異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

文字の大きさ
182 / 342
さて準備かな

作り手と買い手が限定されるので、インフレします:crawling

しおりを挟む
「……二人とも身長伸びたね」

 ソフィアは俺とユリシア姉さん、特にユリシア姉さんを見てぽつりと呟いた。
 
 その呟きにユリシア姉さんが首を傾げる。流れるようにソフィアの後ろに回り抱きしめる。ソフィアは何も言わない。いつもの事らしい。 

 初めて知った。

 ……なるほど。ユリシア姉さんは自分より小さな存在を可愛がる癖があるのか。マジか。初めて知った。

「そうかしら? 冬は寒かったから伸びなかったわ」
「いや、伸びたよ。セオ君も後三年もすればボクの身長を超えるのか……」

 ソフィアは感慨深げに俺を見た。

「……ソフィア。それさ、この町の子供全員に言ってるでしょ?」
「ロイス君。みんなに言わなくてどうするのさ」
「……いや、まぁいいんだけどさ、早く中に入りたいんだけど」
「それもそうだね。温かいお茶を用意しているんだった」

 そう言ってソフィアは小さな家の中に入る。ロイス父さんやユリシア姉さんもそれに続く。

 ……あれ?

 なんで礼服を作るのに、ソフィアなの? っというか、ここって住宅街だよね。お店でもないし、どういうこと?

 と、思ったのだが、ソフィアに目で早く家に入るように言われたので入る。バタンと扉がしまる。

「……相変わらず簡素な部屋だね」
「ついこないだ物を大量に捨てたからね」
「いつもの癖か」

 家は一部屋。八畳あるかどうかといった小さな部屋で、奥に扉が一つ。魔力の反応的に洗面所とトイレ、風呂に繋がる扉だろう。

 だが、他に扉はなく、その小さな部屋にはキッチンとベッド、机だけが置いてあった。キッチンには火のついていない簡易のコンロがあり、その上の鉄瓶から湯気が立ち上っていた。いい匂いがするからお茶がもう入っているのだろう。

 けれど、それ以外それ以外何もなかった。椅子もなく、服も無く、小物もなく、必要最低限を寄せ集めたような部屋だった。

 ロイス父さんは呆れながら空間魔法で異空間から自分とユリシア姉さん、俺の分の椅子を取り出す。

 俺は沸かしたお茶を四つのカップに注いでいるソフィアをチラリと見やりながら、ロイス父さんに尋ねる。

「いつもの癖って?」
「極端なんだよ」
「極端?」
「そうなんだ。色々と買い漁ってゴミ屋敷かと思うほど物をため込むんだけど、ある日突然殆どのものを捨てるんだ」
「……それは」

 なんというか、大丈夫なのか、それ?

 病気か何かだと思ってしまう。

「セオ君が言いたいことも分かるよ」

 と、そんな事を思っていたらお茶が注がれたカップを宙に浮かして、俺たちに配ったソフィアが頷く。

「なんで捨てちゃったんだろって後悔する事もあるし、色々と悩むんだけどね。今のところ諦めるしかないかなって思ってるんだよ」
「……諦めるって」
「時間に余裕ができれば、色々と手を打てるんだけどね。ギルドの仕事が忙しいし、実生活に支障がでてないからね」
「……でてないって、それってソフィアの実力が高いせいじゃないの?」
「まぁそうともいうかな」

 ソフィアは立ちながらカップを口につける。椅子がないのも、座る必要がないからか。食事を取ることも少ないのか?

 っというか、ロイス父さんはなんで平然としてるんだ?

 余裕がないって事は忙しいんだろうし、その分しご――

「あ、もしかして俺のせい……」

 そいうえば、俺ってソフィアに色々と仕事を押し付けてる気がする。

 筆記ギルドの件ももうすぐ終わるが、あれだって話を進めてくれたのはソフィアだし、ドルック商会の件で色々と――

「ち、違うよっ! 見るからに落ち込まないで!」
 
 ソフィアが俺の肩を掴む。

「忙しいのは確かだけど、ここ最近は症状が緩和してるんだ! この町で働くのが楽しいし、子供たちの成長も見れて嬉しいんだよっ! セオ君を手伝ってるのだって、いわば自分のためだしっ!」
「自分のため?」
「うん。君がなすことやることはとてもワクワクするんだ。それこそ、数十年前まで考えられないほど心が踊るんだよ」

 俺はチラリとロイス父さんを見る。

 ロイス父さんは頷く。また、ユリシア姉さんが思い出すように、俺にいう。

「セオは知らないわね。私が小さかった時のソフィアはそれは暗かったのよ」
「暗かったっ?」
「そうよ。最初なんてお化けと間違えて泣いてしまった程だもの。こう、前髪がこんな感じで」

 そう言ってユリシア姉さんは蒼穹の長髪を前にだらんと下げる。顔が隠れて、貞子か何かだと思ってしまう。

「……長髪だったの?」
「そうよ。あの後、髪を切ったのよ。怖がらせないとかそんな理由で」
「……そうなの?」
「まぁね。あと、長いと洗うのが面倒なのもあるけど」

 ソフィアはタハハと苦笑いする。

「まぁだから、大丈夫だよ。セオ君。ここ最近は充実してるんだ。それに新しい趣味もできてね」
「趣味?」
「うん」

 ソフィアは頷きながら、どこからともなく布製のメジャーを取り出した。

「セオ。なんでここに来たかといえば、ソフィアが礼服を作ってくれるんだよ。今までは長持ちする必要がなかったけど、これからはそれが必要だからね」
「……ソフィアが作れるの?」

 俺は驚く。礼服ってソフィアが作れる――いや、趣味で作れるものなのかっ?

 そんな俺の疑問を読み取ったのか、

「趣味って言ったでしょ? 少し暇さえあれば、色々と作ってるんだよ。大丈夫。王家御用達の老舗に負けない程の逸品を作るから」

 布製のメジャーで俺の体を測り始めたソフィアが楽し気に笑う。

「伊達に長生きしていないしね。小人族は器用なんだよ」

 ソフィアはそう呟き、集中し始めた。

 小人族、ね。

 そういえば、ソフィア以外で小人族に会ったことないな。家にあった種族図鑑でも詳しく書かれていなかったし、実際のところどうなんだろ。小さな村を作って暮らしているらしいけど。

「セオ君、腕を上げて」
「あ、ああ。うん」

 ソフィアが俺の肩回りを測り始める。そういえば、さっきからメモもしてないけど大丈夫なのか? まぁ、大丈夫か。

「ねぇ、ソフィア?」
「なに、ユリシア君?」
「私は淡い緑が似合うと思うのよ」
「それってアテナ君の希望?」
「母さんは、ドレスって言ってたわ」

 俺は思わず体を抱きしめる。ソフィアがああ、動かないで、と注意するので仕方なく力を抜く。

 次、立って、と言ったソフィアは思い出すように呟く。

「……アテナ君って女装させるの好きだよね……」
「ここ最近は収まってると思うよ」
「……本当? ロイス君」
「うん、ほんとう……」

 ロイス父さんがげんなりとした様子で頷く。

 げんなり……

 あ、まさかっ!

「セオ。余計な事は考えないように」
「……はい」

 俺は渋々頷く。けれど、一度思いついてしまった以上、笑いをこらえるのが難しい。

 たぶん、ロイス父さんは女装させられている。じょそっ、女装。

「ププッ」
「セオ君、動かないで」
「ご、ごめん」

 ソフィアに謝る。けど、それ以上にロイス父さんの殺気が怖い。とても怖い笑顔を浮かべている。

 ……無視しよう。

「ロイス君、予算は?」
「大体、小金貨一枚くらいかな」
「えっ!? そんなにっ!?」
「こら、セオ君っ」
「……ごめんなさい」

 俺は渋々頷く。

 だが、内心の驚きを押さえられない。だって小金貨一枚って百万円くらいだ。子供の使い捨てとすら言える服に百万っ?

 おかしい。

「……分かるよ、セオ。だけどね、それが貴族なんだよ」
「……マジか。……え、ちょっと待って。家にあるアテナ母さんとかのドレスってどれくらい……」
「一着だけ大金貨に届くものがあるかな」
「だ、大金貨……」

 俺は呆然とする。大金貨は小金貨二十五枚分。つまり、二千万越え……

 ヤバい。

「セオ君、何そんなに驚いてるの? 君は既に商会でそれくらいのお金を動かしてるんだし、個人でも生み出してるでしょ?」
「それとこれとは別っ! 大体、ロイス父さんたちってそういう物をお金を掛けずどうにかする気質じゃなかったっ?」
「うん、そうだよ」

 ロイス父さんは苦笑いする。

「今までも基本的に礼服は成長に合わせて繕いなおせるようにソフィアに作って貰ってるよ。それに大体、服を作るときは、材料は僕が集めて持ち込んでるんだ。だから、そこまでお金はかかってないよ」
「待って。予算って素材分を抜いてるの?」
「今回は抜いてないかな?」

 ロイス父さんはお茶に口をつける。ユリシア姉さんが頷く。

「今回は私が集めるのよっ! ソフィアが私についてくれるから、その分ねっ!」
「……なんでユリシア姉さんが?」
「なによ、嫌なのっ?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ」

 ユリシア姉さんの目が釣りあがったので、そっぽを向いて引き下がる。ここで追求すると面倒だしな。

「よし、測り終わったよ。じゃあ、セオ君。希望はあるかい?」
「希望?」
「うん」

 そう頷いたソフィアは懐からメモ帳を取り出した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 2025/04/14(月)4巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...