甘いのどっち?

宇井

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お裾分けはいらない

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 名前、聞いておけばよかった。
 路地裏のお兄さん、花束のお兄さん、どれも寂しすぎる気がしたのだ。
 あの出会いから、僕は間が空く度に考え込んでしまう事が多くなっていた。
 今の僕はちょっとだけ人間が羨ましい。だって、たった今生まれ落ちたばかりの命より、僕の方が長生きする。その事がまだ受け止めきれていないんだ。
 この国の治世を何代見守る事になるのか、いつこの世から解放されるのか、それは誰も知らない。
 僕は街に出て働く事に至るまでの成り行きなんてすっかり忘れて、お城の外での生活を僕なりにつつがなく送り、何度となく答えのない問いを巡らせていた。
 何も考えず日々のんきに生きていた鳥型の僕が、ひどく懐かしい。


 仕事が終わって今日も仕立て屋にやってきた。今日は人参を一本買って来ていた。前にオズの好物が、くたくたに茹でた人参だと知ったからだ。

「ノア、オズが湿気で蒸せるだろうからこっちに避難しているんだ」

 店先に友達のオズがいなくて、ガラス窓から店を覗くと、オズのお父さんである男性老店主がわざわざ顔を出てくれた。老いてはいても彼もオズと同じく現役で、首からは黄色く長いメジャーが垂れている。
 数十分前の激しいスコールみたいな通り雨で、どうしてか外より中の湿度が高く感じる。店の窓枠は汗をかいたように粒が浮いている。
 オズはレジ横で、やっぱり寝そべっていた。

「後でオズに上げて下さい」
「いつも気にかけてくれてありがとう。ノア」

 ふわりと笑ったお父さんは、剥き出しの人参を手に裏へ消えた。
 
 店内にはハットを手にした紳士なお客さまがいらしていたから、僕はぺこりと頭を下げて、邪魔にならないようオズの横でできるだけ小さくなった。僕の出入りがこの店の評判に関わっては大変だからだ。
 紳士はあらかた用事を済ませて、今は店主の婦人とお喋りに興じていて、僕の存在は目に入らなかったらしい。よかった。
 
 オズの背中を撫でながら二人の会話を聞くともなしに聞いていた。天気の話、お店の話、家族の話。話は少しの繋がりで淀みなく続く。
 けれど、僕はその単語が聞こえた瞬間に思わず、その紳士を振り向き凝視してしまっていた。

「第三王子のお相手がクランマ子爵家のご令嬢に内定したようですよ。今朝から屋敷内はその噂で持ち切りでしたよ」
「あらまあ、第三王子をグレン家と競り合っていると噂はずっとありましたけれど、とうとう決まったんですか。未婚の第一王子の方が先だと思っていましたわ」

 第三王子ってマイカの事だ。
 噂だと言う。けれど、僕の脳はそれ以上、僕を傷つける言葉を阻んだ。
 頭が真っ白になった。

 マイカが結婚。

 一番情報に近くあるはずの僕でも初耳だった。
 あり得ない話ではない。とっくに成人しているし、子孫を残し繋いでいくのが王族の務めだ。子供を産む事が出来るのは当然女性だけ。
 僕はマイカと将来を約束した訳じゃなくて、寿命も違うただの契約した魔。
 好きって言われて、体を慰め合っているけど、この関係の先に何がある……って何もない。ただその事実からずっと目を逸らしてきただけだ。
 
「ノア? どうしたの?」

 僕の異変に気付いた夫人が話を放り出してやってくる。僕は奥歯を噛みしめて、顔を歪ませていたみたいだ。慌てて笑顔を作ってみせるけど、それも失敗かもしれない。

「大丈夫です。ちょっと、切ってしまった指から、また血が出て来ちゃって……」
「あらま、大変。まだ塞がっていないじゃない。結構深いのかしら? こら、オズ、やめなさい」

 僕の指から滲む血を、オズがぺろっと舐めえとっている。

「オズ、それって意外と沁みるんだよ。でも、ありがとう……」

 薬箱を持った夫人がやってくるまで、僕はオズの首元に顔を埋め、浅くなってしまう呼吸を正常に戻すため、何度も深呼吸した。



 翌朝。僕はマイカの部屋で目覚めた。
 このごろマイカの帰りが遅い時は、自分の部屋で眠るようにしていたのだ。
 路地裏の彼は主との時間を大切にしろと言った。けれど、日中はマイカは仕事で僕は魔導局へ近づく事を禁じられている。だから僕は相変わらず外へ出て働いているし、人間との違いで生まれる差を処理できずにいる。
 でも、昨日の夜はどうしてもマイカの温もりが欲しかったんだ。

