異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

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さて準備かな

なので、お茶会に殆ど出席しないアテナを強く言える貴族は少ないです:Departure

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「えっと、これとこれも……」

 革のトランクケースに入れる必要なものを吟味する。

 明日、王都に向けて屋敷を出発するのだ。

 で、俺は持ち物全て“宝物袋”に突っ込めばいいと思っていた。いや、だってほぼ無限に入る異空間だ。使わない手はない。

 だが、着る服や必要な日用品等々はキチンと鞄に入れなさい、というご達しが先ほどロイス父さんたちから出てしまったため、部屋中をひっくり返しているのだ。

 しかも、それらは今日の夕方には馬車に積むらしく、今、急いで準備をしているのだ。

「アルル!」
「ああ、ありがとう。アル」
「アル!」

 探していたカフスを持ってきてくれたアルに礼をいう。その頭の葉っぱの撫でる。

 と、

「りゅ、リュネっ!」
「ケケンっ!」

 俺が散らかした服の上でトランポリンをしていたリュネとケンが、ズルいと言わんばかりに俺に飛び込んでくる。

 首筋に飛び込んできたため、葉っぱが首を撫でてくすぐったい。

「ふ、二人とも離れてっ。くすぐったいっ!」
「リュネ!」
「ケンっ!」
「分かった。撫でるから、撫でるからっ!」

 そう言えば二人はようやく俺から離れ、床に着地する。ズイっと葉っぱを突きだし、撫でられるのを待っている。

 ……撫でると言った手前、撫でないわけにもいかない。

 が、しかし……

「アルル……」

 せっかく手伝ってくれたアルが悲しむのはよろしくない。報酬を目的に善意を為しては欲しくないが、だからといって善意に何も返さないのはよろしくない。

 三人に愛情があるから、無償で色々して喜んでもらいたい気持ちもあるんだが……

 さじ加減が難しい。

 そうだ。

「しーな」
「アル?」

 片手でリュネとケンの葉っぱをそれぞれ撫でながら、もう片方の手でアルの葉っぱをもう一度撫でる。また、アルたちは俺の魔力が好きだ。注がれると気持ちいらしい。

 なので、リュネたちに気付かれないようにしながら、ご褒美としてアルに魔力を注ぐ。

「リュネ~~~」
「ケン~~~」
「ァ~~~」

 リュネとケンははばかることなく気持ちよさそうな声を出す。それに対してアルは俺の「しー」を守ってくれているのか、両手で口元を抑えて声を我慢している。

 可愛い。

 …………

「はい。終わりだよ」
「リュネ……」
「ケン……」
「アル……」

 皆、名残惜しそうに俺を見る。ウルウルとした上目遣い。

 ………………

 はっ。我慢しなければ。

 王都に行けば、いつでもアルたちの想いに応えられない場面だってある。アルたちも、そして俺も我慢しなければならないのだ。

 こういうちょっとしたところ、ちょっとしたところが後々影響するのだ。

 よし、我慢。

「駄目。まだ、準備も終わっていないからね」

 そう言って、俺は再度準備に取り掛かる。

 本とか娯楽品は“宝物袋”に入れるとして……そうだ、アルたちの太陽である陽光球も持って行かなきゃな。

 えっと、それから…………

「あっ、ゴーグル。どうしよ、持っていこうかな?」

 俺が生誕祭で着る服はソフィアが頑張ってくれた事もあり、上品さを兼ね備えながらも、今すぐにでも冒険に出れそうな感じに仕上がっている。

 色合いなども相まって、俺的にはパイロットゴーグルに似た金属のゴーグルがとてつもなく似合うと思っている。

 ロイス父さんたちには変な顔をされたが。

 ……持っていくか。

 ちょうど認識阻害などを組み込んだゴーグルを作ったこともあるし、アルたちの事もある。念のため、念のため。

 俺は鈍い金色のゴーグルを革のトランクケースの中に入れようとする。

「あ、いや、明日、身に付けるか。うん、そっちの方が気分が上がる」

 が、それはやめて、明日着る服を畳んだ上に置いておく。

 ……よし、これで最低限の準備はできたな。

 じゃあ、革のトランクケースを積んで貰うか。


 Φ


「そういえば、アテナ母さんはどうするの?」
「セオの生誕祭に行くか行かないかの事かしら」
「うん」

 ソファーに座り、ブラウを抱っこしてあやしているアテナ母さんがその翡翠の瞳を細める。フッと口元を綻ばせる。

「貴方がそう心配することではないわ」
「……つまり、行くの?」
「ええ。ブラウもセオたちのお陰もあってある程度いい生活リズムが作れるようになったし、夜泣きも少ない。まぁ、ここ最近は遊び疲れているのあるけれども」

 ぐすっとブラウがアテナ母さんの胸に顔を押し付ける。伝い歩きができるようになってから、ブラウは好奇心の権化と化し、屋敷中のあちこちを動き回り始めた。

 また、俺が色々と玩具とかを作っていたのもあり、それに熱中する事も増えた。

 さっきは、熱中しすぎたせいで目の前に椅子があることに気付かず、おでこをぶつけて大泣きしていたのだが……

「それに私もいい加減、ブラウ離れをしないといけないから」
「まだ、子離れには早いと思うけど」
「いえ、ブラウが泣くと全てを投げ出して飛びつく癖はなくした方がいいのよ。私のためにも、ブラウのためにも。そうしないと心が安定しなくなるわ」
「……けど、それでも行き来も合わせたら二週間以上会わなくなるだよ。大丈夫なの?」
「ああ、それなら大丈夫よ。最初の二日間、顔を出したら私だけ先に帰るもの」
「そうなの?」

 アテナ母さんは頷く。

「ようやく政務の方に復帰できたこともあるし、溜まっているのよ、何かと。それに新しい文官とかも来るから、その準備もしなくちゃ行けないのよ」
「……無理はしないでよ?」
「しないわよ。私が無茶したことあるかしら?」
「あると思うけど」
「そう?」

 アテナ母さんは首を傾げる。ぽわぽわとした雰囲気も相まって本当に心当たりがない感じに見えるが、視線の動きとか勘で分かる。すっとぼけているだけだ。

 ジトっと見る。

 そうすると、

「セオ、まぁ俺もいるし大丈夫だ」
「アタシもよ」

 ちょうど、自主稽古から帰ってきたエドガー兄さんとユリシア姉さんが安心するように言った。

 ぐずりもだいぶ落ち着いていたブラウが二人を見て、手を伸ばす。

「あぉあううっ」
「そうか、ただいまだ、ブラウ」
「ただいま、ブラウ」

 一瞬で二人の顔がデレる。ブラウの頬を指先でプニプニ突いたり、伸ばされた紅葉よりも小さな可愛らしく儚い手に触れたり。

 アテナ母さんが顔を顰める。

「あなた達、手洗いしていない汚い手で触ってないでしょうね? それと、汗臭いから先に風呂入ってきなさい」
「うっ」

 エドガー兄さんとユリシア姉さんがバツが悪そうに顔を顰める。エドガー兄さんは分が悪いと思ったのか、そそくさと退出する。
 
 ただ、淑女として言われなくない事を言われたユリシア姉さんは顔を真っ赤にして抗議する。

「か、母さん。汗臭いなんて言わないないでっ! だいたい、汗臭くないわっ!」
「汗臭いわよ。それに日焼けもしたわね。こないだ渡したクリーム、塗らなかったでしょ」
「うっ」

 アテナ母さんの瞳がヤクザみたいにすごめれていく。滅茶苦茶怖い。

 ユリシア姉さんはバッと背を向けたかと思うと、脱兎の如く逃げ出していく。

 アテナ母さんが溜息を吐く。それからブラウの手や頬を優しくタオルで拭く。

「あの子たちももう少し落ち着いて欲しいのだけれどもね」
「……落ち着いていると思うよ」

 だって、エドガー兄さんたちは前世でいう小学五年生くらいだ。いや、小学生の考えで行くと、六年生か? 今年、エドガー兄さんが入学するんだし……

 まぁ、今年で十二歳。

 片やエドガー兄さんは既に政務に関わっているし、片やユリシア姉さんだって自警団の人たちと訓練とか、色々している。

 大きな問題を起こしているわけでもない。

 十分落ち着いているだろう。

 アテナ母さんは苦笑する。

「分かっているわよ、それは。そうね……そう思うことが可愛いのよ」
「どういうこと?」
「手がかからないのは、少し寂しいのよ。だから、落ち着いて欲しいと思えるのは、手がかかっていて嬉しいってこと」
「……そういうもん?」
「そういうものよ。だから、実際落ち着いて欲しいわけでないのよ」
「ふ~ん」

 複雑だ。

 いつか、そういう心持が分かるようになるのか、どうか……

 まぁ、そういうもんだと納得しておくか。

「まぁ、けれど、ユリシアはもう少し肌などには気を使ってほしいわ。後々響くと言うのに」
「そういえば、クリームって言ってたけど、どういうのなの?」

 人形などを〝念動〟で動かして、エドガー兄さんたちがいなくなって手持無沙汰になったブラウの相手をしながら、俺は尋ねる。

「そうね……。効能は二つ。一つは汗を栄養とする小さな存在の発生を防止すること」
「菌?」
「それね。汗自体はそもそも無臭なのだけれども、その小さな存在――菌が増殖すると、臭いがでるのよ。アダド森林の一部で採れる薬草にそれを防ぐのがあるのよ。で、日焼けは……企業秘密ね」

 アテナ母さんがふふん、と鼻を鳴らす。

「あれは、私がクラリスよりも先に開発したものなの。その前までは厚くクリームを塗ったりするしか対策できなかったんだけど、今は薄く塗っても問題ない。汗で落ちにくいしね」
「……けど、売ってないよね?」

 アテナ母さんが少しだけ眉を八の字にする。

「……貴方、商人っぽくなってきたわね」
「そう?」
「ええ。悪いことではないわ。で、売っていないことね。難しいのよ、作るのが。材料を集めるのもだけど、製法にそれなりの薬学の知識と技術が必要でね。王宮薬師や錬金術師でも難しいわ」
「そうなの?」

 アテナ母さんが頷く。そして少しだけ悪い笑みを浮かべる。

「だから、それこそ仲の良い・・・・ご婦人にか配らないのよ」

 ……恐ろしい。

「……大丈夫なの、生誕祭? 俺、攫われたりしない?」
「しないわよ。まつりごと自体は表に立つことの多い男性が強いけど、裏で牛耳っているのは奥方たちよ。反感を買う真似はしないし、した輩がいたらそれこそ私たちが手を出す前に動いてくれるわ」
「そ、そう」

 うふふふふ、と微笑むアテナ母さんの後ろに夜叉が見えてしまった。

 ブラウは純粋に俺が〝念動〟で動かす人形にはしゃいでいた。
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