1 / 7
1 アリーの事情
しおりを挟む
まだまだ着かない……
田園地帯が永遠に終わらないと思ったら、今度は道の両脇を囲む森林が終わらなくなった。
目指すのは南方の半島。辺境と言われる地。
二〇〇年前には独立した一つの国だったが、当時の王が統治を求めてきた事で併合された過去がある。
同じ国でありながら、性質が違う不思議な地域。
気候は温暖で人々も温和な人が多いとされている。国の中心とは違う自然や習慣があるのが、不安であり楽しみでもある。
アリーが嫁ぐのはこれで二度目。
最初は近場での縁組だったし、馬車でこれほど移動して遠方へ行くのも人生で初めての事だ。
出発した初日は快適で、初めて見る景色に感激していた旅。それが朝から晩まで一週間も揺られていると尻どころか全身が痛みだす。
もし離婚を言い渡されたのなら同じ道を戻るのか。
離婚も嫌なら、もう一度この旅をするのはもっと嫌だ。
次の旦那様は一体どんな人だろう。
アリーは同じ事ばかりを考えている。
最初の結婚は十五の時だった。
男しか愛せないという格上貴族との縁組に、金が何よりも好きで贅沢な両親はアリーの気持ちを確かめる事なく飛びついた。
相手は三つ年上のα。がっちりした体格で無口なその人は、既に心に決めたβの恋人がいた。
彼もアリーも親に押し切られた同士だ。それなのに彼はアリーを恨み、親が用意した屋敷に恋人を連れ込み、初夜さえ無視した。アリーの為にお金を使う事もなかった。
一方でアリーは伴侶のすべき仕事を覚え采配し、夫とコミュニケーションをとるよう努力をしてきた。けれど、それがまったく実を結ばず虚しい日々を積み上げていた。
最後の半年、アリーは夫に手を上げられるようになった。
周囲に不仲は伝わっていたが、顔に隠せないほどの痣をつくったアリーの姿は同情され噂として広まった。
そして結婚から二年が経過して離婚となった。
不妊の原因を持つアリーの有責で。
表向きは有責ながら、アリーは慰謝料を手にした。
義両親は息子を守るため、離婚原因はアリーにあるとして欲しいと頭を下げたのだ。アリーはそれを承諾した。
自分は傷物で構わない。Ωでありながら求められないのは気が楽だ。
得た慰謝料は親ではなく叔父に入るよう手配してもらった。アリーは実家には帰らず叔父の家に身を寄せる事を決めていたのだ。
彼は過去に離婚していて現在は独身。昔からアリーを可愛がってくれ、この結婚にも心配していた唯一の人だ。
家は継いでいないものの、一族で一番出世した人物。現在も王宮で要職に就いている。
アリーは叔父の為に屋敷で家事をするつもりだった。しかし彼はΩであっても学ぶべきだとアリーを学校に入れ、学業に支障がないようにメイドまで雇った。
そして二年制の学校を卒業し進路にも人生にも迷っていた時、意外にも叔父は縁談を持ってきたのだ。
次の旦那様の年齢は四十歳。二十も年の差がある人で、体が弱い人らしく田舎で静養しつつ領主をしていると聞いた。
叔父が若い頃の知り合いらしく、どう暮らしているか心配している。優しい叔父が大事にしてやってほしいと言うのだから大切な友達なのだろう。
痩せていて、髪がなくて、顔色が悪く……
アリーはできる限り夫となる人の悪い状態を想像して、いざ対面した時に失礼のないようにと心構えをした。
田園地帯が永遠に終わらないと思ったら、今度は道の両脇を囲む森林が終わらなくなった。
目指すのは南方の半島。辺境と言われる地。
二〇〇年前には独立した一つの国だったが、当時の王が統治を求めてきた事で併合された過去がある。
同じ国でありながら、性質が違う不思議な地域。
気候は温暖で人々も温和な人が多いとされている。国の中心とは違う自然や習慣があるのが、不安であり楽しみでもある。
アリーが嫁ぐのはこれで二度目。
最初は近場での縁組だったし、馬車でこれほど移動して遠方へ行くのも人生で初めての事だ。
出発した初日は快適で、初めて見る景色に感激していた旅。それが朝から晩まで一週間も揺られていると尻どころか全身が痛みだす。
もし離婚を言い渡されたのなら同じ道を戻るのか。
離婚も嫌なら、もう一度この旅をするのはもっと嫌だ。
次の旦那様は一体どんな人だろう。
アリーは同じ事ばかりを考えている。
最初の結婚は十五の時だった。
男しか愛せないという格上貴族との縁組に、金が何よりも好きで贅沢な両親はアリーの気持ちを確かめる事なく飛びついた。
相手は三つ年上のα。がっちりした体格で無口なその人は、既に心に決めたβの恋人がいた。
彼もアリーも親に押し切られた同士だ。それなのに彼はアリーを恨み、親が用意した屋敷に恋人を連れ込み、初夜さえ無視した。アリーの為にお金を使う事もなかった。
一方でアリーは伴侶のすべき仕事を覚え采配し、夫とコミュニケーションをとるよう努力をしてきた。けれど、それがまったく実を結ばず虚しい日々を積み上げていた。
最後の半年、アリーは夫に手を上げられるようになった。
周囲に不仲は伝わっていたが、顔に隠せないほどの痣をつくったアリーの姿は同情され噂として広まった。
そして結婚から二年が経過して離婚となった。
不妊の原因を持つアリーの有責で。
表向きは有責ながら、アリーは慰謝料を手にした。
義両親は息子を守るため、離婚原因はアリーにあるとして欲しいと頭を下げたのだ。アリーはそれを承諾した。