 瞼を閉じても網膜を照らす眩しい光の中、ぼうっとしながらベッドからようやく出た僕に対して、マイカはもう着替え始めている。すごく調子がいいのが服を着る動作だけでわかる。

 今日は会議があるのか。

 会議がある日、普段は身に付けないローブをマイカは手に取る。肩章がついたそれは高貴な紫色でとっても似合っている。
 自衛官、警察官とか医師の白衣とか、制服着てる男性って男前度が凄くアップするんだよね、って、また悪い記憶が出てきたよ……
 とにかく、マイカのイケメンぶりも四割くらい上がっていて、僕はとても目を合わせられなかった。

 ローブはローブでも、マイカが手にしたのはいつものと違って裾に金糸が縫い付けられているやつ。きっといつもと違って特別な集まりでもあるんだろう。
 マイカがふわりとローブを肩にかけると、たっぷりの布の裾が翻って一瞬マイカを隠す。
 衣装が違うだけ、なのに僕の鼓動はばくばくだ。
 マイカは意地悪だから、僕が照れているのをわかっていて、ずかずか近づいてくる。

「ノア、目が赤いようだけどどうかした?」
「おかしいな、よく眠れたのに……」

 泣いていた事なんて知られたくなくて、僕は目を擦った。そして誤魔化すように続ける。

「あのさ……かっこいいよ……」
「ん? 聞こえない」
「だから、マイカがカッコイイって言ってるの……んんっ……」

 噛みつくようなキス。
 身長差ができてしまった分、僕は上を向く事になる。
 遠慮なく入って来た舌は僕を掻きまわして、奥へ奥へと入って来る。
 こんなのされたら力が抜けて立っていられない。肩を抱かれていてもずるっと腰が抜けそう。それに、下が反応してしまう。
 せっかくマイカは着替えたっていうのに、僕を後退させベッドへと倒れ込んでくる。
 これじゃローブが皺になるよってもごもご言っても、マイカは知らんぷりだ。
 
 マイカが僕の膝の間に身を入れる。
 僕はやっぱり眠る時は裸族だ。それでも下着は身に着けるようになっていた。
 朝日はそんな僕の体を隅々まで遠慮なく暴く、さすがにそんな中で裸体を一人晒すのは恥ずかしい。

 マイカが乳首を刺激する。
 マイカの指はいつでも冷えていて、それが触れると肌がびっくりして、ひゃんって声が出ちゃう。
 そこが気持ちいいのかまだわからないけど、むずむずするのは事実。僕のここはもう少し開発しないとだめらしい。
 でももっと感じるのはマイカの言葉なんだ。

「はぁ……ノアのかわいいピンク色……みせて」

 見せるも何も、もういつでも丸見え状態なのに。

「後ろの蕾の肌色もかわいい……丸い耳もかわいい……全部、かわいい」

 乳首を右から左へつうっと舌先をつけたまま移動して、ぱくりと頬張る。
 ぺちゃっとした感覚の次は小さな突起をぐりぐりする。たまにピリッと痛みが走って、その度に体がのけ反る。
 薄い刺激であるはずなのに、そのピリッで僕のちんこが連動したみたいにびくんってなる。そこも触って欲しいのに、マイカは乳首に夢中で離れない。
 吸って、なぞって、空いている方の乳首は指でこねくり回す。
 指の方がお仕置きで、口の方は甘い愛撫。
 それがある瞬間、びりびりとした衝撃に変わった。

「うっわぁ……」
「……どうした?」
「い、いまの……」
「これ?」

 含んだ乳首をこりこり上下に動かして、指の方は埋めるように押しつぶす。
 それが気持ち良くて、頭に細かな光が飛ぶ。

「へん……へんだよこれ……こりこり、すごい……いやだ、こわい」
「その場合は嫌じゃなくて、いいって言うんだ。言ってごらん。じゃないと続きはしてあげないよ」
「……」

 それでも口を噤み素直になれない僕に、マイカは強引な快楽を与え続けた。
 色が変わってるって言われて視線を追うと、そこは僕の下半身。先走りの液で白の下着は色を濃くしていて、僕が感じまくっている事は隠しようがなかった。
 ごちそうを見つけた獣が喉を鳴らす。マイカの顔が獰猛になった。

 胸が気持ちいい、むず痒くて痛い。
 でも僕のここにはもっと深い所があって、その奥底からとっても悲しい気持ちが、こんな時でも滲んでくるんだ……

「マイカ、お願いだからぎゅってして……キスして」

 そして、僕の事を好きって言って……そう心の中で零れた。

 僕のおねだり通り、マイカは僕が落ち着くまで抱きしめてくれて、そのあと優しいキスをしてくれた。
 でもその後は下着は乱暴に下ろされて、僕の足首にまだひっかかっている。

