辺境で待っていたのはふわふわの愛でした

宇井

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1 アリーの事情

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 まだまだ着かない……
 田園地帯が永遠に終わらないと思ったら、今度は道の両脇を囲む森林が終わらなくなった。
 目指すのは南方の半島。辺境と言われる地。
 二〇〇年前には独立した一つの国だったが、当時の王が統治を求めてきた事で併合された過去がある。
 同じ国でありながら、性質が違う不思議な地域。
 気候は温暖で人々も温和な人が多いとされている。国の中心とは違う自然や習慣があるのが、不安であり楽しみでもある。
 
 アリーが嫁ぐのはこれで二度目。
 最初は近場での縁組だったし、馬車でこれほど移動して遠方へ行くのも人生で初めての事だ。
 出発した初日は快適で、初めて見る景色に感激していた旅。それが朝から晩まで一週間も揺られていると尻どころか全身が痛みだす。
 もし離婚を言い渡されたのなら同じ道を戻るのか。
 離婚も嫌なら、もう一度この旅をするのはもっと嫌だ。
 次の旦那様は一体どんな人だろう。
 アリーは同じ事ばかりを考えている。


 最初の結婚は十五の時だった。
 男しか愛せないという格上貴族との縁組に、金が何よりも好きで贅沢な両親はアリーの気持ちを確かめる事なく飛びついた。
 相手は三つ年上のα。がっちりした体格で無口なその人は、既に心に決めたβの恋人がいた。
 彼もアリーも親に押し切られた同士だ。それなのに彼はアリーを恨み、親が用意した屋敷に恋人を連れ込み、初夜さえ無視した。アリーの為にお金を使う事もなかった。
 一方でアリーは伴侶のすべき仕事を覚え采配し、夫とコミュニケーションをとるよう努力をしてきた。けれど、それがまったく実を結ばず虚しい日々を積み上げていた。
 最後の半年、アリーは夫に手を上げられるようになった。
 周囲に不仲は伝わっていたが、顔に隠せないほどの痣をつくったアリーの姿は同情され噂として広まった。
 そして結婚から二年が経過して離婚となった。
 不妊の原因を持つアリーの有責で。

 表向きは有責ながら、アリーは慰謝料を手にした。
 義両親は息子を守るため、離婚原因はアリーにあるとして欲しいと頭を下げたのだ。アリーはそれを承諾した。
 自分は傷物で構わない。Ωでありながら求められないのは気が楽だ。
 得た慰謝料は親ではなく叔父に入るよう手配してもらった。アリーは実家には帰らず叔父の家に身を寄せる事を決めていたのだ。
 彼は過去に離婚していて現在は独身。昔からアリーを可愛がってくれ、この結婚にも心配していた唯一の人だ。
 家は継いでいないものの、一族で一番出世した人物。現在も王宮で要職に就いている。
 アリーは叔父の為に屋敷で家事をするつもりだった。しかし彼はΩであっても学ぶべきだとアリーを学校に入れ、学業に支障がないようにメイドまで雇った。
 そして二年制の学校を卒業し進路にも人生にも迷っていた時、意外にも叔父は縁談を持ってきたのだ。

 
 次の旦那様の年齢は四十歳。二十も年の差がある人で、体が弱い人らしく田舎で静養しつつ領主をしていると聞いた。
 叔父が若い頃の知り合いらしく、どう暮らしているか心配している。優しい叔父が大事にしてやってほしいと言うのだから大切な友達なのだろう。
 痩せていて、髪がなくて、顔色が悪く……
 アリーはできる限り夫となる人の悪い状態を想像して、いざ対面した時に失礼のないようにと心構えをした。
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