自分は傷物で構わない。Ωでありながら求められないのは気が楽だ。
得た慰謝料は親ではなく叔父に入るよう手配してもらった。アリーは実家には帰らず叔父の家に身を寄せる事を決めていたのだ。
彼は過去に離婚していて現在は独身。昔からアリーを可愛がってくれ、この結婚にも心配していた唯一の人だ。
家は継いでいないものの、一族で一番出世した人物。現在も王宮で要職に就いている。
アリーは叔父の為に屋敷で家事をするつもりだった。しかし彼はΩであっても学ぶべきだとアリーを学校に入れ、学業に支障がないようにメイドまで雇った。
そして二年制の学校を卒業し進路にも人生にも迷っていた時、意外にも叔父は縁談を持ってきたのだ。
次の旦那様の年齢は四十歳。二十も年の差がある人で、体が弱い人らしく田舎で静養しつつ領主をしていると聞いた。
叔父が若い頃の知り合いらしく、どう暮らしているか心配している。優しい叔父が大事にしてやってほしいと言うのだから大切な友達なのだろう。
痩せていて、髪がなくて、顔色が悪く……
アリーはできる限り夫となる人の悪い状態を想像して、いざ対面した時に失礼のないようにと心構えをした。
106
あなたにおすすめの小説
幼馴染の王子に前世の記憶が戻ったらしい
325号室の住人
BL
父親代わりの叔父に、緊急事態だと呼び出された俺。
そこで、幼馴染の王子に前世の記憶が戻ったと知って…
☆全4話 完結しました
R18つけてますが、表現は軽いものとなります。
兄様の親友と恋人期間0日で結婚した僕の物語
サトー
BL
スローン王国の第五王子ユリアーネスは内気で自分に自信が持てず第一王子の兄、シリウスからは叱られてばかり。結婚して新しい家庭を築き、城を離れることが唯一の希望であるユリアーネスは兄の親友のミオに自覚のないまま恋をしていた。
ユリアーネスの結婚への思いを知ったミオはプロポーズをするが、それを知った兄シリウスは激昂する。
兄に縛られ続けた受けが結婚し、攻めとゆっくり絆を深めていくお話。
受け ユリアーネス(19)スローン王国第五王子。内気で自分に自信がない。
攻め ミオ(27)産まれてすぐゲンジツという世界からやってきた異世界人。を一途に思っていた。
※本番行為はないですが実兄→→→→受けへの描写があります。
※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。
【完結】僕は、妹の身代わり
325号室の住人
BL
☆全3話
僕の双子の妹は、病弱な第3王子サーシュ殿下の婚約者。
でも、病でいつ儚くなってしまうかわからないサーシュ殿下よりも、未だ婚約者の居ない、健康体のサーシュ殿下の双子の兄である第2王子殿下の方が好きだと言って、今回もお見舞いに行かず、第2王子殿下のファンクラブに入っている。
妹の身代わりとして城内の殿下の部屋へ向かうのも、あと数ヶ月。
けれど、向かった先で殿下は言った。
「…………今日は、君の全てを暴きたい。
まずは…そうだな。君の本当の名前を教えて。
〜中略〜
ねぇ、君は誰?」
僕が本当は男の子だということを、殿下はとっくに気付いていたのだった。
【完】姉の仇討ちのハズだったのに(改)全7話
325号室の住人
BL
姉が婚約破棄された。
僕は、姉の仇討ちのつもりで姉の元婚約者に会いに行ったのに……
初出 2021/10/27
2023/12/31 お直し投稿
以前投稿したことのあるBLのお話です。
完結→非公開→公開 のため、以前お気に入り登録していただいた方々がそのままお気に入り登録状態になってしまっております。
紛らわしく、申し訳ありません。
2025/04/22追記↓
☆本文に記載ありませんが、主人公の姉は婚約破棄された時、主人公の学園卒業時に実家の爵位が国に返上されるよう、手続きをしていた…という設定アリ。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
強面龍人おじさんのツガイになりました。
いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。
番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。
勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。
強面攻めが、受けに授乳します。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
記憶喪失になったら弟の恋人になった
天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。
そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。
そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。
見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。
※ムーンライトノベルズにも掲載しております。
トラド×ギウリ
(ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる