幻想冒険譚:科学世界の魔法使い

猫フクロウ

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それは甘く蕩けて灰になる

狂乱

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彼女は何かを探すように足元を確認している。

トウヤとファイゼンは声が届く結界の淵へ向かう。

森の淵まで出てきたことはかなり好都合だった。そのおかげで全身が確認できる。

漆黒のような美しく長い髪を揺らしながら歩く姿はとても絵になっている。

だがそれとは裏腹に服装は男物と思われるものを着ている。

体格はそこまで大きくないため、服がブカブカなのが一目でわかる。

(なんであんな格好してるんだろう?)

そんな疑問が浮かんだが、彼女に聞けばすぐに解決すると思っていた。



キーーン。



突如激しい耳鳴りが響く。

(な!?何だ!?)

そして身体の内側から何かどす黒い感情が湧いて出る。

(何これ!?)

あまりの事態に足を止めうずくまる。

「う・・・ファイ・・・!?」

一緒にいたファイゼンに助けを求めたが、彼も同じように苦しんでいた。

「二人とも!どうしたの!?」

心配するウィンリーの通信が聞こえるが、それに応える余裕はない。

「ああ!・・・・あああああ!」

ファイゼンが突如奇声をあげる。そしてその声は森にいる彼女にも聞こえたようだ。

彼女は驚くと同時に手で抑止の姿勢を見せ、恐怖のあまり後ずさりする。

無理もない。突然奇声をあげる男が現れたんだ。怖がるなという方が無理な話である。

しかし頭の中は、そんな考えを塗りつぶすような感情に支配されていた。

彼女が可愛い!彼女を襲いたい!彼女を好きなようにしたい!彼女を滅茶苦茶にしたい!
彼女の全てが魅力的だ!全て俺の物にしたい!彼女を俺の手で!

よこしまな感情が頭の中を支配しようとしていた。

(何だこれは!?)

トウヤは訳が解らなくなっていた。

「あああああ!」

突如ファイゼンが奇声をあげ走り出す。

(まずい!そっちは!)

トウヤは辛い身体に鞭を打ち、必死にファイゼンの元へ駈け出す。

なんとか追いついたトウヤはファイゼンの身体に乗るように抑え込む。

「ああ!ああああ!」

石化の結界ギリギリで止められたが、暴れるファイゼンを抑え込めるのは難しい。

そうこうしているうちに森の彼女は奥へと逃げ去ってしまった。

するとさっきまで頭の中を支配しようとしていた感情が薄らいでいく。

「おさ・・・まった?」

そう思うと意識が遠のいてしまった。



目を覚ますと目の前にリンシェンの顔があった。

「うお!?」

あまりの光景に思わず突き飛ばしてしまった。

「うにょ!?痛いにゃ~」

ベッドから落ちたリンシェンは頭を擦りながら起き上った。

「わ、わるい。目覚めたら目の前に顔があったもんでつい・・」

「全く、にゃん度もたたき起こされるにゃんて、にゃんて日にゃ!」

「あ、目覚めたわね。ってかあんたも、寝ぼけて人の布団に入るんじゃないわよ」

声に気付いたポーラが現れ、リンシェンに軽く拳骨を入れる。

「うにょ。にぇむいから仕方にゃいにゃ」

リンシェンはその場で横になり寝ようとする。

「ポーラ、大丈夫なのか?ってかリンシェン、床で寝るな。ベッド空けるから」

「ええ、リーシャも軽く体を動かすって言って外にいるわ」

「そうか、それは良かった。で、ファイゼンは?」

トウヤはリンシェンを無理矢理起こしベッドに寝かす。

隣のベッドにはファイゼンが寝ていた。

「まだ寝てるわ。起きて早々なんだけど、何があったか教えて」

「ああ」

トウヤ達はミーティングの準備を始めた。



「以上が記録出来た内容です」

トウヤとファイゼンが女性と接触しようとした時の映像が終わり、声が全体に流れた。

ミーティングにはトウヤ、ポーラ、リーシャ、町長と町長の補佐役、そして画面越しに局の支援者がいる。

画面越しの声は、トウヤが気を失っている最中にウィンリーからレナ・スミスという女性に代わっていた。

ウィンリーは何か別件で席を外しているらしい。

「まず、この時何が起こったか話してくれる?」

「ああ、声をかけようと近づいてる時に、急に激しい耳鳴りに襲われたんだ。
そしてあの人を襲いたいとかいう、どす黒い感情が襲ってきてパニックになったんだ」

「・・・それって何かの魔法かもしれないわね」

「そうなの?」

「ああ、幻聴や幻覚を見せる魔法ってのはよく使われてるんだ」

「それは他人を操作することも出来るのか?」

「ああ、簡単だ」

そう説明してくれるリーシャの体調はだいぶ良くなったように見える。

「じゃあその魔法かな?ファイゼンが急にあの人の方に突っ走ってしまって、抑えるのに必死だった。
ギリギリ石化の結界の手前で止められたけど、あとちょっと遅れてたら死んでたかもしれない」

あの時、彼女が奥に逃げてくれたのも幸いだった。

「それで町長さん。映像の女性に本当に見覚えが無いのでしょうか?」

「は・・・はい。私には全く・・・」

何かを隠しているのか、それとも本当に何も知らないのか、どちらとも取れる姿勢に疑いは深まるばかりだ。

補佐役は下を見ながらガタガタ震えてるようにも見えた。

「あ・・・あの」

突然補佐役の人が口を開く。

「何か?」

「あ、いえ・・・実は五年前にある事件がありまして・・・」

「あれは関係ない!そんな関係ない話はよさないか!」

町長が補佐役の発言を遮る。

「関係ないかどうかは私達が判断します。どうか話してくれませんか?」

「いえ、何でもありません。こいつの発言など気にせず・・」

「魔族です!五年前の魔族かもしれないんです!」

「んな!?」

「は?」

補佐役の発言にトウヤ以外は驚いた。

どういうことかとポーラとリーシャは町長を見たが、即座に目を逸らされた。

「あー、そういうことか。てめぇら魔種狩りでもやったのか?」

リーシャの問いに町長は何も言わない。

「・・・はい」

代わりに答えたのは補佐役だった。

「はぁ。この会議の内容は記録されています。
が、守るべき相手が存在しないのであれば・・・いや、あの女性が最後の生き残りかもしれないわね。
町長。昔犯してしまった罪を反省する気持ちがあるなら、話していただけませんか?」

ポーラは深くため息をつきながら、話を進める及第点を探る。

「・・・」

「町長!」

「町長、私からもお願いします!私に罪を償わせてください!」

「・・・あんな風に・・・あんな風になるとは思わなかったんだ!」

町長は絞り出すように話した。

五年前に起きた悲劇を。
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