上 下
75 / 147
植物の精霊

1

しおりを挟む
「みんな帰っちゃったか……」

 柵の向こうへと行ってしまった方向を見ながら、奏は一人家の前で佇む。烈風の方々はとても賑やかで、嵐のような時間だった。
 ファルマーが来たときも思ったのだが、なぜかこの世界の人とは会話が普通にできる。地図に書かれていた文字は日本語ではなかったのだが、その文字の意味が頭に流れ込んでくる感じで、読むことができた。
 【叡智の書】だけは奏が所有者になっているからか、書かれている文字は日本語で記載されているのも不思議だ。

(まぁ考えても仕方のないことかもしれないけど……)

 もし言葉が通じなかった場合、それこそ外国の人と会った時のような反応しかできないだろう……。ジェスチャーも通じるかわからない、この世界の常識なんてわからないのだ。それだけに言葉というのは大事なんだと奏は改めて理解した。
 烈風の彼女たちは柵の向こうへ行ってしまうと、ファルマーと同じようにすぐに姿が見えなくなってしまった。彼女たちが出た瞬間、魔物の呻き声が一瞬止んだように聞こえた。奏が渡した【魔除けの鈴】は試していないので、上手く発動しているかはわからない。それでも無事幻惑の森から抜けて欲しいと願うばかりだった。

「たった二日だったけど、まずはお片付けからかな」

 そうはいったものの、片づけるといっても彼女たちは外で寝泊まりしてくれていたので、それほど時間はかからない。正直使った食器類を直すくらいだった。
 庭はマンチが水で洗い流してくれたおかげで、血の一滴も汚れていない。
 彼女たちのおかげで溢れそうだった保冷庫の中もスッキリした。それに調合室などといった、見られたくない部屋は見ないでいてくれたのも助かった。
 魔石草も、肉の花も見られなくて良かった。もし見られたら一気に怪しい人になっていたかもしれない。

(流石に初見だと気持ち悪く見えるもんね……)

一見薔薇のように見える物もあれば、よくわからない咲き方をしている肉花もある。奏も最初こそ思った通りのお肉が出てきて嬉しかったが、採集する時は結構怖かったものだ。
 彼女たちが置いていってくれた素材の中には、魔物から獲れた魔石も入っていた。魔石は奏が育てている魔石草のものよりも、だいぶサイズが小さいものが多かった。この幻惑の森で討伐した魔物の魔石も含まれていると思うのだが、大体二回りは小さい物だった。
 
(それにしても、結構色々な素材を貰っちゃったな……)

 片付けが済み、奏は交換してもらった素材を一通り並べていく。一見、なんの魔物の素材かわからないものの、そこは叡智の書の出番。触れるだけでわかるのだから、一つずつ触れていく。その中にはリータが捌いていた蛇の魔物のものもある。牙だと思っていたら爪だったり……聞いたことのある魔物の素材もあった。

大蛇サーペント……四腕熊ハンドベアー……灰毛狼グレーウルフ……緑亜人ゴブリン……それ以外にもこんなにたくさんの種類があるのね……)

 いくつかの素材は魔法薬に向いていないものもあったが、それを差し引いても大量に収納袋に収められている。
 奏はそれらを一つの収納袋の中に纏めて入れておいて、いざという時に使えるように保管しておくことにした。
しおりを挟む

処理中です...