目尻に溜まった涙を強引にふき取り、愛馬の背に乗ると歩くよう足した。
「いい荒廃ぶりだな」
荒くれ者が集まるには最適の場所だった。ジュリー達といた場所は、普通に生活するならいい所ではあるのだが、同じような存在であるヨシュアにとっては、少しだけ居心地が悪い場所だった。
「情報があればいいがな」
町と同じように荒廃している酒場らしき場所に向かう。そこはすでに客で賑わっていた。
「主人、酒はあるか? あとつまみもだ」
軋しむドアを開け、中に入っていくヨシュアを先程まで騒いでいた客たちがジロリと睨んでいた。その視線に慣れている彼は気にせず、カウンターに座り、腕を机に置く。
「酒はある。が……」
「……なるほど。実力をみせろ、と」
いつのまにかヨシュアを中心に扇状に敵が囲んでいた。
「どうしたものか」
悩んでいるとすでに戦闘態勢を取っていた男二人が斬りかかってくる。一人は両刀使い。もう一人はハルバード持ち。
「悩んでいる暇はなさそうだ」
椅子から崩れ落ちるように避ける。先程までヨシュアが腕を置いていた机が潰れていた。
ハルバード持ちの男の足の間をヨシュアはすり抜け、立ち上がる。それと同時に両刀使いが斬り込んできた。
「っ!」
剣筋が分かりづらい相手だった。ぎりぎり受け止めることが出来たものの、防戦一方。その間にハルバード持ちがタイミングよく振り下ろしてくる。
殺さぬようにと手加減しながら二人を傷つけていく。それと同様にヨシュアの体にも傷がついていく。
周りは生きているのか分からない程静かに三人の戦闘を見ていた。
しばらくそんな状況が続いている。
「っはぁ。あんたらやりづらいなぁ……。まるで昔いた似た顔を持った先輩方みたいだ」
戦闘しながらでも感じる異様な光景に、不快な気分になりながらもヨシュアは距離を取る。不満を口にしながらも相手の動きを探っていた。
そんな時、先程まで片手持ちだったハルバードの男が両手持ちに変えた。そして、回転し始めたのだ。
「な……!」
驚いているヨシュアの所に回りながら近づいて来る。それに対し驚愕しながらも剣を構えた。
受け止めたハルバードから異様な力の強さを感じた。足に力を入れていても後ろに押されるほど強く、このままでは自身の剣が折れる。そう感じた彼は、受け流す方法をとった。
「おい! どういうことだ! その技はあの人の!」
ヨシュアの口調が、最初の村であったリアやジュリー達との、一歩後ろで見ている大人の口調では無くなっていた。それほどヨシュアの心は乱れていた。
先程の技は当時の先輩クルーだった男の唯一無二の技だった。敵の何人かがそれを見て真似し始めたが、全員目を回して敵にぶつけるどころではなかったのだ。
「なぜ、こ゛ろさ、な゛い。こっち゛はお゛前を殺す気でい゛るんだぞ」
先程まで黙っていた双剣使いの口から声が漏れる。絞り出されたその声と共に口から溢あふれ出る血で、苦しそうだった。
【殺してはいけない】
女神との制約が、今ヨシュアを苦しめ始めた。今まで戦ってきた相手なら気絶させればそれで良かった。相手は弱かった上に、変な気を使うこともなかったから。
だが、この相手は違った。油断すればヨシュアが負けてしまうほど強い。それに、戦えば戦うほど昔の先輩クルーたちと被ってしまうのだ。
「お゛れを、こ゛ろせ!」
「無理だ! 俺はあんたを殺せない!」
唇を噛みながら顔を歪め、彼の剣技を受け流している。相手の必死な声に重なり、血反吐がヨシュアの顔にかかる。血が入らぬようにと目を瞑った時、一瞬だけ彼の動きが止まった。それに追い打ちかけるように、ハルバードを持った男がヨシュアのお腹目掛けて横に振るう。
「ぐぁっ!」
ぎりぎり防ぐことが出来たが、完全ではなかった。剣にひびが入り、酒場の壁を壊しながら通りに飛ばされていく。
受け身を取った後も、壁の奥を警戒した。
一息つく暇もないほど、間髪入れずに煙の奥からハルバード使いが飛んでくる。それを避けると今度は双剣使いが飛び出してきた。
「ころ゛せ」
「俺には……!」
「殺し゛て゛くれ! ヨシュア! 苦し゛い゛んだよ!」
「ッ!」
鍔迫り合いが続き、男が叫ぶたびにヨシュアの顔や服に血がついていく。相手の悲痛な声を聞けば聞くほど、彼の表情は悲しそうに歪んでいった。
「……わかった。それであんた楽になれるなら」
肺に溜まっている空気を目を閉じながらゆっくり吐き出していく。不安はある。悲しみだってある。それでも相手がそれを望むなら、それに答えなければならなかった。
相手の両刀を飛ばし、自分の剣を相手の胸に勢いよく突き刺した。そこから血は流れなかった。その代わりに少しずつ相手の体が崩れていく。
「……ありがとよ、ヨシュア坊」
「懐かしいな、その呼び方」
刺されてからは血で苦しそうな声も、死人の様に青白かった顔に色が付き始めた。懐かしい呼び方に、先程まで悲しそうにしていたヨシュアの顔に笑みがこぼれた。
「頑張れよ。見守っといてやるから」
「もう子供ではないぞ」
「俺らにとっちゃいつまでもお前は子供だ」
そう話す相手の残っている部分は、上半身だけだった。その不自由な体で、ヨシュアの日に焼けた黒髪を乱暴に撫でた。それを擽ったそうにしながらも彼は受け入れていた。
「安らかに眠ってくれ」
最後まで嬉しそうにヨシュアの頭を撫でていた。彼の言葉を聞いた男は破願した顔で砂のようにさらさらと崩れ、消えていく。天に昇っていく彼を見送った後、顔の血を拭い、ハルバードの男の方へ向く。その顔つきは覚悟を決めた男の顔だった。
「弟がいたらあの人も寂しくないだろ。なぁ?」
問われた男はゆっくりと頷いた。先程の男の様に死を望んでいる様だった。それを表すかのように、ハルバードを持っていない。ゆっくりと近づいていく。それと同様に剣を持つヨシュアの手にも力が入る。
いくら止められようと
俺達の旅は続く
手を動かせ! 足を動かせ!
この先に褒美が待ってるぞ!
逃げるように街から出ていったヨシュアとアルヴァーノは今、草原を歩いていた。街付近は整備が行き届いていたのか綺麗だったが、離れれば離れるほど凸凹でこぼこ道が目立つようになってくる。それが楽しかったのか、彼は歌い始めた。
「ん? 今のか? あれは俺の仲間達が歌ってた曲だ」
気分が高揚し、口ずさむ彼に不思議に思った愛馬が不思議そうな目で見ていた。なんとなく言いたいことが伝わったのか、それに答えた。誰が歌い始めたのか、それすら覚えていない程、昔から歌われているものだ。
それこそ、ヨシュアが海賊見習いとなった頃から。
『ねぇ、そのうたってだれの?』
『さぁてね。あたしでも分からんよ』
甲板の掃除をしている小さいヨシュアの隣で、赤い髪の女性が陽気に歌っている。彼女はこの船の船長だ。そして彼の恩人だった。
『さぁ、だらけてないで掃除しな。それが終わったらまた訓練だよ』
『うへぇ……』
小さい背中を彼女が叩き、少年は不満を言う。その後、女船長は船員達に指示を出し、その声を聞いた彼らは自らがやるべき場所へと戻って行く。
視界は良好。海は静寂。船上からは笑い声が響く。そんな過去のお話。
「懐かしいな……」
哀しそうにひっそりと笑い、過去を懐かしがっていた。豪快ごうかいで愉快な女船長。陽気な船員達。彼らはヨシュアをおいて死んでしまったのだ。彼の目の前で。
異世界に来て彼は初めて、涙を流した。
「ああ、すまんな。いろいろと思い出してしまってな」
泣き始めた彼を心配するように、顔を摺り寄せてくる愛馬の背を撫でた。
「次の場所へ向かうか。また頼むぞ」
目尻に溜まった涙を強引にふき取り、愛馬の背に乗ると歩くよう足した。
「いい荒廃ぶりだな」
荒くれ者が集まるには最適の場所だった。ジュリー達といた場所は、普通に生活するならいい所ではあるのだが、同じような存在であるヨシュアにとっては、少しだけ居心地が悪い場所だった。
「情報があればいいがな」
町と同じように荒廃している酒場らしき場所に向かう。そこはすでに客で賑わっていた。
「主人、酒はあるか? あとつまみもだ」
軋しむドアを開け、中に入っていくヨシュアを先程まで騒いでいた客たちがジロリと睨んでいた。その視線に慣れている彼は気にせず、カウンターに座り、腕を机に置く。
「酒はある。が……」
「……なるほど。実力をみせろ、と」
いつのまにかヨシュアを中心に扇状に敵が囲んでいた。
「どうしたものか」
悩んでいるとすでに戦闘態勢を取っていた男二人が斬りかかってくる。一人は両刀使い。もう一人はハルバード持ち。
「悩んでいる暇はなさそうだ」
椅子から崩れ落ちるように避ける。先程までヨシュアが腕を置いていた机が潰れていた。
ハルバード持ちの男の足の間をヨシュアはすり抜け、立ち上がる。それと同時に両刀使いが斬り込んできた。
「っ!」
剣筋が分かりづらい相手だった。ぎりぎり受け止めることが出来たものの、防戦一方。その間にハルバード持ちがタイミングよく振り下ろしてくる。