 僕の蕾は香油の助けを借りて、もう三本も咥える事ができるらしい。一本入った二入ったとわざわざ実況してくれなくても、圧迫感で何となくわかる。三本目は流石に呼吸が乱れてマイカのリードに乗せて体の弛緩を調整した。
 時間を置いてようやく馴染んだ頃に動かし始めるから、僕の体を相当気遣ってくれるってわかる。
 ただの指の出入りだった動きに、緩やかな快感が伴いはじめて、特に出て行くときの感覚は後を引く。
 ひとつひとつの襞がピンと限界まで張って、指に耐えている部分に気をやられる。
 柔らかな日差しの中、似合わないぐじゅぐじゅとした淫靡な音が響いて、それが僕の耳と心を犯していく。
 マイカは僕の足の付け根をチロチロ舐める。
 その窪みに執着するばかりで、マイカはちんこには目もくれない。すぐそばでぷるんって期待して誘っているのに、その存在を無視して視界にも入れてくれない。
 ぱくってして欲しい。
 舌をちろってあてて欲しい。 
 
「んっ……はぁ……マイカぁ……」
「ノアは本当に強情だね。どうして願い事を口にしないの?」
「だって……恥ずかしい」
「もうこんなに何度も恥ずかしい事をしてるのに?」

 僕に乗り上げて顔を寄せてくる。でも指の動きは止まっていない。憎らしいくらいマイカは何でも巧みにこなしてしまう人間だ。僕だけが声を上ずらせている。

「私はノアの声が聞きたい。こうして表情を間近でみていると気持ちも伝わってくる。だけど、そろそろ素直になって欲しい。それには信頼が足りない? すべてを受け止めるだけの経験が、私にはもっと必要だってことなのかな……」

 僕の手を取ったマイカが指を舐める。ぴりっと走る痛みは塞がりつつあるナイフで出来た赤い一本の傷。
 そして……その後向かうのは……
 ずっと待ち焦がれていた場所。
 
「ふっ……あっ……きもちい……」
 
 気持ちいい。気持ちいい。
 含まれた先っぽはマイカのプルンとした唇でキスされて、少しの猶予もなくぱくりと含まれた。
 熱い。
 ねっとりとした口内でマイカの舌が裏筋で蠢く。
 後ろのぼんやりとした感覚とは違って、直接的な快楽は脳にビリビリくる。
 マイカの紅色の口内に僕のちんこが飲み込まれている。その上目遣いを視覚に入れた途端、ゆっくり上下する往復のせいだけでなく腰がビクンと大きく揺れた。

 いっちゃいそ……
 フェラって一気に頂上まで昇らせてしまうんだ。こんなの知らない。知らない……
 
「んっ……ふっ……いっちゃうから、はなして……お願い。口から出してぇ……」
 
 僕の言葉がまるで聞こえていない、いや聞こえているからこそでマイカは動きを激しくした。

「ひどっ……うわぁん……いっちゃ」

 どぴゅって、一気に大量の精液が押し出されて、マイカの口内に溢れる。
 それと同時に力が入りぎゅっと絞まった蕾は、指の動きを阻んで痙攣していた。恥ずかしいのに腰が前後にびくびくするのを止められず、僕は全身が赤くなるのを感じた。
 
 ごくんて、マイカの喉が動く。
 口内射精しちゃった……
 お口でごっくんって、飲む方はつらくて、味はともかく青臭いって想像できる。僕が一滴も零すなって強制ごっくんするならいいけど、王子のマイカがそれやっちゃダメ。
 
「マイカ……ごめん」
「……」
「おいしくなんかないよね。苦かったよね」

 おろおろする僕にマイカはニヤリと口の端で笑うと、なんと、唇を重ね合わせてきた。

「ううっ」
 
 まずっ。
 まだ口に残る苦みが僕に移動して、心情的にはうえ~っだ。マイカのならともかく、自分のなんて味見もしたくないに決まってる。

「ひどいよぉ……」
「お裾分け、であってるか?」
 
 何がお裾分けだよ。
 ぽかぽかとマイカの頭を叩いてるのに、大口開けて笑ってる。

「隠し事をする悪い子への罰だ」
「隠し事って」

 それをしてるのはマイカじゃないか。
 仕事に出掛ける前ってわかってる。だけど髪もぐしゃぐしゃにしてやる。
 顔を出せって事で、ターゲットは長い前髪。
 でもマイカは軽くひょいって避けるんだ。
 ベッドの上で二人してわーにゃー言いながらゴロゴロして、ヒューゴさんが時間だとノックするまでじゃれあった。

 でも、マイカとこうやって甘い生活が送れるの、いつまで……
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