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第一部 幕間:gear
その道のりは長いようで短い
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騒がしい冒険者ギルド。
早朝という事もあり、多くの仕事が掲示板に張られ、冒険者たちが我先にと仕事を勝ち取ろうと、依頼人や冒険者ギルド職員に交渉をしている。
そんな中、四人の冒険者パーティーは真剣な表情で、丸机を囲っていた。
「おい、イルシア」
「待ってくれ、アタイもまだ整理がついてないんだ」
大剣を背負ったガタイのいい男が露出が高い盗賊姿の褐色の女性に苛立ちにも似た声を飛ばす。
盗賊の女性、イルシアは頭を掻きむしりながら、手元の書類を何度も読み直している。
そして、数回読み直した後、ゆっくりとあり得ない事実を飲み込むように、顔を上げた。
「……まず、ライゼはこの国を出た」
「「「ッ」」」
絞り出すように呟かれたその言葉に、丸机を囲っていた男二人が立ち上がる。
野性味あふれる大剣男は怒鳴りそうになり、巨大な盾を背負う鈍そうな男は心配そうにしている。
そして、魔法使い姿の女性は深呼吸をした後、冷静にイルシアに訊ねる。
「続きをお願いします」
「カーミラ、分かってる。もう一つは、ライゼと共に国を出たお方がいる」
「お方ですか?」
カーミラは普段、イルシアが使わない言葉に引っかかる。
立っていた男二人は、目頭を揉んだ後、ひとまず座る。
「ああ、天上の存在だ」
「……勿体ぶらずに教えろ、イルシア」
「……んだ」
そして男たちは焦らしに焦れて、貧乏ゆすりを始める。
「……分かったよ。ライゼと共にこの国を出ていったお方はな、何と伝説の勇者パーティーに魔法を教え、自らも魔王を倒した英雄、深き森人の賢者、レーラーだ」
イルシアは右手付近に置いてあったオルゴールを弄びながら、呆れるように、信じられないように言った。
「「「……」」」
そしてもちろん、その言葉を聞いた三人は冗談はよせという表情をする。
だが、イルシアは更に続ける。
「しかもだ、ライゼは賢者レーラーの弟子だそうだ。アタイが、大きな借り作って魔法学園の学園長から直接仕入れた情報だ。間違いない」
そう言い切ったイルシアに、パーティーメンバーであるグルドやカーミラ、ダルは瞠目する。
イルシアが言い切る事は滅多になく、言い切るという事はそれは絶対的な確かな情報の時だけなのだ。
つまり、今の言葉は真実で。
「ッ!!!!!」
最初に、カーミラが周囲にいた冒険者たちが思わず、振り向いてしまうほどの膨大な魔力を放出し、魔女帽子とローブをはためかせて立ち上がる。
そして、イルシアの肩を魔法使いでは考えられらないほどの万力で掴み、思いっきり揺らす。
「どこに! どこに、彼のお方はいるのですか!? 掴んでいるのでしょう! イルシアの事なら掴んでいるんでしょう! 早く」
「…ぅ…ぐぇ、し、しま…る」
あらゆる魔法使いの憧れの存在であるレーラーがいたという事実に、そして、今補足できるという事実に、魔法使いであるカーミラは我を失った。
我を失ったから、高ランク冒険者の魔法使いに見合う、膨大な魔力がギルド内に放出されていて、職員が何事かと駆けつけてきた。
「お、落ち着け、カーミラ。イルシアが死ぬだろ!」
そしてあまりの事実に呆然としていたグルドが我を取り戻し、そんなカーミラを掴む。ついでにダルが言葉足らずながらも、周りに誤魔化しの説明を入れている。
そして、彼らは一旦落ち着くために、高ランクの冒険者専用個室に入った。
最初からそこに入っておけば良かったのではと、グルド達全員が後悔していた。
Φ
それから、情報を幾つか確認し、少しだけ揉め、ようやく全員が事実を認めたころ、グルドが切り出した。
「で、今後、どうするんだ」
「……そこですよね」
元々、彼らはアイファング王国の王都を活動拠点にするつもりはなかった。だが、ライゼと出会い、彼の新人指導役を偶々引き受けたことによって、ライゼが魔法学園卒業までは、何かあった時のために王都を中心に活動していたのだ。
しかし、そのライゼもいなくなった。
彼らにとってみれば、断りにくい中期依頼を完遂させ、帰って来たと思ったら、いきなり、ギルドからライゼが送った彼ら宛の手紙を受け取り、ライゼが王都からいなくなったことを、アイファング王国からいなくなったことを知ったのだ。
青天の霹靂である。
手紙には国と揉めたとかで、詳しい事情は書いていなかったが、今まで面倒を見てきてくれた礼と、キチンとした別れの挨拶ができなかった事に対しての謝罪などが書いてあった。
しかし、彼らが知りたいのはそんな事ではないと思い、イルシアに情報を集めさせていたのだ。
そして、事の顛末を知った。
「アタイは、ライゼの足取りを追いたいと思っているが」
「んだ」
イルシアとダルは、ライゼから直接話を聞くために、今にでもここを発つべきだと主張する。
「……アイファング王国を発つのは賛成ですが、ライゼさんを追うのはどうかと」
「ああ、それは俺もだ。詳しい話をアイツから聞きたい気持ちは山々だが、追いかけるのはな。アイツに迷惑だし、何より、冒険者であるアイツにとってな……」
冒険者のしきたりと言うか、言い伝えというか、ジンクスみたいなものの中に、面倒を見た新人冒険者が、一人立ち、もしくは旅に出たときは、しばらく会わない方が良いというジンクスがある。
なんでも、新人冒険者が、一人立ち中、もしくは旅中で先輩冒険者に出会ってしまうと、死ぬフラグが立つのだ。
理屈は分からないが、それで命を落とした新人冒険者をグルドたちは何人も知っている。
また、後悔に襲われた先輩冒険者も。
迷信臭いし、理屈もない話なのだが、しかし、冒険者はそれ故にジンクスを大事にしている。
なので、グルドとカーミラは渋っているのだ。
「……なら、ヒメル大陸に拠点を移す事はどうだい?」
グルドの呟きに、少しだけ考え込んだイルシアは懐から世界地図を取り出し、一番北にある大陸を指差した。
「ライゼたちがヒメル大陸に行くことは確実だ。アタシの確かな情報筋から得た情報だからな。だが、なんでも、アンツェンデル大陸、イグニス大陸を経由してヒメル大陸に行くつもりらしい」
「……なるほどな。ライゼがヒメル大陸に着くころには流石にあのジンクスも時効だろうしな」
グルドは頷く。
「……確かにいいですね。ヒメル大陸といえば、まだ、魔人が多く存在していますし、私たちの名を上げるにも、ライゼさんに私たちの名前を轟かせるにも丁度いいですね」
つまり、魔人たちをぶち殺しまくって、名を上げようというわけである。おっとり美人なのに、怖い事を宣う。
「んだ。そんだ。それんだ、いい」
ダルも頷く。
「じゃあ、『竜の魂渡り』はハーフンの王都の港からヒメル大陸に渡る事が直近の目標、長期の目標は上級魔人を倒し、Sランク冒険者パーティーに成り上がる事でいいか」
「はい」
「ああ」
「んだ」
そして、二日後、Aランク冒険者パーティーである『竜の魂渡り』は王都を発った。ギルド職員が必死になって留めようとしたが、無駄だった。
早朝という事もあり、多くの仕事が掲示板に張られ、冒険者たちが我先にと仕事を勝ち取ろうと、依頼人や冒険者ギルド職員に交渉をしている。
そんな中、四人の冒険者パーティーは真剣な表情で、丸机を囲っていた。
「おい、イルシア」
「待ってくれ、アタイもまだ整理がついてないんだ」
大剣を背負ったガタイのいい男が露出が高い盗賊姿の褐色の女性に苛立ちにも似た声を飛ばす。
盗賊の女性、イルシアは頭を掻きむしりながら、手元の書類を何度も読み直している。
そして、数回読み直した後、ゆっくりとあり得ない事実を飲み込むように、顔を上げた。
「……まず、ライゼはこの国を出た」
「「「ッ」」」
絞り出すように呟かれたその言葉に、丸机を囲っていた男二人が立ち上がる。
野性味あふれる大剣男は怒鳴りそうになり、巨大な盾を背負う鈍そうな男は心配そうにしている。
そして、魔法使い姿の女性は深呼吸をした後、冷静にイルシアに訊ねる。
「続きをお願いします」
「カーミラ、分かってる。もう一つは、ライゼと共に国を出たお方がいる」
「お方ですか?」
カーミラは普段、イルシアが使わない言葉に引っかかる。
立っていた男二人は、目頭を揉んだ後、ひとまず座る。
「ああ、天上の存在だ」
「……勿体ぶらずに教えろ、イルシア」
「……んだ」
そして男たちは焦らしに焦れて、貧乏ゆすりを始める。
「……分かったよ。ライゼと共にこの国を出ていったお方はな、何と伝説の勇者パーティーに魔法を教え、自らも魔王を倒した英雄、深き森人の賢者、レーラーだ」
イルシアは右手付近に置いてあったオルゴールを弄びながら、呆れるように、信じられないように言った。
「「「……」」」
そしてもちろん、その言葉を聞いた三人は冗談はよせという表情をする。
だが、イルシアは更に続ける。
「しかもだ、ライゼは賢者レーラーの弟子だそうだ。アタイが、大きな借り作って魔法学園の学園長から直接仕入れた情報だ。間違いない」
そう言い切ったイルシアに、パーティーメンバーであるグルドやカーミラ、ダルは瞠目する。
イルシアが言い切る事は滅多になく、言い切るという事はそれは絶対的な確かな情報の時だけなのだ。
つまり、今の言葉は真実で。
「ッ!!!!!」
