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第四話
04‐02「首都防衛戦の片すみで」
しおりを挟む子供が大人を背負ったような。
高校生が背中にマネキンの上半身を背負ったような。
そんな感じで、一色空是は自分の戦闘用アバターを背中に背負っている。
移動はプレイヤー自身の足で行うという、人力電脳戦スタイルだ。
手に持った携帯のボタンを押してアバターが動くのを確かめた。
吹き抜けが高く抜けているオフィスビルのエントランス。その柱の陰に隠れているクラスメイト達も携帯を武装化させる。一人がアバターの銃器を自らの手に持って構える。
「やめといたほうがいい。メタアース内の照準と現実の腕での照準は誤差が大きすぎる、殆ど当たらない」
空是が指摘したのでその男子は銃を消して固定砲台を呼び出すことにした。全員が分散し、玄関を取り囲むように位置する。もし敵ギグソルジャーが入ってくるようなことがあれば、そこで十字砲火を浴びせる作戦だ。
空是達の動きを見て、同じように避難していた家族連れやサラリーマン達も自分たちの携帯をいじりだした。かれらは攻撃に参加するつもりはなく、携帯を防衛モード、外部からの通信を遮断するモードにしたが、それだけではギグソルジャーのウィルス攻撃にわずかな時間耐えれるだけである。ないよりマシといった程度の自己防衛だった。
空是はビルの奥に避難できないかと確認しに行ったが、カードキーがない部外者に扉は開かない。自動化が進み受付の人間などもいないため、エントランスルームより先へは避難できなかった。
発砲音が街のいたるところから響いてくる。
「ほんとに、東京が戦場になってる…」
サラリーマンの男性がつぶやく。
それは自分たちの故郷を襲われた空是たちが少し前に感じた恐怖と同じであろう。メタアース内での戦争なのだ。日本中、どこででも起こり得るものなのだ。
「首都だから大丈夫なんて、そんなわけないだろ」
宮下の声が、チーム内チャットに流れる。そうは言いつつも、彼ら全員、首都が攻撃されるなんて夢にも思わなかった。
空是は発砲音の変化に気がついた。当初は一方的な発砲だった。思うがままに撃っている連射音だったのが、いつのまにか双方向、短い乱射の撃ち合いという音に変わっている。
「東京のギグソルジャーが出てきたみたいだ」
「都会モンの腕前に期待だっぺな」
空是が時間を確認すると、ようやく10分が経過していた。
突然、玄関のガラスが破られ、二体の兵士がもつれながら飛び込んできた。驚き身を隠す人々、二体はエントランスの床を滑った後、離れ、お互いに発砲し合う。片方は黒い敵兵、もう一人は防衛のために立ち向かっている東京のギグソルジャー。その灰色の体に弾丸が何発も当たり、血飛沫が上がる。互いに撃ち合った弾が壁や床に当たり、穴を開け、柱を崩す。爆音がホールに響き渡り、隠れていた人々は体を丸めた。
東京のギグソルジャーは胸に受けた弾丸が致命傷となり、倒れて消えた。
黒い敵ギグソルジャーの体にも、何発かあたり、その足には大きな傷ができていた。
自らのダメージを確認する敵兵。
2メートルを超える巨人がちまちまと自分の傷を確認する姿は滑稽だが、空是はこのアバターの向こう側にいるプレイヤーの思考を予測する。
「足の傷が大きい、移動が困難だ。これではまともに戦えない。とはいっても戦争時間が終わるまでログアウトもできないから…どこかこのへんで、隠れていよう…」
空是は首を切るジェスチャーで、全員に無線チャットをやめさせた。今、オンライン上でのアクションをすれば、敵兵に感づかれる可能性がある。
奴はここに隠れているつもりだ。
その予測は正しかった。敵兵はエントランスの中央に腰をどっしりと下ろした。
全員が柱に隠れて息を殺した。
敵兵は、銃声が鳴り響く外をぼんやり見ている。
「まじかよ…」
宮下が敵兵に文句を言う。クラスメイトたちは全員携帯を構え、いざとなれば一斉掃射するつもりのようだ。空是も携帯を構え、いざという時に備えるが、こちらから挑む気はなかった。時間をみると13分が経過している。あと10分程度、隠れていられればいい。今回の侵略は本気ではない。テストだと彼は考えている。防衛の兵士も大勢出ている。損耗を考えれば早期撤退もあり得る話だ。
「~~~~♪」
座り込んだ敵兵はのんきに鼻歌を歌っている。どこの言葉ともわからないが、男性の声だ。
その敵兵の背後から、赤ん坊の鳴き声がし始めた。
後ろをぐるりと向く敵ギグソルジャー、柱の後ろにいる、赤子を必死にあやしている親子を見つけた。
ギグソルジャーの認知能力の話をしておこう。
メタアースには現実とまったく同じ地形、建物のデータが存在してる。そのデータの完成こそがメタアースという巨大サービスの根幹である。現実とまったく同じであるからこそ、2つの世界は重ね合わせても齟齬がでず、人間がその世界を見て触れ合うことが可能となる。
ギグソルジャーはメタアース内で戦うが、その視界は現実とメタアースの重ね合わせた世界。両方の世界が見えている。
いかにして現実を見ているのか?
それは世界中の殆どの人間が装備しているフェイスグラスのカメラによってである。フェイスグラスは装着時、その視野データと聴覚データを他人のフェイスグラスと送り合っている。
単体のフェイスグラスで生み出せる疑似現実は極めて狭い範囲の情報をもとに作られているが、装着者の周囲にいる他者のフェイスグラスの情報を受け取ることで、視覚に作られるCG映像のリアルさは現実レベルに匹敵し、音響効果は迫真のものになる。
仮想現実、メタアースの映像は、多数の人間の装着するフェイスグラスにより分散処理されているから、リアルなのだ。
ギグソルジャーはそのフェイスグラスと街中にあるARカメラの情報から合成された現実世界を覗いている。現実とメタアースがミックスされた戦場で戦っているのだ。
ただ無記名戦争の特質による、個人情報ジャミングがかけられるため、文字情報、広告情報、人体の顔情報、言語情報は読み取れない。
敵兵が感知しているのは、家族らしきひとかたまりの物と、ノイズまみれの不快な音だった。
空是は2つのことを考える。
「敵兵は、情けををかけない。攻撃すればポイントになる。躊躇する要素はない」
「赤ん坊に個人情報の蓄積もマネーもない。両親にはそれはあるが、こちらは7人だ。今、むやみに戦う必要は僕らにはない」
クラスメイトに目線を送り、動くなと命じた。全員がその非情な命令を受けとめた。
敵兵がのっそりと立ち上がり、片足を引きずりながら家族に向かっていく。家族に挨拶をするためでもなく、赤子をあやしに行くのでもない。銃口を掲げ、狙いに行っている。
空是たちは柱の陰に隠れ続ける。今、戦いに行っても勝算はない。手負いとはいえ、虎を相手にモデルガンで戦いを挑むようなものだ。ギグソルジャーの戦闘力というものを、すでに実感している高校生たちだった。
近づいてくる敵兵に悲鳴を上げる家族。
空是は携帯を握っている手に力が入る。
敵兵の銃口が家族を捕らえる。銃口の大きさから言って、三人まとめて吹き飛ぶだろう。
クラスメイトは目をつぶった。
その時、銃声が建物の隅から響いた。
銃弾が敵兵そばをいくつも通り抜ける。
「誰だ?」
思わず空是は顔を出して確認してしまう。
サラリーマンだ。同じように柱の陰で震えていた男が、我慢ならずに、身の程を知らずに、携帯から小さな銃を出して撃っている。
当然、当たるものではなく、当たったとしても皮膚で弾かれた。高レベル帯プレイヤーの体に、ギグソルジャーアプリを初めて起動させたようなド素人の武器はほとんど通じない。
「おじさん、馬鹿だ!」
空是が飛び出すのと、クラスメイトが撃ち出すのは同時だった。
サラリーマンの攻撃を受け、奇襲を悟っていた敵ギグソルジャーは、クラスメイトの固定砲台の銃撃をジャンプでかわした。
そのジャンプの凄まじさ、吹き抜けのエントランスの3階付近にまで届いている。
空中で構えたショットガンを撃つ。サラリーマンのいたあたりが床ごと弾けて吹き飛んだ。
サラリーマン・イズ・デッド
「ちっくしょー!」
クラスメイトが銃口を上に向け、吹き抜けの壁が下から削れていく。それを片足だけで壁を蹴って躱す敵兵、手練だ。
落下しながらショットガンを的確に撃つ。柱ごと砲台が次々と破壊された。
床に片足で着地した敵兵。すでに隠れていたクラスメイト達の位置は把握している。根こそぎ狩るつもりだ。
「こっちだ!」
叫んで銃を乱射する空是。走りながらエントランス奥の開いた自動ドアを越えていた。
戦闘中のだれかの放ったウィルス弾頭がドアのロック機構に当たり破壊していたのだ。
空是の姿を見る敵兵。
空是はそれに正対して
「アバターオン!」
音声コマンドで自分のアバターを背後に呼び出す。
敵兵にとっては、固定砲台よりも明確な脅威が現れた。アバターはアバターにとって危険な脅威だ。敵ギグソルジャーは空是に狙いを定めるが、空是はそのまま建物奥に逃げていく。
敵兵はエントランスの弱小脅威を放置して、空是を追った。
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