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【04】レベルは足りているので、最大の難関の攻略に、最短距離を突き進む
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翌日――
モイラは王太后の宮へ。
現国王の乳母を務めたモイラの祖母は当時の王妃、現在の王太后に気に入られ、いまだ王宮に勤めている。
王太后の宮に出入りできる男性は、息子である現国王と孫の王太子、そして王の側近である侍従長だけ。
女性の出入りは比較的簡単――もちろん、知り合いがいるという前提でのはなしになるが。
王太后の宮を訪れたモイラは、部屋に通され茶を振る舞われた。
案内してくれた侍女は「もう少ししたら祖母が来る」と言い、新たにお茶を淹れ始め――数分後「王太后のところへ、朝の挨拶にやってきた国王」と偶然モイラは顔を合わせ、久しぶりに会った乳母の孫に国王から話し掛けた――という段取り。
「久しいな、モイラ」
「勿体ないお言葉。陛下もご息災でなによりです」
モイラは謁見を願い出られるほどの身分ではなく、国王の私的スペースに招かれるような立場ではないが、王太子の婚約にまつわるという問題上、王にはどうしても会わなくてはならないので、このような非常手段を取った。
国王に付き従っているのは侍従長――元は近衛で、三十を過ぎて引退し、侍従長となったという経歴の持ち主なので、護衛としても足りる人物。
椅子から立ち上がろうとしたモイラを、国王は座るよう促し――
「息子がなにやら画策しているようだが」
侍従長が引いた椅子に腰を下ろし、侍女が淹れたお茶を一口飲み、国王が口をひらく。
息子である王太子が婚約者を変えようとしていることは、知っていると――知っていていながら、なにも手を打っていないのか? それとも、なにか考えがあるのか?
五年ほど国を離れていたモイラはその辺りは見当もつかないが、昨晩ジェイクが持ち帰った祖母からの手紙には「王太后陛下は、 孫殿下を可愛く思っている」と書かれていた――文面の意味は「王太后は王太子の気持ちを尊重する」ということ。
もっともこれは、モイラも想像がついていた。
――さて……どう話を運ぼうか?
モイラはお茶を飲み干してから――
「陛下。 旅人について、どのように思われますか?」
モイラが口にした旅人とは、言葉どおり旅人で、あまり人が立ち寄らない村で、一晩の宿と食事を提供してもらい、 女と夜を過ごして去る人のことを指す。
街から離れた村というのは閉鎖的で、周囲がすべて血縁になってしまう。近くの村も同じ――人は本能的に外部から血を入れなくてはならないことを知っているので、旅人を持てなすという名目で、村の女を差し出す。
外の血を村に入れるためには必要なこととして、暗黙の了解として受け入れられている慣習だった。
「 旅人か……ダドリー公爵の妻は、わたしの妹だったな」
「その前もです。おそらく殿下は、血が近すぎるゆえに本能的な拒否反応を起こしているものと思われます」
ダドリー公爵家は王家の予備ゆえに仕方のないことなのだが、この三代ほど従兄弟同士で婚姻を結んでいた。
さすがに今代は別の家から選ぼうとなったのだが、オリアーナが同年代の子どもに比べて頭一つ以上抜き出ていたことや、隣国との関係から彼女が選ばれた。
「そこは考慮する必要があるな。だからといって、ソロモンが気に入っている娘を選ぶとはならない。他の家にも娘はいる」
「血の薄さを競い合う、前代未聞の状況になるでしょう。ですが陛下、慣習に則って選べば、血の濃さはさほど変わりません。某侯爵家はダドリー公爵家からの入り婿で、某公爵家はダドリー公爵の妹を娶っております」
モイラの言葉に国王は眉を動かす。
「わたくしめも、陛下と同じく殿下お気に入りの娘を……と ここでは申しません。その者が相応しいかどうかを、学園にて見極めて参りたいと思っております」
「ふむ……相応しいと思えば、推挙するということか?」
「王家の血を繋ぐためには、時にはドラスティックな選択も必要だと、奏上させていただきます」
血の弱まりは今代を見れば明らか――ダドリー公爵家の直系オリアーナしかおらず、王家の直系はソロモンしかいない。
「……そうかも知れんな」
国王は砂糖を一杯足してから茶を飲み干し、立ち上がり侍従長に手で合図を送ってから、部屋に控えていた侍女が先導し一人で隣室へ――
「今日中に、学園で自由に動けるよう、手配を整えておきます」
侍従長はそれだけ言い、遅れて国王を追う形で隣室へ。
モイラは立ち上がり、王太后との挨拶という名の会談を終えた国王を見送ってから、祖母に呼ばれ、王太后の元へと向かい、国王のとき以上に突っ込んだ話をして帰宅した。
――王太后からは許可を、陛下からは一考に値するという言質をいただけた。話を聞く分では、ビッチとかそういうのじゃないみたいだな。まあ、王太子の遊び相手とは認識されてるんだから、排除したほうがよいレベルじゃなくて当然か
帰宅すると”本日の午後から、学園で自由に動けるよう手配した”との手紙が届いていた。
「仕事が早い。さすが陛下の最側近……ん?」
封筒には用箋の他に小さな紙が入っており――そこには「デクスター・アクロイドはあちらの駒」と書かれていた。
モイラは王太后の宮へ。
現国王の乳母を務めたモイラの祖母は当時の王妃、現在の王太后に気に入られ、いまだ王宮に勤めている。
王太后の宮に出入りできる男性は、息子である現国王と孫の王太子、そして王の側近である侍従長だけ。
女性の出入りは比較的簡単――もちろん、知り合いがいるという前提でのはなしになるが。
王太后の宮を訪れたモイラは、部屋に通され茶を振る舞われた。
案内してくれた侍女は「もう少ししたら祖母が来る」と言い、新たにお茶を淹れ始め――数分後「王太后のところへ、朝の挨拶にやってきた国王」と偶然モイラは顔を合わせ、久しぶりに会った乳母の孫に国王から話し掛けた――という段取り。
「久しいな、モイラ」
「勿体ないお言葉。陛下もご息災でなによりです」
モイラは謁見を願い出られるほどの身分ではなく、国王の私的スペースに招かれるような立場ではないが、王太子の婚約にまつわるという問題上、王にはどうしても会わなくてはならないので、このような非常手段を取った。
国王に付き従っているのは侍従長――元は近衛で、三十を過ぎて引退し、侍従長となったという経歴の持ち主なので、護衛としても足りる人物。
椅子から立ち上がろうとしたモイラを、国王は座るよう促し――
「息子がなにやら画策しているようだが」
侍従長が引いた椅子に腰を下ろし、侍女が淹れたお茶を一口飲み、国王が口をひらく。
息子である王太子が婚約者を変えようとしていることは、知っていると――知っていていながら、なにも手を打っていないのか? それとも、なにか考えがあるのか?
五年ほど国を離れていたモイラはその辺りは見当もつかないが、昨晩ジェイクが持ち帰った祖母からの手紙には「王太后陛下は、 孫殿下を可愛く思っている」と書かれていた――文面の意味は「王太后は王太子の気持ちを尊重する」ということ。
もっともこれは、モイラも想像がついていた。
――さて……どう話を運ぼうか?
モイラはお茶を飲み干してから――
「陛下。 旅人について、どのように思われますか?」
モイラが口にした旅人とは、言葉どおり旅人で、あまり人が立ち寄らない村で、一晩の宿と食事を提供してもらい、 女と夜を過ごして去る人のことを指す。
街から離れた村というのは閉鎖的で、周囲がすべて血縁になってしまう。近くの村も同じ――人は本能的に外部から血を入れなくてはならないことを知っているので、旅人を持てなすという名目で、村の女を差し出す。
外の血を村に入れるためには必要なこととして、暗黙の了解として受け入れられている慣習だった。
「 旅人か……ダドリー公爵の妻は、わたしの妹だったな」
「その前もです。おそらく殿下は、血が近すぎるゆえに本能的な拒否反応を起こしているものと思われます」
ダドリー公爵家は王家の予備ゆえに仕方のないことなのだが、この三代ほど従兄弟同士で婚姻を結んでいた。
さすがに今代は別の家から選ぼうとなったのだが、オリアーナが同年代の子どもに比べて頭一つ以上抜き出ていたことや、隣国との関係から彼女が選ばれた。
「そこは考慮する必要があるな。だからといって、ソロモンが気に入っている娘を選ぶとはならない。他の家にも娘はいる」
「血の薄さを競い合う、前代未聞の状況になるでしょう。ですが陛下、慣習に則って選べば、血の濃さはさほど変わりません。某侯爵家はダドリー公爵家からの入り婿で、某公爵家はダドリー公爵の妹を娶っております」
モイラの言葉に国王は眉を動かす。
「わたくしめも、陛下と同じく殿下お気に入りの娘を……と ここでは申しません。その者が相応しいかどうかを、学園にて見極めて参りたいと思っております」
「ふむ……相応しいと思えば、推挙するということか?」
「王家の血を繋ぐためには、時にはドラスティックな選択も必要だと、奏上させていただきます」
血の弱まりは今代を見れば明らか――ダドリー公爵家の直系オリアーナしかおらず、王家の直系はソロモンしかいない。
「……そうかも知れんな」
国王は砂糖を一杯足してから茶を飲み干し、立ち上がり侍従長に手で合図を送ってから、部屋に控えていた侍女が先導し一人で隣室へ――
「今日中に、学園で自由に動けるよう、手配を整えておきます」
侍従長はそれだけ言い、遅れて国王を追う形で隣室へ。
モイラは立ち上がり、王太后との挨拶という名の会談を終えた国王を見送ってから、祖母に呼ばれ、王太后の元へと向かい、国王のとき以上に突っ込んだ話をして帰宅した。
――王太后からは許可を、陛下からは一考に値するという言質をいただけた。話を聞く分では、ビッチとかそういうのじゃないみたいだな。まあ、王太子の遊び相手とは認識されてるんだから、排除したほうがよいレベルじゃなくて当然か
帰宅すると”本日の午後から、学園で自由に動けるよう手配した”との手紙が届いていた。
「仕事が早い。さすが陛下の最側近……ん?」
封筒には用箋の他に小さな紙が入っており――そこには「デクスター・アクロイドはあちらの駒」と書かれていた。
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