夜な夜な魔法少女に襲われてます

重土 浄

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第十一話「キミに夏は似合わない」

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 仕事部屋でPCに向かって仕事をしていると、本棚部屋から少女たちのかしましい声が響いてくる。

 「ちょっと二人共、大きすぎだって一緒に歩く身になってよ」

 エリちゃんは、おそらく吐息とリンカの胸について文句を言っていうのだろう。

 「エリ…あんんたちょっと、可愛すぎない?」

 リンカの声には強い動揺が聞こえた。

 「リンカはちょっと出し過ぎじゃない?」

 「年に一回くらいしか無いんだから、コレくらい…吐息も人のこと言えないでしょ」

 「いえなーい」

 エリちゃんの同意もきこえたので、吐息のも穏便なデザインではないということだ。

 耳をそばだてていて、まったく仕事にならない。

 今、隣の部屋では彼女たちがプールに行く前の予行準備として水着の試着を行っているのだ。自宅でやればいいだろ、と言ったが、相互に確認することでクオリティーを上げる、というよくわからない返答が返ってきた。

 今、そのクオリティー上げを隣の部屋で行っている。俺は絶対入室禁止を命じられていた。携帯が着信を知らせる。

 確認をすると顔の見えない女性の体の写真。水着の上から手を当てて疑似手ブラをしている三人が写っていた。

 「お下品ですよー」

 隣に文句を言う。「下品だって~」という笑い声が帰ってくる。俺は無言で写真を保存した。もう体を見ただけで誰か分かるようになってしまった。

 写真は次々と送られてきた。

 「お前ら、いい加減、さっさと行けよ」

 襖を開けると悲鳴が上がるが、全員ちゃんと水着を着ているのは、送られてきた写真で確認済みだ。

 キャッキャと笑いながら俺に水着を見せる三人。エリはまだ子供らしいデザインのワンピースかと思いきや背中の切れ込み方がエグい。前面の子供っぽさからのギャップがさらに危険だ。

 吐息はビキニスタイル。高校生にしてはやや大人っぽいスタイルだが、それを超高校級ボディの持ち主が着ることで何段階も破壊力があがっている。白の布地がよりドキドキとさせる。

 リンカもビキニスタイルだが、最小限の布地以外は紐、ほぼ紐感だけでできた水着。若さあふれる肉体を細い紐でなんとか押さえつけているだけの水着。彼女たちが行くレジャープールに落とされる核弾頭であることは間違いない。

 三人が三者三様にポーズを取り、照れ、大胆に見せつける。

 俺はそれを見て

 「ブラボー。とっとと出かけてくれ」

 俺には遅れている仕事があるのだ。



 「あの、ほんとに行かないんですか?」

 吐息がまた誘ってくれた。俺は水着がないだとか、日焼けは嫌、泳げない等々の理由を付けて断っていた。

 しかし本音は、こんな中年と行ったら、君たちの青春を邪魔してしまうと思ったからだ。もちろんそんな事は彼女たちには言えなかったが。

 「楽しんできなよ。若い人は若い人と楽しまないと」

 昼前に彼女たちは出かけていった。

 俺は静かになった仕事部屋で椅子に座った。

 静かだった。

 こんなに静かなのはいつ以来だろうか…。

 そう考えた時、座っていた尻から底が抜けた。

 体中の血がそこから抜けて落ちていく。全ての体温がそこから外に落ちていき、冷たい恐怖が心臓を掴んで引きずり下ろす。目の前が暗い赤色になり、思い出す。

 この部屋にたった一人で暮らしている自分の姿を。



 真っ暗な部屋に中年が一人

 

 マウスをクリックして仕事を再開する。椅子を座り直す。

 なにか、一瞬なにかを見たような気がするが思い出せない。

 彼女たちが帰ってくる前に、仕事を片付けなければいけなかった。





 レジャープールはなかなかの混み具合だった。夏の日差しもほどほどで絶好の日和と言えた。

 吐息達三人が現れた時、周囲に生まれたざわつきが波のように広がった。

 「やっぱり落土連れてくればよかった。おじさん一人いるだけで、弾除けになってくれたのに」

 「だったらリンカの家のお父さん呼べば良かったじゃん」

 「絶対イヤ」

 吐息は自分たちに注がれる視線の多さにたじろいだが、落谷との様々な出来事が彼女を強くしていた。また隣に立つリンカのあまりにも堂々とした佇まいも、彼女を勇気づけた。

 「堂々としてればいいんだ」

 吐息は、リンカのこの自分を絶対に曲げない姿勢に憧れを感じていた。

 「よっし、行こっか」

 リンカは吐息の手を握り前を進む。着ている水着の過激さも彼女の揺るがない個性を示している。手を引かれながらその勇気が伝わってくるようで嬉しかった。

 しかし彼女が向かっている先が、このプール最大のウォータースライダーであることを吐息は知らなかった。



 一通りはしゃぎまわった三人が、テーブルについてそれぞれに冷たい物を食べている。ただ三人が水着姿で椅子に座っているだけで、アイドルのグラビア撮影のような光景になり、自然と周囲の視線を集めてしまう。今日何度目かのナンパが来た。サングラスをかけたリンカがまたしても追い払う。こういう時はエリさえも堂々とあしらう。自分だけ狼狽えるばかりで吐息は自分の未熟さを感じた。

 リンカがサングラス越しに遠くを見ながらニヤリと言った。

 「なんかさーー、殺せない男子って興味わかないよね」

 「わかるーーーー、やばいよね私たち」

 エリが同意したので吐息は驚いた。自分がぼんやりと感じていた事を、この二人も感じていた。自分も共感できることが嬉しかった。

 「吐息は?」

 リンカが確認してきた。

 「…私も、私の手のひらの中に命があるって思うと嬉しい。すごく命が近いって感じられるから、できるだけそばにいたい。命と命を絆げていたい…」

 リンカもエリも同じ様な思いを感じ、しばらく黙り込む。プールではしゃぐ周囲の歓声が少し遠くに感じた。

 「いつまで私達と一緒にいてくれるのかな、あの人…」

 「モテないから一生大丈夫でしょ」

 エリが酷いことを言っているが、吐息はその酷いことが現実になればいいと思った。

 そしてその手のひらの中の命が、今いない事をとても寂しく感じた。





 プールからの帰り道、すでに外は暗くなっていた。プール後も遊びまくったのでずいぶん遅くなった。

 落谷宅のそばのコンビニを通り過ぎようとした時、店から出てきた落谷と偶然遭遇した。

 「おや、おかえり。ちょうどアイス買ってきたとこ」

 三人が喜んで買い物袋から好きなのを取り出す。

 「どうだった、プール」

 「もうモテまくり。ほんとヤバかった」

 リンカはそう自慢したが全て門前払いしたことは黙っていた。エリはうっすらと焼けた肌を落谷に見せ、吐息は楽しかった事を順番に羅列した。

 それを聞いている落谷の顔は優しい、普通のおじさんだった。

 「アイス食べたら、今日はここで解散ね。それぞれ家に帰りなさい」

 ブーイングするエリとリンカ。しかし今日は落谷が魔物化する予定日ではないので、彼の家にいく口実はなかった。すでに夜食の時間でもある、帰宅はしなければいけなかった。

 前を行くエリとリンカ、その後ろに吐息と落谷。吐息は落谷に

 「今度予定があったら、プール行きましょう!面白いですから!」

 意を決して誘ったが反応はつれなかった。

 「俺みたいなおじさんとじゃなく、若いこと行きなよ。青春の時間は貴重だよ。これはおじさんからの忠告ね」

 エリとリンカと別れた。家が隣同士の吐息と落谷は一緒の帰り道を進む。

 「どうして、一緒に遊ぶのが嫌なんですか・・・いいじゃないですか。そんなにおかしくないですよ」

 家の一歩手前まで来て吐息が、寂しそうに言った。街頭に照らされている落谷は

 「これでも君たちの幸せを考えてるんだよ。おじさんなりにね」

 そういって、別れの挨拶をした後、暗いアパートに入っていった。

 吐息は、納得できないという顔でしばらく家の前に立っていた。



 落谷の魔物化予定日。今日の当番は吐息だった。

 久々に落谷と二人きりになれたというのに、彼との距離感は先日の余波のせいか少し開いていた。

 彼から開いたこの距離。おそらく彼自身が感じている引け目がそうさせるのだろう。まだ十八でしかない吐息が感じ取ることが出来ない中年男性特有の引け目。それが理解できるようになるには、彼と同じくらいの年齢になるしかないのだろうか。

 「あなたが作った距離は、私が壊すことだって出来るんだよ」

 部屋の隅に座り、仕事机で仕事を続ける彼の背中を見ながらそう思ったが、実際に行動するだけの勇気は彼女の持ち合わせの中にはない。

 リンカとエリの勇気を奪い取って自分の物にしたくなった。そうすればあの二人よりも彼の命を近づけられる。

 「そもそも最初は二人だけだったのに」

 出会った日が、本当に遠い日のように思えた。

 気がつくと彼の手が止まっていた。

 「寝よっか」

 もう十一時だった。

 彼は布団から手を出しても来れなかった。これは使命なのだから手は出すべきなのに。それすらも拒むの?

