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19 先生
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俺が誰かと結婚する事はないだろう。
四人の子持ちだし、今の生活が最高だと思っているし、結婚で親族が増えてまた苦労するのは嫌だし。とはいえ、恋人とは言えなくても、定期的に会っているαはいる。
俺は先生と偶然出会った時のことを、意図せず思い出してしまう事がある。
とある定期健診の帰り道、予定より早く診察が終わった事もあって、俺はバスに乗らずにテコテコ歩いてアパートを目指していた。
仕事はしているものの運動不足は感じていたから、思いつきで歩きで帰宅する事にしたのだ。
足元はスニーカー、大容量の斜めかけバッグ。バッグの中には水筒もあるし帽子も入っている。装備は完璧。楽しいウォーキングの始まりだった。
はずだったけど、足取りが軽かったのは最初の15分だけ。早々にバス停を検索するのと休憩のために、目に入った小さな公園で休憩する事にした。
思いつきでやるもんじゃない……
息は上がっていた。でも一人で知らない街並みを横目に歩くのは意外と面白かった。
ひとつしかないベンチに座って、深呼吸して、はっと小さな息を吐けば、突如だだっと涙がこぼれた。
多美さんにも、佐保さんにも出会ってて、家庭は平和。これ以上を望むのはばちがあたるほど。
体は快方に向かって何の問題ない。気持ちはそれよりズレて着いてきている感じはする。何事も焦ってはいけない。ゆっくりゆっくり、マイペースで、いつもそう自分に唱えている。
なのに突然の変化が俺を襲っていた。
涙、とまんない。
焦っていると上から声をかけられた。
黒のジャージの上下にサンダル履き。髪は水を適当になでつけただけみたいな癖がついている。いつもの白衣姿とはまったく違う赤池先生の姿。だけど違和感はなかった。
先生は俺がいつもお世話になっているΩ専門の産婦人科の医師だ。
「まさか、あんたが」
俺の事をあんた呼ばわりするけど気にならなかった。
不思議だったのは先生に対して素直に反応してしまった俺の行動だ。
こっちに来いみたいに胸を開けてくるから、ベンチから立ち上がってそこへ体を寄せてしまったのだ。ぴたりとはまって背中に手が添えられたた瞬間、ドクドクと心臓が跳ねた。
「匂い、するか?」
フルフルと首をふる。
「そうか、こっちは目まいがするほど感じ取ってるのにな。でも体は反応してるな。大丈夫か?」
「だいじょぶ、じゃない。涙、とまんな……心臓、バクバクで、やば、こわ……しぬのか……」
あり得ない鼓動の強さに、次の瞬間にも動きを止めてしまうのではないかと怖くなった。
「あんた発情してるんだ。俺の存在にな。薬……カバンの中見るぞ」
俺の斜め掛けから処方されたばかりの薬を取り出し口の中につっこんでくる。何の疑問もなくそれを舌で溶かした。その間も背中を撫でてくれるのが嬉しい。
「あー、まずい。やべえ。苦しいだろうけど、ちょっと待て。何度も会ってたのに、気付くのがこのタイミングか。くそっ」
先生の胸の中でぐずぐす泣いていると、誰かと通話を始める。しかも声は厳しい。
「……ちょっと思いがけない展開で……患者とはいえ、こっちは確信しているんです……ええ……許可を頂くためではなく、あくまでも報告ですので……」
声が途切れ途切れになるのは、俺が酩酊したようになっているからだ。
俺だけがほっとかれているみたいで悲しくて悔しくて、胸を叩くとようやく通話を終えた。
「こんな場面にぶちあたると、つくづく自分が真面目な人間だと実感するな。黙ってさらって、その後だって秘密にできるだろうに。思えば、そんな節はあったんだよ。あり得ねえだろ、俺様が患者に欲情するとか」
それは大きなひとり言だった。口も悪い。
「なあ、俺の部屋でいいか?」
こくこくと頷いて同意する。
俺はその後先生のマンションで脳もとろける極甘のセックスをした。あの時の衝動は何だったのかと思うほど一度のセックスで昂りは落ち着いた。
そこから先生とプライベートで会うようになって、先生の年が俺よりたった一つ上だと知った。病院では白衣かスクラブだし、髪をしっかり後ろに流してキメているからもっと年上だと思っていたから意外すぎた。
先生からは会える日の前日にメッセージが来て、俺に用事がなければ会うって手順。断る権利は俺にあるが、断った事はない。
この関係に無理して名前を付ける必要はないし、絶対に自分の体調と家族の予定を優先しろと先生は言う。
「俺だけがわかっていればいい」
意味ありげに口元だけで笑う先生は憎らしいほどイケメンだ。
「あっん……」
まだこっちはイってる最中なのに、俺の中から射精の終わったちんぽが無遠慮に出ていく。
そっちはもう後処理に入ってるのに、こっちだけ感じてるのが恥ずかしい。
先生は事後の情緒というか、ムードというか、気遣ってほしいのにしてくれない。事が終わると俺に背をむけて、もそもそゴムを処理する。
先生曰く、出した後のゴムの感覚が苦手らしい。それに出した後も相手の中に残り続けると妊娠の可能性があるとかなんとか。だから射精後秒で外すのは先生の中では最上級のマナーなんだと。
とは言え、自分がすっきりしたいだけに見える時もある。
ベッドの足元で団子になってた布団をつま先にひっかけて腰までひっぱり上げる。俺のがさつな動作が面白かったみたいで、後始末を終えた先生は笑いながら布団に入ってきた。
この人ピロートークは好きなんだよ。だからこれまでに会話は沢山していて、俺はこの人のことを色いろ知っている。
赤池先生は独身で恋人がいない。
両親はどっちも男。父親のαは変わり者。定職をもたない自由業をしていたから年収五千万の年もあれば十万の年もあって、一家は常に贅沢は敵だと団結して節制してきたらしい。
だからだろうか、言葉遣いは丁寧でも滲み出る野性味がある。もちろん庶民の俺はその方が接しやすくていい。
休日のスタイルはダサい俺から見ても完璧にダサい。でも仕事中は完璧なインテリに見える。看護師さんとかにもててそうだ。
「フミの色気にあてられて、きりがないな」
俺が見つめていたのをどうとらえたのか、わざとらしく硬い物を太ももにあててくる。αのちんぽは射精後もなかなか萎えないけれど、確かにさっきよりゴリゴリしてる気がする。
腕を回して来るから、ありがたく腕枕してもらう。αの匂いがついてたら子供達に気付かれるかもだけど、帰りにシャワーを浴びれば粗方とれる。
なんだか勿体ないけど仕方ない。存分にαの匂いをつけたままでいられる郁也が羨ましく感じる。
シングルのΩはいつだってαの香に飢えているって、抱かれる度に思う。それまでは疑問もなく普通の生活してたのに、抱かれた途端に気付く。
「先生……」
俺は自分と年の近いαに甘えた。
「なあ、先生ってのそろそろ止めないか?」
「じゃあ、赤池って呼ぶ」
「なんで名字なんだよ」
「だって下の名前知らないから」
正直に告白すると明らかにがっかりされた。
「なんでだ。俺の名前は書類でも見たはずだろう。名札も常に下げてるし」
「うーん、そうなんだけど、名字だけわかってれば大体困らないですから」
「しかし長い付き合いだろう」
「長いけど、業務外の会話をしたのはつい最近でしょう?」
「いや、それにしても、淡泊すぎるとうか、まあそれがフミの可愛いところなんだけど」
納得いかないのか赤池先生はごにょごにょしている。
「じゃあ教えてください。下の名前」
「赤池シンジ。真実の真に、漢字で二」
「じゃあ、これからは真二さんて呼ぼう」
名前ひとつでワクワクしてしまった。
先生との初対面は四男の郁也の妊娠前だったと思う。あんまり覚えていない。
Ω専門医は四人いるけれど患者側から指名はできないことになっている。
診察日と担当の割り振りを見て予約はできるけど、一診、二診と診察室が二つに別れると、結局どの先生に当たるかは運になる。だから俺はこだわりなく自分の都合優先で検診を入れていた。
そんなだから赤池先生に診てもらったのは五回だけだと記憶している。それに主任先生がいるときは、俺は絶対にそっちに回されてた。
それは俺が当時宗賀家の人間だから特別扱いって理由じゃなくて、単に先生の好奇心が、子供を沢山産んでる俺の子宮にあったからだ。
俺の腹の中がどうなっているか知りたいらしくて、解剖したいなんてうっかり漏らしてたし。
年齢順でいけば主任先生の方が先に三途の川を見ますからってつっこんで笑い話になったけど、あの目はマジでやばかった。医者の世界にも色んな人がいるんだなって震えた。
とにかく赤池先生には昔からお世話になっている事になる。だから赤池医師に対する敬語がなかなか抜けないし、乱暴な言葉は出ない。二人きりのホテルの一室であっても。
「ねえ、真二さんも主任先生みたいに俺のこと見てた?」
「んん? それは研究対象ってことか? そこまではいかないけれど、ずっと興味はあった。四度目の出産になるΩの内診に立ち会うか聞かれた時、その場にいた産科医はみんな手を上げてたしな」
「あっ、思い出した。なんか若手の為に協力してもらえるかって聞かれて、適当にうんって答えたら、若い先生がぞろぞろ出てきてビビッたもん。カーテン引いてあったけど意味なくない。あれって後だしで酷い。内診台で足広げてるのに皆に見られて……」
具体的に、医師達があなたの股間を見ますって内容を言われてたら断ってた。
「正確には全員で超音波の画像を見ていたんだ。フミが股おっぴろげて、アナルにプローペ突っ込まれてたのを遠慮なくガン見して、違うだろもっと奥に入れろよって心の中で悪態ついてたのは私だけだ。安心しろ」
「変態性を隠さないんですねっ」
一人とはいえ邪な思いの人がいたってだけで衝撃なんだけど。
世間知らずな俺は医者は尊いって思ってたのに、Ω専門にしてる人は変態が多いに違いない。イメージは崩れてばかりだ。
「腹を切らずに三人出産して四人目妊娠中って例は、あの当時だとフミくらいしかいなかったから、みんな真剣だった。世界でも数例だろう」
「でも真二さんだけ不真面目」
「違う。私も貴重な休憩時間を削って行ったんだ。しかし目の前にある足は白くて腰はむっちりしていて、疲労と睡眠不足がたたって……カーテンの向こうにどんな顔したΩがいるのと興奮した。だから瞬きもせず真剣に穴を見ていた。しかも宗賀の奥様だってわかったから余計だな」
宗賀の名前はいらんキラキラ効果を足すんだな。名家の奥様って俺のイメージと合わないよ。
「ってことはあそこにいた医者全員、俺が宗賀ってわかってたの?」
「いや、お前はただの患者様。匿名は守られていた。私は分娩チームに入っていたから名字を知っていただけだ」
「身バレしてないなら、よかった」
見世物になっていないのならいい。ほっとする。
「だからその後、私の所に健診カルテが回ってきた時は興奮したな。あのむっちり下半身と顔が拝めるって」
「ゲスイです。お医者様の言うことじゃないです。最低です」
「確かに最低だと自覚していた。執着してしまう理由がわかったのは、もっと後だったしな」
できれば聞きたくなかった。
俺が持ってるその時の記憶は、ほぼない。初めての先生で、椅子に座っても見上げるくらい背が高くて、角ばった顔で男らしさが全面に出てるαだなってくらい。
もちろんαらしく男前だったけど、きっと忙しくて髪が崩れていたと思う。灰汁が強めのワイルド先生ってあだ名を勝手につけてたぐらいだから。
「あの奥様があの扉を開けてここに来るってわかって、思わず背筋を伸ばしたくらいだからな」
「で、俺が入ってきてどうでした?」
「ある意味衝撃だったな。言葉を失うほどに普通で」
「やっぱりね、そう言うってわかってた」
「でも話し方はたおやかで清楚で、カルテの年齢より見た目が若すぎて、入力の方が間違えてるのかと思った」
「……は?」
それもまた俺じゃないんだけど。清楚って別の人? 別の記憶と混ざってない? 宗賀マジックが凄すぎたってこと?
なんか当時を思い出してまた興奮したか、先生が肩をすりすりして胸をまさぐってくる。
「真二さんにそんな幻想があったなら、本当の俺と普通の会話をして、正体が見えてがっかりしたでしょう」
「それはない。やっぱり上品なセックスが好きなんだなとは思ったが」
「上品って、至って普通ですよ、普通。真二さんはこれまで一体どんなプレイをしてたですか」
「だいたいはあれだ。女に拉致られて馬乗りでアンアンしてるのを下から眺めてるっていう」
「やっぱり、先生ってモテモテなんですね」
「そんな受け身ばかりだったから、相手を泣かせて潮まで噴かせる才能があった事には気付かなかった」
四人の子持ちだし、今の生活が最高だと思っているし、結婚で親族が増えてまた苦労するのは嫌だし。とはいえ、恋人とは言えなくても、定期的に会っているαはいる。
俺は先生と偶然出会った時のことを、意図せず思い出してしまう事がある。
とある定期健診の帰り道、予定より早く診察が終わった事もあって、俺はバスに乗らずにテコテコ歩いてアパートを目指していた。
仕事はしているものの運動不足は感じていたから、思いつきで歩きで帰宅する事にしたのだ。
足元はスニーカー、大容量の斜めかけバッグ。バッグの中には水筒もあるし帽子も入っている。装備は完璧。楽しいウォーキングの始まりだった。
はずだったけど、足取りが軽かったのは最初の15分だけ。早々にバス停を検索するのと休憩のために、目に入った小さな公園で休憩する事にした。
思いつきでやるもんじゃない……
息は上がっていた。でも一人で知らない街並みを横目に歩くのは意外と面白かった。
ひとつしかないベンチに座って、深呼吸して、はっと小さな息を吐けば、突如だだっと涙がこぼれた。
多美さんにも、佐保さんにも出会ってて、家庭は平和。これ以上を望むのはばちがあたるほど。
体は快方に向かって何の問題ない。気持ちはそれよりズレて着いてきている感じはする。何事も焦ってはいけない。ゆっくりゆっくり、マイペースで、いつもそう自分に唱えている。
なのに突然の変化が俺を襲っていた。
涙、とまんない。
焦っていると上から声をかけられた。
黒のジャージの上下にサンダル履き。髪は水を適当になでつけただけみたいな癖がついている。いつもの白衣姿とはまったく違う赤池先生の姿。だけど違和感はなかった。
先生は俺がいつもお世話になっているΩ専門の産婦人科の医師だ。
「まさか、あんたが」
俺の事をあんた呼ばわりするけど気にならなかった。
不思議だったのは先生に対して素直に反応してしまった俺の行動だ。
こっちに来いみたいに胸を開けてくるから、ベンチから立ち上がってそこへ体を寄せてしまったのだ。ぴたりとはまって背中に手が添えられたた瞬間、ドクドクと心臓が跳ねた。
「匂い、するか?」
フルフルと首をふる。
「そうか、こっちは目まいがするほど感じ取ってるのにな。でも体は反応してるな。大丈夫か?」
「だいじょぶ、じゃない。涙、とまんな……心臓、バクバクで、やば、こわ……しぬのか……」
あり得ない鼓動の強さに、次の瞬間にも動きを止めてしまうのではないかと怖くなった。
「あんた発情してるんだ。俺の存在にな。薬……カバンの中見るぞ」
俺の斜め掛けから処方されたばかりの薬を取り出し口の中につっこんでくる。何の疑問もなくそれを舌で溶かした。その間も背中を撫でてくれるのが嬉しい。
「あー、まずい。やべえ。苦しいだろうけど、ちょっと待て。何度も会ってたのに、気付くのがこのタイミングか。くそっ」
先生の胸の中でぐずぐす泣いていると、誰かと通話を始める。しかも声は厳しい。
「……ちょっと思いがけない展開で……患者とはいえ、こっちは確信しているんです……ええ……許可を頂くためではなく、あくまでも報告ですので……」
声が途切れ途切れになるのは、俺が酩酊したようになっているからだ。
俺だけがほっとかれているみたいで悲しくて悔しくて、胸を叩くとようやく通話を終えた。
「こんな場面にぶちあたると、つくづく自分が真面目な人間だと実感するな。黙ってさらって、その後だって秘密にできるだろうに。思えば、そんな節はあったんだよ。あり得ねえだろ、俺様が患者に欲情するとか」
それは大きなひとり言だった。口も悪い。
「なあ、俺の部屋でいいか?」
こくこくと頷いて同意する。
俺はその後先生のマンションで脳もとろける極甘のセックスをした。あの時の衝動は何だったのかと思うほど一度のセックスで昂りは落ち着いた。
そこから先生とプライベートで会うようになって、先生の年が俺よりたった一つ上だと知った。病院では白衣かスクラブだし、髪をしっかり後ろに流してキメているからもっと年上だと思っていたから意外すぎた。
先生からは会える日の前日にメッセージが来て、俺に用事がなければ会うって手順。断る権利は俺にあるが、断った事はない。
この関係に無理して名前を付ける必要はないし、絶対に自分の体調と家族の予定を優先しろと先生は言う。
「俺だけがわかっていればいい」
意味ありげに口元だけで笑う先生は憎らしいほどイケメンだ。
「あっん……」
まだこっちはイってる最中なのに、俺の中から射精の終わったちんぽが無遠慮に出ていく。
そっちはもう後処理に入ってるのに、こっちだけ感じてるのが恥ずかしい。
先生は事後の情緒というか、ムードというか、気遣ってほしいのにしてくれない。事が終わると俺に背をむけて、もそもそゴムを処理する。
先生曰く、出した後のゴムの感覚が苦手らしい。それに出した後も相手の中に残り続けると妊娠の可能性があるとかなんとか。だから射精後秒で外すのは先生の中では最上級のマナーなんだと。
とは言え、自分がすっきりしたいだけに見える時もある。
ベッドの足元で団子になってた布団をつま先にひっかけて腰までひっぱり上げる。俺のがさつな動作が面白かったみたいで、後始末を終えた先生は笑いながら布団に入ってきた。
この人ピロートークは好きなんだよ。だからこれまでに会話は沢山していて、俺はこの人のことを色いろ知っている。
赤池先生は独身で恋人がいない。
両親はどっちも男。父親のαは変わり者。定職をもたない自由業をしていたから年収五千万の年もあれば十万の年もあって、一家は常に贅沢は敵だと団結して節制してきたらしい。
だからだろうか、言葉遣いは丁寧でも滲み出る野性味がある。もちろん庶民の俺はその方が接しやすくていい。
休日のスタイルはダサい俺から見ても完璧にダサい。でも仕事中は完璧なインテリに見える。看護師さんとかにもててそうだ。
「フミの色気にあてられて、きりがないな」
俺が見つめていたのをどうとらえたのか、わざとらしく硬い物を太ももにあててくる。αのちんぽは射精後もなかなか萎えないけれど、確かにさっきよりゴリゴリしてる気がする。
腕を回して来るから、ありがたく腕枕してもらう。αの匂いがついてたら子供達に気付かれるかもだけど、帰りにシャワーを浴びれば粗方とれる。
なんだか勿体ないけど仕方ない。存分にαの匂いをつけたままでいられる郁也が羨ましく感じる。
シングルのΩはいつだってαの香に飢えているって、抱かれる度に思う。それまでは疑問もなく普通の生活してたのに、抱かれた途端に気付く。
「先生……」
俺は自分と年の近いαに甘えた。
「なあ、先生ってのそろそろ止めないか?」
「じゃあ、赤池って呼ぶ」
「なんで名字なんだよ」
「だって下の名前知らないから」
正直に告白すると明らかにがっかりされた。
「なんでだ。俺の名前は書類でも見たはずだろう。名札も常に下げてるし」
「うーん、そうなんだけど、名字だけわかってれば大体困らないですから」
「しかし長い付き合いだろう」
「長いけど、業務外の会話をしたのはつい最近でしょう?」
「いや、それにしても、淡泊すぎるとうか、まあそれがフミの可愛いところなんだけど」
納得いかないのか赤池先生はごにょごにょしている。
「じゃあ教えてください。下の名前」
「赤池シンジ。真実の真に、漢字で二」
「じゃあ、これからは真二さんて呼ぼう」
名前ひとつでワクワクしてしまった。
先生との初対面は四男の郁也の妊娠前だったと思う。あんまり覚えていない。
Ω専門医は四人いるけれど患者側から指名はできないことになっている。
診察日と担当の割り振りを見て予約はできるけど、一診、二診と診察室が二つに別れると、結局どの先生に当たるかは運になる。だから俺はこだわりなく自分の都合優先で検診を入れていた。
そんなだから赤池先生に診てもらったのは五回だけだと記憶している。それに主任先生がいるときは、俺は絶対にそっちに回されてた。
それは俺が当時宗賀家の人間だから特別扱いって理由じゃなくて、単に先生の好奇心が、子供を沢山産んでる俺の子宮にあったからだ。
俺の腹の中がどうなっているか知りたいらしくて、解剖したいなんてうっかり漏らしてたし。
年齢順でいけば主任先生の方が先に三途の川を見ますからってつっこんで笑い話になったけど、あの目はマジでやばかった。医者の世界にも色んな人がいるんだなって震えた。
とにかく赤池先生には昔からお世話になっている事になる。だから赤池医師に対する敬語がなかなか抜けないし、乱暴な言葉は出ない。二人きりのホテルの一室であっても。
「ねえ、真二さんも主任先生みたいに俺のこと見てた?」
「んん? それは研究対象ってことか? そこまではいかないけれど、ずっと興味はあった。四度目の出産になるΩの内診に立ち会うか聞かれた時、その場にいた産科医はみんな手を上げてたしな」
「あっ、思い出した。なんか若手の為に協力してもらえるかって聞かれて、適当にうんって答えたら、若い先生がぞろぞろ出てきてビビッたもん。カーテン引いてあったけど意味なくない。あれって後だしで酷い。内診台で足広げてるのに皆に見られて……」
具体的に、医師達があなたの股間を見ますって内容を言われてたら断ってた。
「正確には全員で超音波の画像を見ていたんだ。フミが股おっぴろげて、アナルにプローペ突っ込まれてたのを遠慮なくガン見して、違うだろもっと奥に入れろよって心の中で悪態ついてたのは私だけだ。安心しろ」
「変態性を隠さないんですねっ」
一人とはいえ邪な思いの人がいたってだけで衝撃なんだけど。
世間知らずな俺は医者は尊いって思ってたのに、Ω専門にしてる人は変態が多いに違いない。イメージは崩れてばかりだ。
「腹を切らずに三人出産して四人目妊娠中って例は、あの当時だとフミくらいしかいなかったから、みんな真剣だった。世界でも数例だろう」
「でも真二さんだけ不真面目」
「違う。私も貴重な休憩時間を削って行ったんだ。しかし目の前にある足は白くて腰はむっちりしていて、疲労と睡眠不足がたたって……カーテンの向こうにどんな顔したΩがいるのと興奮した。だから瞬きもせず真剣に穴を見ていた。しかも宗賀の奥様だってわかったから余計だな」
宗賀の名前はいらんキラキラ効果を足すんだな。名家の奥様って俺のイメージと合わないよ。
「ってことはあそこにいた医者全員、俺が宗賀ってわかってたの?」
「いや、お前はただの患者様。匿名は守られていた。私は分娩チームに入っていたから名字を知っていただけだ」
「身バレしてないなら、よかった」
見世物になっていないのならいい。ほっとする。
「だからその後、私の所に健診カルテが回ってきた時は興奮したな。あのむっちり下半身と顔が拝めるって」
「ゲスイです。お医者様の言うことじゃないです。最低です」
「確かに最低だと自覚していた。執着してしまう理由がわかったのは、もっと後だったしな」
できれば聞きたくなかった。
俺が持ってるその時の記憶は、ほぼない。初めての先生で、椅子に座っても見上げるくらい背が高くて、角ばった顔で男らしさが全面に出てるαだなってくらい。
もちろんαらしく男前だったけど、きっと忙しくて髪が崩れていたと思う。灰汁が強めのワイルド先生ってあだ名を勝手につけてたぐらいだから。
「あの奥様があの扉を開けてここに来るってわかって、思わず背筋を伸ばしたくらいだからな」
「で、俺が入ってきてどうでした?」
「ある意味衝撃だったな。言葉を失うほどに普通で」
「やっぱりね、そう言うってわかってた」
「でも話し方はたおやかで清楚で、カルテの年齢より見た目が若すぎて、入力の方が間違えてるのかと思った」
「……は?」
それもまた俺じゃないんだけど。清楚って別の人? 別の記憶と混ざってない? 宗賀マジックが凄すぎたってこと?
なんか当時を思い出してまた興奮したか、先生が肩をすりすりして胸をまさぐってくる。
「真二さんにそんな幻想があったなら、本当の俺と普通の会話をして、正体が見えてがっかりしたでしょう」
「それはない。やっぱり上品なセックスが好きなんだなとは思ったが」
「上品って、至って普通ですよ、普通。真二さんはこれまで一体どんなプレイをしてたですか」
「だいたいはあれだ。女に拉致られて馬乗りでアンアンしてるのを下から眺めてるっていう」
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