17 / 42
第五章 二人きりの夏祭り
1. チャコの決心
しおりを挟む
高校最後の夏休み。周りは受験勉強で忙しそうにしているが、就職組ですでに就職先も決まっているチャコはのんびりと過ごしていた。恵も由香も進学希望なので、二人の邪魔はしたくなくて、ジャンと会う日以外はずっと一人で過ごしている。
ジャンとの時間はというと、あの音楽祭以降、二人の心の距離はグッと近くなり、二人の間の空気も随分と変わっていた。日に日に想いは増していき、このころにはもう、チャコは自分の感情の名前をはっきりと理解できるまでになっていた。
だからもう進むしかなかった。チャコは強く決意を固め、それを大切な友人二人に表明しておきたかった。受験の邪魔はしたくなかったけれど、事を起こす前に話しておきたくて、チャコは思いきって恵と由香を自宅に呼び寄せた。二人とも受験で大変なはずだが、その誘いに快く応じてくれた。
二人をチャコの部屋に招いたその日、チャコの様子がいつもと違うからか、恵と由香は何かあったのかと心配そうに問いかけてきた。心配をかけたことを申し訳なく思う反面、その優しさがチャコはすごく嬉しかった。
「心配するようなことじゃないから大丈夫だよ。あのね、大事な話がある。二人とも聞いてくれる?」
チャコの真剣な物言いに、恵も由香も驚きの表情を浮かべていたが、はっきりと頷いてチャコの言葉を待ってくれた。だからチャコは迷わずはっきりと宣言した。
「私、告白する」
チャコの言葉がすぐには理解できなかったのか、二人は黙り込んでいて、部屋の中がしーんと静まり返った。ちゃんと伝わらなかったのだろうかと心配になってきたところで、恵に肩をがっと掴まれた。
「……えっ、マジで!? てっきりまだそのステージには立ってないもんだとばかり……成長したねー、チャコ」
恵に頭を撫でられてなんだか小ばかにされているような気になる。
「恵、なんかバカにしてるでしょ」
「ごめん、ごめん。してないから」
恵は手を合わせて謝っている。その様子に許してやるか、なんて思っていたら、由香が冷静な声で語りかけてきた。
「天使さんでしょ? 告白の相手は」
チャコはまた肝心なことを飛ばしていたと気づいたが、由香はすでにわかっているらしい。
「うん。私、ジャンが好き。あのね、今度の夏祭りに誘って、そこで言おうと思ってる」
「いいじゃん。頑張れ、チャコ! チャコなら大丈夫!」
「私も応援する。頑張って」
二人に応援されればとても勇気が湧いてくる。やはり二人に話してよかった。告白の決意もより固まるというものだ。
しかし、チャコには拭いきれない不安もあって、優しい友人二人に思わずこぼしてしまった。
「ありがとう。でもね、誘っても来てくれるかどうかがわからないんだよね……」
恵も由香もなぜそんなことを言うのかわからないというようにとても驚いた顔をしている。
「いや、さすがに来てくれるんじゃない?」
「うーん、わかんない。連絡先も教えてくれないし。どこかで会う約束なんてしたことないもん……」
ケイタイでなら自由にやり取りができるんじゃないかと思って、以前尋ねてみたことがあるのだが、ジャンは困った表情をするばかりで教えてくれなかった。しげさんたちもジャンの連絡先は知らないという。
「そうなんだ。てっきり普通に連絡取りあってるもんだと思ってた」
チャコとジャンはしょっちゅう会っているし、傍から見ればそういうふうに見えるのだろう。だがチャコが河川敷に行かなければ二人は会うこともできないのだ。
「天使さんはまだ何も話さないの?」
「うん……こっちから話せば、リアクションはしてくれるよ? でも、ジャンのことに関して何か聞くといっつも困った顔してる。声に出すのが無理ならって思って、紙とペン渡してみたこともあるけど、『ごめん』って書かれて終わった……」
そのときのことを思いだして、チャコは苦い気持ちになった。ジャンは自分に関することを隠したがる。それは二人の距離が縮まっても変わらなかった。
「何だろうね。何か事情がありそうな感じはするけど……話したくないというよりは話せないのかもしれないね」
由香の言葉にその場が静まり返った。
「……チャコはそれでも告白したいんでしょ?」
その静寂を破ったのは恵の問いかけだった。
「うん、伝えたい」
それがチャコの本心だ。チャコはその想いを伝えたくてしかたなかった。
「じゃあ、もういつもの感じでぶつかってこい! チャコはそうするのがいいと思う」
「私もそう思う。思うままにやってみるのがいいよ」
二人の言葉が温かくて、チャコは少しだけ泣きそうになった。
「恵、由香……うん、そうだね。そうする! もし夏祭りがだめでも、告白だけは絶対する!」