最初に、カーミラが周囲にいた冒険者たちが思わず、振り向いてしまうほどの膨大な魔力を放出し、魔女帽子とローブをはためかせて立ち上がる。
そして、イルシアの肩を魔法使いでは考えられらないほどの万力で掴み、思いっきり揺らす。
「どこに! どこに、彼のお方はいるのですか!? 掴んでいるのでしょう! イルシアの事なら掴んでいるんでしょう! 早く」
「…ぅ…ぐぇ、し、しま…る」
あらゆる魔法使いの憧れの存在であるレーラーがいたという事実に、そして、今補足できるという事実に、魔法使いであるカーミラは我を失った。
我を失ったから、高ランク冒険者の魔法使いに見合う、膨大な魔力がギルド内に放出されていて、職員が何事かと駆けつけてきた。
「お、落ち着け、カーミラ。イルシアが死ぬだろ!」
そしてあまりの事実に呆然としていたグルドが我を取り戻し、そんなカーミラを掴む。ついでにダルが言葉足らずながらも、周りに誤魔化しの説明を入れている。
そして、彼らは一旦落ち着くために、高ランクの冒険者専用個室に入った。
最初からそこに入っておけば良かったのではと、グルド達全員が後悔していた。
Φ
それから、情報を幾つか確認し、少しだけ揉め、ようやく全員が事実を認めたころ、グルドが切り出した。
「で、今後、どうするんだ」
「……そこですよね」
元々、彼らはアイファング王国の王都を活動拠点にするつもりはなかった。だが、ライゼと出会い、彼の新人指導役を偶々引き受けたことによって、ライゼが魔法学園卒業までは、何かあった時のために王都を中心に活動していたのだ。
しかし、そのライゼもいなくなった。
彼らにとってみれば、断りにくい中期依頼を完遂させ、帰って来たと思ったら、いきなり、ギルドからライゼが送った彼ら宛の手紙を受け取り、ライゼが王都からいなくなったことを、アイファング王国からいなくなったことを知ったのだ。
青天の霹靂である。
手紙には国と揉めたとかで、詳しい事情は書いていなかったが、今まで面倒を見てきてくれた礼と、キチンとした別れの挨拶ができなかった事に対しての謝罪などが書いてあった。
しかし、彼らが知りたいのはそんな事ではないと思い、イルシアに情報を集めさせていたのだ。
そして、事の顛末を知った。
「アタイは、ライゼの足取りを追いたいと思っているが」
「んだ」
イルシアとダルは、ライゼから直接話を聞くために、今にでもここを発つべきだと主張する。
「……アイファング王国を発つのは賛成ですが、ライゼさんを追うのはどうかと」
「ああ、それは俺もだ。詳しい話をアイツから聞きたい気持ちは山々だが、追いかけるのはな。アイツに迷惑だし、何より、冒険者であるアイツにとってな……」
冒険者のしきたりと言うか、言い伝えというか、ジンクスみたいなものの中に、面倒を見た新人冒険者が、一人立ち、もしくは旅に出たときは、しばらく会わない方が良いというジンクスがある。
なんでも、新人冒険者が、一人立ち中、もしくは旅中で先輩冒険者に出会ってしまうと、死ぬフラグが立つのだ。
理屈は分からないが、それで命を落とした新人冒険者をグルドたちは何人も知っている。
また、後悔に襲われた先輩冒険者も。
迷信臭いし、理屈もない話なのだが、しかし、冒険者はそれ故にジンクスを大事にしている。
なので、グルドとカーミラは渋っているのだ。
「……なら、ヒメル大陸に拠点を移す事はどうだい?」
グルドの呟きに、少しだけ考え込んだイルシアは懐から世界地図を取り出し、一番北にある大陸を指差した。
「ライゼたちがヒメル大陸に行くことは確実だ。アタシの確かな情報筋から得た情報だからな。だが、なんでも、アンツェンデル大陸、イグニス大陸を経由してヒメル大陸に行くつもりらしい」
「……なるほどな。ライゼがヒメル大陸に着くころには流石にあのジンクスも時効だろうしな」
グルドは頷く。
「……確かにいいですね。ヒメル大陸といえば、まだ、魔人が多く存在していますし、私たちの名を上げるにも、ライゼさんに私たちの名前を轟かせるにも丁度いいですね」
つまり、魔人たちをぶち殺しまくって、名を上げようというわけである。おっとり美人なのに、怖い事を宣う。
「んだ。そんだ。それんだ、いい」
ダルも頷く。
「じゃあ、『竜の魂渡り』はハーフンの王都の港からヒメル大陸に渡る事が直近の目標、長期の目標は上級魔人を倒し、Sランク冒険者パーティーに成り上がる事でいいか」
「はい」
「ああ」
「んだ」
そして、二日後、Aランク冒険者パーティーである『竜の魂渡り』は王都を発った。ギルド職員が必死になって留めようとしたが、無駄だった。
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