 エリのように彼の上にのしかかりたかった。決して逃げられないように、体重を押し付けたかった。

 闇の中、醜い欲望が人目を気にせず這い出してくる。闇は願望に自由を与える。自分にこんな願望があることに吐息自身も戸惑いを感じる。今まであまりにも他人に対して自分を見せてこなかった。心に壁を作り人に強みも弱みも見せてこない人生だった。その心の壁は外には強かったが内からは弱かった。内面の願望の波にあっさりとヒビが入り崩壊しようとしている。

 彼女は少しづつ近づく。

 ゆっくりとゆっくりと…

 拒むように彼が消えた。

 消えた男に対して、その透明な顔に対してキスをする。いつか行う予行演習のように。

 空気に唇を震わせて数秒後、

 変身した吐息が部屋から空に飛び出した。



  一人、上空に舞い上がる吐息。他の二人に連絡するつもりはなかった。

 ぐるぐると回転しながら上昇し、魔物の出現場所を探す。

 出現場所を見つけ、その方向に飛び出す。その場所がはっきりし始めると

 「あのヤロー…」

 汚い言葉が出てしまった。

 そこは昼間、吐息たちが行ったレジャープールだった。

 真夜中、長大な流れるプールの中を青く光る巨大なうなぎが泳いでいた。ウネウネと楽しそうに。

 バシャアと水しぶきが上がる。吐息が上空から切りつけた。

 シーサーペント型魔物が低い唸り声を上げて水面から上体を起こす。空中に立つ少女を睨みつける。遊んでいたのを邪魔されたのを怒っているようだ。魔物の内面でどちらが主導権を握っているのかわからない。

 流れるプールの水は大荒れだ。

 「行きたいなら、行きたいっていってよ!」

 槍を振りかぶり魔物に突撃する吐息。

 交差し切りつけたが、まだ浅い。プールの水面に着地ししぶきを上げながら水上を滑走する吐息。

 水中からサーペントのしっぽが襲いかかる。槍を回転させながら防御する。巨大な尻尾の表面を削りながら攻撃を跳ね返す。

 「なんで恥ずかしがるのよ!」

 飛び上がった吐息が、槍から光線を発射するが、魔物は水で盾を作りそれを防ぐ。

 「誰もあなたのことを恥ずかしいなんて思ってない。勝手に諦めないで!」

 水流攻撃を次々と回避する吐息。

 「恥ずかしいと思ってるのは、あなただけよ!」

 上空から飛び込む吐息の烈帛(れっぱく)。

 自身を手に持った槍と一本化する。

 その一撃がサーペントの首筋から突入し、長い胴体を次々と破壊する。貫き通した吐息が水上を滑り、プールサイドに着地した。

 崩れるサーペントの胴体、首をもたげ高い場所にあった首にまで崩壊が届いた。

 頭部から男の姿が現れ、そのままの高さからプールに着水した。大きな水柱が立った。





 プールの中から夜空が見えた。

 ボトボトと元魔物だった物の残骸が落ちてくる。それは魔法で作られた物質で死体となってもまだ青い光を発光している。それがプールの底に堆積し照明のようにゆらゆらと光っている。

 呼吸が苦しくなったので水面に上がった。

 水から顔を出してキョロキョロとする。自分がプールにいることは分かるが、どこなんだここは。

 プールサイドを歩く少女を見つけた。こちらを見下ろしてニコニコしている。変身を解いた吐息だった。

 「やあ、ここは…プールみたいだね」

立ち泳ぎで挨拶をした。どうやら今日も命を助けられた。

 「そうですよ、あなたが行きたくなかったプールです」

 「・・・・・・そうだね、そのようだね…」

 俺は昼間、散々嫌がった場所に現れたようだ。なんともバツが悪い。まるで、無意識にこの場所を選んだようで、そのバツの悪さを誤魔化すことにした。

 「どうだい、君も深夜のプールを楽しまないのかい?」

 吐息は、こんな時間にこんなプールに入るような少女ではない。そのはずだった。

 「あはっ」

 一声、笑い声を上げた。彼女はいきなり服を脱ぎだし、下着姿になる。営業時間外、照明の一つも付いておらず、月明かりしかなかった。そのたった一つの照明だけで十分だった。それだけで彼女の体は輝いて見えた、

 飛び込んだ彼女は、迷いなく俺に抱きついてきた。

 見たことのない、はしゃぎようだ。

 俺は彼女に沈められ、俺も彼女を沈める。プールの底で輝く青い光の中を一緒に泳いだ。

 「プールって、楽しいですよね」

 「ああ」

 今夜だけは、彼女に同意する。



 翌日、全員の携帯にに落谷宅への接近を禁じる知らせが届いた。

 やはり夜中のプールは冷たかったらしく、俺は風邪をひいたのだ。

 「中年は抵抗力が落ちる」

 震えながらそう思った。



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