「それでこそチャコ! 行ってこい!」
恵に背中を勢いよく叩かれて、チャコは送り出された。
ジャンとの時間はというと、あの音楽祭以降、二人の心の距離はグッと近くなり、二人の間の空気も随分と変わっていた。日に日に想いは増していき、このころにはもう、チャコは自分の感情の名前をはっきりと理解できるまでになっていた。
だからもう進むしかなかった。チャコは強く決意を固め、それを大切な友人二人に表明しておきたかった。受験の邪魔はしたくなかったけれど、事を起こす前に話しておきたくて、チャコは思いきって恵と由香を自宅に呼び寄せた。二人とも受験で大変なはずだが、その誘いに快く応じてくれた。
二人をチャコの部屋に招いたその日、チャコの様子がいつもと違うからか、恵と由香は何かあったのかと心配そうに問いかけてきた。心配をかけたことを申し訳なく思う反面、その優しさがチャコはすごく嬉しかった。
「心配するようなことじゃないから大丈夫だよ。あのね、大事な話がある。二人とも聞いてくれる?」
チャコの真剣な物言いに、恵も由香も驚きの表情を浮かべていたが、はっきりと頷いてチャコの言葉を待ってくれた。だからチャコは迷わずはっきりと宣言した。
「私、告白する」
チャコの言葉がすぐには理解できなかったのか、二人は黙り込んでいて、部屋の中がしーんと静まり返った。ちゃんと伝わらなかったのだろうかと心配になってきたところで、恵に肩をがっと掴まれた。
「……えっ、マジで!? てっきりまだそのステージには立ってないもんだとばかり……成長したねー、チャコ」
恵に頭を撫でられてなんだか小ばかにされているような気になる。
「恵、なんかバカにしてるでしょ」
「ごめん、ごめん。してないから」
恵は手を合わせて謝っている。その様子に許してやるか、なんて思っていたら、由香が冷静な声で語りかけてきた。
「天使さんでしょ? 告白の相手は」
チャコはまた肝心なことを飛ばしていたと気づいたが、由香はすでにわかっているらしい。
「うん。私、ジャンが好き。あのね、今度の夏祭りに誘って、そこで言おうと思ってる」
「いいじゃん。頑張れ、チャコ! チャコなら大丈夫!」
「私も応援する。頑張って」
二人に応援されればとても勇気が湧いてくる。やはり二人に話してよかった。告白の決意もより固まるというものだ。
しかし、チャコには拭いきれない不安もあって、優しい友人二人に思わずこぼしてしまった。
「ありがとう。でもね、誘っても来てくれるかどうかがわからないんだよね……」
恵も由香もなぜそんなことを言うのかわからないというようにとても驚いた顔をしている。
「いや、さすがに来てくれるんじゃない?」
「うーん、わかんない。連絡先も教えてくれないし。どこかで会う約束なんてしたことないもん……」
ケイタイでなら自由にやり取りができるんじゃないかと思って、以前尋ねてみたことがあるのだが、ジャンは困った表情をするばかりで教えてくれなかった。しげさんたちもジャンの連絡先は知らないという。
「そうなんだ。てっきり普通に連絡取りあってるもんだと思ってた」
チャコとジャンはしょっちゅう会っているし、傍から見ればそういうふうに見えるのだろう。だがチャコが河川敷に行かなければ二人は会うこともできないのだ。
「天使さんはまだ何も話さないの?」
「うん……こっちから話せば、リアクションはしてくれるよ? でも、ジャンのことに関して何か聞くといっつも困った顔してる。声に出すのが無理ならって思って、紙とペン渡してみたこともあるけど、『ごめん』って書かれて終わった……」
そのときのことを思いだして、チャコは苦い気持ちになった。ジャンは自分に関することを隠したがる。それは二人の距離が縮まっても変わらなかった。
「何だろうね。何か事情がありそうな感じはするけど……話したくないというよりは話せないのかもしれないね」
由香の言葉にその場が静まり返った。
「……チャコはそれでも告白したいんでしょ?」
その静寂を破ったのは恵の問いかけだった。
「うん、伝えたい」
それがチャコの本心だ。チャコはその想いを伝えたくてしかたなかった。
「じゃあ、もういつもの感じでぶつかってこい! チャコはそうするのがいいと思う」
「私もそう思う。思うままにやってみるのがいいよ」
二人の言葉が温かくて、チャコは少しだけ泣きそうになった。
「恵、由香……うん、そうだね。そうする! もし夏祭りがだめでも、告白だけは絶対する!」
「それでこそチャコ! 行ってこい!」
恵に背中を勢いよく叩かれて、チャコは送り出された。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる