6 / 37
第二話
02‐02「ブートキャンプ」
しおりを挟む「というわけで、君たちにはこれから一週間、ゲームの基礎をやってもらう。目標は海外派兵で生き残ることだ。そのための技術をこの一週間で覚えてもらう。わかったか!」
『はい!』
ここは今先市の外れにある漫画喫茶。
空是は慣れない教官という立場を演じていた。
空是とその友人、合わせて7名が貸し切りの漫画喫茶のエントランスに集合している。空是の友達である宮下を始め、彼のクラスメイト男女混合チーム。空是と話したことがないような女子もいる。集まった彼らの共通事項は、
「家を戦火に焼かれた」
ということである。
実家が被害にあい、家族の貯金の大部分を失った…生活が困窮に向かっているクラスメイトばかりである。そんな彼らにとって一回二~三十万エントという「海外派兵」のインセンティブは、あまりに魅力的であった。
高校一年という身分の彼らにも可能な、稼げる手段として、戦争があったのだ。
そしてなにより、怒りという最大のモチベーションがある。「自分たちがやられたことをやり返して何が悪い」という思いがあった。同じことをするだけ。
「他人の生活を破壊することで、金をもらう」
同じことをするだけだ。
「この戦争には大きな非対称がある。攻撃を受ける側は個人情報の破壊や貯金の破壊などの大きなリスクがあるのに対して、攻撃側はほぼローリスクなの」
前日の部室。
宮下からの電話を受けた空是に対して、そらいろがギグソルジャーの海外派兵について説明をしている。
「攻撃側は敵国で負けて死んでも貯金が消えるわけじゃないし、個人データの破壊はない。溜め込んでいたゲーム内資産が消えるのと、あとは個人アドレスが露見した場合は敵国のブラックリストに載るくらいね」
「ずいぶん違うんですね」
「そう、この攻撃側有利というのが、報復攻撃の心理的ハードルを大きく下げている」
「つまり、やられた側がやり返す…その繰り返しで戦火が広がると」
空是の意外な理解の速さにそらいろは満足げな顔をした。
「この中でFPSの経験がある人?」
空是の質問に6人中3人が手を挙げる。男2女1、半分がまともにゲームもやっていない。それを戦場で生き残れるようにしなければいけない。
「大変だなこりゃ」
空是は聞こえないようにつぶやいた。
「まずプレイ経験がある者が無い者に一対一で基礎を指導してください。初日で基本を覚えてもらい、部隊の基礎を作ります。それでは、各ブースに二人一組で入ってください」
男女別に3チームができ、漫喫の二人用ブースに入っていく。全てのブースにゲーミングPCがある漫画喫茶はブートキャンプに最適な場所だった。
空是には漫喫の二人用ブースに恋人と入ることを想像したことがあり、その相手がそらいろであった事が何度もあった。
だが、そのそらいろはこの場にはいなかった。この漫喫を一週間にわたり貸し切ってくれたのはそらいろであるのに。
「ねぇ、ほんとにその子達が戦場に行くのを手伝うの?」
圧をかける時のそらいろは、そのきれいな顔を押し付けるように近づくので空是としては顔を下げるしかない。彼はそらいろに対してもっと大きな質問があったのだが、それは後回しにした。
「僕が…僕が止められることではありません」
友達が戦争に行って金を稼ぎたい。傭兵稼業をしたい。現代の言葉で言えばギグワーカーならぬ「ギグソルジャー」になりたい、というのを友人だからといって止めていいものだろうか?
空是は止められないと思っていた。
なぜなら彼らには自分と同じ動機があった。
「やられたからやり返す」
それが理解できるから、止める気がわかなかった。
「お金が必要なんです。あいつらも、切実です」
そらいろはため息をつき、腕を組む。彼女の腕に絞られた胸が浮き上がる。しばらく悩んだ後で
「わかった、協力してあげる」
彼女はそういった。そして、自分にはいろいろコネがあるとも。
そうしてこの漫喫が丸々貸し切りになったのだ。
いくら流行っていない店舗とは言え、昨日の今日で貸し切るとは、そらいろのもつコネとはいかなるものか、空是には想像のしようもなかった。
各ブースを回る時、自分が教師たちと同じ様な動きをしていることに気づき、空是は面白かった。ブースを覗いては一言二言いっては次に移る。それを繰り返す。
教官という立場は新鮮なものだったが、責任のプレッシャーもあった。なによりゲームのド素人までいる状態だ。しぜんそのチームに付きっきりになり、手取り足取り教える羽目にもなった。
一生懸命教えていると、教わっている女子生徒が涙目になり、やがてボロボロと涙を流し始めた。
自分が厳しく言い過ぎていたことに、空是はようやく気づいた。教えることも教わらなければいけなかった。
そらいろは再び大きなため息をついた。
「そんなに心配なんですか」
「そんなに楽観的なのをあきれてるの」
「楽観的ってわけじゃないです。僕の目論見としては、参加して参戦インセンティブを稼ぐ。さらに初回参戦ボーナスと、うまくすれば初回キルボーナス…これだけ稼いで、あとは撤収時間までどこかで隠れていてもらうつもりです」
様々な特典ボーナスについては、電話口で宮下が言っていたことの受け売りだ。それらの要素が「戦争参加への心理ハードル」を下げるために作られたインセンティブであることがよくわかった。現にただの高校生たちが参加を熱望しているのだ。
とはいえ彼ら彼女らは完全なるデジタルネイティブだ。一度理解すれば覚えは早い。午後を過ぎた当たりでゲームの基礎動作はほぼ習得した。空是のようなダブルフローターマウスにフットパネルといった変態的な操作ではなく、基本的なキーパッド+フローターマウスの標準操作をマスターしていた。
操作系の習熟こそが肝心であった。ほとんどの一般人は携帯の疑似キーパッドでのゲームに慣れてしまっているが、そんなチープな操作系で高度に進化したPCゲームはプレイできない。まず最低限コンソール、いや、やはりPCで専用のゲーミングデスクにチェア、フェイスグラスもカスタムを…とゲーム偏愛の熱弁を空是がし始めたところを、友人の宮下が止めてくれて一笑い起きた。
クラスでもゲームオタとして名を馳せていた空是である。その技能がみんなから求められていることが嬉しかったのだ。
なにせ彼は一年生入学初日に、1人で「Eゲーム研究会」を立ち上げた男なのだから。
「Eゲーム研を立ち上げた時にも先輩には助けられましたね。そのコネってやつに?」
「優秀な生徒に対する教師からの信頼は、コネって言わないの。だいたいクウゼ君、初日から様子がおかしかったからね。ゲーム部がない!って、部室練を駆けずり回って」
「あって当然のものがなかったんですから。そしたら僕の遠い親戚がこの学校の三年にいるって聞いて…ちょうどこの部屋でしたね。空き部屋だったここでEゲーム部の部長になってくださいってお願いして」
「告白みたいだったね」
そらいろのその言葉に完全に固まる空是。それを気にせずにそらいろは続ける。
「でも部長はやらないって、キミが部長で私は…幽霊部員?それで研究会開設をとりつけたってわけ」
そらいろの告白発言に他意がないことを理解した空是はやや赤い顔でうつむいて話を続けた。
「そらいろセンパイには、それからもお世話になりっぱなしで…」
目を上げると、目の前にそらいろの真剣な顔があり、再び空是が止まる。そんな静止した空是に対して
「キミも戦争に行くの?」
そらいろがついに聞いてきた。
「みんなが心配で…」
「嘘」
「誰かがついて加勢しないと」
「嘘」
「僕がいれば、きっと助けになる。もっと稼がせてあげられ…」
「嘘」
「僕が稼いで、母さんの助けになりたい…」
「…」
「…やられたから、やり返すんですよ!みんなを、僕の家を、あんな目に合わせた!だから、僕には戦っていい権利がある!僕のゲームの腕前で!絶対に勝てるんです!」
そらいろは空是から顔を離した。叫んでつばが飛んだのか、それとも呆れられたのか。恥ずかしくなり口元を抑えた。
机に腰かけたそらいろは、悲しそうに言った。
「空是君、君に残念な事を教えないといけない。なぜこの戦争が、無記名戦争と言われているのか、その理由を…」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる