異世界人αと日本人Ωの間に生まれたハーフな俺

宇井

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8 ほっとひと息つく俺

 ここってなんだか城みたいって思ったら、それが正解っぽい。
 俺と父さんが現れたのはお城の裏だったみたい。
 レイヤーさんが指さしている方は想像するにお城の本丸。石多めで作ってます的な感じ。今いるこっちは生活感丸出しの住まいの場所。こちらは木造です。
 この大きな屋敷の半分近くは、ちょっとした争いで壊れて使えなくなってから、傷のないこっち側に召喚できてよかったってレイヤーさんは言っている、気がする。
 一階の表玄関みたいな所をちらっと見せてくれたけど、壁に穴はあいているし、多分だけど敷いてあった絨毯が剥がしてあって、その痕が床に残っている。
 血だまりでもできちゃったのかなって想像しちゃうよ。
 とにかくまだ片付けている途中ですっ、復興頑張ってますっ、て感じ丸出しなんだ。
 争いって 広い原っぱで両軍ワーワー叫びながらやるのかと思ってたけど、館の中でもあるんだね……俺なら敵がきたらすぐに逃げちゃうけど、それでも追いつかれて背中からブスッと切られちゃうだろうな。
 戦闘には向いていないのは、体つきがあの父親やレイヤーさんとはまったく違うからわかるよ。
 俺、わかる。今わかった。
 俺はここで生まれて育ったとしても、きっといいことなんてなかった。ニールではなくアユムとして育ってよかった。
 だって俺がここで育ったら筋肉に囲まれて縮こまるしかなかったよ。

『そんなになまっちょろくては戦えないぞっ』
『泣いている暇があるなら走れ、剣を振るえっ』
『ひえーっ、もうイヤだー』

 とかってレイヤーさんにも父親にも責められて、それを囲む仲間達にわーわー野次られて過ごす羽目になってたに違いない。挙句の果てには、敵に背中をぶっさり刺されて、あれ、俺ここで終わり?! みたいな。
 だったら片親でいい。周囲に陰口叩かれてたのも気にならない。最低限、命は保証されたんだから。
 日本生まれ、日本育ちで本当によかった。
 見た所、レイヤーさんにも父親にも戦による怪我はないみたいだし。よかった、よかった……
 俺はひとり納得して、うんうん頷いていた。

               
 屋敷内には華美さはなくて、しっかり地に足つけて生活していますって印象。
 とにかく広くて、なんだか結構歩かされている。
 きょろきょろしちゃうのは許してほしい。だって俺こんなお屋敷に入るの初めてだよ。
 学校みたいなまっすぐな廊下じゃなくて、迷路みたいに角を曲がって曲がって、分かれ道、また曲がって先が見通せないから、レイヤーさんの背中を見失ったら本気で迷いそうだった。
 俺が不安そうに見えたのか、途中からレイヤーさんが差し出した手を握って歩くことになった。
 断ろうと思ったんだけど、レイヤーさんの笑顔が優しすぎて申し訳なく思っちゃうんだよね。ほら、言葉も通じない状況だしさ。
 レイヤーさんの一歩後ろを歩く俺は、正しく子供扱いされているんだろうな。小学生くらいの子供相手みたいに。
 それにしても硬いね。
 ゴツゴツしていて皮が厚そうで、グローブみたな手ってこんななんだって思った。
 最初に会った時にもザラザラしてるなって思ってたけど、これが戦う男の手ってやつなんだ。異世界も戦争も、そこで生きている人も、偽物じゃない。

                        
 ようやく着いた部屋は居間と言うより家族のダイニングっぽい。
 テーブルも椅子もどっしりしていて重くて細かな傷がついていて、でも家族の歴史、一族の歴史を感じる。
 ダイニングの壁面にびっしりはられたタペストリーはどれも長方形で、中心には家紋のような模様が入っている。ぺらぺらの布じゃなくて、糸が太くて厚みがある。
 これってただの飾りじゃなくて、冬場は部屋の防寒にも役立っているのかなんて考えながら座る。
 そこでようやく、父さんがいつか言っていた、翻訳石をペンダントにした物をレイヤーさんにもらって、ようやく言葉が通じるようになった。
 異世界らしくていい感じ。それに言葉が通じるってほっとする。

                   
 ようやく言葉が通じるようになったのに、そこから俺とレイヤーさんは向かい合ったまま押し黙る。
 レイヤーさんとお見合いしている気分だ。
 黙ったレイヤーさんの顔はやはり冷静に見るととても怖い顔をしている。これに笑顔がのればかわいいけれど、怒りが乗ったら俺ちびっちゃう……

「お久しぶりです。この前はありがとうございました。お借りしたマントこっちに持ってきましたから、後でお返しします。あとクッキーも果物も美味しかったです」
「そうか、美味かったか。ニールの口に合ったのなら、それはよかった。そうそう、私のことは遠慮なく……そう、あれだ……世間で言う、何だ、おじいちゃんと、あー、まあ、呼んでくれ」

 え、いきなりそれっていいの? じいちゃんって呼ぶの?
 俺は戸惑うんだけど、レイヤーさんがそれを望むようににっこりするから、遠慮なく呼ばせてもらうことにする。

「はい。では……おじいちゃん。父さんが抱き合っていた人が俺のもう一人のアルファの父親ですか?」
「ああ、あいつらは最愛の息子を放りだしたまま、何の説明もせず二人の世界に入ってしまったのだな」

 レイヤーさんは怖い顔の眉間の皺を深める。

「あの困った男はお前の父親だ。私の養子でガイア・ケリング・マークレーンと言う」
「がいあ・けりんぐ・まーくれーん。こっちは名前が長いんですね。書くのも呼ぶのも大変そう」

 俺のとんちんかんな返答にレイヤー祖父ちゃん笑う。

「ユーリを父さんと呼んでいるなら、ガイアの事はパパでいいだろう」
「ああ、そうか。じゃあガイパパって呼んで覚えよう」

 覚えられるかなって気持ちが第一でつい口から出ちゃったよ。だってもうフルネーム忘れたし。

「ふふっ、ニールの名前はもっと長いぞ。ニール・ケリング・マークレーンが名乗る時の一般的な名前。正式になるとニール・アユム・ケリング・タキトゥウ・マークレーン、といった所か」
「超長い!」

 それこそ覚えられないよって驚くと、こっちは結婚とか就職とかの書類に書くくらいだからって、わっはっはって愉快に笑われた。
 何気にやっぱりニールって連呼されて、そっちの違和感が半端ない。アユムはなかったことにされている。
 今日から俺はニールなのか……
 長年使っている歩が一番しっくりくるけど、そのうち慣れるのかな。
 歩って名前は柔らかい印象があるみたいで、俺には似合っているって子供の頃から言われていた。だけどこっちの世界におけるニールって名前はどんなだろう。
 俺は野獣父みたいな顔でも体型でもないし、たぶん祖父ちゃん世代よりも背が低い。きっとひ弱に見えるだろうな。
 ニール=強く逞しく、なんて意味があったら弱っちゃうよ。後でこっそり父さんに確認してみよう。
                  
「まあまあ、扉の外まで楽しそうな声が聞こえてきましたよ。あなたのそんな声は久しぶりに聞くわね」

 コンコンという控えめなノックの後に、ほかほかのお茶を運んできたのはレイヤーおじいちゃんの奥さん、これからは俺のおばあちゃんとなるローズさんだった。
 ばあちゃんて呼ぶのが申し訳ないほど綺麗な人で、ばあちゃんというより『おばあさま』の方が相応しい。大きな胸の半分が飛び出してしまう大人ドレスを着こなす人。こっちではゴージャスな体は隠さず出すのが普通なのかも。
 レイヤーじいちゃんと並ぶとまさに美女と野獣って感じて、互いのオーラが喧嘩して二人の迫力が倍増する。一般人の俺にはその圧が強すぎて、ちょっと腰が引ける。
 だけどローズばあちゃんは家庭的なのか、いつか俺がうまいうまい言って食べた同じクッキーを焼いてくれていたらしい。

