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ちょっとした激動の四か月
“陽光球”創造:Aruneken
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「アテナ母さん、大丈夫?」
「もう少し寄りかかっても問題ないわよ」
「わかった」
膝の上に乗った俺が後ろを振り返って訊ねると、アテナ母さんは細く温かな手で俺の頭を撫でた。くすぐったい。
「ぅん。……それで、その太陽の光ってどうやって作るの? 言われた通りの材料は持ってきたけど」
「慌てない慌てない。……レモン、七の三の上から四段目のやつ持ってきてくれるかしら?」
「かしこまりました」
レモンは嬉しそうに耳をピコピコしながら本の山へと消えていく。
うちって大体使用人に頼らないで色々とやってしまうせいで、レモンやユナたちが頼ってほしいと言ってくる事が多いのだ。まぁそのくせしてレモンは頼ったら頼ったでサボるのだが。
けれど、流石に身重のアテナ母さんの頼みに関してサボったりすることはないようだ。何かを持って戻ってきたレモンの足音が弾んでいるから嬉しいのだろう。
「お持ちしました」
「ありがとう、レモン」
「どういたしまして」
レモンが黒を基調としたヴィクトリアンメイド服のスカート部分を少しだけ摘み、それは見事なカーテシーをした。
……あれ、礼の作法ってカーテシーだったけ。……いや、これは前世の知識か。ぶっちゃけ、オタク趣味の延長で多少なりともそんな礼儀作法を齧っていたせいで、こっちの世界の礼儀作法とごっちゃになるんだよな。
前世の西洋の礼儀作法とこっちの作法が全くもって違うならば、ごっちゃにはならないのだが、微妙に似ているから厄介なのだ。
確かこっちでは、挨拶だけじゃなくて礼などでもカーテシーを使うんだよ。うん、そうだった。まぁ、俺には一生縁のない作法なんだが。だって男だし。
ということで、俺はレモンが持ってきた物に視線を移した。
「……すりこぎとすり鉢?」
「そうよ。けど、ただのすり鉢ではないわ」
「……魔力増幅に、特定属性変換……熱……いや聖かな?」
「ええ、よくわかったわね。魔力を含んだ素材をこのすり鉢ですると、魔力性質が聖へと変化するようになっているのよ」
……魔道言語が刻まれていないし、アーティファクトか。アーティファクトは未だにどうやって作っているか分からないんだよな。
なんか、道具に能力が宿る感じでな……。魔道具なら普通に古代魔道言語やらなんやらを刻めばいいんだが。
「……でも、何で聖? 太陽の光なら、普通に無属性の光じゃないの?」
「ええ。そっちでもいいのだけれども、今回はあの植物を育てるための太陽の光なのよ。だから、聖の性質が混じっていた方がいいの」
「ふぅん」
聖とは、神聖魔力に最も近しい魔力波長であり、その魔力による魔法は奇跡とも言えるような魔法が多い。
魔物を退ける結界や不死者を還す魔法、欠損を直す治癒など。すべて無属性魔法に分類されるが、それでも属性的には聖だ。とてもややこしい。
まぁどっちにしろ自動的に魔力波長を聖に変換するアーティファクトは、国宝級にも近い。それがすり鉢とは。なんとも言えない感じが俺の中で浮かぶが、これはよくあることなので気にしない。
それよりトリートエウの枝が必要と聞いてから感じていたが、やっぱりあの植物って精霊とかあっち関連なのかな。
昔のことを考えると、簡単にトリートエウの枝が取れるとも考えづらいしな。授けられるといった方が近いし、ならばエウが関わっている可能性は高い気がする。
「では、母さんの“陽光球”創造のお時間です! はい、パチパチパチ」
「え、何、急に」
とそんな考察をしていたら、アテナ母さんが急に高い声を張り上げてそんなことをいった。三分クッキングみたいなテンポを急にやられても。
後ろを振り返り戸惑いを浮かべた俺の頬をアテナ母さんがつねった。
「何って、前に料理を作るときにこんな感じのこと言ってたじゃない。なのに私がおかしなことを始めたみたいな顔をして」
「そうでした、そうでした! そんな事やりました! だから待って! イタいから、結構痛いから待って!」
確かに収穫祭の一か月前くらいから、アテナ母さんたちやアランに料理を披露する際、三分クッキング的なノリをしたわ。……あれ、三分クッキングだったけ、おしゃべりなメガネの女性の料理番組だったけ?
まぁそれはいいや。どっちにしろそんなノリをやったのは確かだった。
「ったく。それじゃあ始めるわよ」
「はひ」
ツンッと離された頬を抑え、俺は頷いた。ああ、ヒリヒリする。この微妙に痛くないけど痛い感じのつねりをするアテナ母さんは手慣れている。
たぶん何度も何度も誰かの頬をつねったのだろう。俺は両手で数えられるくらいにしかつねられてないし。
「そうね。まずは、一本のトリートエウの枝と小麦粉を出しなさい。小麦粉の量はこれくらいで、直接すり鉢にいれなさい」
アテナ母さんが木製の机を一撫でした後、そういった。
「分かった」
俺はトリートエウの枝と小麦粉を“宝物袋”から取り出した。小麦粉の量はアテナ母さんが俺に持たせた小さな本の重さ分だけだした。
“宝物袋”は大きさや見た目的な量よりも、重さの量の方が調節しやすいのだ。アテナ母さんはそれを知っていたのだろう。
「そしたらトリートエウの枝をちょっとずつすりこぎで潰していきなさい。満遍なく小麦に混ざるように」
「……こう?」
「ええ、そんな感じよ。あと、身体強化をしても問題ないわよ」
「あ、そうなの?」
すり鉢とかアーティファクトだし、魔力影響があるかもしれないから、うんしょ、よいしょと自力でトリートエウの枝を潰していたのだが、使ってもよかったらしい。
一応、魔力が放出しないように魔力操作には気を付けながらも俺は身体強化をして、トリートエウの枝を端からすり潰しながら小麦粉と混ぜていく。
そうしてトリートエウの枝をすり潰し、小麦粉とも十分混ざり切った後。
「じゃあ、次に魔晶石と霊石を出してちょうだい」
「分かった」
俺は事前に指定されていた大きさの魔晶石と霊石を取り出した。両方とも俺自らが仕入れるというよりは、アテナ母さんから買っているといった方が近い。
なので、サイズの共有はしやすいのだ。ただ、小麦粉は湿度などによって量が変わるのだろう。机を一撫でしていたし、あれは湿度とかを図っていたんだと思う。
そういう癖があるし。
「そしたら、砕きなさい。ああ、すり鉢は抑えておくから、両手でね。ケガしないように気をつけなさい」
「ありがと」
白くてガラス細工のような細い手が、俺の後ろからすり鉢をつかんだ。
なんか後ろから抱きつかれているような気分になるが、俺は硬い魔晶石と霊石をすりこぎ棒で叩いて砕いていく。
トリートエウの枝と小麦粉のブレンド粉が舞わないように気を付けながらも、身体強化を使って根気よく砕いていく。端っこから、端っこから、徐々に砕いていく。
そうして十分近く砕き、俺が息切れしたころようやくそれらが砕き終わった。
「お疲れ様。よく頑張ったわね」
「……う、うん。……それで次はどうするの?」
「次は簡単よ。ゆっくりとすりこぎ棒で中身を混ぜながら、魔力を注いでいくの。魔力を注ぐのは私がやるから、セオは混ぜるのをお願いね」
「……大丈夫?」
「それくらいの魔力減少は問題ないわ」
レモンにチラリと視線を送れば、問題ないと頷いた。一応、体内魔力が減少すると体力やらが消費されるため、気になったのだが、問題ないらしい。
それがわかった俺は憂いなくゆっくりとすり鉢の中身を混ぜてく。コリガリ、ゴリカリと小気味よい音が聞こえ、また程よい振動が伝わるせいで脱力感が半端ない。
それにアテナ母さんの体温を間近に感じているのもある。母親だし、ここに座っているのがとても心地いいのだ。すり鉢を抑えていて、俺を抱きしめるような形だし。
そうして少しだけ襲ってくる脱力感と眠気に抗いながら、俺はすりこぎ棒を動かしていたところ、アテナ母さんがパッとすり鉢を離した。
「セオ、もういいわよ」
「分かった」
俺はコトリとすりこぎ棒を机の上に置いた。
「次は、聖水と泥炭?」
「ええ。けど、その前に、セオ。机の上にある書類とかすべて“宝物袋”の中に入れてもらえるかしら」
「ああ、匂いだね」
「そうよ」
泥炭を出すんだし、匂いが染みつくといけないだろう。というか、ちょっと思っていたんだが泥炭を使うのに何でこの部屋を選んだんだろう。
……まぁいっか。後ろで控えているレモンも何も言わないようだし。
そう思いながら、“宝物袋”に書類等々を仕舞う。そうしてすべて仕舞い終わった後、アテナ母さんはフィンガースナップをした。
その瞬間、風の膜が俺たちの周りに現れた。優しく渦巻くその風は、匂いを遮断するための結界だろう。
そう思った瞬間、もう一度アテナ母さんはフィンガースナップをした。今度は薄い結界が、俺とアテナ母さんの体に添うように張られた。超極薄の宇宙服を着ている感じだ。
と、レモンは? と思ったのだが、いつの間にかレモンは風の膜の外にいた。
「じゃあ、セオ。聖水と泥炭を同量に出しなさい。……そうね、丁度七割程度って感じよ」
「分かった」
俺は“宝物袋”から、ちょろちょろと聖水を、ニュルニュルと泥炭を出す。泥炭は粘土というか、含水量少な目の泥みたいな感じだ。
そうして、跳ねないように慎重に入れながら、すり鉢の七割程度まで注いだ。
泥炭の匂いが充満し、なんとも言えない気持ちになる。泥炭の匂いは少しだけむせ返るようで、けれど安心するような、奇妙な匂いなのだ。
「……で、これからどうするの?」
「どうもしないわ。ただただ待っているだけ」
「待つ」
「そうよ」
……ただ待っているだけでいいらしい。暇ができてしまったのだが。
「だから、セオ。色々と話をしましょ」
「分かった」
だから、俺たちは暇を潰すために色々と話した。まぁ話すのは俺で、アテナ母さんはゆっくりと俺の頭を撫でながら聞いているだけだったが。
穏やかで安心する。
「もう少し寄りかかっても問題ないわよ」
「わかった」
膝の上に乗った俺が後ろを振り返って訊ねると、アテナ母さんは細く温かな手で俺の頭を撫でた。くすぐったい。
「ぅん。……それで、その太陽の光ってどうやって作るの? 言われた通りの材料は持ってきたけど」
「慌てない慌てない。……レモン、七の三の上から四段目のやつ持ってきてくれるかしら?」
「かしこまりました」
レモンは嬉しそうに耳をピコピコしながら本の山へと消えていく。
うちって大体使用人に頼らないで色々とやってしまうせいで、レモンやユナたちが頼ってほしいと言ってくる事が多いのだ。まぁそのくせしてレモンは頼ったら頼ったでサボるのだが。
けれど、流石に身重のアテナ母さんの頼みに関してサボったりすることはないようだ。何かを持って戻ってきたレモンの足音が弾んでいるから嬉しいのだろう。
「お持ちしました」
「ありがとう、レモン」
「どういたしまして」
レモンが黒を基調としたヴィクトリアンメイド服のスカート部分を少しだけ摘み、それは見事なカーテシーをした。
……あれ、礼の作法ってカーテシーだったけ。……いや、これは前世の知識か。ぶっちゃけ、オタク趣味の延長で多少なりともそんな礼儀作法を齧っていたせいで、こっちの世界の礼儀作法とごっちゃになるんだよな。
前世の西洋の礼儀作法とこっちの作法が全くもって違うならば、ごっちゃにはならないのだが、微妙に似ているから厄介なのだ。
確かこっちでは、挨拶だけじゃなくて礼などでもカーテシーを使うんだよ。うん、そうだった。まぁ、俺には一生縁のない作法なんだが。だって男だし。
ということで、俺はレモンが持ってきた物に視線を移した。
「……すりこぎとすり鉢?」
「そうよ。けど、ただのすり鉢ではないわ」
「……魔力増幅に、特定属性変換……熱……いや聖かな?」
「ええ、よくわかったわね。魔力を含んだ素材をこのすり鉢ですると、魔力性質が聖へと変化するようになっているのよ」
……魔道言語が刻まれていないし、アーティファクトか。アーティファクトは未だにどうやって作っているか分からないんだよな。
