異世界人αと日本人Ωの間に生まれたハーフな俺

宇井

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11 変化する俺 最終話

 あんなに緩んだ顔した父さんを見るのは初めてで幸せそう、こっちまで嬉しくなる。

「ユーリの実家は地方では力のある政治一家と聞いていたのですが」
「へえ、父さんの家って政治家なのか。それ初めて聞きました。僕達はずっと二人家族で父さんの実家がどうって聞いた事もなくて」
「それとなく聞いてはいましたが、本当にユーリと二人の生活だったんですね」
「はい。父さんが一人で俺を育ててくれました。親からの援助はなかったんじゃないかな」
「それは大変でしたね」
「父さんだけは。俺は父さんに守られて、全然苦労なんてしてないです」
「それを聞いたらガイアもほっとするでしょう。二人の子であるアユムがいい子で私も安心します」

 トナムさんはしみじみと言った風情で頷く。

「トナムさんは昔から俺の両親を知っているんですよね。昔はどんなだったか教えて下さい。すごく興味あります」
「昔、そうですね。二人で並ぶ姿はとても幸せそうでしたよ。最初はガイアの一目ぼれです」
「父さんが戦場のど真ん中に落ちたと聞いています」
「それを攫うように守り、傷ひとつつけずにこの城まで大切に運んだ男がガイアです。戦争中ですから時間はありません、気持ちが決まったら即行動するものですから、一週間せずに愛を告白していましたね」
「それでも父さんは受け入れた……」
「ええ丸一日考えて了承したと。興奮したガイアの雄叫びで、鳥が失神して落ちてきたとか、自分の耳が悪くなったとか。そんな風にユーリ自身から聞かされました」

 耳が聞こえにくい事を笑い話にするとか、それ父さん本人しか使えないギャグだ。

「その日のうちに、ガイアは早速夜這いをかけてました」
「え、なにそれ。恋愛最初のピュアさがない。ガイパパって肉食獣……実は獣人!?」
「人間ですよ。ギリギリ」

 こっちの世界でも獣人は通じた。そして物語にあるだけの存在っぽい。

「十代の父さん、かわいそう」
「全開のアルファフェロモンにあてられてユーリも発情したので、いい夜が過ごせたそうですよ」
「あーなるほど、なるほど。それ以降は言わないで下さい」

 親のそれ系の話はやっぱり照れるわ。
 今のトナムさんの話が本当だとすると、父さんとガイパパが一緒にいられた時間って短い期間だったんだな。そうなると今のラブラブっぽい感じも納得できるし、落ち着くまで部屋から出て来なくていいよね。
 それだけ離れる理由があったんだ。仕方がない。

「戦争って、長く続いたんですね」

 だって今の俺は十六歳。それだけ長く離れる事になったんだよ。

「長かったです。ここからは戦後の処理に入りますし、別の地域では新たな争いが起こるかもしれない。影響力があるギア様にはまだまだ現役で頑張っていただかなければ」
「俺がここでできる事って、何かあるのかな」

 多分そんなにない。
 うーん、うーんと唸ると、トナムさんが乗り出してきて励ますみたいに肩を叩いた。

「時間をかけてここに馴染むのがアユムの仕事です」
「なら、あまり考え過ぎないようにします」
「そしてガイアとギア様、ローズ様にはしっかりと甘える。きっと喜びます。それと、ユーリがこちらに来た当初は翻訳石なしに会話できるようにと勉強していました。アユムも興味があれば覚えてみるといいでしょう。ユーリの時のように私が教えます」
「なるほど。それはいいですね」

 娯楽がないここなら時間は余るし、生活の為の語学なら身に付きそうな気がする。うん、前向きになってきた。

「色々と教えてくれてありがとうございました。俺、こっちでも頑張れそうです」
「アユムは素直でいいですね。きっと早くこの国に馴染みます」
「はい。朝食ごちそうさまでした。俺片付けますね」

 全て綺麗に頂いてお皿を台所側の広いシンクへ運ぶ。トナムさんの空になった皿もね。
 食器の洗い方なんてどの世界も同じだよね?
 置いてあった植物の繊維に小皿に盛ってあった灰色の石鹸。
 これしかないと手に取り、シンクに重ねてあった数枚の皿もまとめて洗う。
 固形石鹸で食器を洗った事があるから要領はわかるし、少し懐かしい気持ちになる。ちょっと楽しい。
 トナムさんが隣に立って蛇口をひねってくれる。水はじゃぶじゃぶ使えるほど豊富っぽい。全部の皿の泡を落として最後に手をぱぱっと振っていると布巾を手渡してくれた。
 トナムさんを見上げる形になって、なかなかでっかい人な事を実感する。座っていると目線は一緒なのにな……
 こっちの人って本当に巨人族。みんなに見下ろされてるわ、俺。
 しかもスタイルがいいから、普通の綿シャツにパンツでも決まってるんだこれが。ゆったりトレーナーにカラーパンツはいてる俺の方が完全ださい。
 
「アユムは何に興味があるの?」
「あっちでは読書が好きでした。そうだ、こっちの学校ってどんな感じなんですか?」
「恐らく、アユムが受けた教育とは違っています。職業学校なら複数あるのですが、ニホンと同程度を求めるならここを出る事になります」
「流石にそこまで学習意欲ないんです。まだ父さん達と一緒にいたいし。でも働くとなってもここで活かせる特技なんてないし、困っちゃいます。やっぱり言葉の勉強から始めようかな」
「若さがあれば何とでもなります。今は楽しい事だけを考えましょう。では一度部屋に戻りましょうか」
「はいっ」

 言われてダイニングから廊下に出た所で俺はフリーズ。
 右と左にのびる廊下、果たして自分はどっちから来たのだろうか。わからん。戻りも父さんと一緒だと思って油断していた。

「一度で覚えられる人は少ないですよ。部屋に案内しましょう」

 トナムさんに差し出された手の平に指先をのせる。それをそっと握られた。まるでお嬢様をエスコートするみたいな感じ。そういえばコレ昨日ギアじいちゃんとやったわ。
 これは俺が悪いんじゃないって。だってこの屋敷迷子になるように作られてるんだもんよ。
 道中でトナムさんが説明してくれた。
 ギアじいちゃんが子供の頃くらい昔、建設当初のここは平屋だった。その四角い建物に対して横へ、後ろへと、その時に必要な増築がされていく。横へ延ばすのがムズくなった所で、二階を新たに作りだした。
 なんか不便だから水回りだけ別にしようと、渡り廊下を作って離れた場所にも増築。
 その時々の人達が無計画に好き勝手にして不思議な間取りの館が完成した事になる。でも覚えてしまえば何て事はないらしい。
 しばらく歩いて客室に到着。繋いでいた手はそっと離れた。

「午後は城下で食事しましょう。ユーリは肉と言っていましたね」
「お肉じゃなくても、こちらの郷土料理とか、散歩でもいいし、何でもいいです。別に一日一人で部屋にいるのも全然平気だし」
「アユムはユーリと同じですね。ここへ来た時のユーリもそうやって気を使う人でしたから。それと……アユムは一度バース検査をしてみた方がいいでしょう」
「ベータなのに、ですか?」
「こちらとあちらの世界では判定結果が違って出るかもしれません。もしくはあちらでは確かにベータだった、こちらに来る過程で変化したとも考えられます」
「まさか……子供の頃は確かにベータで、今も特に変化は感じないし」
「こちらでは体が成熟してからの判定でないと正確ではないと言われています」
「まあ、確かに。成長期で見た目も声もころっと変わる人いますけど」
「アルファ寄りのベータもいれば、オメガ寄りのベータもいます。きっちり三つの性に分けられる訳ではない。バース性は繊細なんですよ」
「そっか。きっちり三つに分類できるんだと思い込んでたけど、そうじゃないんですね」

 アルファ、ベータ、オメガ、それぞれの境は曖昧で、その時の年齢や環境で数値に変化がある。当然俺の数値だって日々変化している。

「あの二人の間にできた子がベータなはずはないと。加えて、アルファとしての勘がアユムはベータではないと言っています」
「ええっ、じゃあ、もしかして俺ってばアルファなのかも」
「……」

 トナムさん黙っちゃったよ。冗談なのに。
 ベータという判定が違うのだとしたら、それはきっと絶対にアルファではなくオメガだろう。父さんに似てるし、身体つきからしても。

「わかってますよ。ベータでないならオメガって」

 思わず出てしまった子供みたいな言葉にも恥ずかしがる余裕がなかった。しかしトナムさんは大人の余裕で微笑んでくれる。

「結果次第ですがアユムを取り巻く環境は変わるでしょう。今ここには番を持たないアルファが二人います。対してオメガはゼロですので」
「オメガが、ゼロ」
「アユムは気さくで話やすいですし、ガイアの息子となれば注目されて人気者になれます。バース性に関係なくね」
「人気者なんて柄じゃないですよ。むしろ存在しない者として欲しいくらいで」

 受け入れ難くてハハッと乾いた笑いを零す。

「まあ今は判定を急ぐ必要はないでしょう。怖がらせてしまい申し訳ありません。二時間後に迎えに来ます」

 トナムさんはそう残して去って行った。

 こうして、ここからは父さんではなく、俺の異世界物語。

「日本で平凡なベータだった俺が異世界でオメガに転化して二人のアルファに求愛されて何事!」

 が始まるのかもしれないのだった。
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