異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
159 / 342
てんやわんやの新たな日常

結局そうなっちゃたか……:Younger sister

しおりを挟む
「さて、と。どこに……ああ、なるほど」

 自室の箪笥から寝間着を取り、部屋の中にアルたちがいないことを確認した後、俺は屋敷全体の気配と魔力を探る。

 アルやリュネ、ケンは魂魄間につながりがあるから直ぐに分かった。そして同じところにミズチやユキもいた。

「さて、どうするかな」

 屋根裏部屋の自室を出て二階の廊下を歩きながら、思案する。アルたちの居場所は把握したからもういいのだが、いる場所がいる場所だ。

 少しだけ覗くべきか、と首を傾げると、ガチャリと扉が開き、そこからエドガー兄さんが出てくる。ちょうどエドガー兄さんの自室の前だったらしい。

「おう、セオ。そんな変な顔してどうしたんだ? もしかしてアルたちが見つからねぇのか?」
「いや、見つかったは見つかったんだけど、いる場所がね……」
「あん? いる場所? どこにいるんだ?」
「ブラウ……赤ちゃん専用の部屋」
「ああ、なるほど」

 エドガー兄さんが納得いったように頷く。

「確かにな。アルとユキはまだしも、リュネ達って結構悪戯好きだしな。そうでなくとも、活発に動き回る」
「そうなんだよね。ブラウやアテナ母さんが起きないか……かといって見に行った事で起きてしまったらあれだし……」

 う~んう~んと首を捻る。

 ……まぁけど。

「だとしても見に行った方がいいと思うぞ。それにお前なら“隠者”を使えば存在感すら消せるだろ?」
「……そうだね。ちょっと見に行ってくるよ。あ、エドガー兄さんも一緒に行く? 近くにいれば“隠者”の効果範囲内に入るよ」
「お、そうか。なら、一緒に行くか。寝顔を見たいし」

 そんな会話を交わしながら俺とエドガー兄さんはブラウたちがいる部屋へと抜き足差し足で移動する。

 そうして歩き、部屋の前にたどり着いた。

「じゃあ、開けるよ」
「おう」

 “隠者”を発動しながら、うぐぐぐっとつま先立ちになりドアノブを掴む。こういう時、エドガー兄さんは手を出さない。

 冷たいからというわけではなく、そういうのを邪魔しない様にしてくれているのだ。まぁ俺としては手伝ってほしいような気がするけど。

 それは高望みというものだ。

 ガチャリと少しだけ開き、ちょっとした隙間から薄暗い部屋の中を覗きこむ。魔力で視力を強化し、暗視する。

「あ、やっぱりいた」

 気配から大まかな位置を把握し、そっちの方を見た。アルたち全員が一塊なっていた。

 けど。

「ってか、ええ、駄目だよっ」
「ちょ、セオ。急に動くと――」

 その状況があれだった。

 俺は慌てて部屋の中にスルリと入り込む。

 が、慌てて動いたのが俺だけだったため、エドガー兄さんが“隠者”の範囲から外れてしまった。

 直ぐにエドガー兄さんは自ら気配や魔力を消したが、それでも間に合わなかった。

「アル? アルル!」

 まず、アルがこっちを見た。“隠者”で隠れてても、エドガー兄さんの存在から俺に気が付いたのだ。

 頭から伸びている一枚の新緑の葉っぱをピンと立て、根っこの両手を万歳する。気持ちよさそうに横になっているライン兄さんの頭の上で。

 それにつづいて。

「リュネっ?」
「ケンっ?」

 リュネとケンが俺を見た。それぞれ黄色の二枚の葉っぱと紅い三枚の葉っぱをピンと立ててャッキャッと飛び上がる。ライン兄さんのお腹の上で。

「……ぅん」
「シューー!」

 そしてその振動でライン兄さんが目を覚まし、ミズチがライン兄さんの顔をペロペロと舐め始める。

「……ぅ……うん、え、ミズチっ?」

 あ、ライン兄さんが完全に起きてしまった。

 それから。

「ヌーヌー?」

 アルたちの反応によって、抱き枕となっていたユキが引っ込めていた手と足と顔を甲羅から出す。

 誰の抱き枕か。ブラウの抱き枕である。

 ユキって亀だけど、産毛があって意外とふわふわなのだ。抱き心地がいい。

 まぁ兎も角。

「し~、し~っな?」
「アル?」
「リュネ?」
「ケン?」

 慌ててはしゃぐアルたちを静かにさせる。それからライン兄さんにだけ〝念話〟をつなぐ。

『ライン兄さん、ライン兄さん』
『……その声はセオ? アルたちがはしゃいでたし……ってか、何でここにミズチたちがいるの?』
『いいからミズチを静かにさせて。あと、ユキにもシーって言って。ブラウが、アテナ母さんたちが起きちゃう』
『わ、分かったっ』

 寝起きなのに状況理解が早くて助かる。

 ライン兄さんはすぐさますり寄るミズチを落ち着かせた後、ユキにシーと声を出さずにジェスチャーで伝える。

「ヌー? ヌーヌ」

 ユキは賢い。だから、ライン兄さんのジェスチャーを直ぐに理解し、頭と手足を甲羅の中へと引っ込ませる。

 寝息が止まり、ちょっと起きそうな気配があったブラウが再び寝息を立て始めた。

 よかった。起きたのがライン兄さんだけで済んだ。

 ……さて。

「アル、リュネ、ケン。こっちおいで」
「アルっ」
「リュネっ」
「ケンっ」

 アルたちはライン兄さんの体からピョーンと飛び降りると、俺に飛びつく。よし、これで“隠者”の効果に入った。

 それから事態を把握したライン兄さんがミズチを首に巻きながら、そーっと起き上がる。

 おお、凄い。音も振動も殆どない。

 ベッドから降り、俺の方へと歩く。たぶん、アルたちの姿が消えた方に俺がいると分かっているのだろう。

 ライン兄さんが俺の“隠者”の効果範囲に入る。

「セオ、これでいいんだよね」
「うん、まぁね」

 俺はライン兄さんに頷く。“隠者”を発動しているから、声を出してもブラウたちに伝わることはない。

 よし、ブラウとアテナ母さんが起きそうな要因はなくなったな。アルたちは俺の腕の中にいるし、ミズチはライン兄さんの首。

「これから風呂だけど、一緒に入る? エドガー兄さんも一緒だけど」
「うん、入る」

 俺たちはそーっと扉のほうに歩き、部屋をでようとする。

 一瞬ユキの事が頭を過ったが、ユキは大人しいし、賢いからブラウの抱き枕のままで――

「ヌー!」

 と思ったのだが、俺たちがこの部屋から出ようとしたのが分かったのだろう。アルたちとよく一緒にいるため、離れ離れになるのが寂しいのか、ユキがバッと甲羅から顔を出し、声を上げてしまった。

 すぐにしまった、とユキは自分で判断し、飛び出した顔を甲羅に引っ込めるが遅かった。

「……ぅ?」

 パチクリ、とブラウの瞼が開いてしまった。

「ヌ」

 幸い直ぐに泣き出すことはなかったが、ユキをギュッと抱きしめキョロキョロと辺りを見渡してる。

 っといっても、首は座ってないのであんまり首は動いてないけど。

 けど。

「うあっ、うあ」
「セオ、こっち見てるよ? “隠者”発動してるんじゃないの?」
「発動してるよ。え、どういうこと?」

 手を可愛らしくわたわたと動かしながら、コテンとこっちを見た。

 横になったのだが。

「あぶなっ」
「きゃ、きゃっ!」

 今まで部屋の外で気配を殺しながら静観していたエドガー兄さんが一瞬で部屋の中へ。ユキを下に敷いてうつぶせになってしまったブラウを直ぐに抱きかかえる。ヌーヌ―とひっくり返ったユキもだ。

 それが面白かったのか、ブラウはキャッキャと声を上げる。俺は慌てて遮音の結界を張る。

「……ふぅ。起きてないようだけど……」
「おい、セオ。ブラウ、寝そうにないし、ここに一人だけ置いてったら」
「うん、泣くよ」

 首をしっかりと支え、少しゆっさゆっさと揺らしブラウを抱いているエドガー兄さんの言葉に俺は頷く。

 っというか。

「一旦、ここを出よう」
「確かに」

 そして俺たちは部屋を出た。

 アテナ母さんとユリシア姉さんの寝息だけが部屋に響いていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...