殺さぬようにと手加減しながら二人を傷つけていく。それと同様にヨシュアの体にも傷がついていく。
周りは生きているのか分からない程静かに三人の戦闘を見ていた。
しばらくそんな状況が続いている。
「っはぁ。あんたらやりづらいなぁ……。まるで昔いた似た顔を持った先輩方みたいだ」
戦闘しながらでも感じる異様な光景に、不快な気分になりながらもヨシュアは距離を取る。不満を口にしながらも相手の動きを探っていた。
そんな時、先程まで片手持ちだったハルバードの男が両手持ちに変えた。そして、回転し始めたのだ。
「な……!」
驚いているヨシュアの所に回りながら近づいて来る。それに対し驚愕しながらも剣を構えた。
受け止めたハルバードから異様な力の強さを感じた。足に力を入れていても後ろに押されるほど強く、このままでは自身の剣が折れる。そう感じた彼は、受け流す方法をとった。
「おい! どういうことだ! その技はあの人の!」
ヨシュアの口調が、最初の村であったリアやジュリー達との、一歩後ろで見ている大人の口調では無くなっていた。それほどヨシュアの心は乱れていた。
先程の技は当時の先輩クルーだった男の唯一無二の技だった。敵の何人かがそれを見て真似し始めたが、全員目を回して敵にぶつけるどころではなかったのだ。
「なぜ、こ゛ろさ、な゛い。こっち゛はお゛前を殺す気でい゛るんだぞ」
先程まで黙っていた双剣使いの口から声が漏れる。絞り出されたその声と共に口から溢あふれ出る血で、苦しそうだった。
【殺してはいけない】
女神との制約が、今ヨシュアを苦しめ始めた。今まで戦ってきた相手なら気絶させればそれで良かった。相手は弱かった上に、変な気を使うこともなかったから。
だが、この相手は違った。油断すればヨシュアが負けてしまうほど強い。それに、戦えば戦うほど昔の先輩クルーたちと被ってしまうのだ。
「お゛れを、こ゛ろせ!」
「無理だ! 俺はあんたを殺せない!」
唇を噛みながら顔を歪め、彼の剣技を受け流している。相手の必死な声に重なり、血反吐がヨシュアの顔にかかる。血が入らぬようにと目を瞑った時、一瞬だけ彼の動きが止まった。それに追い打ちかけるように、ハルバードを持った男がヨシュアのお腹目掛けて横に振るう。
「ぐぁっ!」
ぎりぎり防ぐことが出来たが、完全ではなかった。剣にひびが入り、酒場の壁を壊しながら通りに飛ばされていく。
受け身を取った後も、壁の奥を警戒した。
一息つく暇もないほど、間髪入れずに煙の奥からハルバード使いが飛んでくる。それを避けると今度は双剣使いが飛び出してきた。
「ころ゛せ」
「俺には……!」
「殺し゛て゛くれ! ヨシュア! 苦し゛い゛んだよ!」
「ッ!」
鍔迫り合いが続き、男が叫ぶたびにヨシュアの顔や服に血がついていく。相手の悲痛な声を聞けば聞くほど、彼の表情は悲しそうに歪んでいった。
「……わかった。それであんた楽になれるなら」
肺に溜まっている空気を目を閉じながらゆっくり吐き出していく。不安はある。悲しみだってある。それでも相手がそれを望むなら、それに答えなければならなかった。
相手の両刀を飛ばし、自分の剣を相手の胸に勢いよく突き刺した。そこから血は流れなかった。その代わりに少しずつ相手の体が崩れていく。
「……ありがとよ、ヨシュア坊」
「懐かしいな、その呼び方」
刺されてからは血で苦しそうな声も、死人の様に青白かった顔に色が付き始めた。懐かしい呼び方に、先程まで悲しそうにしていたヨシュアの顔に笑みがこぼれた。
「頑張れよ。見守っといてやるから」
「もう子供ではないぞ」
「俺らにとっちゃいつまでもお前は子供だ」
そう話す相手の残っている部分は、上半身だけだった。その不自由な体で、ヨシュアの日に焼けた黒髪を乱暴に撫でた。それを擽ったそうにしながらも彼は受け入れていた。
「安らかに眠ってくれ」
最後まで嬉しそうにヨシュアの頭を撫でていた。彼の言葉を聞いた男は破願した顔で砂のようにさらさらと崩れ、消えていく。天に昇っていく彼を見送った後、顔の血を拭い、ハルバードの男の方へ向く。その顔つきは覚悟を決めた男の顔だった。
「弟がいたらあの人も寂しくないだろ。なぁ?」
問われた男はゆっくりと頷いた。先程の男の様に死を望んでいる様だった。それを表すかのように、ハルバードを持っていない。ゆっくりと近づいていく。それと同様に剣を持つヨシュアの手にも力が入る。
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