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第五話
05‐04「支配するモノ」 第五話完
しおりを挟むいまや世界を支配するモノである。
カレンシーAIに対する人類の実感はそのようなものである。
「大統領より偉い」とも思っている。
しかし実感と実際は違うのもである。
「AIは人間社会を下支えする道具である」
その建前が現在の社会の実際である。人は未だAIになど支配されていない、と人々は言い続けている。
だが、通貨の流通管理をし、通貨発行の権利も持ってている。世界の暗号通貨の全てを握っているAIが、人類を支配してなどいないと、本気で言い切れるだろうか?
通貨という面ではすでに支配されている。
さらに、その通貨競争が「無記名戦争」「ギグソルジャー」という形で表出し、争いが人間社会に生まれているのが現状である。
「三分の一を支配している」
それくらいは、豪語してもいい存在だった。
「私はエント。君たちの世界の、三分の一の通貨を支配しているAIだ」
そう言われた時の、空是の驚きは、米国大統領を前にした時よりも上であった(彼が会った事があるもっとも”偉い”人物は小学生時代の校長であるが)。
「え?」
でっかいボーリングのピンみたいな案内ロボットである。
「え?」
地球の通貨をコントロールする支配者が目の前にいる。
後ろを振り返るが、そこにいる6人の顔に、ドッキリにかかった空是を見て笑っている顔はない。知っている事実を聞かされている退屈顔だった。
そらいろは暗い目で空是から目をそらしていた。
もう一度見た、でっかいボーリングのピンだ。
「ほんとに?」
一応、確認した。
「君の財布に一兆エントを振り込めば信じてもらえるだろうが、あいにく私は通貨全体の管理AIだ、そんな信頼性を傷つけるようなことはできないぃ……今、振り込んだ!」
空是はすぐに携帯で確認したが、寂しい額のままだった。
「…」
5人のクスクス笑いが背後に聞こえる。しずかに携帯をしまった。
「たしかに、この姿で私がカレンシーAIであるということを証明するのは難しい、たとえば」
いきなり、初老の金持ちみたいな男が目の前に現れた。
「こんな姿とか」
いきなり、男が消え、賢そうな少女が現れ
「こんな姿とか」
賢者のような老人に姿を変える。
「こんな姿なら説得力があるだろうが」
全て消えてロボットだけがその場に残った。すべてホログラムで映し出された幻影だった。作られたCG人形だったが、それは極めてリアルで実在の人物と区別がつかなかった。
「どのような姿であろうと、私が私と証明することはできない…ならば!」
ロボットの一喝とともに、彼を中心に地球が広がる。
今度はCGで模式化された地球の姿が部屋いっぱいに広がる。部屋の照明はゆっくりと消え、青く輝く地球の半球が空是の顔面に迫る。
日本と太平洋が眼前に広がった。そして、日本列島から、アジアの島々から、オーストラリア大陸から、北米大陸から、黄金色の糸が何本も、何百本も、何万本も立ち上ってくる。
その陸地から立ち上った糸たちは渦を作り、各地向かって飛び上がった。海面の上を龍のように飛んでいく。それぞれの国から生まれた金の龍が違う国にたどり着き、そこに根を張り、小さな小さな渦をいくつも作る。
空是の目の前には暗闇に浮かぶ地球、その上に生まれるストリーム、黄金の奔流、全ての人間を結びつける地球規模の結びつき。
「これは現時刻での全てのエントの流れを示したものだ」
ロボットは誇らしげに言った。
金の糸はすべての地域で活発に動いている、行き来している。海を渡る龍も小さな群れから巨大なものまで、太さは額の違いか。ならばこの太平洋を超える太い龍はいくらなのか?十億か百億か?
日本の上でも活発に金の糸が、植物のように、菌糸のように動いている。県に市に街に、全て繋がっている。そして個人同士で、お金はやり取りされている。覗けば覗くほど小さなディティールが見える。人生のすべての局面で起こる、お金のやり取りの全てがそこにあった。人類全ての人生を、この映像から見ることが、見下ろすことができた。
「これこそが人類には決して見ることができない、人類そのものの姿。通貨という人類文明の血流図。カレンシーストリーム。全ての通貨交流をリアルタイムで俯瞰して見せることができるのは、この私、エントだけだ」
空是は圧倒されていた。
「なにが人類そのものや、裏っかわハリボテやんか」
5人のうちの1人、イケメンの男性が寄ってきて地球をスワイプすると、地球儀のように回転しユーラシア大陸とヨーロッパが現れたが、そこは暗く、大雑把な太い黄色い線がわずかにうごめいているだけだった。
「そっちはルーロとイェンシーのテリトリーだ。私にリアルタイム情報が入ってくるわけ無いだろ」
いいところを邪魔されてロボットは不満気味に答えた。
「それでも3分の1はコントロール下だ。それを広げるために君たちに集まってもらっているのだよ」
部屋の明かりが戻り、ロボットはボーリングピンの姿を見せた。
その広い部屋には、7人の人間と一体のロボットだけになった。
「本当に…本当にエント?そしてここは…」
「世界戦争のためのチート兵器の実験場やな」
イケメン男性が親切に教えてくれた。
(人当たりが良さそうな20代…そらいろ先輩も好きになりそうな好男子…)
余計な雑念が脳に生まれる。
「チート兵器…世界戦争っ?」
「そうだ、その時期は極めて近づいている」
他ならぬエント軍の総大将であるAIがそう断言した。
そこにいる6人(そらいろ含む)はみな真面目な顔で聞いている。バカにするような顔は一つもない。
(そう自覚していない自分が間違っているのか?)
空是はすがるようにそらいろを見たが、彼女の視線は正面に固定され、こちらを見ていなかった。
ロボットは動き回りながら話を続けた。
「ここは元々ある企業のスパコン施設だったが、SPU登場により廃棄された。それを私が買い取ったんだよ。なーぜーか?
チート兵器開発をメタアース内で行うわけにはいかない。なぜなら世界にバレバレだからだ。秘密兵器だから当然、極秘開発が基本だ。開発はメタアースの外、オフラインで行わなければいけない。
しかし兵器としての実行力をテストするためにはSPUクラスの演算領域が必要となる。だがSPUは世界的に貴重かつ重要な機材なため、一つ一つがナンバリングされ国際的に管理されている。
ではどうするか? ここに捨てられているスパコンがあるじゃないか!
これを使えば、狭い限定領域ではあるがメタアースと同一環境を作れ、チートの実行力をテストできる。
スーパーコンピューターでデジタル上の核実験をした90年代と同じだ。歴史は繰り返したわけだ」
「ここに集まったのが、その実験のためのチーム?」
空是が問うと、5人の中の1人、誰よりも大柄な女性が空是を指差して言った。
「そ。そしてキミも。その6人目らしいよ」
「実験だけじゃねぇ。実戦もやるんだよ。チート戦術の特殊部隊、最強のチームだ。お前以外はな」
先程から噛み付いていた同世代の少年がまた噛み付いてきた。
空是も睨み返す。
「パン」
大きく手を鳴らす音がした。言うことを聞かない犬を脅かすような音。叩いたのはエントだったが、彼には腕が無いので手を叩いた音を鳴らしたようだ。
「さあ、ここの名称、目的は紹介した。あとはメンバー紹介だが、名前をいちいち教えても君たちには意味がない。実際に戦ってもらおう。チーム戦だ!」
驚いたのは空是だけで、他の5人はためらいなく立ち上がった。
「ええな、話が早い」
イケメンの男性もやる気だ。
「負けたら帰れよ」
少年は馬鹿にするように言った。
一人戸惑っている空是にエントが
「嫌なら、帰ってもいい。自主参加がここの基本だから。君にはつねに選択権があると思ってくれていい」
丁寧だが切り捨てるように言った。
こんな時、空是はそらいろを見る。
彼女は、空是を見ていた。
しかし、その目に普段の温かい輝きはない。
空是は瞬時に理解した。彼には見えたのだ。
夕方の部活時間、部室にたった一人でいる自分が。夕日の暖かさをまとっていた彼女がいなくなっている。今、彼が断れば、あの部室に彼女は二度と現れなくなる。
それが分かった。ここで彼女と人生が別れてしまうということが。
「…やります」
空是は慎重に、決意を言葉にした。
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