「あちらの世界でユーリと二人、本当に大変だったでしょう。迎えが遅くなってしまって本当にごめんなさいね。ようやく孫に会えて……本当に嬉しいわ」

 ほわっと優しく抱きしめられてしまうと、温もりからじんわりした愛が染み込んでくるようで、俺はまた泣いてしまった。
           
 落ち着いて涙を拭くと、食べろ食べろと二人に言われて遠慮なくクッキーに手を出す。

「懐かしい! 美味しい! 俺これが食べたかったんだ」

 手に取るとクッキーがほかほかしてるのがわかる。
 これも俺の為に作ってくれたって思うと、何かまた泣けてくる。こういう気遣いを見せてくれるのって、俺には父さんと幼馴染みの川ちゃんだけだった。
 それが一度に二人も増えたんだ……嬉しい。あ、野獣父さんを入れたら三人か……うっかりカウントするのを忘れてたよ。大事な人なのにな。
 さすがにまだ外でいちゃいちゃはしていないだろう……と思うんだけど……

「あの、ユーリ父さんと、えっと、ガイパパはもう落ち着いたのかな?」

 どう呼んだらいいか迷って間が空いてしまったけれど、二人ともにっこりと笑っている。
 特にローズおばあちゃんの方が、作り笑いをしているように見えてきたのは、俺のセリフのあとの間がたっぷりなくらいに空いたからだ。

「ニールのお父さん、ユーリはね……ガイに大事な話があるからって言われて、部屋に連れられて行ってしまったのよ。そうね……明日の朝には、会える、かしら。そうだといいわね……そうだといいけど……どうかしら。まったく、困るわね」

 明日の朝? 今はまだ夕方っぽいけど。
 俺は窓の外の空を見る。日が傾きかけているけど、まだ日差しは強い。なのに日を跨ぐってなんで?
 そう思ってレイヤーじいちゃんに目を向ける。

「まあ、久しぶりの対面だし二人はまだ若い。発情はしていないが寝室直行も許してやってくれ。一晩でガイアの昂りがおさまるとは思えんしな。ニールには近いうちに弟か妹ができるかもしれんなっ。はっはっ……喜ばしい……ぐっ!」
「あーらあなた、はしたない声をお出しになって。今日は本当によく口が回ること……ほほっ。子供の前ですよ。きちんとなさいな」

 じいちゃんは途中でローズばあちゃんのパンチを口にくらっていた。頬ではなく口に。 
 おばあちゃん視野が広い。顔は笑顔を乗せて俺に向いたまま、それも利き手ではなさそうな左手の拳を狂いなく口元へ命中させたのだ。
 それでもじいちゃんは一ミリも動かず文句も言わず、汗も浮かべない……
 じいちゃんの言いたいことは大方わかってしまったけれど、俺はじいちゃんの受けたダメージと、この夫婦のどちらに優位性があるかを知らされたようでビビっていた。
 きっと子供の俺に気を使ったんだろうな。ばあちゃんの気づかいが俺にも伝わってきた。
 でも俺はじいちゃんが気の毒すぎて、どういう顔をしていいかわからなくなった。でもじいちゃんの立ち直りは早い。

「だからな、ニールよ。今夜は私と眠るか?」
「ええっと……一人でもいいなら一人で眠ります。疲れてるし。誘ってくれたのにごめんなさいレイヤーさん。またの機会に一緒に寝て下さい」
「レイヤーとは私のことか? レイヤーとは何だ?」

 勝手につけてしまったあだ名がここに来てうっかり滑り出た。おかげでじいちゃんがもの凄く前のめりになってくる。
 レイヤー=コスプレイヤーだとはとても言えません。

「あー、あの時、おじいちゃんが来てくれた時、名前も知らなくて。だから俺、じいちゃんのこと心の中でレイヤーさんって呼んでたんだ。レイヤーって言うのは日本では……みんなの注目を集める人気者って意味があるんだよ」
「おおっ、そうか。ニールは私をそう見抜いたのか」

 さっきまでしょぼくれていたじいちゃんが急に輝きだした。俺のついた嘘に感激したようだ。
 嘘……だけど嘘じゃないし、いいよな。もっと気のきいたこと言えたらよかったけど……
 こんな感じで俺は野獣父と一瞬だけ対面し、レイヤーじいちゃんとは再会し、ローズばあちゃんと初対面を果たした。
 そして「ギアおじいちゃん」「ローズママ」と二人の事を呼ばせてもらう事になった。
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