なんか、道具に能力が宿る感じでな……。魔道具なら普通に古代魔道言語やらなんやらを刻めばいいんだが。
「……でも、何で聖? 太陽の光なら、普通に無属性の光じゃないの?」
「ええ。そっちでもいいのだけれども、今回はあの植物を育てるための太陽の光なのよ。だから、聖の性質が混じっていた方がいいの」
「ふぅん」
聖とは、神聖魔力に最も近しい魔力波長であり、その魔力による魔法は奇跡とも言えるような魔法が多い。
魔物を退ける結界や不死者を還す魔法、欠損を直す治癒など。すべて無属性魔法に分類されるが、それでも属性的には聖だ。とてもややこしい。
まぁどっちにしろ自動的に魔力波長を聖に変換するアーティファクトは、国宝級にも近い。それがすり鉢とは。なんとも言えない感じが俺の中で浮かぶが、これはよくあることなので気にしない。
それよりトリートエウの枝が必要と聞いてから感じていたが、やっぱりあの植物って精霊とかあっち関連なのかな。
昔のことを考えると、簡単にトリートエウの枝が取れるとも考えづらいしな。授けられるといった方が近いし、ならばエウが関わっている可能性は高い気がする。
「では、母さんの“陽光球”創造のお時間です! はい、パチパチパチ」
「え、何、急に」
とそんな考察をしていたら、アテナ母さんが急に高い声を張り上げてそんなことをいった。三分クッキングみたいなテンポを急にやられても。
後ろを振り返り戸惑いを浮かべた俺の頬をアテナ母さんがつねった。
「何って、前に料理を作るときにこんな感じのこと言ってたじゃない。なのに私がおかしなことを始めたみたいな顔をして」
「そうでした、そうでした! そんな事やりました! だから待って! イタいから、結構痛いから待って!」
確かに収穫祭の一か月前くらいから、アテナ母さんたちやアランに料理を披露する際、三分クッキング的なノリをしたわ。……あれ、三分クッキングだったけ、おしゃべりなメガネの女性の料理番組だったけ?
まぁそれはいいや。どっちにしろそんなノリをやったのは確かだった。
「ったく。それじゃあ始めるわよ」
「はひ」
ツンッと離された頬を抑え、俺は頷いた。ああ、ヒリヒリする。この微妙に痛くないけど痛い感じのつねりをするアテナ母さんは手慣れている。
たぶん何度も何度も誰かの頬をつねったのだろう。俺は両手で数えられるくらいにしかつねられてないし。
「そうね。まずは、一本のトリートエウの枝と小麦粉を出しなさい。小麦粉の量はこれくらいで、直接すり鉢にいれなさい」
アテナ母さんが木製の机を一撫でした後、そういった。
「分かった」
俺はトリートエウの枝と小麦粉を“宝物袋”から取り出した。小麦粉の量はアテナ母さんが俺に持たせた小さな本の重さ分だけだした。
“宝物袋”は大きさや見た目的な量よりも、重さの量の方が調節しやすいのだ。アテナ母さんはそれを知っていたのだろう。
「そしたらトリートエウの枝をちょっとずつすりこぎで潰していきなさい。満遍なく小麦に混ざるように」
「……こう?」
「ええ、そんな感じよ。あと、身体強化をしても問題ないわよ」
「あ、そうなの?」
すり鉢とかアーティファクトだし、魔力影響があるかもしれないから、うんしょ、よいしょと自力でトリートエウの枝を潰していたのだが、使ってもよかったらしい。
一応、魔力が放出しないように魔力操作には気を付けながらも俺は身体強化をして、トリートエウの枝を端からすり潰しながら小麦粉と混ぜていく。
そうしてトリートエウの枝をすり潰し、小麦粉とも十分混ざり切った後。
「じゃあ、次に魔晶石と霊石を出してちょうだい」
「分かった」
俺は事前に指定されていた大きさの魔晶石と霊石を取り出した。両方とも俺自らが仕入れるというよりは、アテナ母さんから買っているといった方が近い。
なので、サイズの共有はしやすいのだ。ただ、小麦粉は湿度などによって量が変わるのだろう。机を一撫でしていたし、あれは湿度とかを図っていたんだと思う。
そういう癖があるし。
「そしたら、砕きなさい。ああ、すり鉢は抑えておくから、両手でね。ケガしないように気をつけなさい」
「ありがと」
白くてガラス細工のような細い手が、俺の後ろからすり鉢をつかんだ。
なんか後ろから抱きつかれているような気分になるが、俺は硬い魔晶石と霊石をすりこぎ棒で叩いて砕いていく。
トリートエウの枝と小麦粉のブレンド粉が舞わないように気を付けながらも、身体強化を使って根気よく砕いていく。端っこから、端っこから、徐々に砕いていく。
そうして十分近く砕き、俺が息切れしたころようやくそれらが砕き終わった。
「お疲れ様。よく頑張ったわね」
「……う、うん。……それで次はどうするの?」
「次は簡単よ。ゆっくりとすりこぎ棒で中身を混ぜながら、魔力を注いでいくの。魔力を注ぐのは私がやるから、セオは混ぜるのをお願いね」
「……大丈夫?」
「それくらいの魔力減少は問題ないわ」
レモンにチラリと視線を送れば、問題ないと頷いた。一応、体内魔力が減少すると体力やらが消費されるため、気になったのだが、問題ないらしい。
それがわかった俺は憂いなくゆっくりとすり鉢の中身を混ぜてく。コリガリ、ゴリカリと小気味よい音が聞こえ、また程よい振動が伝わるせいで脱力感が半端ない。
それにアテナ母さんの体温を間近に感じているのもある。母親だし、ここに座っているのがとても心地いいのだ。すり鉢を抑えていて、俺を抱きしめるような形だし。
そうして少しだけ襲ってくる脱力感と眠気に抗いながら、俺はすりこぎ棒を動かしていたところ、アテナ母さんがパッとすり鉢を離した。
「セオ、もういいわよ」
「分かった」
俺はコトリとすりこぎ棒を机の上に置いた。
「次は、聖水と泥炭?」
「ええ。けど、その前に、セオ。机の上にある書類とかすべて“宝物袋”の中に入れてもらえるかしら」
「ああ、匂いだね」
「そうよ」
泥炭を出すんだし、匂いが染みつくといけないだろう。というか、ちょっと思っていたんだが泥炭を使うのに何でこの部屋を選んだんだろう。
……まぁいっか。後ろで控えているレモンも何も言わないようだし。
そう思いながら、“宝物袋”に書類等々を仕舞う。そうしてすべて仕舞い終わった後、アテナ母さんはフィンガースナップをした。
その瞬間、風の膜が俺たちの周りに現れた。優しく渦巻くその風は、匂いを遮断するための結界だろう。
そう思った瞬間、もう一度アテナ母さんはフィンガースナップをした。今度は薄い結界が、俺とアテナ母さんの体に添うように張られた。超極薄の宇宙服を着ている感じだ。
と、レモンは? と思ったのだが、いつの間にかレモンは風の膜の外にいた。
「じゃあ、セオ。聖水と泥炭を同量に出しなさい。……そうね、丁度七割程度って感じよ」
「分かった」
俺は“宝物袋”から、ちょろちょろと聖水を、ニュルニュルと泥炭を出す。泥炭は粘土というか、含水量少な目の泥みたいな感じだ。
そうして、跳ねないように慎重に入れながら、すり鉢の七割程度まで注いだ。
泥炭の匂いが充満し、なんとも言えない気持ちになる。泥炭の匂いは少しだけむせ返るようで、けれど安心するような、奇妙な匂いなのだ。
「……で、これからどうするの?」
「どうもしないわ。ただただ待っているだけ」
「待つ」
「そうよ」
……ただ待っているだけでいいらしい。暇ができてしまったのだが。
「だから、セオ。色々と話をしましょ」
「分かった」
だから、俺たちは暇を潰すために色々と話した。まぁ話すのは俺で、アテナ母さんはゆっくりと俺の頭を撫でながら聞いているだけだったが。
穏やかで安心する。
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